第15回:「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」が締結されるとDJが逮捕されるって本当?

音楽著作権ベーシック講座 by カズワタベ/水野祐 イラスト:とくながあきこ 2014/03/10

ニュースで耳にする機会も増えてきた「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」。現在交渉中のこの太平洋周辺諸国の経済自由化を目指した協定の中には、著作権についてもさまざまな項目が含まれています。もし締結されたら、DJが逮捕されるなんていう噂も!? 音楽著作権ベーシック講座、第15回はそんな噂の真偽についてのご相談です。

カズワタベ
今回、ご相談にいらっしゃったのはDJのKさんです。

Kさん
こんにちは。僕はDJとして活動しているのですが、最近TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)という国際協定が気になっています。周りのDJたちが「TPPが締結されるとDJが逮捕されるようになるらしいよ!」と言っていたんですよ! なんで僕たちが逮捕されなくちゃいけないのか分からないので、今日は相談に来ました。

カズワタベ
TPPは最近ニュースで耳にする機会も増えてきた国際協定ですね。主に医療や農業の分野について語られていますが、実際には著作権含め知的財産権の項目もあって、ミュージシャンやDJの方にも無関係ではありません。
ところで思い返してみても特にDJを禁止するようなものはなかったと思うんですが、どういうことでしょうか……?

水野
おそらくTPPの影響により、著作権侵害の罰則が非親告罪(ひしんこくざい)化した場合のことを言っているんだと思います。

Kさん
非親告罪化ってどういうことなんですか?

水野
日本の現在の著作権法は、著作権侵害の処罰について親告罪といって、権利者からの権利侵害の申し出がないかぎり、処罰しないとされています。「非親告罪化」とは、これを権利者からの権利侵害の申し出がなくても、捜査機関等が独自に捜査を行い、取り締まることができる制度に変更することを言います。アメリカなどではこの制度を採用しています。

カズワタベ
非親告罪化については様々な弊害が叫ばれてますよね。しかしこれがDJの逮捕にどう繋がるんですか?

水野
そう言っている方の真意はわかりませんが、著作権侵害や著作隣接権の侵害になるDJ行為を行っているDJについて、これまでは権利者が「別に自分の音楽を好きでかけてくれているならいいかな」と見逃されていたものが、非親告罪化することにより、捜査機関等の恣意によって逮捕されたりする事態がありうる、ということなのではないでしょうか?

カズワタベ
要するに、今までグレーゾーン的に許されていた部分が、厳格に取り締まられてしまうようになった結果、逮捕される可能性が生まれてしまうということですよね。

Kさん
その場合って、捜査機関から権利者に一旦確認したりしないんですか? DJとトラック・メイカーが友達の場合もよくあるんですけど……。

水野
おっしゃるように、通常は捜査機関がトラック・メイカーや権利者に確認を行い、そこで問題ないということになれば、違法性も減じる方向に働き、不起訴になる場合も多いでしょう。
しかし、権利者への確認前の段階では立件、逮捕等がなされてしまう可能性は否定できませんし、権利者の確認により違法性が減少しても、それによりすぐさま犯罪にあたらなくなるわけではないので、不安に思われるのも仕方ありません。

カズワタベ
非親告罪化したとして、実際にどのように運用されるかは未知数ですもんね。ところで今、海外では非親告罪の方が主流なんでしょうか? どうも日本に住んでると実感がなくて。

水野
親告罪制度を採用しているのは日本のほかには、ドイツ、オーストラリアくらいです。アメリカ、フランスなどの欧米諸国は非親告罪であるところが多いですね。

カズワタベ
非親告罪を採用している国ではDJたちはどう活動してるのか気になりますね。すべての楽曲について許諾を取るって現実的ではないように思えるんですが……。

水野
海外、例えばアメリカだと「フェアユース」という規定があり、ささい、かつ公正な利用であれば著作権侵害にならないという定めがあったりするので、そのあたりでバランスが取られているのかもしれませんが、日本にはフェアユース規定が存在しないので、より危険性が高いという言い方はできるかもしれません。
そういう観点から、もし日本もTPPに加入しなければならないとしても、その場合には日本にもフェアユース規定を導入すべきであるという指摘もなされるところです。

カズワタベ
フェアユース規定なしに非親告罪化した場合、Kさんたちを始め、いわゆる二次創作をしている人たちが活動を継続することが難しくなる可能性がありそうですね。日本は欧米と違いパロディについての扱いも法律で明確にはされてませんし、このまま行くと文化の断絶が起こりそうに思えます。

水野
DJなどのクラブ・ミュージックに関しては、風営法の問題も大きな議論になっていますが、TPPの問題についても、長期的な視点で文化の未来を考えることが必要ですね。

カズワタベ
さてKさん、疑問は晴れましたか?

Kさん
はい、TPPで非親告罪化したらどうなるのか、なんとなくですが理解できました! これからも交渉の動向をチェックしていかなきゃですね。

カズワタベ
僕たちも引き続き動向を見守っていこうと思います!

水野
では、本日はこれにて失礼いたします。今日はこれから蓮沼執太さんの『ニューフィル』というコンサートを観に行く予定です。こないだ発売された蓮沼執太フィルのアルバムも素晴らしかったので、楽しみにしています。

カズワタベ
えー! いいなー!

非親告罪化が決まったわけではないが、今後に注視しよう

今回はTPPの知的財産権分野の交渉に含まれていると言われている、著作権の非親告罪化について触れました。創作環境が一変してしまうであろうこの制度について、ミュージシャンのみなさんも知っておいた方が良いのではないでしょうか。まだ交渉中の段階なので、最終的にどうなるかはわかりませんが、動向は常にチェックするようにしましょう!

カズワタベ

カズワタベ

大福が好きすぎる。1986年4月長野県松本市生まれ。洗足学園音楽大学在学中よりライブハウス店長、クラブジャズバンドのリーダー/ギタリスト、ウェブサービス運営会社の取締役を歴任し、現在はフリーランスとして「考える・つくる・広める」を事業領域に様々なプロジェクトで暗躍中。並行して、神戸ITフェスティバル、YOAKE、CCサロン等の著作権、コンテンツ・ビジネス関連のイベントで登壇するなど、クリエイターの権利保護、創作文化振興に関わる活動を積極的に行なっている。



水野祐(みずの たすく)

水野祐Photo by Kenshu Shintsubo

弁護士。シティライツ法律事務所代表。アーティスト・クリエイター等を支援する法律家によるNPO “Arts and Law”代表理事。"Creative Commons Japan"、"Fab Commons (FabLab Japan)"、"LiFTONES"などにも所属。NPO法人ドリフターズ・インターナショナル監事。一般社団法人マザー・アーキテクチャア監事。

主にクリエイティブ・IT ・建築不動産分野の法律・契約等のアドバイス・コンサルティング業務に従事しつつ、多様な課外活動を通して、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動を行っている。



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