神保彰インタビュー(前編)〜ミュージシャンが集って“せーの”で音を出すのは、地図の無い世界

コラム by 聞き手:西野正和 2014年2月7日

新作アルバム2タイトル同時発売、電子書籍2タイトル発売、そしてワンマンオーケストラでの全国ツアーと、2014年初頭から猛ダッシュをかける神保彰氏に、お話を伺いました!

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海外録音/ミックス/マスタリングによる神保彰氏の『Crossover The World』(オリジナル)と『JIMBO de COVER3』(カバー)という2枚の新作が、2014年1月8日に同時リリースされました。しかもこの2作は、24ビット/44.1kHzのハイレゾ フォーマットでの配信も始まっています。そこでRandoMでは、この新作の制作過程を中心にしつつ、“いま神保彰が考えていること”をじっくりとお聞き しました(取材場所はキング関口台スタジオ)。聞き手は、ハイレゾの辛口コンシェルジュとして知られる西野正和氏(レクスト)。著書『音の名匠が愛する とっておきの名盤たち』でも神保氏にインタビューを敢行した、根っからの神保ファンです。

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『JIMBO de COVER3』のハイレゾ版をダウンロードする

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その街の空気の振動を録音するのが大事

西野 『Crossover The World』『JIMBO de COVER3』の2作同時リリース、おめでとうございます。ハイレゾのことなどもじっくりお伺いしたいのですが、まずは海外で制作が行なわれたという点について、フォーカスしたいと思います。私自身は海外レコーディングされた作品を聴くのは大好きですが、残念ながら現状ではあまり行なわれていない手法ですよね。Pro Toolsの普及によって、例えば海外の著名ミュージシャンの音が欲しいという場合でも、ファイルのやりとりで完成まで持っていけてしまうわけですから……。でも神保さんは米国カリフォルニアでの制作を継続されています。これは、どういった理由からなのでしょう?

神保 レコーディングっていうのは、やっぱり空気を録るんですよね。音は空気の振動ですから、東京で録れば東京の音がする。で、ロサンゼルスの音って、カリフォルニアのお天気に象徴されるようにカラッとしていて、天井が開いていて、広い空が見えて……っていうイメージなんですよね。実際、そういう音で録れますし。厳密に分析すれば、例えば湿度がどうとか、そういうところにずっと保管されているドラムだから湿気が抜けて、乾いて良い状態にあるとか、いろいろ理屈は付けられると思うんですけど、やっぱりその街の空気が振動して、それがマイクを通って録音されるのが大事。だからどこかにまで出かけていく意味っていうのは、必ずあると思うんです。

西野 その土地の音を求めて、海外レコーディングするということですね。

神保 それに加えて、長年あこがれていた素晴らしいミュージシャンと同時に演奏するというのは、とても得難い経験なんですよ。昨今では、僕がレコーディングに呼ばれる場合でも、トラックは全部できていて、打ち込みのドラムも入っていて、最後にドラムだけを差し替えるという形で呼ばれるパターンがすごく多いんです。もちろん、これもすごくチャレンジしがいのあることではあるんですよ。枠がかっちり出来上がっていますから、その中に後から自分が入っていって、枠にピシっと収める。揺れたりするのは許されない、職人系の世界なんですね(笑)。

西野 制限は必ずしもブレーキになるとは限らないですよね。決められた枠がある中で自分の全力を出すことは、製品開発も同じですが、その方が良い結果が得られる場合もありますから。

神保 物理的にレコーディングのためにどこかのスタジオまで行かないでも、ファイルのやりとりで完成できるという便利な部分もありますよね。そういうことを否定するつもりは全く無いんですけど、ミュージシャンが集って一緒に“せーの”で音を出すというのは、地図の無い世界なんです。ファイル交換で作る場合は地図があって、あらかじめ道筋もできていて、そこをいかにうまく通って行くかということなんですけど、“せーの”でやると、どこへ行くか分からない。それによって、足し算ではないものが生まれるんですね。

西野  聴く側にもそれは伝わってくると思います。

神保 ミュージシャン同士のインタープレイ……予期していなかいことを相手がやったりして、それに対して自分が自然に反応していく。だから自分が思ってもいなかったような風に、音楽がふくらんでいくわけです。掛け算とか化学反応の世界というのは、やはりミュージシャンが1つのところに集って“せーの”で音を出さないと、できないものだと思うんです。

事前に送るデモはデッサンくらいの感じ

西野 地図の無い世界というのは面白いですね。その場合、ミュージシャンとはどういうコミュニケーションの取り方をされているのかが、気になります。実際にミュージシャンに渡す音源や譜面は、どのようなものなのでしょう?

神保 例えばオリジナルアルバムのタイトル曲「Crossover The World」だと、譜面はこんな感じですね。10日間で2枚作るというタイトなスケジュールなので、大枠はあらかじめきちんと決めておきます。現場で悩みだすと全然間に合わないので、構成であるとか、絶対にやってほしいキメなんかはピンポイントで押さえておきます。非常にしばりの薄い譜面ですけど、これとデモ音源を渡しておくんですね。デモも聴いてみます?

