最終回「ダンクラは愛にあふれている」

Watusi & 沖野修也が語る“ダンス・クラシックス&ブギー” by Watusi(COLDFEET) 2013/08/20

Watusi_Okino042

 2013年8月6日に発売されたディスク・ガイド本『ダンス・クラシックス・ディスク・ガイド 〜シーズ・オブ・クラブ・ミュージック』とミックスCD『DISCO & BOOGIE IN NYC VOL.1 SEEDS OF CLUB MUSIC』の発売を記念して行われた対談の最終回。著者でありDJミックスをプレイしたWatusi氏(COLDFEET)が、沖野修也氏(KYOTO JAZZ MASSIVE)を迎え、ダンクラ/ブギーの定義から始まって前回はRe-Editの考察にまで話が展開しました。最終回となるこの対談では、お2人の“これから”について語っていただきましょう。

Re-Editが盛り上がる背景には“良い音楽”への回帰があるのではないのかというのが前回の話。これを受けて、あらためて本対談のテーマであるダンス・クラシックスとブギーの現代的なとらえ方、そしてWatusi氏と沖野修也氏(上の写真)の音楽の向かう先について語っていただきました。

 

クラブのマナーが先入観になっている

沖野 前回の対談で、「Watusiさんの本が“ダンクラ”を再定義する」と言いましたけど、実際、Watusiさんの本=ブギーと言ってもいいと思うんですよね。

Watusi 俺もこのディスク・ガイド本をダンス・クラシックスではなくて、“ディスコ&ブギー”というタイトルにしようと思っていたこともあった。その中でヴィレッジ・ピープルを紹介しようと。なぜなら、あれはディスコ時代じゃないとありえなかった音楽だから現象として紹介したかったんだよね。ジョルジオ・モロダーも今のテクノへの流れではなくて、ディスコの文脈で紹介したかった。

沖野 そうそう、面白いのが僕はビージーズを一切聞いてこなかったんですよ。ところがトッド・テリエのRe-Editでビージーズを聴くと、「あれ? こんなにかっこよかったっけ?」となるんです。Watusiさんの本がそういう役割を果たすと思う。僕はボーイズ・タウン・ギャングをかけることはないですけど、あれもいろんなバージョンが出ていて実は良いものもあるんですよ。“あれ?このバージョンだったらアリかも”みたいなものが。そういう意味では、ディスコが嫌いだったDJの中には、逆にクラブのマナーが先入観になっていて見落としてる音楽があるかもしれないですよね。

Watusi そうだよね。本の前書きにも書いたんだけど、何万円もするようなレア盤と、100円で売ってる「くっだらないディスコだったよね」というような音楽を、同じ目線でとらえられるのは多分DJの感覚なんだと思う。

沖野 そうですね。

Watusi KC&サンシャイン・バンドとラルフ・マクドナルドを同じページに並べたいというのが企画の意図だったんだよね。“今はこういう音楽の聴き方自体が面白いんだよ”っていうのを提案したかったから。

沖野 ヒネリがありますよね。10代の僕はボーイズ・タウン・ギャングって、それはもちろんヒット曲だから聴いてはいましたけど、DJではかけなかったわけですよ。それをWatusiさんが、あらためて紹介するのが面白いと思うんです。それこそボブ・ジェイムスだって、ジャズを好きな人からしたらクソとかカスとか言われていたけど、ブレイクビーツとして紹介されることで、その価値が評価されたわけじゃないですか。“ビージーズ=ダメ”というのは、やっぱり偏見なんですよ。DJってその偏見から、人の意識を解放するのが仕事だったのに、いつの間にかその偏見に僕らがとらわれてる。だから、“ダンクラ=ダメ”じゃなくて、“ダンクラってこういうことだよ”とあらためて再定義することによって、覚醒する人がいると思う。

Watusi それでもABBAとかビージーズを載せるのにはちょっと勇気が必要だったよ(笑)、書き方も難しかった。

沖野 でも、トッド・テリエのRe-Editとかすごいですよ。ビージーズの曲で本当に最後にしか出てこないフレーズを引き伸ばして、その中に歌を混ぜてるんです。僕、そのビージーズをここ2カ月くらいへピープレイしてます(笑)。沖野修也がビージーズってありえないでしょ。でも、外したことないですね。「Get Lucky」より盛り上がりますよ。昨日も渋谷駅の前で1,000人以上がビージーズで踊ってましたよ。でも、聴いている人は誰一人ビージーズとは気づいていなかったと思いますけど。

