第13回:替え歌をライブ演奏したりYouTubeやニコニコ動画にアップしたりしてもいいの?

音楽著作権ベーシック講座 by カズワタベ/水野祐 イラスト:とくながあきこ 2013/11/28

楽曲をカバーしてライブで演奏したり、YouTubeやニコニコ動画にアップするという形で活動をしているボーカリストの方々はいまや少なくありません。中には、歌詞の一部を替え歌にしている方もいるのではないでしょうか? 音楽著作権ベーシック講座、第13回は「替え歌」が法律的にどういう扱いなのかを解き明かしていきます。

カズワタベ
今回、ご相談にいらっしゃったのはボーカリストとして活動されているFさんです。

Fさん
こんにちは。僕はYouTubeやニコニコ動画などの動画共有サービスでカバー曲を中心にアップして活動しているボーカリストです。また、月に一度くらい同じくカバー曲を中心としたライブをやっています。先日新しい曲をカバーしようと思い、練習していたらふとライブでファンが盛り上がりそうな替え歌を思いついたんですが、これを演奏するのって法律的に問題ないんでしょうか?

カズワタベ
既存の楽曲をカバーするときに、歌詞を替え歌にしてライブで演奏して良いのか、というご相談ですね。ちなみにその替え歌は動画共有サービスにアップする予定はありますか?

Fさん
そうですね、ウケが良かったらアップしようと思っています。

カズワタベ
水野さん、まず替え歌って法律上どういう扱いになっているんでしょうか?

水野
替え歌は、楽曲はそのままで、歌詞を変えて歌うことですよね。
楽曲については、CD等の録音物を利用する場合には、①楽曲の著作権、②いわゆる原盤権(レコード製作者の権利)や実演家の権利などの著作隣接権が問題になります。
一方で、歌詞については、歌詞の一部を改変することになるので、(ア)歌詞の著作権のうち翻案権(表現を変更する権利)の問題、そして、(イ)歌詞を作った著作者であるクリエイターが持っている著作者人格権の問題になります。

カズワタベ
歌詞の著作権についてなんですが、楽曲と同じようにJASRAC等の音楽著作権管理事業者が管理している場合もあるんでしょうか?

水野
はい。JASRAC等の音楽著作権管理事業者は、歌詞の著作権も管理しています。

カズワタベ
では管理楽曲の場合はそちらに申請、そうでなければ権利者に直接許諾を貰う、とすれば良いですね。

水野
いえ、JASRAC等の音楽著作権管理事業者は、著作権のうち翻案権(楽曲に関しては編曲権)を原則として管理していません。
したがって、音楽管理事業者が管理している楽曲の替え歌をする場合でも、原則として著作権者の翻案に関する許諾が別途必要ということになります。
また、音楽著作権管理事業者は、著作者人格権の管理も行うことができませんので、著作者人格権の問題もあります

カズワタベ
著作権管理団体は、翻案権を原則として管理していないんですね!
ちなみにYouTubeやニコニコ動画はそれらの団体と包括契約を結んでいる場合がありますが、この場合も替え歌等の翻案は難しいのでしょうか? 包括契約が翻案権にも及ぶものなのかっていう話ですけど。

水野
さきほど説明したとおり、音楽著作権管理事業者は翻案権や著作者人格権を管理していないので、包括契約の内容にも翻案は含まれていません。つまり、YouTubeやニコニコ動画等において替え歌等の翻案をする場合には、別途著作権者の許諾が必要です。

カズワタベ
なるほど。
著作者人格権についてなんですが、これはどちらにせよ直接作った方から許諾を受けるしかないですよね?

水野
はい。著作者人格権は著作者にのみ発生し第三者に譲渡できない権利なので、歌詞を作ったクリエイターしか行使できません。

Fさん
あと替え歌にする歌詞の長さって関係ないんですか? ひとつの単語を替えるくらいでも申請が必要となるとすごくハードルが高く感じるんですが……。

水野
これは、著作者人格権のうち、著作者の意に反して自己の著作物を勝手に改変されないという「同一性保持権」の問題です。
要は、著作者が「意に反する改変」かどうかが問題になり、この部分については様々な考え方があるところですが、通常その歌詞を作った人間であれば名誉感情を害されるか否かが基準となると考えます。

カズワタベ
良かれと思ってやった改変でも、作者本人は傷つくことも考えられますもんね。

水野
この論点がまさに問題になったのが、森進一の「おふくろさん」問題ですね。
簡単に事案を説明すると、NHK紅白歌合戦で森進一が『おふくろさん』という楽曲を歌う際、イントロ前に「いーつーも心配かけてばかり いけない息子の僕でした……」というオリジナルにはない台詞を付けて作詞家の川内康範に無許可で歌唱した件について、川内が歌詞の著作権侵害を訴え、同曲を「もう森には歌ってもらいたくない」と反発した騒動です。
本件は裁判になったわけではないので、森さんの「付け足し」が同一性保持権の侵害にあたるか否かは微妙なところですが、色々な経緯があり、森さんと川内さんの溝は深まり、結局両者は和解できないまま、川内さんが亡くなってしまいました。
その後の経緯なども興味深いのですが、詳しく知りたい方はグーグル先生にでも聞いてください(笑)。

カズワタベ
当時はよくニュースで取り上げられてましたよね。
やはり事前に許諾を受けた方がいろいろと安心だと思います。

Fさん
あ、あとふと思ったんですが、替え歌ってパロディみたいなものじゃないですか。パロディって言ってもやっちゃ駄目なんですか?

