第12回:自分の楽曲をJASRACに登録するとどんなメリットがあるの?

音楽著作権ベーシック講座 by カズワタベ/水野祐 イラスト:とくながあきこ 2013/10/11

JASRAC、正式名称は日本音楽著作権協会というのですが、音楽活動をしている人であれば誰もが聞いたことがある団体ではないでしょうか。音楽の著作権を管理してくれる団体で、広く活動をしている音楽家とは切っても切れない関係です。しかし、自分の楽曲を登録すると具体的にどんなメリットがあるのか、イメージができる人も少ないのではないでしょうか。音楽著作権ベーシック講座、第12回はそんなご相談です。

カズワタベ
今回、ご相談にいらっしゃったのはインディーズレーベルの運営を始めたばかりのSさんです。

Sさん
こんにちは。ご紹介いただいたように私はインディーズ・レーベル運営を始めたんですが、所属するミュージシャンたちにJASRACへの登録を勧めたほうがいいのか悩んでいます。登録して具体的にどんなメリットがあるのか、登録しないと何がデメリットなのか、っていうのがイメージできなくて……

カズワタベ
JASRACに登録したらどんなメリットがあるのか、というご相談ですね。水野さん、まずJASRACとはどういった機能を持った団体なのでしょうか?

水野
JASRACは、正式には「一般社団法人日本音楽著作権協会」といいます。作詞者、作曲者、編曲者、音楽出版社などの権利者(委託者)が有する著作権を「信託財産」として譲り受け、委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作権使用料を委託者に分配するという、「著作権管理事業者」です。

カズワタベ
著作権を管理して、使用料を徴収・分配してくれる団体ということですね。著作権については自己管理をするという手段もあると思うんですが、なぜあれだけ多くの音楽家がJASRACに管理を委託しているんでしょうか?

水野
どの楽曲が、どこで、どういう態様で利用されたかを調査し、そこから使用料を徴収する作業は、これだけ音楽が利用される場面が広がっている現状では、これを自己管理するのも大変なことです。JASRAC等の音楽著作権管理団体は、手数料を支払う代わりに、これを代わって管理してくれる便利さがあります。
また、昔はJASRACの前身である大日本音楽著作権協会しか音楽著作権を管理(正確には「仲介」)する団体がなかったという歴史的な背景から、現在でもJASRACが日本で最大の著作権管理事業者であることが理由だと考えられます。

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カズワタベ
今はテレビやラジオだけでなくインターネットもありますもんね。あ、歌ものならカラオケでの使用も想定しなくてはなりませんね。

Sさん
う~ん、自己管理だとそういった事務手続きをすべてやらなきゃいけないってことですね。煩雑で音楽に集中できなくなりそう……。

カズワタベ
自己管理をしているとこういった広い用途で使われる度に、条件の交渉や契約が発生するので、音楽家自身がやるには手間がかかる、それを解消するために著作権管理事業者が存在していると。

水野
また、ミュージシャンなどの権利者がJASRACに楽曲の著作権を信託譲渡すると、JASRACは、著作権侵害等の紛争が起こった場合、ミュージシャンに代わって訴訟を提起することができます。よくJASRACが警告書を送ったとか、訴訟を提起したということがニュースになりますよね。こういう場合も、ミュージシャンは自ら裁判をしないですみ、JASRACに任せることができるというメリットがあります
なお、日本にいくつかある音楽の著作権管理事業者で、このような著作権の「信託譲渡」契約という形をとっているのはJASRACだけです。ジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)や、イーライセンス、ダイキサウンドなどは、単に著作権の管理業務を委託するという「管理委託」契約という形でやっています。
音楽の著作権管理事業者4団体の比較については、また別の機会に詳しく触れたいですね。

カズワタベ
裁判を代わりにやってくれるというのは、ありがたいですね。
JASRACに預ける著作権のうち、たとえば、1つの楽曲について、演奏・放送、録音、ビデオの権利はJASRACに預けるけれど、映画、CM、ゲームでの利用権については信託しないという選択も可能なのでしょうか?

水野
可能です。カズくんが言うように、JASRACに信託する権利は「著作権」と一言で言っても、様々な利用権(「支分権」といいます)に分かれていて、利用権の種類を選択して信託することも近年の契約条件の改訂により可能になりました。
どのような楽曲がJASRACに登録されていて、その楽曲の著作権のうち信託されているのがどの利用態様なのか、を検索できる「J-WID」という楽曲検索データベースがあり、日本における音楽の利用はこれなしではやっていけないほど利用されています。

JASRAC作品データベース検索「J-WID」
131011-jwid-cap

Sさん
ちなみにJASRACに楽曲の管理を委託すると手数料っていくらくらいなんですか?

