第6回:メジャー・レーベルから所属の打診がきた。所属したら権利は誰のものになるの?

音楽著作権ベーシック講座 by カズワタベ/水野祐 イラスト:とくながあきこ 2013/07/19

ライブハウスで地道に活動していたら、メジャー・レーベル所属のチャンスが舞い込んだ! そんな機会がいつ訪れてもおかしくありません。こういったとき、嬉しい反面「メジャーは権利関係が複雑」なんていう噂もよく聞くし、契約するのが怖く感じたりもします。音楽著作権ベーシック講座、第6回はまさにそんな状況のバンドマンが相談にきました。

カズワタベ
音楽著作権ベーシック講座の第6回、相談にいらっしゃったのはインディーズ・バンドでギタリスト/バンドリーダーとして活動されているTさんです。今日はどんなご相談ですか?

Tさん
よろしくお願いします! 実は今、僕がやっているバンドに、メジャー・レーベルから所属しないか? と打診が来ているんです。
メジャー・デビューを目標に5年ほどインディーズで活動してきたので話が来たときは本当に嬉しかったです! ……ですが、契約にかかわるいろいろな話に頭を悩ませています。今まで意識してこなかったもので……。
特に今回相談したいのは、メジャー・レーベルに所属してから作った曲の権利は誰のものになるのか? ということです
バンド仲間には「メジャー・レーベルは権利関係いろいろ厳しいよ!」と言われてしまったんですが、イメージだけでよく理解していないのでなんか怖くなっちゃって……。

カズワタベ
僕もバンドをやっていた頃に声がかかりそうになって、同じ不安を感じたことがあります。結局所属するかの打診には至らなかったんですが(笑) 。
特に複雑なことなくインディーズで活動しているミュージシャンにとって、メジャー・レーベルの「なんかいろいろ厳しそう」な感じというのは漠然とした不安感があるんですよね
水野さんは実務でミュージシャンとメジャー・レーベルの契約を扱ったことはありますか?

水野
ありますよ。守秘義務の関係で、どこの誰というのはお話しできないのですが。
そもそも最近はメジャー/インディーの区別がつきにくい時代にはなっていると思います。

カズワタベ
確かに「メジャー」の基準って気になりますよね。いわゆる四大レーベル(ユニバーサル、ソニー、EMI、ワーナー)のみを対象とする海外とは少し基準が違うようで、「日本ではメジャー・レーベルとは日本レコード協会に入会している正会員の各社を指す」そうです。これによってエイベックスやトイズファクトリーもメジャー・レーベルとして扱われています。今日はこれを前提に話を進めていきましょう。
まずは著作権についてなのですが、これはメジャーだからとか関係なく、基本的には作曲者/作詞者に発生するものですよね?

水野
はい、そうです。

カズワタベ
Tさんのバンドでは誰が作曲や作詞をしているんですか?

Tさん
僕がどちらもやっています。メンバーは主に演奏ですね。

カズワタベ
では著作権はTさんに発生することになります。これが事前の契約によって他者に渡ることってあるんでしょうか?

水野
あります。著作権は、いわゆる「著作権」と言われる著作財産権と、著作者人格権に分かれますが、著作権については譲渡が可能です。
したがって、事前の契約によって他者に譲渡できます

カズワタベ
事前の契約で譲渡は可能と。ちなみに一般的にメジャーレーベルに所属した場合はどうなるのでしょうか?

水野
ケース・バイ・ケースなのですが、メジャーの場合、よくあるのがミュージシャンが音楽出版社やレーベルなどに著作権を譲渡し、音楽出版社やレーベルがJASRACなどの音楽著作権管理団体に信託するケースです。もっとも、最近では音楽出版社やレーベルなどに著作権を譲渡せずに、ミュージシャンが自ら音楽著作権管理団体に登録するケースも増えている印象です。
いわゆるメジャー・レーベルだとJASRAC等への管理を義務づけているところが多いように思います

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カズワタベ
音楽著作権管理団体への登録が義務づけられるのは、メジャー・デビューすると露出が増えるので、自己管理では使用料の徴収に限界があるからという判断ですよね。メジャー・レーベルに所属していて、管理団体に登録してないという話は僕も聞いたことがありません。
次に著作隣接権はどうなりますか?

水野
録音された音楽に生じるレコード製作者の権利、いわゆる原盤権や実演家の権利などの著作隣接権については、JASRACは管理していません。したがって、それらを持つ音楽出版社やレーベル、ミュージシャンがそれぞれ独自に管理するしかありません。

カズワタベ
こちらについては管理団体は存在しないんですね。実演家の権利は録音の際の演奏者に帰属するとして、原盤権は誰に発生するんでしょうか?

水野
原盤権は、レコードを制作する際にお金を出した人を保護するために、著作権とは別に発生する権利です。したがって、基本的にはレコード制作にお金を出した人に帰属します。レコード会社が持つ場合のほか、ミュージシャンが持つ場合も、双方が共有する場合もありますし、ここに音楽出版社が加わる場合もありますね。メジャーでは、これらの権利の所在に関する契約を、アルバムごとに事前に契約書でまとめます。

カズワタベ
Tさんのバンドはもうレコーディングの話は出ているんですか?

Tさん
はい、まずは1枚ミニアルバムを出す方向で話が進んでいます。

カズワタベ
レコーディングにかかる費用については何か話していますか?

