第9回:映像に海外の楽曲を付けてYouTubeにアップするとき気をつけなきゃいけない「シンクロ権」ってなんですか?

音楽著作権ベーシック講座 by カズワタベ/水野祐 イラスト:とくながあきこ 2013/08/15

「シンクロ権」という権利、聞いたことがある方は意外と少ないのではないでしょうか?海外の楽曲を動画と同期させて使用する場合に特に考慮しなくてはならない、少し特殊な権利です。音楽著作権ベーシック講座、第9回はこのシンクロ権について解き明かしていきます。

※2013.8.16追記:シンクロ権の許諾に関して、窓口に関する記載を詳細にしました。またJASRAC管理曲に関して動画投稿サービスにおけるシンクロ権の取り扱いについても追記いたしました。

カズワタベ
音楽著作権ベーシック講座の第9回、相談にいらっしゃったのは映像作家のKさんです。今日はどんなご相談でしょうか?

Kさん
よろしくお願いします。私は映像作家をやっているのですが、今作っているショートフィルムに海外の楽曲を付けてYouTubeで公開しようとしたところ、知人に「シンクロ権」について許諾を得たか指摘されたんです。シンクロ権という言葉を初めて聞いたので、どうしたら良いかわからずご相談に伺いました。

カズワタベ
「シンクロ権」とはあまり耳馴染みのない言葉ですね。具体的にはどういった権利のことを言うんでしょうか?

水野
いわゆる「シンクロ権」というのは、「シンクロナイゼーション・ライツ」の略で、音楽とテレビCM、映画、ビデオ・DVD等の映像を同期させて録音する権利を言います。「映画録音権」などと呼ばれることもあります。たとえば、映画やDVD、テレビCMなどにおいて映像と同期して音楽を録音する場合にシンクロ権が処理が必要になるケースがあります。シンクロ権は、日本の著作権法に直接定めた規定はありませんが、海外ではシンクロ権という独自の権利が認められており、しかも、著作権管理団体に管理を委託せず、音楽出版社などの権利者が権利を保持しているケースが多いので、その許諾が問題になります。

Kさん
映像に音楽を付ける場合に考慮しなくてはいけない権利なんですね。

カズワタベ
日本の著作権法に規定がないと言うことは、日本国内で行う場合には関係ないということではないんですか?

水野
日本の楽曲については、ゲームソフトやテレビCMの場合は別として、シンクロ権が意識されることはあまりありません。理由は、日本の著作権法においては、シンクロ権は「録音権」という複製権の一部に含まれる権利と考えられており、JASRAC等の著作権管理団体が管理する楽曲を利用する人は、使用料規程にしたがって使用料を支払えば、映像と音楽を同期して録音することができるからです(ただし、ゲームソフトへの録音やテレビCMの場合には別です)。もっとも、著作権管理団体の使用料にはシンクロ権の利用に相当する使用料が加味されており、利用者は、意識しないとはいえ、JASRACに対し、シンクロ権相当の使用料を支払っている、という指摘もあります。

カズワタベ
要は、日本ではシンクロ権を特別意識していなくても、著作権の許諾を得る手続の中で自動的にシンクロ権の処理も行われているわけですね。

水野
シンクロ権の問題が浮上してくるのは、特に海外の楽曲を利用する場合です。これは音源をそのまま利用するか、カバーなど自演するかを問わず、処理が必要になってきます。
論理的には、著作権管理団体に管理を委託していない日本の楽曲については、別途シンクロ権に関する許諾が問題になるケースがありえますが、ぼくの経験上では、そういう場合には著作権や著作隣接権についてもブランケットで(包括的に)許諾を得るので、特にシンクロ権がクローズアップされ、問題とされるケースはあまりない印象です。

カズワタベ
整理すると、「映像に音楽を付ける」かつ「海外の楽曲」である場合に特に考慮しなくてはならない権利だと。まさに今回のケースですね。そして、シンクロ権については著作権管理団体が管理していることは少なく、権利者が個別に保持してる場合が多いと。

水野
はい、海外では著作権管理団体がシンクロ権を管理しておらず、音楽出版社などの権利者が保有しているケースが多いです。それに伴い、日本の著作権管理団体も海外の楽曲のシンクロ権については独自に許諾ができないんです。

カズワタベ
シンクロ権を保有しているのは、いわゆる原盤権の保有者と同じ場合が多いのでしょうか? 別々な場合が多いようであれば、それぞれ許諾を得る必要があって大変ですよね。

水野
シンクロ権は音楽の著作権者に認められる権利なので、原則として著作権者の許諾が必要になります。そして、ご指摘のとおり、音源の利用については別途原盤権者などの許諾が必要になってくる場合がありますが、シンクロ権の権利者である著作権者と原盤権者は異なる場合も同一である場合もあり、ケース・バイ・ケースとしか言えないですね

カズワタベ
シンクロ権は著作権者に認められる権利なんですね。ということは、許諾を得ようと思ったときはまず著作権者を探すのが一般的なんでしょうか?

