神保彰インタビュー(中編)〜こういうタイプの音楽では、ビットレートの違いの方が音に差が出るんだと思います

コラム by 聞き手:西野正和 2014年2月14日

神保彰氏の新作アルバム2タイトルは、CDとハイレゾ版が同時リリース。インタビュー中編では、ハイレゾ版の話を中心に伺いました!

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『Crossover The World』(オリジナル)と『JIMBO de COVER3』(カバー)の2作は、神保彰氏の新作アルバムとして2014年1月8日にリリースされました。しかもCDフォーマットだけではなく、24ビット/44.1kHzのハイレゾ版も同時に配信ということで、オーディオファンからも注目が集まっています。このハイレゾ版がいかにして出来上がったのか、西野正和氏(レクスト)が詳細に聞いていきます。

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16ビットと24ビットの差

西野 CDと同時発売で、『Crossover The World』と『JIMBO de COVER3』のハイレゾ版が配信されたのは音楽ファンとしてうれしい限りです。また実際にハイレゾ版を聴いてみると、 CD規格の16ビット/44.1kHzとの違いは16ビットか24ビットかというだけなのですが、24ビット/44.1kHzというフォーマットでも十分に良い音だったのもうれしい驚きでした。ハイレゾ版はCDよりもさらに素晴らしいサウンドです。ハイレゾ音源でもリリースするという場合、サンプリング周波数を96kHzや192kHzにするという選択肢もあったと思いますが、CDと同じ44.1kHzを選ばれた理由はどこにあったのでしょう?

神保 実はハイレゾ版を出すかどうかが決まらない状態のままレコーディングに入ってしまったので、あまりフォーマットについては気にせずに……という感じでした。で、たまたまエンジニアが24ビット/44.1kHzで作業をしていたので、ハイレゾ版は24ビット/44.1kHzでのリリースとなりました。16ビットと24ビットの差は、聴く人が聴けば如実にあると思いますので。

西野 実は僕は、「16ビットと24ビットは大して違わないのかな」と思っていましたが、どうしてどうして。実際に聴いてみたらびっくりして、24ビット/44.1kHzは十分にハイレゾリューションと呼んでよいフォーマットだと考えをあらためました。16ビットと24ビットの音質の違いを正確に比較できる音源は少ないので、聴く側としても大いに勉強になりました。ちなみに制作中においては、サンプリング周波数が96kHzや192kHzだから、プレイバックの音が良いと感じられるのかといえば、そうでもないですよね?

神保 ええ。演奏している側は生音を聴いているので、その音圧はものすごいわけです。だから、ドラムをたたき終わってコントロールルームに戻ってプレイバックを聴いても、自分が感じていたものよりは、確実にガツンと来ない。これは当たり前のことなんですけどね(笑)。

西野 たとえ44.1kHzが192kHzになったとしても、生音と同じようにガツンと来ることは無いですからね。

神保 打楽器奏者としては、例えば倍音成分が上まで綺麗に伸びているというようなことよりも、ガツンと来るか来ないかが判断ポイントだったりするんですね。そう考えると、サンプリング周波数はあんまりその辺と直接つながってこないんじゃないかなっていう気はしています。ドラムの粒々が、ちゃんと実際に自分がたたいたときと近い感覚で音圧として来てくれるかどうかが、1つの判断ポイントになっているんですね。

マスタリングで2枚のアルバムの統一感を

西野 では、コントロールルームでプレイバックを聴いてその“ガツン”が無かったら、エンジニアさんにリクエストをするわけですね?

神保 そうですね。ただ、僕はずっと同じ人とやっているので、「違う、そうじゃないんだ!」っていうことは全く無いです。マイクを立てて、試し録りをしてもらって聴くと、もうだいたい良い感じにはなっていますから。

西野 そういう関係性ができているからこそ、10日間で2枚上がるというのもあるんでしょうね。

神保 ガツンということで言えば、こういうタイプの音楽では、ビットレートの違いの方が音に差が出るんだと思います。クラシックとか、あんまり打撃音の無い世界では、サンプリング周波数が高ければ高いほど、透明感であるとか、空気感の差が分かりやすいのかもしれません。でも僕のやっている音楽では、はたして192kHzで録ることが音に如実に反映されるかどうか……。シンバルの“チャーン”っていう音の倍音なんかは、絶対に差があるとは思いますが、それよりも他に鳴っているいろいろな音色が、結構勝っていたりしますからね。

西野 確かにハイレゾ版の『Crossover The World』の1曲目のフェードインからして、16ビットではああはいかないなという感じでした。24ビットならではのシンバルのサウンドで、冒頭からワクワクして聴いていけましたからね。マスタリングに関しては、CD版とハイレゾ版は別々にされたのでしょうか?