Tさん
今回はバンド側で持ち出しで50万円を用意することになっています。残りはレコード会社の負担ですね。

カズワタベ
レコーディング代をバンド側も負担するということで、原盤権は共有することになりそうです。共有する場合の原盤権の所有する割合は、やはり出した金額に応じて割り振られるのでしょうか?

水野
以前は原盤権はレコード会社が単独で持つケースが多かったですが、ミュージシャンも持つケースが増えてきたように思います。今回のTさんのケースも後者になりそうですね。
共有する場合の原盤権の割合ですが、正確に出した金額で権利の割合を割り振ることもあるようですが、私の経験に限って言えば、ざっくり半々とか1:2とかの割合で持ち合うことが多いように思います。

カズワタベ
意外と細かくないんですね(笑)。ということで著作隣接権については、実演家の権利はレコーディングの際の演奏者に、原盤権はレコーディングの費用を負担した人に帰属するという結論です。他になにか考慮すべき点はありますか?

水野
そうですね。最初の話に戻りますが、最近では、ミュージシャンとレーベルとの間の契約もさまざまで、メジャーでも原盤権についてミュージシャンに100%にしたりなど、メジャーだからこう、インディーだからこう、とは言いにくくなっています。たとえば、自分たちで著作権や原盤権を100%持ちつつも、流通だけメジャーを使うという方法を取っているバンドも実際にあるようです。

カズワタベ
契約形態も多様化しているんですね。人によってレコード会社や事務所とのベストな関係性は違うでしょうから、後悔しないように契約の際はきちんと検討するようにして欲しいです。

水野
契約の形態が流動化しているからこそ、よりミュージシャンはレーベルなどと契約する際には注意が必要になったと言えます。ミュージシャンも契約書をちゃんと読んで、場合によっては専門家などにチェックしてもらってもよいでしょう。相手がなんとなく「早くサインしろ」オーラを出してきたときは、その空気こそ敵だと思って、いったん持ち帰って検討するようにしましょう
契約書はなんとなく遠ざけておきたいもの、というイメージがあるかもしれません。しかし、ビジネスでいざというときに最終的に「盾」として守ってくれるのも、また契約書だったりするので、ミュージシャンにとってもとても大事なものです。

カズワタベ
契約書1枚で、後からやりたいことができなくなってしまったりもします。自分が、もしくはバンドがどんな音楽活動をしていきたいのか考えた上で内容を決めることが大事ですよね。専門家への相談では、弁護士費用が高いのでは? と心配するミュージシャンも多いように思いますが、そのあたりはどうなんでしょうか?

水野
費用は弁護士ごとに違うのでなんとも言えませんが、そんなに心配するほど高くないですよ。また、ぼくの場合には、最初に予算を提示してくれれば、その範囲内でチェックするなど柔軟に対応しています。
また、最近では弁護士会も無料相談会などを設けていますし、ぼくが代表をやっているArts and Lawという、クリエイターを支援するための法律家による非営利組織があり、主にウェブベースで無料で相談を行っているので、こちらを活用していただくのもよいかもしれません(ただし、無料なので回答には制限があることをあらじめご了承ください)。

カズワタベ
それはミュージシャンにとってもありがたい団体ですね! 法律に関するところって誰に聞いたら良いかわからないですし、高額なイメージがあるので後回しにしがちなんですよね……。こういった無料相談を活用するのもひとつの手だと思います。さて、Tさんの疑問は晴れたでしょうか?

Tさん
はい、あちらが提示してきた内容を鵜呑みのせず、権利についてもきちんと考えた上で契約をしようと思います! わからないことがあったら、Arts and Lawさんにもお世話になりたいです!

カズワタベ
それは良かったです!

水野
それでは、ぼくはこれからmouse on marsの渋谷WWWでのライブに急行するので、今日はこれにて!

カズワタベ
ライブ行き過ぎでしょ……。

すべては契約次第!
自分たちの意見をしっかり主張して内容を決めよう

今回の相談はメジャーレーベルに所属した際の権利についての話でしたが、現在では契約形態が多様化していてメジャー/インディーズの区別はあまり関係ないという話も出てきました。メジャー・レーベルでは著作権管理団体への登録を行うことがほとんどだ、という点以外は、契約内容、権利の所在についてはケース・バイ・ケースと言えそうです。
「こうしなきゃいけない」という決まりはありませんので、自分たちがどんな音楽活動をしていきたいのか、きちんと考えた上で契約をするようにしましょう!

カズワタベ

カズワタベ

大福が好きすぎる。1986年4月長野県松本市生まれ。洗足学園音楽大学在学中よりライブハウス店長、クラブジャズバンドのリーダー/ギタリスト、ウェブサービス運営会社の取締役を歴任し、現在はフリーランスとして「考える・つくる・広める」を事業領域に様々なプロジェクトで暗躍中。並行して、神戸ITフェスティバル、YOAKE、CCサロン等の著作権、コンテンツ・ビジネス関連のイベントで登壇するなど、クリエイターの権利保護、創作文化振興に関わる活動を積極的に行なっている。



水野祐(みずの たすく)

水野祐Photo by Kenshu Shintsubo

弁護士。シティライツ法律事務所代表。アーティスト・クリエイター等を支援する法律家によるNPO “Arts and Law”代表理事。"Creative Commons Japan"、"Fab Commons (FabLab Japan)"、"LiFTONES"などにも所属。NPO法人ドリフターズ・インターナショナル監事。一般社団法人マザー・アーキテクチャア監事。

主にクリエイティブ・IT ・建築不動産分野の法律・契約等のアドバイス・コンサルティング業務に従事しつつ、多様な課外活動を通して、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動を行っている。



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