神保彰デビュー35周年記念インタビュー(中編)〜マスタリングは昼前に1枚、ご飯を食べてからもう1枚という感じで

コラム by 聞き手:西野正和 2015年2月27日

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オリジナルアルバム『Groove Of Life』とカバーアルバム『JIMBO de CTI』を同時発売した神保彰さんに、その制作の模様を伺っていくインタビューの中編です。今回は、取材場所がマスタリングスタジオ(キング関口台スタジオ)だったことを活かして比較試聴も行なってみました。

神保彰が米国ロサンゼルスで制作した『Groove Of Life』(オリジナルアルバム)と、『JIMBO de CTI』(カバーアルバム)。これらは、エイブラハム・ラボエリエル(b)、オトマロ・ルイーズ(p)、アレン・ハインズ(g)らとのセッションというだけにとどまらず、タリー・シャーウッド、トム・マッカーリー、ジーン・グリマルディといった現地のエンジニアとの協同作業という側面も大きな意味を持つ。

ある意味では反時代的とも言えるまっとうな制作方法を採るために、神保彰は毎年LAに赴いているのかもしれない。

日本の制作現場で仕事をすることも多いオーディオメーカーREQST主宰の西野正和氏が、LAでの作業について話を聞き出してくれた。

『Groove Of Life』ハイレゾ版をダウンロードする

『JIMBO de CTI』ハイレゾ版をダウンロードする

2枚で異なるドラムの定位

西野 今回の作品におけるエンジニアさんとのやりとりも伺いたいと思いますが、ミックスではリクエストを出される方ですか?

神保 自分が作っていったパーツと、向こうでの生演奏をうまくブレンドさせないといけないので、ミックスではいっぱいリクエストを出します。レベルの感じや、それぞれのパーツの見え方は、特に細かく言っていますね。プログラミングしたパーツは、ある意図があってできているわけですから。それが、ちゃんと意図通りにプレースメントされているかどうかは、チェックします。

西野 すべての要素がうまくブレンドされて、全体としてのハーモニーが出来上がるということですね。ちなみに定位に関してはいかがですか? 例えば、用意されている打ち込みものがどう聴こえるかは、特にシビアだったということはありますか?

神保 それは、そんなに言わないですね。ただこれは、ドラムをどう定位させるかにもよります。ドラムの定位は、プレイヤーの目線で定位させる場合と、オーディエンスの目線で定位させる場合があって、僕は全然こだわりは無いんですけどね(笑)。でも、例えばハイハットが右だったら、シェイカーは左みたいなことは、それで必然的に決まってくる。今回は確か、オリジナルアルバムはオーディエンス目線で、カバーアルバムはプレイヤー目線になっていると思いますが、これはエンジニアの好みですね。僕はそういうのは、あんまり気にならないんです。

西野 僕は、ハイハットが右チャンネルに来てほしい派です(笑)。

神保 オーディエンス目線ですね(笑)。もちろん、レコーディング時のモニターがそれだと違和感がありますけど、ミックスではどちらでも良いんです。

西野  レコーディング時のモニターチェックには、時間をかけられます?

神保 録りで使っているトライトーンスタジオは、キューボックスにすべてが単独で立ち上がっているので、全部自分で調節できるんです。だから「ベースはこれくらい、ピアノはこれくらい、ドラムはこれくらい」という感じで、演奏しやすいバランスを自分で作っています。

シズル感とラウンドボトム

西野 マスタリングに関しても、リクエストは細かく出しますか?