 

ヴィレッジ・ピープルと知らずに……

Watusi 実はヴィレッジ・ピープルも2年くらい前に買ったんだよね。もともと俺はサザンソウルが大好きだったから、この対談で何度も言ってるようにアンチ・ディスコだったのよ。ボビー・ブランドやO.V.ライト、後 “ハイのリズム・セクション最高”みたいな感じで、モータウンなんかは“あんなの歌謡曲じゃん”っていう時代に育ったのよ(笑)。それが今になって、その当時聞き逃したフィリー・ソウルの何と素敵なことよって感じでね。

沖野 だから、リアルタイムで「ビージーズいいね」と言っていた感覚はダメなんですけど、今、Watusiさんが取り上げるビージーズはOKなんですよ。そういう感覚。今だからいいんじゃないですか。ちなみに、DJ KAWASAKIがアルバム『Black & Gold』でヴィレッジ・ピープルの「My Roommate」をカヴァーしてるんですけど、それって僕がヴィレッジ・ピープルとは知らずにかけていたダニエル・ワンのRe-EditをDJ KAWASAKIが聴いて選んだんですよ。Re-Editって曲のアーティスト名は書いてないじゃないですか。それでDJ KAWASAKIが「沖野さん、あの曲カヴァーしていいですか?」っていうから、調べてみたらヴィレッジ・ピープルだった。「俺、ヴィレッジ・ピープルかけてたんか!」って(笑)。でも、それが面白いと思うんですよ。皆が「絶対それないやろ」っていうところにキラー・チューンというか、ダンス・ミュージックを発見するのがDJの醍醐味だと思っていますから。

Watusi あとね、この本で紹介したダンクラはやっぱり愛にあふれているよね。ゲイの音楽という側面もあるからかもしれないけど、愛と団結がそこにはある。その一方で、ディスコ・ミュージックに関する日本の中での解釈は偏り過ぎているよね。だから、自分のFacebookではディスコの歴史をイチから書いたりもしたんだけど。

沖野 この時代は歌も録音もいいですよね。あと70年代後半から80年代の華やかな感じも、今の時代のニーズとしてあるのかなって思います。もちろん、70年代初期のサイケデリックなソウルやファンクもかっこいいですけど。それって割と7inch好きな若い子たちの間で盛り上がるけれど、その点ディスコは一般の人にも切り込んでいけるポテンシャルを持っていますよね。

 

100万ドル vs 100万円の対決

Watusi 沖野君は今、どんな音楽を作ろうとしているの?

沖野 今、僕は2011年のソロ・アルバム『Destiny』のRemixアルバムを作っているんですけど、それはもう完全にブギー・ファンクです。ROOT SOULの池田憲一が全曲Remixしているので、1アーティストによるRemixアルバムですね。

Watusi もう定義がよく分からない(爆笑)。それはROOT SOUL Feat. 沖野修也でいいんじゃない?(笑)。

沖野 ある意味カヴァー・アルバムですよね(笑)。これはTHE ROOMで録ってミックスまでやるんですよ。ある意味、ダフト・パンクの真逆ですね。制作費は100万かかってないですよ(編注:第2回の対談参照。ダフト・パンクの『Random Access Memories』の制作費は100万ドルオーバーだという)。

Watusi いい100万対決だよね。100万ドルvs100万円(笑)

沖野 2013年9月に発売予定なんですけど、ダフト・パンクの『Radom Access Memories』と僕のリミックス・アルバムをぜひ聴き比べてみてほしい。もちろん全然違うもので、かたや100万ドルで、かたや100万円ですけど、音的には両者もろダンス・クラシックスですよ。

Watusi 池田君のことはよく知っているけど、彼はホントいいよね。

沖野 天才ですね。どの曲も僕のヴァージョンよりいいんです(苦笑)。けっこう衝撃ですよ。僕、ROOT SOULのことを評価しない人は逆にハテナかな。UKの某有名ハウスDJなんて、池田のオリジナル曲を「何かのカヴァーか?」とか言うんですよ(笑)。このRemixアルバムの後に、彼はオリジナル・アルバムも出すんですけど、それも録音からトラック・ダウンまで全部クラブ、THE ROOMでやるんです。ほかにTHE ROOMのスタッフ、富永陽介もアルバムをケニー・ドープのレーベルから出しますが、彼も録音からTDまで全部THE ROOMでやっています。

