第5回:いろんな曲の音をサンプリングをしてオリジナル曲を作ったけど、誰にも許可は取らなくていいの?

音楽著作権ベーシック講座 by カズワタベ/水野祐 イラスト:とくながあきこ 2013/07/11

ヒップホップを始め、現代の音楽制作において多用されている手法が「サンプリング」です。過去の楽曲のフレーズを使い、新しい楽曲として再構築するこの手法は、現代の音楽シーンにおいてかかせない存在です。一方で人の楽曲を使用するわけですから、なんとなく権利を侵害していないか心配な方も多いのではありませんか? 今回はそんな疑問を持った相談者の方が来てくれました。

カズワタベ
音楽著作権ベーシック講座の第5回、相談にいらっしゃったのはDJでトラックメイカーとして活動されているKさんです。今日はどんなご相談ですか?

Kさん
よろしくお願いします。ご紹介してもらったようにトラックメイカーとして活動をしているんですが、ジャンル柄、楽曲制作の際にサンプリングを多用してます。短ければひとつの音単位で、長いと4小節くらいのベースラインをサンプリングすることもあります
みんな当たり前にやっていたんで、今まで特に許可を取ったことはなかったんですが、最近CMなど少し大きめの仕事も増えてきたので、実際のところどうしたらいいのかなと思って、ご相談に来ました。

カズワタベ
初めに補足しておくと「サンプリング」とは音楽制作の手法で、楽曲の音をフレーズや音単位で切り取って使うことを指します。ヒップホップを始めとするクラブミュージックや、電子音楽等でよく使われる手法ですね。サンプリングを行った楽曲で有名なものとしてマドンナの『Hung Up』などが挙げられます。
サンプリングって法的にはどのような扱いになっているんでしょうか?

水野
サンプリングに関する法律問題を考えるには、まず、「著作権」と「著作隣接権」に分けて検討する必要があります
具体的には、サンプリングをする場合、原則として、元の曲の著作権者(作曲、作詞)と著作権隣接権者(レコード製作者、実演家)の許諾が必要かを検討する必要があります。

カズワタベ
それはつまり曲や歌詞にはそもそも著作権があって、さらにCD等の音源を利用するのできにはレコード製作者や、演奏で参加しているミュージシャン(実演家)の権利が関わってくるということですよね。ちなみにサンプリングは複製(コピー)と翻案(アレンジ)どっちに当たるんですか?

水野
両方ありえます。そのまま使えば複製(コピー)だし、音色を変えたり、BPMを変えたり、エフェクトをかけたりすれば翻案(アレンジ)にあたる可能性があります

カズワタベ
一概にサンプリングと言っても使い方によって法的な扱いは変わってくるんですね。しかしまぁどちらにせよ許可は必要になりそうです。
あと、サンプリングするフレーズの長さは関係ないのかが気になります。例えばドラムの音を一発だけ抜き取って使うなんてこともあるわけですが、これだけでは原曲を判別することは難しいですよね。この場合も著作権は関わってくるんでしょうか?

水野
著作権については、元の曲の創作性のある部分をサンプリングすれば著作権侵害になります。一方で、サンプリングするフレーズが短い場合など、サンプリングした元の曲の部分に創作性がない場合には、著作権侵害は成立しません。それは、その短いフレーズをいくら繰り返しループしても一緒です。
ですから、ドラムの音を一発だけ抜き取っただけでは「著作権侵害は」成立しないでしょうね

Kさん
ワンショットの音は、著作権的には大丈夫なんですね。
ところでこの場合、創作性があるかないかってどうやって判断すればいいんですか? 例えば60年代のファンクの曲のベースラインを4小節サンプリングしたことがあるんですが、あの時代って結構みんな同じようなベース弾いてるんですよ(笑)。

カズワタベ
ファンクのベースラインはある程度定型化していますもんね。さらに付け加えるとすれば、そもそもベースラインのみ取り出した場合に、それは著作権で保護されているかも少し疑問ではあります。

