神保彰デビュー35周年記念インタビュー(前編)〜今回は録りの段階から24ビット/96kHzで作業をしました

コラム by 聞き手:西野正和 2015年2月20日

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オリジナルアルバム『Groove Of Life』とカバーアルバム『JIMBO de CTI』を同時発売した神保彰さんに、その制作の模様を3回にわたって伺っていきます。まずは、ハイレゾでのレコーディングのお話から。

もはや恒例となった感のある新年のご挨拶、神保彰によるオリジナルアルバムとカバーアルバムの2タイトルが、2015年も同時に発売となった。

米国ロサンゼルスに単身乗り込み、エイブラハム・ラボエリエル(b)、オトマロ・ルイーズ(p)、アレン・ハインズ(g)らとの一発録りで完成された『Groove Of Life』(オリジナルアルバム)と『JIMBO de CTI』(カバーアルバム)の制作の背景を、早速伺っていくことにしよう。

インタビュアーは、オーディオメーカーREQSTを主宰する西野正和氏。ハイレゾにも造詣が深く、神保彰の大ファンという打ってつけのお相手だ。

『Groove Of Life』ハイレゾ版をダウンロードする

『JIMBO de CTI』ハイレゾ版をダウンロードする

ドラムはハイレゾに向いている楽器

西野 2014年にリリースされた『Crossover The World』『JIMBO de COVER3』の2枚のアルバムは、24ビット/44.1kHzのハイレゾフォーマットでも発売になったことがとてもうれしかったです。16ビットと24ビットでは、これだけ音が違うんだという見本のような作品でした。

神保 確かに16ビットと24ビットの違いは、僕が思っていたよりはるかに大きかったです。

西野 本当にそう思います。そして今回の新作はCDというパッケージに加え、24ビット/96kHzでもリリースということで、ハイレゾフォーマットでの音楽の入れ物がより大きくなりました。

神保 去年はハイレゾ配信をするということが明確に決まっていないままレコーディングに入ったので、レコーディング時のフォーマットである24ビット/44.1kHzでのリリースになったんですね。でも今回は最初から決まっていたので、録りの段階から24ビット/96kHzで作業をしました。

西野 聴かせていただきましたが、その恩恵はやはり多大にあったと思います。「ドラムは大きな器に向いている楽器だなぁ」ということを、あらためて感じました。

神保 確かに、ダイナミックレンジがすごくある楽器なので、ハイレゾには向いているかもしれないですね。

西野  CDにする場合、どうしてもドラムはダイナミクスやワイドレンジといった音質面で“さっぴかれ”やすい楽器なのですが、新作のサウンドはグルーヴがゆったりしているし、4リズム中心の演奏なので音も詰め込みすぎていない。だから、「ドラムという楽器が余裕を持って収録されているな」というのがまずは第一印象でした。エンジニア陣は、前作同様の布陣ですか?

神保 変わっていないですね。録りは全部タリー・シャーウッドが行なって、ミックスはオリジナルアルバムをタリーが、カバーアルバムをトム・マッカーリーが担当しています。マスタリングは2枚ともジーン・グリマルディで、彼はレディー・ガガの『ARTPOP』なんかもやっている人です。この流れは、ここ4作変わらないですね。

構想1年、制作9日

西野 神保さんのTwitterをチェックしていても、「LAに行きます!」って呟かれて、しばらくすると「もう帰ります!」という感じで、日程がかなり凝縮されていますよね。

神保 録りが、オリジナルアルバムで2日、カバーアルバムで2日。ミックスは2枚を並行して行なうのでエンジニアを分けて、マスタリングは1日で済ます……そんな感じで、実働は9日間なんです。まあ、通常ではあり得ないスピードですよね。でも、僕の場合は毎年1月から6月の間にワンマンオーケストラで国内100都市くらい回る間にたくさん曲を書いて、それこそ50〜60曲くらい書くんですけど、そこから9曲を選ぶんです。毎年のルーティンとして、書いた曲の中から一番良いなと思う9曲をセレクトする。それに対してプリプロを行ない、ミュージシャンにはデモを事前に渡しておく。ですから1年がかりで準備を行ない、実際の作業は9日間ということですね。

西野 前作のインタビューではデモ音源も聴かせていただきましたし、譜面まで拝見させていただきました。

神保 向こうのミュージシャンはデモを聴いて予習をしてくれているので、それも大きいです。現場で悩んでしまうと作業が止まってしまうので、悩まないように、かなりしっかり枠は作ります。でも、あんまりガチガチにしてしまうと、今度は逆につまらなくなるので、その辺の勘所ですね。枠はしっかり作って、自由度も残しておくというか。

西野 今回もやはり“せーの”で同録されたのでしょうか?

神保 ええ、基本は“せーの”でしたね。オリジナルアルバムは4人で録って、カバーアルバムにはギタリストがいないので3人で。やっぱりみんなで一緒に演奏すると、化学反応みたいなものが起きるんです。それが、一緒に演奏することの魅力です。一緒に演奏すると、お互いが反応するんですね。そういうのが、一番大事な部分だと思うので。

西野 テイク数はどれくらいでした?

神保 だいたいテイク2だったと思います。やってもテイク3までで、テイク4以降はどんどんエネルギーが落ちてしまいますから。

西野  テイク1、テイク2でできてしまうんですか!