水野
フランスなどではパロディを文化としてOKとする法律があったり、アメリカだったらささいで公正な利用にあたるとみなされれば「フェアユース(公正利用)」にあたりOKとする法律がありますが、日本では残念ながら最高裁判所の判決で明確にNGとされています(ただし、近年法改正しようという動きはあります)

カズワタベ
パロディについての規程も国によってさまざまなようですね。それも連載でそのうち取り上げたい内容ではあります。
ところでFさんは、動画共有サービスへのアップだけではなく、ライブでの演奏もするとのことですが、権利処理においてそれぞれ違いはあるんでしょうか?

水野
ライブを生演奏でやる場合には、CD等の録音物を利用する必要がないので、いわゆる原盤権や実演家の権利といった著作隣接権の処理が不要になることが違う点ですが、それ以外の著作権や著作者人格権に関しては問題は一緒です。

カズワタベ
ではその点で特に補足することはないですね。
他に楽曲をカバーする上で気をつけたほうが良いことってありますか?

水野
さきほどお話した点にも重なりますが、カバー曲をCD等でリリースする場合には、音楽出版社等の著作権者から翻案権(楽曲の場合には編曲権)の許諾を契約書等を交わしてしっかり取るということですね。
実は、この許諾を取る手続きは以前は行われていなかったと聞いています。しかし、2003年に、インストジャズバンドPE’Zが合唱曲として有名な大地讃頌という曲をカバーしたCDをリリースしたのに対し、作曲者の佐藤眞が編曲権と著作者人格権(同一性保持権)侵害に基づき販売停止を求めた事件がありました。この事件によりこの問題が露呈し、編曲権や同一性保持権に関する許諾を取る運用が行われるようになったと聞いています。

カズワタベ
PE’Zはぼくもよく聴いていましたが、そんな事件があったんですね。
ところで、歌詞を変更しないで、楽曲のアレンジのみ変える場合に、著作者人格権を理由に著作者がカバーを拒否することはできるのでしょうか? 替え歌の場合に歌詞が変わってしまう場合には、なんとなく意に反するということはわかるのですが、アレンジが違う場合に同じことが言えるのか疑問に思ったので。

水野
難しい質問ですね。よほど悪意のあるアレンジでないかぎり、著作者人格権を理由に拒否することはできないとも考えられますが、一方で、大地讃頌事件のように、楽曲の制作者としては自らのアレンジに非常にこだわりを持っている方もいます。
やはり、実務的には著作権者から編曲権について、著作者から著作者人格権(同一性保持権)についての許諾を得ておいたほうがよさそうです。もっとも、著作者人格権については、著作権を音楽出版社等に譲渡している場合には不行使特約を締結しており、そもそも問題にならないケースも多いと思います。

カズワタベ
そうなんですね。Fさん、疑問は晴れましたか?

Fさん
はい、思いついた替え歌は、ちゃんと許諾を取るようにします!

カズワタベ
ぜひそうしてください!

水野
では、ぼくも失礼いたします。
Egil OlsenとGareth Dicksonのライブを観に、青山CAYに行ってきます。Gareth DicksonのNick Drakeのカバーアルバム『Wraiths』が本当に素晴らしくて……。

カズワタベ
たすくさん、語ってるとライブに遅れますよ……。

替え歌は「歌詞の翻案」。著作者人格権の確認も忘れずに!

音楽著作権ベーシック講座、第13回は「替え歌」についてのご相談でした。著作権の翻案権のみならず、著作者人格権も気にしなければいけないというところがポイントですね。きちんと許諾を取って、事後のトラブルが起きないようにしましょう!

 

カズワタベ

カズワタベ

大福が好きすぎる。1986年4月長野県松本市生まれ。洗足学園音楽大学在学中よりライブハウス店長、クラブジャズバンドのリーダー/ギタリスト、ウェブサービス運営会社の取締役を歴任し、現在はフリーランスとして「考える・つくる・広める」を事業領域に様々なプロジェクトで暗躍中。並行して、神戸ITフェスティバル、YOAKE、CCサロン等の著作権、コンテンツ・ビジネス関連のイベントで登壇するなど、クリエイターの権利保護、創作文化振興に関わる活動を積極的に行なっている。



水野祐(みずの たすく)

水野祐Photo by Kenshu Shintsubo

弁護士。シティライツ法律事務所代表。アーティスト・クリエイター等を支援する法律家によるNPO “Arts and Law”代表理事。"Creative Commons Japan"、"Fab Commons (FabLab Japan)"、"LiFTONES"などにも所属。NPO法人ドリフターズ・インターナショナル監事。一般社団法人マザー・アーキテクチャア監事。

主にクリエイティブ・IT ・建築不動産分野の法律・契約等のアドバイス・コンサルティング業務に従事しつつ、多様な課外活動を通して、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動を行っている。



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