第7回:街でフィールド・レコーディングした音を楽曲に利用した。駅のアナウンスや音楽が入っているがこれはNG?

音楽著作権ベーシック講座 by カズワタベ/水野祐 イラスト:とくながあきこ 2013/07/25

最近ではフィールド・レコーディング(野外録音)した音を効果的に楽曲で使用する人も増えています。しかし外で録ると言うことは、流れている音楽などが入り込んでしまうこともよくあることです。こういったとき、そのまま使って問題はないのでしょうか? 音楽著作権ベーシック講座第7回は、そんな疑問についてお答えします。

カズワタベ
音楽著作権ベーシック講座の第7回、相談にいらっしゃったのは現代音楽家として活動されているSさんです。今日はどんなご相談ですか?

Sさん
よろしくお願いします。ご紹介いただいたように、私は現代音楽の作曲家なのですが、自分の楽曲の中で特にフィールド・レコーディング(野外録音)した環境音を使用することが多くあります。この環境音の中で、外で流れていた音楽や、駅のアナウンスの声が入っていることがあるんですが、これらを使用するのは権利的に問題がないのか心配で相談に伺いました。

カズワタベ
ありがとうございます。確かに、最近では現代音楽のみならずポップスでも野外で録音した音を効果的に使ったものが少なくありませんよね。例えば商店街や店舗で録音していたら、そこで流れている音楽が入り込んでしまうこともあり得る話です。こういった場合、権利についてはどう考えればいいのでしょう?

水野
入り込んでしまった音楽に著作権があるか否かが問題になります。著作権がない場合には自由に利用できますし、著作権がある場合には原則としてその著作権者の許諾が必要です。

カズワタベ
思いの外シンプルな話なんですね。
原盤所有者や実演家にも許諾が必要になりますよね?

水野
はい。入り込んだ音楽が録音・編集された音源である場合には、その音源に発生するいわゆる原盤権の権利者や実演家の許諾も必要になります。

カズワタベ
まとめると、入り込んだ音楽が著作物の場合は、著作権や著作隣接権の権利者の許諾を受ける必要があるということですね。

Sさん
ちょっと疑問なんですが、冒頭でお話した駅のアナウンスは著作物にあたるのでしょうか? 音楽ではないので、違うのではと思ったのですが……。

水野
「○番線に、○○行きが到着します。」とかそういう定型句のアナウンスは著作物にあたらないと考えます。この連載でも以前お伝えしたように、ありふれた表現には著作権が発生しないからです。

Sさん
そうですか、よく駅で録音することがあるので安心しました。
あと、街頭演説みたいに、有名な人が話している音が入り込んだ場合も同じですか?

水野
有名・無名に限らず、ある程度の長さをもった人がしゃべった話には著作権が発生する可能性があります。街頭演説については著作権が発生する可能性がありますね。たとえば、いま話題の「DJポリス」の独特の語り口による誘導などの一部は著作権が発生すると考えます(笑)。

カズワタベ
入り込む音に著作権が発生するかに気をつけるという結論ですね。他になにか考慮すべき点はありますか?

水野
はい。実は著作権法っていう法律は毎年のようにちょこちょこ改正が行われているんですが、昨年、本日のご相談に関係する改正がありました。
それは「付随対象著作物(ふずいたいしょうちょさくぶつ)」といって、たまたま背景で流れていた音楽などが録音に入り込んでしまった場合に、その音楽の利用が「軽微」で、かつ、録音の対象として意図していた音から分離することが不可能な場合には、その音楽は「付随対象著作物」として複製したり、翻案したりすることができる、というものです。

カズワタベ
これはちょっと複雑ですね。まず音楽の利用が「軽微」かどうか判断する基準は音量なのか、長さなのか、あとは録音から分離することが不可能かどうかも、何を基準に判断されるのかが気になるところです

水野
んー、おっしゃるとおり、ここの条文の文言は不明確で、最終的には裁判などを通じて裁判所の判断が集まるのを待たざるを得ません。
ただし、条文では「当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」はアウトと書かれているので、最終的には、たまたま録り込まれた音の権利者の利益、つまりその音が市場で販売されている状況や、将来における潜在的販路を阻害するかという観点から判断がなされることになりそうです。

