第10回:レコーディングに参加したミュージシャンにはどんな権利があるの?

音楽著作権ベーシック講座 by カズワタベ/水野祐 イラスト:とくながあきこ 2013/09/12

楽曲を生み出した作曲家や作詞家に「著作権」という権利が発生することは、みなさんご存知ですよね。しかし、実は日本の著作権法では、その他にもいくつかの権利が規定されており、例えばレコーディングやライブに参加した演奏家にも権利が認められていることはご存知でしたでしょうか? 音楽著作権ベーシック講座、記念すべき第10回は演奏家の権利についての相談です。

カズワタベ
今回相談に来てくださったのはスタジオ・ミュージシャンとして活動なさっているギタリストのTさんです。今日はどんなご相談でしょうか?

Tさん
こんにちは! ご紹介いただいたように、僕はスタジオ・ミュージシャンとして活動しています。先日あるライブに参加したんですが、そのライブを録音してた音源がいつの間にかライブ盤としてリリースされていたんです。特に気にしなかったのですが、後々のためにちゃんと調べた方が良いと思ったので相談に伺いました。

カズワタベ
Tさんの立場としてはライブに参加したミュージシャンですよね。著作権に関して彼らはどういう立場になるんでしょうか?

水野
ライブやレコーディングに参加したミュージシャンは、著作権法上「実演家」と呼ばれます。
実演家には、「著作隣接権」という著作権とは別個の権利が認められています。
著作隣接権として認められる実演家の権利としては、演奏をCDやDVD等に録音・録画する場合や放送される場合、インターネット上にアップロードされる場合などに実演家の許諾を必要とする①「許諾権」、商業用レコードの放送・貸与等にかかる②「二次使用料請求権・報酬請求権」、譲渡することができない実演家の人格的権利である③実演家人格権、があります。

カズワタベ
著作隣接権と言うと、いわゆる原盤権(レコード製作者の権利)と同じカテゴリですね。なぜライブやレコーディングに参加したミュージシャンに権利が認められるようになったんでしょうか?

水野
実演家とは、著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、またはその他の方法により演じることや、さらに、これらに類する行為で、著作物を演じてなくても芸能的な性質を有するものを含む、と著作権法上は定義されています。
このような技術を有する実演家は、著作者・著作権者と同様に、文化の発展のために欠かせない、保護すべき存在であるということで、実演家の権利を著作隣接権として保護していると考えられています。

カズワタベ
確かに、素晴らしい曲があってもそれを演奏する人がいなければ文化の発展は起こりませんもんね!
ところで今回Tさんが参加したライブを録音したものが、知らないうちにライブ盤としてリリースされたということなんですが、これはTさんの許可は必要なかったのでしょうか?

水野
先ほど説明したとおり、実演家には、自らの実演をCDに録音する許諾権があるので、ライブ盤を録音するにはTさんの許諾が必要になります。また、許諾を得ないでライブ盤を録音・リリースしている人に対し、差止めや損害賠償を請求することができます

カズワタベ
本来はTさんの許諾が必要なんですね。先ほどは特に気にしないとおっしゃってましたが、ライブ盤のリリース自体は問題ないということですかね?

Tさん
そうですね、事前に聞かれても普通に許諾していたと思いますが、まったく連絡がないのはどうかと思いますね。
ところで、その音源が実はテレビ番組のBGMでも使われているんですが、こちらも何か関係あるんでしょうか?

カズワタベ
先ほどの話だと、放送に使われた場合には二次使用料の請求ができそうですよね。

水野
いえ、実演家による二次使用料の請求は、実演家から録音を許諾を得て実演が録音されている商業用レコードを用いた放送に限られます。今回のTさんのケースでは、そもそも実演家であるTさんの許諾を得ずにレコードが制作されているので、実演家から録音の許諾を得た商業用レコードとは言えず、二次使用料の話にはならないと考えます。
そして、放送に際して許諾を得ていない放送局に対し、Tさんは差止めや損害賠償を請求することが可能です

カズワタベ
そうなると、事後にはなってしまいますが、レコードの制作についての許諾をTさんに取った時点でテレビ放送の方も問題なくなると考えて良いのでしょうか?

水野
難しいところですが、二次使用料請求権はあくまで放送時に録音に関して許諾を得ている商業用レコードに限定していることや、実演家には録音に関する許諾権と放送に関する許諾権が別個に認められている以上、Tさんから事後的に録音に関する許諾を得たとしても、放送について遡って適法になるということはないのではないか、と考えます。つまり、その場合でも、テレビ番組側は別途Tさんから放送に関する許諾を得なければならないでしょう。
そういえば、カズくんは、このあたりの二次使用料の請求について事例があるとかないとか……。

カズワタベ
そうですね、昨年テレビ朝日のニュース番組で楽曲が無断使用されました。ただ、テレビ局とは著作権使用料の支払いについて合意して穏便に終わっています。今回の相談のトピックでもある、実演家の二次使用料の請求は手続きは煩雑でまだ終わってない感じです。

水野
確認ですが、カズくんのケースでは、カズくんは著作権者の1人でもあったし、ギターを演奏している実演家でもあったんですよね? その実演に関してCDに録音する許諾はしていたんですよね?