DEMO

西野 ぜひお願いします!

(「Crossover The World」デモ音源を試聴)

神保 本番の1ヶ月以上前に送ったバージョンですけど、すごいシンプルで、骨格しかない。これを聴いて、譜面を見てもらって、この中に入っているパーツをそのままピックアップしてもらっても良いし、もっと良いアイデアがあれば、どんどん付け加えてもらっても良いしっていうことですね。

西野 意外にシンプルなデモで、少しびっくりしました。神保さんのことですから、ドラムの細かなフレーズまで作り込んだデモをなのかと(笑)。

神保 そうじゃないんですよ(笑)。メロディとコードと、ベーシックなリズムのフィーリングだけなんです。デッサンくらいの感じですね。

西野 なるほど。その方がインタープレイは確かにやりやすいでしょうね。ちなみに、クリックはお使いだったのですか?

神保 使っています。実際には、カウンターメロディなども含めてもう少し打ち込みをしたデモを持って行って、4人で演奏したものとうまくブレンドする素材だけをピックアップして乗せていくという作り方でした。だからボツの素材もいっぱいあるんです(笑)。今回、特に『Crossover The World』の方は音をすごく抜いたので、シンプルな作りになっていますね。4人の演奏がメインというか。

西野  海外ミュージシャンと神保さんの共演を今年も聴けたのは、ファンとして本当にうれしいです。

神保 必ず10月くらいにアメリカに行って……というのが定着しているので、僕もぜひこれを長く続けたいなと思っています。

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今回のドラムにはリバーブを乗せていない

西野 今回の作品を聴いて感じたのは、ドラムサウンドとしては少し今までとは変わってきている部分があるな、ということなんです。これはプレイというよりは、音色という意味なんですけど……。今回、サウンドに関してエンジニアの方に特別にリクエストされたことはあったのでしょうか?

神保 実は、ドラムにリバーブを使っていなくて、全くドライなんです。それによって、ドラムがすごく近くで鳴っているという感じがすると思います。

西野 なるほど、そうなんですね。スネアの音に関して言うと、前々作の『スマイル・スマイル』と聴き比べてみたら、『スマイル・スマイル』の方が木質系の響きが強い“カーン!”というサウンドでした。

神保 そうですね。『スマイル・スマイル』は余韻があったと思います。今回は、あんまり余韻が無いんですよね。

西野 スネアのリムショットの音に、今まではシェル素材のウッドのイメージがすごく強かったんですけど、今回はヘッドの音の方が強く出ている印象でした。例えばスネアが換わったとか、ハード面での変化はあったのでしょうか?

神保 同じスネアですけど、チューニングは若干変わっていると思います。ただ、やっぱりリバーブを乗せていないというのが一番大きな違いですね。

西野 良い意味でちょっと懐かしいドラムサウンドでした。

神保 ええ。ちょっと70年代っぽいというか……。

西野 懐かしい感じではありながら、ベースはかなりズドンと下の方まで来ていて、その辺の立体的な感じをすごく楽しく聴けました。ちなみに、レコーディングで使用したドラムセット自体は、現地にずっと置いてあるものなんですよね? ドラムのネーミングが、確か“大和”……?

神保 そうです。名前は“大和”ではなく“武蔵”ですけどね(笑)。武蔵という黒いドラムセットを今回も使いました。この武蔵は「だれか使いたかったら、使ってください」とは言っているんですけど、だれも使わないみたいです(笑)。だからケースに入ってずっと倉庫に置いてあって、レコーディングのときに取り出す形です。でも、湿度のせいかヘッドは全然傷まないんですよ。3〜4年張りっぱなしですけど、音的にも問題が無いのでそのまま張替えもせずに使っています。ここ数作は、ずっと同じヘッドですね(笑)。

西野 武蔵には、ワンマンオーケストラで使っているドラムのように、電子ドラムパッドはセットしています?

神保 電子パッドは使ってないですね。全く普通のアコースティックドラムです。

西野 足回りのセッティングはどうですか?

神保 基本は一緒なんですけど、左足のコンコンコン(注:ジャムブロック)は付けていないです。あれはやっぱりライブじゃないと「あ、1人でやっているんだ」ってならないじゃないですか(笑)。レコーディングだと後からいくらでも音を足せるので、映像がからまないと、なかなか出番が無いということで。

西野 では、左足かかとのコンコンだけが無くて、バスドラムはツインペダル仕様なわけですね。ちなみに、現地でのドラムヘッドのチューニングはご自身でされるのですか?

神保 ええ、自分でやります。でもピッチも、1年まるっきり眠っていて、1年後に開けても、ほとんど変わってないですね。

西野 では、セッティングしたらすぐに使えるような状態なんですね。

神保 日本だと湿気の影響などで、ずっと仕舞っておいたものを出すと、「なんかおかしいな?」ってなるんですけど、そういうのが全然無いんですよね。

西野 ドラムの武蔵も、神保さんとの再会を楽しみに待っているからですよ、きっと(笑)。

(次回に続く)

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