前編〜人間的なニュアンスをもたせるには?

ボカロ・テクニック対談 by Nagie 2014/01/17

2013年12月にボカロ・テクニック解説書籍『ボーカロイドを思い通りに歌わせる本〜VOCALOID3 Editorの調声テクニックを大公開!』が発売されました。これを記念して、著者のNagie氏がかねてからリスペクトしていたというボカロP、Ciel(神無月P)氏とのEメールを介した対談が実現! “神調教師”の呼び声高いCiel(神無月P)氏のテクニックに迫ります!

Ciel(神無月P)氏は、ボーカロイドによるカバー曲を中心にニコニコ動画やTmBoxへ投稿されているボカロPです(以下、Ciel氏と記させていただきます)。オリジナル楽曲の歌唱に肉薄するリアルな歌声をボーカロイドで再現することで知られ、その調教ぶりは“神”“鬼”と称賛されています(ニコニコ動画に投稿された作品には“魂実装済み”“違和感仕事しろ”などのタグが付けられていることからもそのすごさがわかります)。また、ご自身が作成されたVSQXファイル(注1)を公開しているため、自由にその技を参考にすることができるのもCiel氏の特色と言えるでしょう。

注1 VSQXファイル:ボーカロイドのエディター・ソフトであるYAMAHA VOCALOID3 Editorのファイル形式

書籍『ボーカロイドを思い通りに歌わせる本〜VOCALOID3 Editorの調教テクニックを大公開!』の著者であるNagie氏は、以前からCiel氏と接点があり、その神調教ぶりに強い興味を持っていたそうで、著書の発行を機にインタビューをオファー。Ciel氏にご快諾をいただき今回のEメール対談が実現しました。

というわけで、前置きが長くなりましたが、全ボカロP必見のCiel氏&Nagie氏のボカロ・テクニック・トークをお楽しみください。

「鳥の詩」の衝撃

Nagie まずはボーカロイドを使うようになったきっかけを教えていただけますか?

Ciel 2007年9月に、ニコニコ動画でソフトウェアが歌っている動画が上がっているという話を聞きまして、試しに一つ視聴してみたところ、かなりの衝撃を受けたんですよ。これは凄いものが出てきたなと。それがきっかけでボーカロイドに興味を持つようになり、毎日のように関連動画を視聴していたのですが、次第に自分でも何か歌わせてみたいという気持ちが大きくなってきて、購入を決めました。当時は簡単な楽譜が読める程度の音楽知識しかなかったのですが、まあ何とかなるだろうということで始めて今に至ります。

Nagie Cielさんとは1st PLACE(http://www.1stplace.co.jp/)のVOCALOID3歌声ライブラリ『IA – ARIA ON THE PLANETS -』(以下『IA』、http://ia-project.net/vocaloid/)の開発検証をお願いしたときからのおつきあいですね。『IA』の製品パッケージにはCielさんが調教された「鳥の詩」のVSQXファイルが収録されていますが、これには大変驚かされました。

 

ここで、私(Nagie)より本対談をお読みになっている皆様へ背景を少し説明させていただきます。「鳥の詩」は『IA』の“中の人”でもあるLia(http://lias-cafe.com/)さんが歌われていた曲です。Liaさんの作品には私もエンジニアとして幾度となく参加させていただき、その声はよく存じあげています。そんな私が聞いても、Cielさんの調教による『IA』の歌声はあまりにも本人そっくりでした。『IA』版の「鳥の詩」はSound Cloudで試聴できます。元曲を知らない方でも、きっとその自然な歌声に驚かされると思います。

 

 

その後、私も ANANT-GARDE EYESとして参加した『IA』のコンピレーション・アルバム『IA/01 -BIRTH-』『IA/02 -COLOR-』などで、Cielさんの調教した曲を聴かせていただいたのですが、どれも非常に人間らしい仕上がりでいつも感心していました(Ciel氏は各コンピにVocaloid Programmingで参加)。CielさんのVSQXファイルを拝見させてもらう機会もあったのですが、ぼかりす(注2)を使われているわけでもなく、いわば極めて“普通”のVSQXファイルです。それなのに、なぜあそこまで人間に似せることができるのかを知りたくて、この対談を申し込むことにしたのです。

注2 ぼかりす:VOCALOID3 Editorに機能を追加するJobプラグインの一つで、正式名称はVocaListner。人間の歌唱を分析してVOCALOID3 Editor用のデータを作ることができる

 

聴き比べと調整の繰り返し

Nagie というわけで対談に戻りますが、Cielさんのデータ入力方法や調教の手順を「鳥の詩」を例に教えていただけますでしょうか?