カズワタベ
うちの場合は自分たちがレコード制作者でもあったので、許諾の必要がなかったんです。

水野
なるほどー。つまり、カズくんのケースは、Tさんのケースと異なり、実演の録音に関して黙示の許諾があったと考えられるケースだったので、二次使用料の請求の問題にもなったということですね。
さっき実演家の二次使用料の請求について「手続が煩雑」って言っていたけど、具体的にどのへんが難しいと思いましたか?

カズワタベ
著作権の使用料のように、テレビ局に直接請求ができれば良かったんですが(※編注:カズワタベさんの事案はJASRAC等の音楽著作権団体への非登録楽曲でした)、実際にはCPRAという団体を通しての請求しか行えないということが後々わかりました。そちらとのやり取りや、委任手続きを取らなくてはならないことなど、個人のミュージシャンとしては非常に手間がかかる印象です

水野
おっしゃるとおり、実演家の二次使用料の請求と分配は、社団法人日本芸能実演家団体協議会(通称「芸団協」)の内部組織である実演家著作隣接権センター(通称、「CPRA(クプラ)」)が文化庁長官の指定を受けて独占的にやっています。つまり、この団体を通してでないと二次使用料の請求はできないんです
二次使用料の額については、どのように言われましたか?

カズワタベ
テレビ局と包括契約を結んで徴収している使用料を、使用状況に応じて分配するとのことでした。詳細な金額であったり、分配方法については聞けてないんですが。

水野
そうなんですね。CPRAは、放送二次使用料の分配について、「商業用レコード二次使用料関係業務規程」と「商業用レコード二次使用料分配規程」によって詳細に決めています。CPRAは二次使用料の徴収分配に関する手数料として10%、さらに将来の請求のためにお金をプールしておく仕組みであるクレーム基金として13%(ただし、これは手数料を差し引いた金額からの13%)を回収しているようです。

カズワタベ
そうなんですね。僕も手が空いたら手続きを再開しようと思っています。
実演家の権利について、他に注意すべき事項はありますか?

水野
実演家の権利については、一般的にはCD等の録音する際に、「レコーディング契約書」などという名称の契約書により、原盤権者や著作権者などに一括譲渡する契約がなされることが多いです。いわゆるスタジオ・ミュージシャンやライブの際のセッション・ミュージシャンはこの形態が非常に多いですね。この場合には、本日解説した権利は行使できません。逆に言うと、このような契約をしていなければ、実演家として権利を持っているということです。

カズワタベ
なるほど。と言うことでちょっと話が広がりすぎましたが、実演家の権利について全体像が見えてきたかと思います。Tさん、疑問は解決しましたか?

Tさん
はい! 今回の件については特に不満には思っていないので、それぞれ許諾を前提に条件を決めて穏便に終わらせようと思います。カズワタベさんの体験も参考にします!

カズワタベ
ぜひそうしてください! それでは今回はこの辺で。

水野
ぼくも失礼します。事務所に帰って、こないだのレコ初ライブもすばらしかったNo.9 Orcherstraの新作『The History of the Day』でも聴きながら仕事します。

カズワタベ
お、僕もチェックしてみます!

演奏をする「実演家」にも権利はある。
枠組みをしっかり把握しよう

ライブやレコーディングに参加したミュージシャンに認められる「実演家の権利」。今回はその全体像について解き明かしていきました。主にレコード製作や放送使用の際の許諾や、二次使用時の使用料の請求などが認められる点、実は知らない方も多かったのではないでしょうか。ミュージシャンのみなさんはぜひ参考にしてください!

カズワタベ

カズワタベ

大福が好きすぎる。1986年4月長野県松本市生まれ。洗足学園音楽大学在学中よりライブハウス店長、クラブジャズバンドのリーダー/ギタリスト、ウェブサービス運営会社の取締役を歴任し、現在はフリーランスとして「考える・つくる・広める」を事業領域に様々なプロジェクトで暗躍中。並行して、神戸ITフェスティバル、YOAKE、CCサロン等の著作権、コンテンツ・ビジネス関連のイベントで登壇するなど、クリエイターの権利保護、創作文化振興に関わる活動を積極的に行なっている。



水野祐(みずの たすく)

水野祐Photo by Kenshu Shintsubo

弁護士。シティライツ法律事務所代表。アーティスト・クリエイター等を支援する法律家によるNPO “Arts and Law”代表理事。"Creative Commons Japan"、"Fab Commons (FabLab Japan)"、"LiFTONES"などにも所属。NPO法人ドリフターズ・インターナショナル監事。一般社団法人マザー・アーキテクチャア監事。

主にクリエイティブ・IT ・建築不動産分野の法律・契約等のアドバイス・コンサルティング業務に従事しつつ、多様な課外活動を通して、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動を行っている。



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