神保 マスタリング時にはハイレゾ版のリリースが決まっていなかったので、CD用に16ビット/44.1kHzで落としたんですね。で、ハイレゾ版用に24ビット/44.1kHzでも欲しいということで、後からスタジオに電話して、落とし直してもらいました。EQとかコンプのデータは全部残っていたので、そこはスムーズでしたね。ちなみにマスタリングエンジニアはジーン・グリマルディという人で、最近だとレディガガの『ART POP』を全曲やっています。クレジットに全曲ジーンの名前があって、ちょっと盛り上がりましたね(笑)。

西野 マスタリングエンジニアさんの力も、如実に感じるところがありました。

神保 確かにマスタリングって、すごく大きな作業ですよね。

西野 ミックスダウンマスターと、マスタリング後の音を聴き比べて、いかがでした?

神保 実はジーンとはもう8年一緒にやっているんですね。だから何も言わないんですけど(笑)、目の前でみるみるサウンドに磨きがかかっていくという感じですね。今回は『Crossover The World』と『JIMBO de COVER3』ではかなり音作りが違って、シンプルな『Crossover The World』に対して、『JIMBO de COVER3』にはプログラミングがガシガシ入っている。なので、マスタリングでは全然違う作業になって、コンプの種類やEQのポイントはバラバラでしたね。

西野 でも結果として聴くと、この2枚は統一感があるサウンドに感じられました。例えば、この2枚をiPodに入れてシャッフル再生をしてもつながるくらいの統一感がある。

神保 確かに、「ユーザーは多分両方聴くから、両方聴いても違和感が無いようにしてね」ということは、最初に伝えてありました。

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ミックスは2枚を同時進行で!

西野 ミックスの話に戻ってしまいますが、『JIMBO de COVER3』のミキシングだけトム・マッカーリー氏で、『Crossover The World』の録りとミックス、『JIMBO de COVER3』の録りはタリー・シャーウッド氏のクレジットになっています。『JIMBO de COVER3』のミックスだけが違うのは、どういった経緯からですか?

神保 10日間の実働なので、録りは1人にお願いして、ミックスは2人がかりでということなんです。ミックスに当てられる日が3日しかなかったので、物理的に違う人でやらざるを得ないということですね。

西野 トム・マッカーリー氏ともお付き合いは長いのですか?

神保 ブライアン・ブロンバーグとのJBプロジェクトをやってもらったエンジニアで、彼は彼ですごく気に入っているんですよ。

西野 ああ! 神保さんが「 自分の作品の中でオーディオ的に一番音が良い」とおっしゃっていた『Brombo!』のエンジニアさんですね。スタジオは『Crossover The World』がトライトーンスタジオ、『JIMBO de COVER3』がミックスワークススタジオとクレジットされています。神保さんは、この2つのスタジオを行き来された感じですか?

神保 2012年までは行き来していたんですけど、今回は、僕はトライトーンにいることが多かったですね。だから、トムが1曲仕上げるごとにサーバーに上げてくれて、それを僕が落として聴いて、「ここをこうやって」とメールする。そういう感じでした(笑)。

西野 ミックスダウンのリクエストとしては、どういうものが多かったですか?

神保 音色的なことというよりは、プログラミングとバンドがうまくフィットしないところがあって……。だから音楽的な部分で、「ここのプログラミングをもっと上げて」とか、「ここでソロをもうちょっと聴きたい」とか、そういう感じでしたね。

西野 そうやって2人がかかりでミックスしたものを、1人のエンジニアさんがマスタリングしたわけですね。

神保 ジーンは“ザ・マシーン”っていうミドルネームが付いているほどで、機械のように働くんです。朝から夜までぶっ続けて作業しても、耳がへたらない。それで、だいたい朝10時くらいから始まって、明るい内には2枚終えて帰って来ます。だから、マスタリングは1日で上がってしまう。

西野 それは作業が速いですね。日本と違って、スタート時間が午前と早いのも面白いと思います。神保さん作品の音からカリフォルニアの空が感じられるのは、まさにこの健康的な時間帯での制作の賜物では(笑)?

(次回に続く)

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