神保 昔はリファレンスディスクを持って行って、「こういう風にしてくれ」なんてずいぶん言ってたんですけど、一緒にやるのも13枚目なので(笑)。だから僕は後ろのソファに腰掛けて、ずっと聴いているという感じです。特に今回は、何もリクエストはしていません。

西野 「ドラムをもう少しズドンとして!」とかも無く。

神保 ええ(笑)。まあ、毎回言うことは同じなんですけど、高域の気持ち良い部分、シズル感ですね。あとはラウンドボトム……しっかりした低音ということですね。

西野 その2ワードで、「よろしく!」というわけですね。ちなみに、昔はリファレンスディスクを持参されていたということですが、それはどんなアイテムでした? 差し支えなければ、教えていただきたいと思います。

神保 例えばセルジオ・メンデスの割と最近のもの、『モーニング・イン・リオ』とか『ボン・テンポ』なんかがそうですね。セルジオ・メンデスのアルバムは、楽器が活躍しつつポップセンスもあるじゃないですか?

西野 なるほど。神保さん研究を進める上で、これは貴重な情報です。こういうことが分かると、また聴き比べなどの楽しみが増えますからね。

神保 でも今年は何も持っていかなかったですし、たぶん去年も持っていっていないです。

西野  1日で2枚のマスタリングということでしたが、作業的にはどのような感じで進むのでしょうか?

神保 スケジュール最終日がマスタリングなんですけど、だいたい10時くらいから始まって、昼前に1枚、ご飯を食べてからもう1枚という感じです。ただ、今回は機材トラブルが少しあったので、17時くらいまでかかったのかな?

西野 それにしても速いですね。この辺は、さすがに長年のチームワークの賜物と言えるでしょうね。

順当に進化した音楽

西野 実は今回の取材では、ミックスダウンデータを聴かせていただきたいというリクエストをしていました。最終的にマスタリングされたものとの違いをキングレコードのマスタリングスタジオで聴くことで、LAの疑似体験ができるのではないかと思い、リクエストをさせていただいた次第です。

神保 面白いですね。音量レベルが全然違うので、マスタリング後でちょうど良い感じにして、ボリュームはいじらないで聴いてみましょう。

西野 では、先にマスタリング後の音源を聴いてみましょう。

「Smoke On The Quarter」(マスタリング後)を試聴

西野 うん、やっぱり素晴らしいですね。自分のシステムで聴いて、予習してきたイメージ通りのサウンドでチェックできました。音楽としてのバランスの良い広がり方で、まるでドラムが見えるようなサウンドが素晴らしいと感じています。では、続いてミックスダウンデータです。

「Smoke On The Quarter」(ミックスダウンデータ)を試聴

西野 これも、ミックスダウン直後の仕上がりとしては素晴らしいですね。

神保 ただ、ちょっと遠い感じがしますね。あとは要らないローも出ていて、スピード感が失われているところがあります。だからマスタリングでは、切っている帯域もあるし、突いている帯域もあるんです。

西野 確かに、盛り付け(マスタリング)前の料理だという感じはあります。ただ、ミックスダウンされた楽曲がマスタリングを経て作品になるという、順当な進化を感じられる工程ですね。現在では、マスタリングで大手術を施して、綺麗になったという音楽も多々ありますから。

神保 確かに、ミックスと別物になってしまうのは良くないでしょうね。マスタリングではいろいろなことができますけど、例えばミックスで聞こえなかった楽器を持ち上げようとかいうのは、やっぱり無理がありますよね。

西野 この聴き比べをさせていただいて、神保さんがLAにわざわざ行かれる意味もより実感できました。これだけ固まったミックスダウンデータがあるから、マスタリングはお任せで大丈夫ということが1つ。そして、音圧を無理に上げていないミックスダウンデータだからこそ、マスタリングエンジニアが順当な仕事をして、自然で美しいタマゴ型の音像にすることができる。日本だとコンプでかなり音圧を稼いだミックスダウンデータが納品されて、マスタリングエンジニアが頭を抱えることも多いようですから……。もちろん日本にも素晴らしいエンジニアさんはいらっしゃいますが、LAでのミックスダウンとマスタリングによって、音楽が正当な形に仕上がっている。そう考えると、演奏や録音はもちろんですが、ミックスやマスタリングに関しても、神保さんが実際に足を運ぶことに意味があるのだと思います。そして聴き手側も、それを実際の音として確認できるわけですね。

(次回に続く)

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