 

クラブのサウンド・システムで作る音楽

Watusi ダンス・ミュージックって、“クラブで鳴らしたらどうだろう?”ってイメージしながら作るのが普通だから、クラブでそのままプレイバックできたら、こんなに良いことはないよね。仮ミックスをわざわざクラブへ持って行って、“ああ、だめだった”って作り直してまたクラブへ持って行ったりしているんだから。

沖野 20年もTHE ROOMをやってきたのに、なんで今までそれに気づかなかったのかなと(笑)。エンジニアがTHE ROOMに機材を持ってきて、THE ROOMのスピーカーでトラック・ダウンするんですよ。つまり、クラブで鳴らしているサウンド・システムでそのままチェックするということですね。それはひょっとしたら家で聴くのには向いていないかもしれないので、この方法が良いのかどうかは議論の分かれるところだと思います。でも、僕の経験ではすごくハイクオリティな再生装置でトラック・ダウンとかマスタリングされたものって、今はサウンド・システムを刷新したので大丈夫ですが、かつてのTHE ROOMみたいにちょっとしょぼくてヘタっているクラブでは鳴らないんですよ。例えばアナログのカッティングでもそうです。カッティングの現場ではすごく良い音でも、クラブへ持ち帰ると全然ダメなんですよ。もちろん、クラブのサウンド・システムは常に最高峰を目指すべきですけど、現実問題としてそうはなっていないわけです。それに “あそこのクラブの音がいい”とかみんな言いますけど、“スタジオ行ったら、クラブの音聴けないよ”みたいなことですからね。でも、スタジオのハイクオリティな再生装置なんて、誰も持ってないし、そもそもスタジオで踊るわけでもないですから。

Watusi クラブの音響って、どうやったら心地良く踊れるか、それと同時にちょっとした会話もできるか、なんていうことを目指した特別なものだから、その特化ぶりを体感していない人にはクラブ向けの音なんて作れないよね。もちろん、エンジニアの中にはスチュワート・ホークスみたいに、クラブへ行かなくてもそれができるある種の天才もいるけど。

Watusi_Okino034 Watusi氏

 

KJMの新譜は“ブギー meets スピリチュアル・ジャズ”

Watusi KYOTO JAZZ MASSIVEの方の活動は?

沖野 来年にアルバムを出す予定です。弟の思惑は判りませんが、個人的には“ブギー meets スピリチュアル・ジャズ”な要素を入れたいと思っています。ディスコ/ブギーっていうと軽薄なイメージがあるでしょ。そこにどうやってスピリチュアル・ジャズのディープ感を合体させるかがテーマ。僕のソロはディスコとかファンクですけど、もっとスピリチュアルな方向に寄せようかなと思っています。

Watusi COLDFEETの次のアルバムは、自分たちの気持ちとしてはR&Bなんだけど、もしかしたらものすごくアンダーグラウンドなジャズになるかも。超ロービートでスカスカな。一度、このタイミングでそういうものを作って次へ行こうかなと。それを僕らは“ストレッチ”と呼んでるんだけどね。いろいろ疲れたから一回ストレッチして、ちょっとほぐしながら少しずつ筋肉も付けていこうかなという意味で。その前に俺、テクノのソロ・アルバムも作ろうとも思ってる。で、COLDFEETが終わったら、沖野君のところへ相談に行きますよ。俺、人の言うこと基本的に聞かないんだけど、「COLDFEETは何でハウスに向かったんですか?」って聞かれたら、「沖野さんに言われまして」と答えるようにしているんだよね(笑)。これは前回の対談でもちょっと触れたけど。

沖野 僕のせいですか(爆笑)。そう言えば、今思い出しましたけど、僕がWatusiさんに言ったハウスは、今版のダイアナ・ロスみたいなことだったんですよね。DJ KAWASAKIの曲でLoriさんにゲストで歌ってもらったときも、コンセプトは完全にダイアナ・ロスの「THE BOSS」でしたから。

Watusi 言われてみれば、俺らのハウスはディスコだったかもね。ストレートなハウスではなくて、ねじれたポップスのハウスだったかもなあ。とりあえず、自分のソロとCOLDFEETを作ったら、また沖野君のところへあらためて相談に行きますよ。「俺たち、次の10年何やればいい?」って(笑)。