水野
JASRACは、楽曲の使用者から徴収する著作権使用料については「著作物使用料規程」、楽曲の権利者に分配する分配金については「著作物使用料分配規程」に定めています。使用態様や時間などに応じて細かく規定されているので、なかなかいくらとは言い難いですが、CD等の利用に関しては6%程度、インタラクティブ配信の利用に関しては11%ほどの手数料になっています

著作物使用料規程(JASRAC/PDF)
著作物使用料分配規程(JASRAC/PDF)
※インタラクティブ配信とは、「デジタル化されたネットワーク環境において、放送及び有線放送以外の公衆送信及びそれに伴う複製により著作物を利用する」こと(著作物使用料規程第11節 インタラクティブ配信(JASRAC/PDF)より引用)

水野
また、JASRACは「使用料計算シュミレーション」を用意しており、これが非常に便利です。ただし、これはあくまで概算の使用料なので、実際にかかる使用料とはズレる可能性があることには留意が必要です。

使用料計算シミュレーション(JASRAC)
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カズワタベ
このシミュレーションは便利ですね!
あとJASRACは手数料が高いという批判をよく聞くのですが、これは実際どうなんですか?

水野
これはケースバイケースなので、一概に手数料が高いという批判はあたらないと思います。ただし、JASRACは組織がデカいからなんでしょうが、著作権使用料の分配方法がザックリしているなど、運用に柔軟性が欠けるという印象はあります。ただし、JASRACも近年の批判を受けて、改善の努力をしていますね。

カズワタベ
あとひとつ、JASRACに登録することのメリットとして、JASRAC等の著作権管理団体に委託することで、それらと包括契約をしているテレビやラジオ、動画投稿サイトなどで使用されやすくなるというメリットがあると思うのですが。

水野
いわゆる包括契約とは、正確に言えば包括的利用許諾契約のことで、通常、JASRAC等の音楽著作権管理事業者は管理楽曲の利用に関して個別に許諾をするのですが、利用が膨大になる事業において、著作権管理事業者の全管理楽曲の利用を一括して許諾し、月間・年間等の単位で使用料を計算し、請求する契約をいいます。テレビ、ラジオ、ライブハウス、最近ではYouTube、ニコニコ動画等の動画共有サービス等の場合に活用されています。
包括契約がなされている場合には、音楽を利用したい人やJASRACにとっては、利用のたびにJASRAC等に対し許諾を得る手続きをしなくても済むので、メリットがあります。

現在の許諾・請求・分配のしくみ(包括契約を締結する場合)(JASRAC)

水野
包括契約がある場合、利用者側はその楽曲が登録曲か非登録曲かいちいち調査しないで楽曲を使用してしまう場合も多く、そういう場合にトラブルになるケースがあります
たとえば、ニコニコ動画などは許諾されている楽曲を簡単に検索できるシステムを提供しており、とても便利です。

ニコニコ動画 許諾楽曲検索(ニワンゴ)

カズワタベ
これは便利ですね! サービス事業者側でこういったシステムを提供しているとユーザーは使いやすいですね。
一方で包括契約の場合、裏を返せば、自己管理楽曲は個別に手続きが必要なので、テレビやラジオなどで使われづらいということにもなりますよね。
自己管理の場合には、前回の記事で取り上げたクリエイティブ・コモンズは楽曲の使用を促進するひとつの手段になると思います。

水野
そうですね。
JASRACのデメリットとしては、前回の記事でも取り上げたとおり、JASRACに著作権を信託してしまうと、過去に遡って楽曲のすべてがJASRACに移転してしまうので、自分の楽曲にクリエイティブ・コモンズをつけて公開したり、インターネットを使った新しい形でのプロモーションを行うなど、柔軟なやり方がしにくくなるということはあると思います。

カズワタベ
なるほど。第2回の記事でも触れた自己の楽曲を使用する場合に手数料を免除する制度がありましたが、これも使える場合が限定的ですし、新しいウェブプロモーションなどには柔軟に対応しにくいかもしれませんね。

水野
あと、これはJASRACに限った問題ではありませんが、日本の音楽著作権管理事業者は、その名の通り、著作権しか管理しません。音楽の利用において重要な、レコード製作者の権利(通称「原盤権」)や実演家の権利などの著作隣接権については管理していません。なので、JASRAC等で権利処理をしても、著作隣接権については別途権利処理しなければならないことを常に注意が必要です(第10回の記事参照)。
ところでカズくんは、昨年JASRACに登録していない自己管理の楽曲について無断使用されたことがあったわけだけど、JASRAC等の音楽著作権管理団体に登録していたほうがよかったと思った?