神保 できちゃいますね。テイク1でも全然良いし、テイク1がOKテイクの曲もあったと思います。ただテイク1って、ちょっとバラけるんですよ。それがテイク2で収まって、テイク3になると今度はちょっと落ち着きすぎてくる。「あそこはこうしてやろう」みたいな、作為が働き出すんですね(笑)。そう考えても、やっぱりテイク2が一番良いかな。

グルーヴの人生、人生のグルーヴ

西野 『Groove Of Life』では「Smoke On The Quarter」「Groove Of Life」を始めとして、歌もののバックのようなプレイの神保さんを堪能できたなと感じています。もちろんソロ的な部分では高速ドラミングも聴けますが、全体的にはメロディを活かすドラミングが中心だったという印象でした。

神保 そこは、特に何か意識したということは無いですね。やっぱり曲ありきなので、その曲に対してどういうドラミングが一番合うんだろうということを考えて、いつも演奏しています。あと自分のアルバムの場合は、ドラマーであるということも大きな要素ではありますけど、曲を書いて、アレンジして、プリプロ的なプログラミングをして、全体をプロデュースするわけです。だからドラマーというのは、いろいろある要素の中の1つという位置づけですね。

西野 確かに、そこは毎回強く感じる部分です。あと今回は、サックス奏者がゲストで入っていますよね?

神保 今まではギタリストがゲストということが多かったですが、今回は久しぶりにサックスをゲストに迎えていて、ポール・テイラーに2曲入ってもらいました。

西野 サックスという色気のある楽器が入ることで、幅がグッと広がったという印象もありました。また、神保さんのテーマであるグルーヴという言葉がアルバムタイトルに冠されているのも、感慨深かったです。

神保 グルーヴっていうのは溝なんですけど、楕円形のボールを転がすとグルングルンってなって、地面に溝を切っていく。丸いボールは転がしてもコロコロするだけで、溝は切れない。アナログレコードの溝は、Sound Grooveですね。

西野 最初にインタビューをさせていただいた時に、グルーヴは楕円形が坂道を転がるようなイメージだとおっしゃっていましたね。

神保 ハーヴィー・メイソンを見ていて、そう感じたんですよね。ドラムというのはグルーヴを生み出す楽器で、その楽器を35年間演奏してきた記念のアルバムなので、“グルーヴの人生、人生のグルーヴ”みたいな意味で付けました。でもこれは僕が作った言葉ではなく、昨年のリー・リトナーのライブで一緒だったパトリース・ラッシェンが、たまたま“Groove Of Life”という言葉を口にして、「あ、それは良い。ちょっと使わせて」ということで、許諾を得て名づけたんです(笑)。

西野 「Smoke On The Quarter」のエンディングでは、相当速い崩しのドラムソロがあります。あそこまで崩していても、グルーヴしているわけですね。

神保 自分の中では“1、2、3、4”“2、2、3、4”というのが回っていて、そこからグルーヴが生み出されるんです。それがないと、多分何も始まらないのではないでしょうか? だから「ドラマーにとって一番大切なものは?」と聞かれたら、「4分音符のパルスですよ」といつも答えるんです。

ハイレゾ配信が布石となったCTI作品のカバー

西野 では一方のカバーアルバム『JIMBO de CTI』は、どのような経緯で出来上がったのでしょうか?

神保 2014年にCTIのハイレゾ作品が40タイトル出まして、あれが布石になっているんです。ハイレゾ関係の取材も結構していただいて、音源を聴き直してみると、あらためて素晴らしいなと思いました。

西野 リリース時に配布されたキングレコードの小冊子でも、神保さんのコメントが掲載されていましたね。

CTI

神保 デオダートは本当に僕の原点で、今回も思い入れのある曲ということで選んだら、必然的にデオダートが多くなってしまいました(笑)。半分以上がそうじゃないですか?

西野 ジャケットもデオダートへのオマージュになっていますし、神保さんのデオダート愛が溢れた作品になっていますね。ちなみにCTIのハイレゾ化作品では、僕はガボール・サボ『ハンガリアン・ラプソディ』がイチオシだったのですが、あのアルバムはいかがですか?

神保 僕はアナログであのアルバムをよく聴いていて、ハイレゾになって久々に聴き直しましたが、やっぱり良いですね。ハーヴィー・メイソンが、珍しく全開でたたいているのも印象的です。

西野 ハーヴィーが、ベースのルイス・ジョンソンに負けじとガンガンたたいていて、とても好きなアルバムです。『JIMBO de CTI』に話を戻すと、CTIの原曲を『JIMBO de CTI』と同じ曲順で聴いてみたりもしたのですが、それで思ったのは、CTI作品でありながら、やはり神保さんカラーがバッチリ出ているな、ということだったんです。

神保 原曲のイメージを尊重してアレンジしたものもあれば、結構ザックリと変えてしまったものもある、みたいな感じでしたね。

西野 原曲と聴き比べると、またいろいろな発見があって面白かったですね。原曲を知っている人はもちろん、『JIMBO de CTI』から原曲へさかのぼっていくというのも、音楽の旅として、とってもプラスになると思います。

(次回に続く)

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