水野
実務的には、シンクロ権の許諾を取る手続は、著作権管理団体が管理している海外楽曲の場合には著作権管理団体が窓口となったり、それ以外の海外楽曲であれば原盤権などの許諾を取る手続と一緒にレコード会社などが窓口となって行われます。シンクロナイズド・フィー(使用料)は、原盤権などの許諾と同様「指値」となります。この金額は、メジャーな曲ほど高くなるなど曲ごとに違ったり、利用時間、利用態様(楽曲がメインの利用か、BGMとしての利用か)や、利用媒体(映画か、DVDか、CMか)などによっても異なってきます。
ぼくが以前担当したケースでは、原盤権の許諾はわりとすぐに出たのですが、シンクロ権の許諾を取るのにすごく時間がかかって、途中何度も日本の楽曲への切り替えをアドバイスしたことがありました。最終的に、メンバーが1人脱退した直後にシンクロ権の許諾が取れたんですが、その脱退したメンバーが許諾を止めていたのか! と訝りましたね(笑)。原盤権の許諾交渉もそうですが、海外との交渉は時間がかかるので、余裕をもって手続を行うよう注意する必要がありますね。

カズワタベ
海外との交渉なんて考えただけでも大変そうです(笑)。
シンクロ権について他に考慮すべき点ってありますか?

水野
今回のご相談のような場合、YouTubeなどの動画共有サービスでは、JASRAC等の著作権管理団体と楽曲の利用に関していわゆる「包括契約」(サービスにおける管理楽曲の利用が著しく多い場合に、毎回利用ごとに許諾を取るのが煩雑になるため、著作権管理団体と管理楽曲を自由に利用できるようにする包括的な利用許諾契約のことをいう。著作権管理団体は、利用態様等に応じて包括的に許諾する条件を定めている)を締結して、ユーザーに自由に楽曲を使ってもらえるようにしています。しかし、海外の楽曲のシンクロ権については、さきほどお話したとおり、著作権管理団体がそもそも管理していないことが多いので、権利者に別途許諾が必要なので注意が必要です。ただし、JASRACに関しては、個人等の投稿者が制作した映像作品については、別途シンクロ権の許諾なく、包括契約の範囲内で自由に使えるようになりました(この場合でも音源を使う場合には著作隣接権の処理は必要)。

カズワタベ
サービス側が包括契約を結んでいる場合、個人が制作した映像を除き、海外の楽曲を動画で使う場合には、注意が必要だということですね!

水野
また、シンクロ権が問題になるようなケースでは、別途アーティストが持っている著作者人格権にも配慮しなければなりません
著作者人格権には、著作者の「意に反する改変」を禁止する同一性保持権という権利があり、また、著作者の名誉・声望を害する態様での利用を禁止する権利があります。シンクロ権が問題になるようなケースでは、映像と同期することによって楽曲がこのような著作者人格権に侵害しないように注意し、場合によっては許諾を得ないといけないケースもあります。

カズワタベ
なるほど、シンクロ権が問題になるケースでは著作者人格権にも注意しろということですね。たしかに環境活動や禁煙活動しているミュージシャンが自動車やタバコのCMで楽曲使われたら困っちゃう場面もありますもんね(笑)。
さてSさん、今回のご相談これで解決したかと思うのですがいかがでしょうか?

Kさん
はい、ちょっと想像以上に許諾を取るハードルがありそうですが、勉強になりました。ありがとうございます!

水野
JASRAC等の著作権管理団体やレコード会社の担当者は、その辺非常に慣れているので丁寧に教えてもらうといいですよ
では、ぼくはダニエル・ラノワのライブを観に、ビルボード東京に行くのでお先に失礼いたします!

カズワタベ
たまには連れてってくださいよー!

動画共有サービスでも、海外楽曲をBGMに使用する場合は
原則としてシンクロ権の許諾が必要

音楽著作権ベーシック講座、第9回はちょっと特殊な「シンクロ権」についてでした。音楽家にとっては、楽曲がどう使われるかは気になるところですから、こういった権利が存在するのも必然的ではないでしょうか。一方で楽曲を使用したい映像作家の方たちは、それが海外楽曲の場合は気をつける必要がありそうです。これはYouTubeなど、著作権管理団体と包括契約を結んでいる動画共有サービスでも同様です。ぜひ参考にしてください!

カズワタベ

カズワタベ

大福が好きすぎる。1986年4月長野県松本市生まれ。洗足学園音楽大学在学中よりライブハウス店長、クラブジャズバンドのリーダー/ギタリスト、ウェブサービス運営会社の取締役を歴任し、現在はフリーランスとして「考える・つくる・広める」を事業領域に様々なプロジェクトで暗躍中。並行して、神戸ITフェスティバル、YOAKE、CCサロン等の著作権、コンテンツ・ビジネス関連のイベントで登壇するなど、クリエイターの権利保護、創作文化振興に関わる活動を積極的に行なっている。



水野祐(みずの たすく)

水野祐Photo by Kenshu Shintsubo

弁護士。シティライツ法律事務所代表。アーティスト・クリエイター等を支援する法律家によるNPO “Arts and Law”代表理事。"Creative Commons Japan"、"Fab Commons (FabLab Japan)"、"LiFTONES"などにも所属。NPO法人ドリフターズ・インターナショナル監事。一般社団法人マザー・アーキテクチャア監事。

主にクリエイティブ・IT ・建築不動産分野の法律・契約等のアドバイス・コンサルティング業務に従事しつつ、多様な課外活動を通して、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動を行っている。



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