『えん。』監督は、いいやつ? やなやつ? – 太田好治、原田郁子との話(1)

会って話してわかること by 環ROY 2013/06/29

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仕事仲間であり、普段からもよく遊んでくれる写真家の太田さんが、ある日、「映画撮ったから見に来てよ」と言いました。「映画!?」と思って聞いてみるとクラムボンのライブドキュメント作品『えん。』の監督をしたとのこと。「まじで! もちろん!」と映画館に足を運んでみると、それは、説明をほとんど排しつつも、しっかりした物語の見える快作でした。次はこれの話をしたい!って思った時に、郁ちゃんこと原田郁子さんを思い出しました。彼女とは去年末に大宮エリーさんの主催するイベントで知り合ったばかり。これは3人で話したらおもしろいかも、ってことで、2人に来ていただいて「えん。」と「太田好治」の話をすることになったのでした。

私たち的にはぜんっぜんいい人じゃないけど(笑)

環ROY(以下ROY):俺、見に行ったよ、『えん。』、舞台挨拶の日にね。みんなのトークも聴かせてもらいました。太田監督、いいやつ感にじみ出てたよね。

原田郁子(以下原田):太田くんが?……そんなことないよー(笑)。

ROY:太田さん、純度高いなーって。いいやつだなーって思ったよ。

原田:2人って、地元が一緒なんだっけ?

ROY:地元は隣の町。でも、3年前に2枚目のアルバム出したときに人づてで紹介されて、ジャケット撮ってくれた。その時に知り合ったの。
で、郁ちゃん来る前に先に2人で会ってたら、変な顔で俺の表情見てて「なに?」っつったら「ROYくんと会うと落ち着くわー」って。ちょっと気持ち悪いなと思いつつ(笑)、俺も今日の朝「出会って3年ぐらいって感じはしないな」ってふと思ってたんですよ。だから親戚感あるなって話。親戚の兄ちゃん。

原田:そっか。私も太田くんと会ってからは3年……くらいかな?

ROY:郁ちゃんはミトさん(クラムボン)づてに太田さんに出会ったんだったよね?太田さん、ミトさんとはどう出会ったの?

太田好治(以下太田):ミトさんがSUEMITSU & THE SUEMITHSっていうバンドのサポートやってたときにリキッドルームではじめて会った。その後toeのシングルを小淵沢(クラムボンのスタジオがある)で録ったんだよね。その時おれ、toeのこと撮影してたから一緒に小淵沢に行ったの。

原田:toeのギターの美濃くんがクラムボンを録るようになった時期でもあって、その頃をきっかけに一気にドーッと関係が深まった感じかな。

ROY:じゃtoeから繋がっていったんだね。

原田:うん。太田くんって、撮影にきても自分のことそんな喋らないの。今回『えん。』についてのインタビュー読んで、初めて知ったことがたくさんあったんだよね。「そうか、こういう人だったんだ」って。

太田: ROYくんにも自分のことあんまり話さないよね。

ROY:いや、結構言ってるよ(笑)

原田:飲みにいったりする?

太田:酒も飲むけど、俺とROYくんがよくするのは、車でドライブとか。

ROY:そう、俺らドライブするんだよね。気持ち悪い。

原田:私ね、今なんか流しきれなかった(笑)。「ドライブするとかお酒飲むとか」の「ドライブ……?」って(笑)

ROY:だってさらっと「ドライブしようよ」って言うんだもん(笑)!

太田:ROYくんも「いいよいいよ」って。

原田:小淵沢のスタジオに来るときも、フラッと現れてサッと帰るから、普段も1人で行動してそうなイメージがあった。

ROY:ま、でもお互い、大体1人で行動するヤツよ。けど郁ちゃんの太田像と俺の太田像は違うんだろうね。

原田:うん、だいぶ違うのかもね。さっきROYくん、『えん。』を観て太田くんのこと、いい人っぽかったって言ってたでしょ?私的には、むしろぜんぜん、いい人じゃない(笑)。逆、逆!

ROY:まじで?