水野
ベースラインはある程度、定型化しているので、著作権で保護されるケースは少ないかもしれませんね。一方で、ジャコパストリアスみたいな複雑なベースもありますし、ベースでメロディを構成する場合もあります。この場合には著作権で保護される可能性もあるので、一概にベースラインは著作権で保護されないという言い方もできないと考えます。

カズワタベ
定型化という意味では、ドラムのパターンも同じことが言えそうです。メロディになることがない分、あちらの方がよりそのケースが多いようにも思えます。

水野
歴代でもっともサンプリングされているミュージシャンはジェームス・ブラウンらしいですね。
このあたりのサンプリングの法的問題を扱った『Copyright Criminals』というドキュメンタリー映画があるんですが、この映画にはジェームス・ブラウンのバックバンドのドラマーであるクライド・スタッブルフィールドさんなどが出演しています。

水野
ちなみにこの映画には、他にもパブリック・エネミーやビースティ・ボーイズ、デ・ラ・ソウルなども出てくるのでぜひ観てみてください。

Kさん
おもしろそうですね~! 観て勉強します!

カズワタベ
ところでサンプリングするとなったら著作権だけでなく、著作隣接権も無視できませんよね。こちらについてはどう考えておけば良いのでしょうか?

水野
著作隣接権については、まずレコード製作者の権利(いわゆる原盤権)について、1秒でもサンプルして利用すれば原盤権侵害であるという考え方と、そうではない考え方とがあり、日本では判例や裁判例もないところです。

カズワタベ
1秒でもですか! それは厳しいですね!

Kさん
実際にそれで使用料を支払ったケースもあるんですか?

水野
アメリカで1秒でもサンプルして利用すれば侵害だ、と判断した裁判例が過去にあったんです(ただし、厳密に言うと、アメリカには著作隣接権という制度がなく、レコード製作者の権利は「サウンド・レコーディングの権利」という著作権の一部として保護され、本裁判例はそのサウンド・レコーディングの権利の侵害に関する判断です)。
実際に1秒だけ使ったケースで、サンプリングしたことがわかってしまうケースはそう多くないと思いますが、アメリカで起こされたたくさんの訴訟を考慮して、日本のレコード会社でも大手は、短い時間でもサンプルする際に原盤権の権利処理(クリアランスとも言います)をしっかり行うのが一般的です。

カズワタベ
著作権よりこちらの方が厳密なのは意外でした。これは実演家の権利についても同様なんですか?

水野
著作隣接権として実演家には実演家の権利というものが認められており、実演家の許諾なしに自らの実演を録音されたり、アップロードされたりしないという権利があるので、サンプリングしたものを他の録音物に利用する場合には、原則として実演家の許諾が必要になります。
もっとも、あまり議論されていませんが、この実演家の権利についても、原盤権と同様に、1秒だけのサンプリングでも侵害になるのか、そうではないのかという原盤権と同様に違った考え方があります。

カズワタベ
議論が深まっていない部分はあるものの、原則として許諾を取っておく方が良さそうですね。
そういえば最近話題のTwitter社がやっている動画共有サービスVineが動画の時間を6秒にしているのが、アメリカの著作権に関する裁判例に関係していると聞いたことがあるんですが、本当ですか?

水野
はっきりしたことは言えませんが、さっきご紹介した1秒でも侵害になるとしたアメリカの裁判例とは別に、ECMレコードから出ているジェームス・ニュートンというジャズ・ミュージシャンのフルート演奏を、ビースティ・ボーイズが「Pass the Mic」という曲でサンプリングして裁判になり、ビースティーズが勝ったケースがあります。このときのサンプリングが6秒間だったんですね。
この裁判例は、決して「6秒ならOK」と言っている判決ではないのですが、この判断を前提にVineというサービスが作られているという噂はあります。

カズワタベ
ビースティー・ボーイズの裁判例の話だったんですね。
ところでサンプリングについて考えるとき、著作隣接権について他に知っておくべきことはありますか?