カズワタベ
僕の件は結果として事後承諾になってしまったのでちょっと特殊なケースだと思いますが、個人的には自己管理で良かったと思っています。JASRACに委託した場合は使用料についてJASRACの規定に従う必要がありますが、自己管理の場合は特に決まりはありません。一方で損害賠償の請求という形だったので、法外な金額を貰うこともありませんでしたが。しかし僕の場合こういった交渉が好きなので参考にならないかもしれません(笑)。

水野
交渉が苦手だと感じるミュージシャンは多そうですしね(笑)。
ぼくは友人とLiFETONESというレーベルをやっているんですが、ここのミュージシャンでJASRAC非登録の楽曲がラジオで無断利用されていたケースがありましたね。ラジオ局からの連絡で初めて判明したんですが、自己管理だと侵害されていることに気づけないケースが多々あります。

カズワタベ
そういう意味では、自己管理と著作権管理団体への委託は服におけるオーダーメイドと既成品の違いに近いのかもしれません。自己管理であれば使用条件等細かくすり合わせることができますが、時間もかかりますし、数が増えたら大変です。著作権管理団体に委託しておけば、どれだけ使用されても対応してもらえますし、自分の時間は節約できますが、完全に自分の思い通りではないこともあるでしょう。どこに重点を置くかによって、選択は変わってくるのだと思います。
さてSさん、JASRACに登録した場合のメリットについておおよそご説明できたと思うのですが、いかがでしょうか?

Sさん
はい、疑問が晴れました! うちのレーベルのミュージシャンたちにもこの話をして、他の著作権管理事業者とも比較の上、委託するかどうかを決めようと思います。

カズワタベ
ぜひそうしてください! それでは今回はこの辺で。

水野
おつかれさまでした!今日はこれからDOMMUNEの企画で、相対性理論とマイ・ブラッディ・バレンタインのライブに急行します!マイブラは3度目ですが、相対性理論は初めて観るので楽しみです。

カズワタベ
え、僕もやくしまるえつこ好きなんですよ!うらやましい……。

自分にとってオイシイ点、オイシくない点はなにか?
をよくよく考えること

自分の楽曲を著作権管理団体に委託する上で考えるべきこと、お分かりになりましたでしょうか? 今回は現状メジャーなJASRACについて解説しましたが、他の著作権管理団体(JRC、イーライセンスなど)もあり、それぞれに規約があるので比較してみることも必要かもしれません(本連載でも比較の記事を取り上げたいと考えています)。もちろんメリットしかない!ということはなく、人によってはデメリットが大きく感じられる場合もあるでしょう。ご自身の活動の仕方を鑑みて、委託するかどうか検討することが大事だと思います。ぜひご参考になさってください。

 

カズワタベ

カズワタベ

大福が好きすぎる。1986年4月長野県松本市生まれ。洗足学園音楽大学在学中よりライブハウス店長、クラブジャズバンドのリーダー/ギタリスト、ウェブサービス運営会社の取締役を歴任し、現在はフリーランスとして「考える・つくる・広める」を事業領域に様々なプロジェクトで暗躍中。並行して、神戸ITフェスティバル、YOAKE、CCサロン等の著作権、コンテンツ・ビジネス関連のイベントで登壇するなど、クリエイターの権利保護、創作文化振興に関わる活動を積極的に行なっている。



水野祐(みずの たすく)

水野祐Photo by Kenshu Shintsubo

弁護士。シティライツ法律事務所代表。アーティスト・クリエイター等を支援する法律家によるNPO “Arts and Law”代表理事。"Creative Commons Japan"、"Fab Commons (FabLab Japan)"、"LiFTONES"などにも所属。NPO法人ドリフターズ・インターナショナル監事。一般社団法人マザー・アーキテクチャア監事。

主にクリエイティブ・IT ・建築不動産分野の法律・契約等のアドバイス・コンサルティング業務に従事しつつ、多様な課外活動を通して、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動を行っている。



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