後編〜コントロールパラメーターと発音記号の技

ボカロ・テクニック対談 by Nagie 2014/01/24

2013年12月にボカロ・テクニック解説書籍『ボーカロイドを思い通りに歌わせる本〜VOCALOID3 Editorの調声テクニックを大公開!』が発売されました。これを記念して、著者のNagie氏がかねてからリスペクトしていたというボカロP、Ciel(神無月P)氏とのEメールを介した対談が実現! “神調教師”の呼び声高いCiel(神無月P)氏のテクニックに迫ります!

まるで人間が歌っているかのようなニュアンスをボーカロイドで再現するCiel(神無月P)氏(以下、Ciel氏と記します)と、書籍『ボーカロイドを思い通りに歌わせる本〜VOCALOID3 Editorの調教テクニックを大公開!』の著者であるNagie氏によるボカロ・テクニック対談の後編です。ここではVOCALOID3 Editor上の具体的な技に関して、Ciel氏ならではのアプローチを伺ってみました。

手描きビブラート

Nagie 『IA/01 -BIRTH-』に収録されているLiaさんのカバー「My Soul, Your Beats! feat. IA」では、JobプラグインのSineVibratoを使われているのでしょうか? Liaさんの深めのビブラートがとてもよく表現されていますね。

Ciel 以前、ある方の動画でエディターの画面を見る機会がありまして、そのときにDYN(ダイナミクス)とPIT(ピッチベンド)を同期させてビブラートをかけていたんですね。「へぇ、こういうやり方もあるんだ」と思い、見よう見まねでやってみたところ確かに普通にビブラートをかけたときとはまた違った感じになったんです。それ以降は曲調に合わせてこの方法を取り入れるようにしていますね。ただ、私は手描きの方に慣れてしまっているのでJobプラグインは使用していませんが、いつもと違う変化を付けたいというときに、このJobプラグインを使えば手軽にできるのでお勧めです。

Nagie すごいですね! 僕はガサツなせいか、鉛筆ツールで周期的なピブラートは全く描けません、タブレットなどを使用されているのでしょうか?

Ciel いえ、使ってないです。一度ペンタブで描いてみたことはあるのですが、なかなかきれいなカーブが描けず、これは自分には合わないなと思いまして。それからはライン・ツールを使ってマウスでポチポチ描くようになりました。

描き方としては、まずざっくりと三角形の波形を描きます。このとき振幅と周期も大体決めておいて一度再生して確認します。イメージしたものと違っていればもう一度描き直し、合っていれば先ほど描いた三角波形の周りにライン・ツールを使って肉付けし、きれいなカーブになるように整えていきます。ロング・トーンの場合でもこの方法なら比較的簡単に描けると思います。

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▲Ciel氏によるPITの手描きビブラート。バックグラウンドはDYN。PITとDYNの周期は同期しながらも、PITの振幅はやや深めに変化し、DYNは全体的にデクレッシェンドすることで美しい余韻が表現されている(VOCALOID3 Editor画面)

Nagie BRI(ブライトネス)やCLE(クリアネス)は多用しますか?

Ciel BRIは80〜100の間で固定していて、気になるところだけ上げ下げする感じで使用しています。CLEやBRE(ブレシネス)はほとんど使用せず、埋もれ気味な言葉があればそこに少し足す程度ですね。

Nagie なるほど。私もBREとかPOR(ポルタメントタイミング)はほとんど使う機会が無いですね。『ボーカロイドを思い通りに歌わせる本』では石風呂さんにインタビューしたのですが、彼がPORを多用していると聞いてものすごく驚きました。私も「一度使って気に入らなかったから、もう使わない」みたいな、型にはまったやり方を見直そうと思いましたね。どんなパラメーターにも、どこかに個性的な面白い使い方が隠れているんだなと。

再現性を考慮してエディター側で作り込む

Nagie 楽曲はどんな機材で作られているのですか?

Ciel DAWはCakewalk SONAR X2 ProducerとCocks REAPER、オーディオ・インターフェースはRoland UA-25EX、1000円くらいのイヤホン、3000円くらいのスピーカー、ヘッドホンは5000円くらいの物とSONY MDR-CD900STを使っています。

Nagie シンプルですね。Steinberg CubaseでVOCALOID Editor for CUBASE NEO(通称ボカキュー)を使ってみたいと思ったりはされませんか?

Ciel 今のところは考えていませんね。ボカキューの話を聞いていると確かに便利そうだなとは思いますが、今の環境に慣れているのでまた一から覚えていく労力を考えると現状維持でいいかなと。初めからCubaseを持っていれば導入していたと思います。

Nagie 歌トラックを作成するときに、ご自分でEQなどのエフェクト処理をDAWで行ったりしますか?