原田:最初(映画が)できあがって観たときに……私たち、3人とも爆笑して。あのシーンとかあのシーンとか、できれば使わないでくれ、っていうシーンがしっかり使われていた。

ROY:言わば鼻くそほじってるところも使いやがった的な。

原田太田:そうそう。

原田:ほとんど無意識なシーンとか使われたりしていて。

ROY:そういうのに対してはガチでどう思ったの?

原田:もちろん恥ずかしいでしょ……(笑)。でもね、「そういうとこも見せてこうよ」っていうガッツを、太田くんは持ってたんだなぁ、と。カメラ回してるときには感じないわけ。スーって、回してるだけだから。太田くんがどう見ていたり撮ろうとしていたりするのか、そのときはわかんないんだよね。

ROY:本人も撮ってるときはそうだったんじゃないの?編集の時点で「どういうアウトプットにしよう」ってなったときに、まさしく本人たちが恥ずかしいところもあえて出しちゃうっていう。

原田:そっかあ。「Rough&Laugh」のくだりは、後半までひっぱってひっぱって、ぎゅーって追い詰められていく感じ。

ROY:本人たち的にはそうだよね。でも見てるほうにはそれはないっぽいよ。アーティストって、俺もそうだけど「こう見られたい」っていう自己像があるんだと思うのね。それって本人たちは気にしてるけど、客観的に見てる人はわかんないんだよね。俺も他人事だからこんなこと言ってるけど自分事だったら気になっちゃうし。気にしなくなりたいし。

原田:なんかね、確かにクラムボンを写してるんだけど、これは太田くんの作品だなって思ったよ。写真より映像の方が、より太田くんっていう人が出るのかね。だんだん太田くんを見てる感じだったよ。

ROY:そうだね。

原田:間違えまくってる練習風景とか(笑)。あれを残す感覚ってやっぱりちょっと独特なんだよね。

ROY:俺も自分に置き換えたときにそれは心当たりすごいある。それ恥ずかしい! みたいなの。でも太田さんにとっては、クラムボンっていうバンドに対して普段見せない部分をだして、バンドの在り方自体を拡張しようみたいなプレゼンスがあるわけじゃん。それ超愛情だなって思ったの。

原田:あー、でもそうかも。初めての目線。誰もそこをやったことなかったよっていう感じだった。こいつーと思いながらも、やるなー、と。

俺、真面目に音楽やってねー! ってなった

太田:ざわっとするだろうなという予想はしてなくて、お客さんにとって「みんなが喜ぶんじゃないかな」っていう目線だけだね。

原田:そういうところ、丁寧だよね。

ROY:でしょー。俺は郁ちゃんや本人たちが思ってる感じってまったくなくて、単純にすげーバンドだなって思った。アレンジとかすげー! って。あと、この人たちたのしそー。みたいな。そういう解釈。

原田:「帰ったらなんかやりたくなった」って言ってくれてたじゃない。それすごい嬉しかった。

ROY:実際曲を書いてる途中だったんだよね。同じ演奏じゃなくてアレンジに向かってく感じ、アレンジ超すごい! ってなったよ。俺真面目に音楽やってねー! ごめん! って、思った(笑)。

原田:ほんとに(笑)?

ROY:ポリリズムで進行させるやつとか。ああいうの結構たいへんじゃない? あれカウントするのとかやじゃん。ミスるの怖いし(笑)。

原田:それは、ララバイサラバイのアレンジのことかな。うーんとね、たいへんって言う風には思ってなくてね。さっきの太田くんじゃないけど、その日足を運んで観にきてくれたお客さんを、ちょっとびっくりさせたいっていうのはあるかな。びっくりを楽しんでくれたらいいなーって。ただ、思い立っても、いきなりできるわけじゃないから、あーかなこーかな、ってやっててね。それを太田くんは辛抱強く、全部撮ってる。

太田:うん、撮ってる撮ってる。

原田:(笑)

ROY:「はなればなれ」とか相当急なアレンジになってたもんね。ポーティスヘッドみたいな。

原田:火サスみたいなね、事件性を感じる(笑)アレンジになっちゃったね。なんだろうな、太田くんもやっぱり「見る人」なんだよね。変化していくものを、見てないみたいでいて、黙って見てるんだろうね。

ROY:超いいやつだと思ったけどね(笑)。とにかく。

原田:(笑)不思議。「いいやつ」って思うんだ。

太田:でもみんな思うと思う(笑)。

原田:(笑)こういうこと、太田くんってさらっと言うよね。 「僕がいい仕事したからだと思うんですけど」とか。

太田:いやいや。

ROY:(笑)でも俺『えん。』に関してインタビューいくつか見たけど、太田さんのオルタナティブさがあんまり伝わってないっていうか出てない気がして……もうちょい出したいなと。

太田:ああ、ホントに?