Ciel まず、ベタ打ち(注3)のファイルを作り、それをWAV化してDAWに持っていきます。そこで「鳥の詩」のボーカルのみを抽出したデータと並べておき、波形を見ながらノート長やDYN(ダイナミクス)を調整してフレーズごとの音の長さをある程度合わせてしまいます。一通り終わったら、今度はボーカルを左右に振って同時に聴きながらビブラートなどの表情付けをしていきます。あとは完成までひたすら、聴き比べ→エディターで調整→書き出し→聴き比べ→……の繰り返しです。また、より精度を上げるために再生速度を1/2や1/4に落として聴き比べるということも行っています。

注3 ベタ打ち:メロディと歌詞を入力しただけの調教を施していない状態

Nagie なるほど、やはりオリジナルのボーカルと比較されていたのですね。ただ、その方法で歌い出しのタイミングなどは合わせられたとしても、その後のしゃくりやビブラートを正確に聞き取ることは大変難しいですよね、その聞き取り力がCielさんのすごいところなのですね。

Ciel ありがとうございます! そう言っていただけると嬉しいです。ただ、どこまで近付けていくのかが難しいところで、あまり忠実に再現し過ぎるとかえって不自然になってしまうこともあるので、その辺りは常にバランスを考えながら歌わせるようにしています。最終的には、シンプルではあるけどその人の特徴がちゃんと出ている、そんなVSQXが作れるようになりたいと思っています。

自分で歌ってみるのも効果的

Nagie CielさんがVocaloid Programmingで参加されている『IA/02』は僕もANANT-GARDE EYESとして曲提供を行ったほか、何曲かのミックスでも参加させていただき、マスタリングにも立ち会わせていただきました。そのとき、流歌さんの楽曲「luminous -Innocence Alive」を聞いて思わずプロデューサーに「これ誰が調教したんですか? すごくうまいですね!」と尋ねてしまいました。すると「Cielさんですよ」とのことで、「やっぱり!」という会話をしたことを覚えています。

しかも、この曲はもともとドラマCD『ALCA 〜夜明けのクロトー〜』の主題歌で、多田葵さんが歌われていた曲だということを知ってもっと驚いたんです。多田さんは僕もアレンジやミックスをさせていただいている方なので歌い方はよく知っているんですね。だから、曲のどの場所とは言えないのですが、そこら中に彼女が歌っているようなニュアンスにあふれていて、それでいてボーカロイドは『IA』なので声はLiaさんっぽいんだけど、歌い方は多田葵さんみたいな、ものすごく変な感覚にとらわれてしまいました。やっぱりCielさんは“神調教師”だとおもいましたよ。

漠然とした質問で申し訳ないのですが、このような人間的なニュアンスをもった歌い方をさせる秘訣みたいなものをよかったら少し教えていただけませんか?

Ciel 秘訣と言えるかは分かりませんが、人間的なニュアンスを持たせるのでしたら実際に人の歌唱を真似て歌わせてみるのが一番だと思います。私の場合、まずは元歌唱をよく聴いて、どういうときにしゃくり上げをしているか、ビブラートのかけ方はどうかといった特徴をつかんだ上で、じゃあそれを再現するにはどういう風にパラメーターを操作すればいいのかということをあれこれ考えながら歌わせています。あとは、自分でゆっくり歌ってみて口の動き方や音程変化の仕方を確認するのも効果的です。

Nagie 同感です。私も自分で歌ってみて考えています。では、オリジナルの歌唱がない全くの新曲の場合はどうですか? 誰か既存のアーティストをイメージするとか、あるいは自分自身で一回歌ってみるとかでしょうか?