Ciel オケと合わせたときに言葉が聴き取りにくいことが多々あるので最低限のエフェクト処理はしていますが、実際のところ結構適当に済ませてしまっている部分もあるので、一度しっかり勉強し直さなければと思っています。

Nagie ボカロPの方によっては、エディター・ソフトでの調教はそこそこにして、あとはDAWでやるという場合もありますよね。私自身も滑舌を良くするためにボリューム・オートメーションを書くとか、タイミング合わせで波形をずらすといったことを割と行っているのですが、そういうことはするのでしょうか? それともあくまでもエディター・ソフトで完結させますか?

Ciel ボリューム・オートメーションは私も書きますが、それ以外はエディター側で作り込むようにしています。これは自分がVSQXファイルを公開していることに関係しているのですが、こうしておくことで同じボーカロイドを持っていれば読み込ませただけで同じ歌唱が再現できるので、参考にしてもらいやすくなるかなと。DAW側でやってしまうと再現性がなくなってしまいますから。仮にDAW側で調整するにしても、元データがしっかりしていれば、その分手間が省けるので作業効率も上がると思います。

子音の補強用トラックを用意

Nagie エディター・ソフトで、何か人と違った使い方をしているなと思う部分があれば教えていただけますか?

Ciel これはVOCALOID2のときからやっているのですが、発音をはっきりさせるために子音の補強用に別のトラックを用意して重ねているところでしょうか。VOCALOID3になってVEL(ベロシティ)の効きが良くなっているので、もう必要ないのかもしれませんが、ずっとやってきているので今後もこのやり方を続けていくと思います。

Nagie なるほど、僕はDYNで子音をガンと上げることが多いのですが、子音だけを正確に抽出するやり方としては、Cielさんのアプローチの方が良いかもしれませんね。あと、僕は特殊発音記号とかを結構使うのですが、Cielさんはどうですか? 例えば、じん(自然の敵P)君に教えてもらったのですが、“トライフォン外し”というテクニックは面白いなと思ったんです。VOCALOID3は“母音+子音+母音”という3つの音素を持つことで滑らかな歌唱を実現しているわけですが、子音の前にもう一つ子音をわざと重ねることでVOCALOID2のダイフォンと同じ“子音+母音”のような状態に戻すことで言葉をはっきりさせるのだそうです。そんな技を聞くと、VOCALOID3においてもまだまだ発見の余地があると感じました。

Ciel 私も特殊発音記号は結構使いますよ。パラメーター操作だけではどうにもならない場合に非常に有効な手段だと思います。この辺りはVOCALOID2のときにかなり研究していて、VOCALOID3になった今でも続けているのですが、「もうこれ以上発見はないだろう」と思っていても、違う曲を歌わせたときにまた新しい発見があったりするので、面白くてやめられませんね。

Nagie Cielさんは「初音ミク」や「megpoid」などさまざまな歌声ライブラリをお使いですよね。歌声ライブラリによってそれぞれ癖があると思うのですが、どんな風に対応されているのでしょう?

Ciel 歌声ライブラリごとにさまざまな癖はありますが、対処方法は大体同じなので、まずは一番効果がありそうな方法から試していって、良ければそれを採用し、駄目なら別の方法を試すという感じで対応しています。

私がよく使っている方法の一つに「た行」を「さ行」で代用するというものがあります。例えば「て」の発音がはっきりしない場合は、「せ」の子音と母音を[s][e]のようにノート分割し、[s]の部分をDYNでカットすることで「て」に聞こえるようになります。カットする量は実際に聞きながら調整しますが、ほんの少しだけ[e]にかかるようにするといい感じになります。

また、子音と母音を分割する理由は二つあって、一つは子音の長さを見た目で判断できるようにすること。もう一つはノート分割とDYNカットによって子音の 長さを決めることで、違う歌声ライブラリで歌わせたときでも、VELの効き具合の差に左右されることなく同じ歌唱を再現させることができるからです。

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▲「た行」を「さ行」で代用する例。「て[t e]」と入力しても発音がはっきりしない場合、そのノートを分割して最初のノートに「s[s]」、後ろのノートには「て[e]」を入力(後ろのノートの音素記号は[e]なので、このノート単独では「え」に聞こえる状態)。その後、[s]部分をDYNでカットすると「て」に聞こえるようになる(VOCALOID3 Editor画面。コントロールパラメーターはDYN)

Nagie これもすごく役に立ちそうなテクニックですね。最後にこれからのボーカロイドの世界が、どんな風に発展していくと良いと思われるか、Cielさんの視点でお話しいただけますでしょうか?