原田:そう? じゃあ出してこう!

ROY:めちゃくちゃ大手の、それこそナショナルクライアントの広告写真を撮りつつ、エッジなラインにいるロックバンドとか、俺みたいなラッパーの写真も撮ってて、その振れ幅って素敵だなって。すごいんだよ! ってみんなに伝えたいよ。

原田:あー、なるほどね。それを声高には言わず、自分のバランスとしてやってるもんね。クラムボンを撮りながら、クラムボンの中にもある、そういうバランス感覚を見出そうとしてたのかなって。外に向かっていく好奇心みたいな部分と、誰も立ち入れないコアな部分と。クラムボンにもそういうアンバランスなバランスがあるんだけど、ビジュアルとしてなかなか伝えづらいとこもあって……

太田:クラムボンが実践しているところと、伝わり方とにギャップがあるよね。

原田:そうなのかな。太田くんはそれをうまくやってくれたなって。

ROY:超すげーやつじゃん。

原田:(笑)それをとことん、時間と労力をかけてやるっていう気合いみたいなのがすごくて。

太田:責任というか、正直にやるしかなくて。テクニックがないっていうのが今回は逆に幸いで、やるしかない! っていうか。メンバーとたくさん話したし、お客さんが何を見たいかすごく考えた。伝えたいことは曲を通して伝わる。だけどそれに含まれないところを伝えることで音楽がより立体化していって、生活と結びついていけばいいなと。それはいつも思ってることなんだけど。

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好きなシーンを何回も観れること、ツアーグッズになることを考えてDVDを作った

原田:写真とムービーだと違う?

太田:うーん、今回は撮る上でムービーを撮ろうとは思ってなくて、写真集を作る感覚かなと思ったんですよ。

原田:オッ! かっこいい! 言ったほうがいいよそれ。

ROY:(笑)

太田:だから、曲順もばらばらだったり、切り刻んであったり。素材を目の前にして最初に自分でストーリーを編んだんですよ。それにピースをはめていく。みたいな感覚かな。

原田:初めて聞いた。

太田:うん、初めて言った。でもそれが強みになると思った。

原田:だからあんなにバサバサ切れてるんだね。曲もフルで聴かないし、時間軸も違うしね。

ROY:ライブのDVDとは違うよね。でもそういう感じなんだろうなって見る前から思ってたな。ライブを撮って1つのものにしたって言ってなかったもん。「映画作ったんだよね」って聞いてたからね。

原田:そういう気持ちだったんだ。

ROY:やっぱり映画だよね。ライブDVDというよりかは。

太田:でもわかりやすいように20分ごとにテーマを変えていて、見たいときに見たい場所に飛び込めるようになってるんですよ。

原田:へー。

ROY:へー。どんどん言ったほうがいいってそれ!

太田:例えば疲れてるときに元気を出したいから「rough & laugh」を見るとか。ちょっと酒飲みながら見たいから「サラウンド」周辺をとか、チャプタ分けを考えたんですよ。

原田:じゃあ本みたいになってるんだ。1章は何々で、って。

太田:2時間の映画を何度も見るのってハードだけど、好きなところを何回も見るのって平気でしょ。「ある鼓動」の打ち合わせが小淵沢のリビングであって、次にライブがあるじゃないですか。「ある鼓動」のライブを観た人が「ある鼓動の打ち合わせってあったな」って戻れるようになったりしてて。

原田:えええーっ。

太田:それで、2回目よりわかる、3回目よりわかるっていうのがいい映画だな、そういうのにしたいなって思いましたね。

ROY:ユーザーフレンドリーに時間を操作してるんだね。

原田:ファンの人のための“特別なもの”っていうよりは、「クラムボン、なんか好きじゃないんだよね」っていう人とか「聴いたことがない」って人にも、入り口として観てみてほしいな、って。たまたまTVのチャンネルを変えてたらやってて、なんか気づいたら最後まで観ちゃった、みたいなことになったらおもしろいなって。