水野
そもそも、JASRACや他の管理団体が原盤権や実演家の権利といった著作隣接権を管理していないので、原盤権や実演家の権利侵害は権利者が自分たちで見つけて対応しなければならず、サンプリングされてても見つかりにくいという問題もありますね。

カズワタベ
権利者が自分で気づかないといけないという話だと、サンプリングではありませんが、僕も自分の楽曲が無断使用されたときには1年以上気づきませんでしたしね……。その後の対応も素人には骨が折れるものです。特に隣接権のところはまだ解決していませんから(笑)。

水野
隣接権は素人にはなかなかむずかしいですよね。実は、ぼくも少し前に、アメリカのドラマーの音源を日本のトラックメイカーがサンプリングしたという原盤権侵害のケースを担当しました。原盤権等の著作隣接権も事前にクリアランスしておかないと、リリース後で販売中止になる可能性もあるので要注意ですね。

カズワタベ
トラックメイカーの方に対して、他に何かアドバイスはありますか?

水野
そうですね。さきほどもお話したとおり、著作権については、短いフレーズなどの創作性のない部分であればサンプリングは著作権侵害になりません。なので、著作権が発生しない部分をいかにみつけてサンプルするかというところが肝になります。
著作隣接権については、いろいろな考え方があるところですが、チョップしたり、エフェクトをかけたりして、元の曲を識別できなければ著作隣接権の侵害にならないという考え方も一定の支持を得ているところではありますし、そのような方法であれば侵害の立証もむずかしくなるでしょう。
決して違法を助長する趣旨ではありませんが、個人的にはサンプリングも重要な表現手法であると考えているので、表現上必要なサンプリングであれば、サンプリングという手法そのものに対して臆病にはなってほしくないなと思います。
また、著作権や著作隣接権の保護期間が終了しているような古いレコードからのサンプルすることは、そもそも権利が問題にならないのでおすすめです。
さらに、録音物をそのまま利用するサンプリングではなく、いわゆる「別録り」すれば、著作隣接権の問題は生じず、著作権のみの処理で足りるので、サンプリングの利用料を支払う金銭的な余裕がない場合にはよく使われる手法です。

カズワタベ
ありがとうございます!サンプリングにも権利を侵害しないための「さじ加減」が求められそうです。Kさん、疑問は解決しましたか?

Kさん
はい! これからはもう少し慎重にサンプリングして、「大ネタ」を使う場合にはなるべく許諾を取るようにします。

水野
それでは、ぼくはフェルナンド・カブサッキとサイコババのライブを観に渋谷WWWに行くので、今日はこの辺で失礼します!

カズワタベ
毎週ライブ行ってていいなー……。

複数の権利がからむサンプリング
許諾を取るのは基本と考える

今回は「サンプリングにおける権利」がテーマでした。著作権と著作隣接権の両方が関わってくるだけに、少し難しい内容だったかもしれません。それぞれ保護される対象が違うので、頭の中で整理しながら何度か読み返してみましょう。
なんにせよ「サンプリングをするときは、できるだけ許諾を取る」が基本ですよ!

カズワタベ

カズワタベ

大福が好きすぎる。1986年4月長野県松本市生まれ。洗足学園音楽大学在学中よりライブハウス店長、クラブジャズバンドのリーダー/ギタリスト、ウェブサービス運営会社の取締役を歴任し、現在はフリーランスとして「考える・つくる・広める」を事業領域に様々なプロジェクトで暗躍中。並行して、神戸ITフェスティバル、YOAKE、CCサロン等の著作権、コンテンツ・ビジネス関連のイベントで登壇するなど、クリエイターの権利保護、創作文化振興に関わる活動を積極的に行なっている。



水野祐(みずの たすく)

水野祐Photo by Kenshu Shintsubo

弁護士。シティライツ法律事務所代表。アーティスト・クリエイター等を支援する法律家によるNPO “Arts and Law”代表理事。"Creative Commons Japan"、"Fab Commons (FabLab Japan)"、"LiFTONES"などにも所属。NPO法人ドリフターズ・インターナショナル監事。一般社団法人マザー・アーキテクチャア監事。

主にクリエイティブ・IT ・建築不動産分野の法律・契約等のアドバイス・コンサルティング業務に従事しつつ、多様な課外活動を通して、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動を行っている。



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