Ciel 現在、VOCALOIDは3までバージョン・アップし、段々と人の歌唱に近付けられるようになってきました。ですが、まだまだ表現の幅が狭く、こちらの意図した歌唱をさせることができずにもどかしさを感じることも多くあります。この先、VOCALOIDはさらなるバージョン・アップを重ねていくと思いますが、その中でもっと簡単にもっとリアルに歌わせることができるようになれば、誰もが手軽に扱える身近な存在になっていくと思います。そして今よりもさらに大きな広がりを見せてくれるのではないでしょうか。

Nagie 今回は貴重なお話を伺うことができて、とても楽しかったです。本当にありがとうございました!

Ciel(神無月P)氏の作品は下記で視聴できます!

ニコニコ動画:http://www.nicovideo.jp/user/2643426
TmBox:http://tmbox.net/user/cl_kannaduki/sound

 

NEWS!『IA』Mac版無償ダウンロード & 最新ライブラリα版配布/キャンペーン開催のお知らせ

Nagie氏が開発を手掛けるVOCALOID3 Library『IA –ARIA ON THE PLANETS−』のMac版が完成! さる2013年12月7日より公式サイト内にてダウンロード配信が開始されました。今回は、既にWindows版 を所有しているユーザーや新規購入者を対象とした無償ダウンロード版となっています。

また、Nagie氏の著書『ボーカロイドを思い通りに歌わせる本』発売記念として公式サイトではキャンペーンも開催中! 『IA –ARIA ON THE PLANETS−』のユーザーと新規購入者の方は、書籍の一部を抜粋した解説PDFと解説ムービーをダウンロードにて入手できます。

さらに、2014年春には『IA -ARIA ON THE PLANETES-』の最新音声ライブラリが発売されることが決定! それに伴い、IAの誕生日である2014年1月27日から、α版のダウンロード配布が開始され、同時にユーザーの意見を反映した製品にするために、フィードバックキャンペーンも開催されるそうです。2014年2月末までにα版のインストールおよびユーザー登録をし、使用感などの必要事項をキャンペーンサイトへフィードバックしてくれる方を募集するとのこと。ぜひ参加してみてはいかがで しょうか。

Mac版ダウンロードおよびα版配布の詳細については、下記のWebサイトをチェックしてみてください!

VOCALOID3 Library「IA –ARIA ON THE PLANETS−」公式サイト

http://ia-project.net/vocaloid/

 <「IA –ARIA ON THE PLANETS−」について>

「IA –ARIA ON THE PLANETS−」は、「じん(自然の敵P)」「しづ」「石風呂」などのアーティスト/クリエイターが所属し、音楽を軸としたエンタテイメントにかかわる 創作活動を支援する「IA PROJECT(イア・プロジェクト)」が企画/開発したVOCALOID3の歌声ライブラリです。数多くのアニメやゲーム主題歌で知られるボーカリスト、Liaの声により作成され、開発には本書の著者であるNagie氏も参加しています。Windows版は2012年1月27日に発売され、その性能の 高さとキャラクターが話題を呼び、発売時にはAmazonの音楽制作ソフトランキングで1位を獲得する等、業界内をはじめユーザーからも非常に高い評価を 得ています。そのため多くのボーカロイド・クリエイターからMac版を待望する声が上がっていましたが、今回、満を持してのMac版発表となりました。

IA

 

 

■VOCALOID(ボーカロイド)/ボカロはヤマハ株式会社の登録商標です。
■VOCALOIDはヤマハ株式会社の開発した歌声合成技術です。
■その他の商品名並びに会社名は、一般的に各社の商標ならびに登録商標です。
■本対談ではTMおよびRマークは省略させていただいております。

Nagie

サウンドデザインスタジオ、スタジオテイクワンを経てレコーディング・エンジニアとして独立。その後デュランデュランのサイモン・ル・ボン、ニックウッド率いるSYNスタジオのチーフ・エンジニアを6年間務める。同社を離れた後は、aikamachi+nagie、ANANT-GARDE EYESとしてアーティスト活動も開始。CDリリースのほか、映画、CM、アニメなど映像音楽分野でも活躍している。代表作は数々のCM作品に加え、『どーもくん』(NHK)関連作品、映画『こまねこ』シリーズ、『Angel Beats! 』(アニメ)などのサウンドトラックがある。また、音声合成ソフトYAHAMA VOCALOID3の歌声ライブラリ『IA -ARIA ON THE PLANETES』の開発を手がけ、音声に関する鋭いセンスと高い音作りの技術で大きな評価を得ている。同時にボカロ音楽にも進出。じん(自然の敵P)のアルバム『メカクシデイズ』のエンジニアリングを手がけている。

著書



TUNECORE JAPAN