[完]

というわけで、対談は終了。ともすれば軽視されがちな“ダンス・クラシックス”が、実はさまざまなクラブ・ミュージックへの橋渡しとなる懐の深い音楽であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。ちなみに、書籍『ダンス・クラシックス・ディスク・ガイド〜シーズ・オブ・クラブ・ミュージック』と同時に、Watusi氏によるディスコ&ブギーのミックスCDシリーズ第一弾、その名も『DISCO & BOOGIE IN NYC VOL.1 SEEDS OF CLUB MUSIC』も発売されています。サルソウルとウエスト・エンドの音源を使い、Re-Editも織り交ぜた全22曲! こちらもぜひお楽しみください!

 

沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE)

DJ/クリエイティヴ・ディレクター/執筆家/世界唯一の選曲評論家 /Tokyo Crossover/Jazz Festival発起人。開店以来20年で70万人の動員を誇る渋谷The Roomのプロデューサーでもある。KYOTO JAZZ MASSIVE名義でリリースした「ECLIPSE」は、英国国営放送BBCラジオZUBBチャートで3週連続No.1の座を日本人として初めて獲得。こ れまでDJ/アーティストとして世界35ヶ国130都市に招聘されただけでなく、CNNやBILLBOARD等でも取り上げられた本当の意味で世界標準を クリアできる数少ない日本人音楽家の一人。

ここ数年は、音楽で空間の価値を変える”サウンド・ブランディング”の第一人者として、映画 館、 ホテル、銀行、空港、レストランの音楽設計を手掛けている。2005年には世界初の選曲ガイドブック『DJ 選曲術』(リット—ミュージック)を発表し執筆家としても注目を集める。2011年にフォレスト出版より3冊目となる書籍『フィルター思考で解を導く』を 発売。DJが書いたビジネス書として話題となり、Amazonのビジネス書/仕事術のカテゴリーで1位を記録する。同年7月『DESTINY』をリリー ス。iTunesダンス・チャート1位、総合チャート3位を獲得。現在、有線放送内D-47チャンネルにて”沖野修也 presents Music in The Room”を監修。ホームグラウンドのThe Roomでは月例パーティー”SOUND SANCTUARY”のレジデントDJを務めている。2013年4月よりInterFMにてナビゲーターを務める番組『JAZZ ain’t Jazz』(毎週水曜20時〜22時放送)がスタート。

http://www.kyotojazzmassive.com/

 

Watusi(COLDFEET)

Watusi

Lori FineとのユニットCOLDFEETのプログラマー/ベーシスト/DJ。COLDFFETのユニークな世界観は国内外で評価を受け、UK、US、EU各国から香港、韓国、台湾、タイ等アジア各国でも多くの作品がリリースされている。ソロワークも英Climate Records、米Kriztal Records,ドイツPerfect Toy Records等からリリース。国内では中島美嘉の多くのシングルを始めhiro、安室奈美恵、BoA、Chemistry等を手がけ、アンダーグラウンドとメジャーを繋ぐ多忙なプロデュース・チームとしても活躍。またChristian Dior、Herm s、Cartie等ハイブランド系の海外をも含むパーティへのLiveやゲストDJ、楽曲提供も多く独特のポジションを築いている。
オリジナリティ溢れるHouseテイストの4th Album「BODYPOP」は、アジア5カ国でもリリースされ、主要ラジオ局でのチャートインを果たす。’07年には5th Album「Feeling Good」を’リリース。シングル「I Don’t Like Dancing」は、この年のパーティーアンセムとなり、ソウル、台北、上海等を含む36カ所のツアーも各地で超満員のクラウドを魅了する。デビュー10周年目となる’08年、コロンビアに移籍し12月にアルバム「TEN」を発売。iTunes Store1位を始め数々のダンスチャートを席巻。'09年11月には生前のマイケル・ジャクソンから許諾を得、進めて来たカバーアルバム「MJ THE TOUR」を発表。豪華な参加ゲストと共に大きな話題となる。‘12年には自身の音源制作のノウハウを詰め込んだ本『DAWトラック・メイキング』の出版、ディスコ音源でのイベント”ETERNAL”の開催など、後進の育成にも力を注ぐ。現在全国でイベントを開催する傍らCOLDFEET次作アルバムを鋭意制作中!



TUNECORE JAPAN