太田:僕はこのDVDをツアーグッズとしてちゃんと成立させたいなと思った。ライブ会場に行ったお客さんが、お酒買って、Tシャツ買って、タオルも買って、でDVDも3,700円で「出せるかな」って金額にしてもらって。ツアーに友達連れてきた人が、初めてクラムボンを観たけどDVD買って帰ろうかなって思ったら、また物語が生まれるじゃない。

ROY:超いいやつ。

原田:こういうことを含めていいやつって言ってるんだね。

ROY:そうだよ。太田さんはクライアント、今回だとクラムボンだけど、その立場になって超考えて、相手のためになるような提案をする人だもん。しかも、相手の立場になって考えるスキルがハンパないっていう。そこが売りでしょ。

原田:あー、それは、うん、意味がわかった。私はまた逆で、「いいやつじゃないなこいつ」っていうのがいいなと思ったよ。ダークサイドを出してくるところとか。

太田:バンドのことを考えて、エゴイスティックに作ったから、そこはやなやつだと思う。

ROY:まぁ本人たちはね……むせるよね。

太田:そうだよね。俺もそう思った。作ってから(笑)。でも初めてクラムボンと一緒に小淵沢でこの映画を見たとき、3人が笑ってくれたから。

ROY:やっぱ行動原理がクライアントに対してどうやったら喜ばれるかっていうのが根本にあるから、それを指して「いいやつ」って言ってる。

太田:写真の仕事もそうなんだけど、仕事振ってくれる人と仕事してるわけなんだけど、やっぱり仕事してる人が向き合ってるお客さんとコミュニケーションしたくて、やっていて。

原田:大阪での上映のときに、お客さん全員にビールおごったんだよ。

ROY:え、どういうこと!?

原田:場内にアナウンスがあって、監督がビールをご用意しましたって。劇場出たところにブワーッと。お酒飲めない人にはオレンジジュースをって。

ROY:なにそれ!

原田:すごくないですか? その気配り。

太田:楽しみたかったんだよね。

原田:お客さんみんないい笑顔。なんかその感じが、良かったんだよね。

ROY:すげえなー。感動しちゃうじゃん。そんなんできなくない?普通。

原田:やらないよね。でも来てくれて嬉しかったんだよね。もうちょっと待てばDVDで観ることもできるのに、映画館に来てくれたっていうことが。

ROY:いいやつじゃん。

原田:ROYくん、ひたすらいいやつって言ってるね(笑)。

太田好治

1980年宮城県生。日本映画学校卒業後、代官山スタジオを経て2005年独立。
2011年太田好治写真事務所設立。主に音楽媒体、映画、ファッション、広告等で活躍中。
2013年クラムボンのドキュメンタリーフィルム『えん。~Live document of clammbon~』の監督を務める。

http://www.yoshiharuota.com/

原田郁子(はらだ・いくこ)

1975年 福岡生まれ。1995年「クラムボン」を結成。歌と鍵盤を担当。独自のスタンスで精力的に音楽活動をつづける。バンド活動と並行して、さまざまなミュージシャンとレコーディングやライブで共演。ソロ活動も行なう。2004年『ピアノ』、2008年『気配と余韻』、『ケモノと魔法』、『銀河』のソロアルバムを発表。2010年5月吉祥寺に多目的スペース「キチム」をオープンさせ、飲食とともにライブやイベントを行なう場所をつくる。
今年はクラムボンのカヴァーアルバム「LOVER ALBUM 2」とドキュメントDVD「えん。」が発売。車1台で全国駆け巡るロングツアー「ドコガイイデスカツアー」の真っ最中。

http://www.clammbon.com/

環ROY

環ROY

ラッパー。宮城県出身。主に音楽作品の制作とパフォーマンスを行う。これまでに最新作『ラッキー』を含む4枚のフルアルバムを発表。第17回文化庁メディア芸術祭推薦作品『ワンダフル』(MV)を発表。国内外の様々な大型音楽イベントへ出演。



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