Ciel 自分で歌ってみますね。時には録音までして確認することもありますが、これは最終手段です。長時間自分の歌声を聞くのはつらいですからね(笑)。 あと、好きなアーティストをイメージして歌い回しを取り入れることもあります。

今回の対談はここまで。後編ではコントロールパラメーターや発音記号のテクニックについて伺っていきたいと思います。

 

Ciel(神無月P)氏の作品は下記で視聴できます!

ニコニコ動画:http://www.nicovideo.jp/user/2643426
TmBox:http://tmbox.net/user/cl_kannaduki/sound

 

NEWS!『IA』Mac版無償ダウンロード & 最新ライブラリα版配布/キャンペーン開催のお知らせ

Nagie氏が開発を手掛けるVOCALOID3 Library「IA –ARIA ON THE PLANETS−」のMac版が完成! さる2013年12月7日より公式サイト内にてダウンロード配信が開始されました。今回は、既にWindows版を所有しているユーザーや新規購入者を対象とした無償ダウンロード版となっています。

また、Nagie氏の著書『ボーカロイドを思い通りに歌わせる本』発売記念として公式サイトではキャンペーンも開催中! 「IA –ARIA ON THE PLANETS−」のユーザーと新規購入者の方は、書籍の一部を抜粋した解説PDFと解説ムービーをダウンロードにて入手できます。

さらに、2014年春には「IA -ARIA ON THE PLANETES-」の最新音声ライブラリが発売されることが決定! それに伴い、IAの誕生日である2014年1月27日から、α版のダウンロード配布が開始され、同時にユーザーの意見を反映した製品にするために、フィードバックキャンペーンも開催されるそうです。2014年2月末までにα版のインス トールおよびユーザー登録をし、使用感などの必要事項をキャンペーンサイトへフィードバックしてくれる方を募集するとのこと。ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

Mac版ダウンロードおよびα版配布の詳細については、下記のWebサイトをチェックしてみてください!

VOCALOID3 Library「IA –ARIA ON THE PLANETS−」公式サイト

http://ia-project.net/vocaloid/

 <「IA –ARIA ON THE PLANETS−」について>

「IA –ARIA ON THE PLANETS−」は、「じん(自然の敵P)」「しづ」「石風呂」などのアーティスト/クリエイターが所属し、音楽を軸としたエンタテイメントにかかわる創作活動を支援する「IA PROJECT(イア・プロジェクト)」が企画/開発したVOCALOID3の歌声ライブラリです。数多くのアニメやゲーム主題歌で知られるボーカリスト、Liaの声により作成され、開発には本書の著者であるNagie氏も参加しています。Windows版は2012年1月27日に発売され、その性能の高さとキャラクターが話題を呼び、発売時にはAmazonの音楽制作ソフトランキングで1位を獲得する等、業界内をはじめユーザーからも非常に高い評価を 得ています。そのため多くのボーカロイド・クリエイターからMac版を待望する声が上がっていましたが、今回、満を持してのMac版発表となりました。

IA

 

 

■VOCALOID(ボーカロイド)/ボカロはヤマハ株式会社の登録商標です。
■VOCALOIDはヤマハ株式会社の開発した歌声合成技術です。
■その他の商品名並びに会社名は、一般的に各社の商標ならびに登録商標です。
■本対談ではTMおよびRマークは省略させていただいております。

Nagie

サウンドデザインスタジオ、スタジオテイクワンを経てレコーディング・エンジニアとして独立。その後デュランデュランのサイモン・ル・ボン、ニックウッド率いるSYNスタジオのチーフ・エンジニアを6年間務める。同社を離れた後は、aikamachi+nagie、ANANT-GARDE EYESとしてアーティスト活動も開始。CDリリースのほか、映画、CM、アニメなど映像音楽分野でも活躍している。代表作は数々のCM作品に加え、『どーもくん』(NHK)関連作品、映画『こまねこ』シリーズ、『Angel Beats! 』(アニメ)などのサウンドトラックがある。また、音声合成ソフトYAHAMA VOCALOID3の歌声ライブラリ『IA -ARIA ON THE PLANETES』の開発を手がけ、音声に関する鋭いセンスと高い音作りの技術で大きな評価を得ている。同時にボカロ音楽にも進出。じん(自然の敵P)のアルバム『メカクシデイズ』のエンジニアリングを手がけている。

著書



TUNECORE JAPAN