付随対象著作物として認められる例

  • 写真を撮影したところ、本来意図した撮影対象だけでなく、背景に小さくポスターや絵画が写りこむ場合
  • 街角の風景をビデオ収録したところ、本来意図した収録対象だけでなく、ポスター、絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれる場合
  • 絵画が背景に小さく写りこんだ写真を、ブログに掲載する場合
  • ポスター、絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれた映像を、放送やインターネット送信する場合

付随対象著作物として認められない例

  • 本来の撮影対象として、ポスターや絵画を撮影した写真を、ブログに掲載する場合
  • テレビドラマのセットとして、重要なシーンで視聴者に積極的に見せる意図をもって絵画を設置し、これをビデオ収録した映像を、放送やインターネット送信する場合
  • 漫画のキャラクターの顧客吸引力を利用する態様で、写真の本来の撮影対象に付随して漫画のキャラクターが写り込んでいる写真をステッカー等として販売する場合

―文化庁「いわゆる「写り込み」等に係る規定の整備について」より引用

カズワタベ
これから基準ができていくところなんですね。
ところで今回の件に関係して少し疑問に思ったんですが、そもそもフィールド・レコーディングした音そのものは著作物になるのでしょうか? それを利用して作った音楽は著作物だと思うのですが、フィールド・レコーディングした音自体は「創作的な表現」かどうか怪しいような気がします。

水野
ご指摘のとおり、フィールド・レコーディングっていうのは、ただ街や自然にある音を録音することなので、フィールド・レコーディングした音自体には原則として著作権は発生しません。たとえば、車の排気音を録音しても、それは著作物ではありません。それを録り込んで、自分の楽曲に利用すれば、自分の楽曲の一部として著作権が発生することはあります。
それを取り込んで、自分の音楽のコンポーズに利用すれば、自分の楽曲の一部として著作権が発生することはあります。

カズワタベ
やっぱそうですよね。
さて今回のご相談、おおよそ解決したかと思うのですが、疑問は晴れましたか?

Sさん
はい、理解しました。これからも街でフィールド・レコーディングすることが多いと思うので、録音に入り込んだ音が明らかに著作物の場合は許諾を取るようにします。

カズワタベ
ぜひそうしてください!

水野
それでは、今日はこれにて失礼いたします……。

カズワタベ
あれ、今日はなんか元気ないですね。ライブ行かないんですか?

水野
今日は仕事で事務所に帰らなきゃなんです……。フジロック……。

カズワタベ
たまには働くのもいいんじゃないですかね……。

著作物が入り込んだ場合は要許諾
ただし「付随対象著作物」規定の動きを注視しよう

音楽著作権ベーシック講座、第7回はフィールド・レコーディングに入り込んだ音楽等の権利についての相談でした。その音楽が著作物の場合は著作権、著作隣接権それぞれの権利者の許諾が必要になるという結論です。ただし昨年の法改正で付随対象著作物の利用について規程ができたので、内容によっては、今後は許諾なしに使える場面も出てきそうです。気になる方はぜひ今後の動きをチェックしてください!

カズワタベ

カズワタベ

大福が好きすぎる。1986年4月長野県松本市生まれ。洗足学園音楽大学在学中よりライブハウス店長、クラブジャズバンドのリーダー/ギタリスト、ウェブサービス運営会社の取締役を歴任し、現在はフリーランスとして「考える・つくる・広める」を事業領域に様々なプロジェクトで暗躍中。並行して、神戸ITフェスティバル、YOAKE、CCサロン等の著作権、コンテンツ・ビジネス関連のイベントで登壇するなど、クリエイターの権利保護、創作文化振興に関わる活動を積極的に行なっている。



水野祐(みずの たすく)

水野祐Photo by Kenshu Shintsubo

弁護士。シティライツ法律事務所代表。アーティスト・クリエイター等を支援する法律家によるNPO “Arts and Law”代表理事。"Creative Commons Japan"、"Fab Commons (FabLab Japan)"、"LiFTONES"などにも所属。NPO法人ドリフターズ・インターナショナル監事。一般社団法人マザー・アーキテクチャア監事。

主にクリエイティブ・IT ・建築不動産分野の法律・契約等のアドバイス・コンサルティング業務に従事しつつ、多様な課外活動を通して、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動を行っている。



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