第4回:音楽を批評するためにブログで音源を「引用」してもいいの?

音楽著作権ベーシック講座 by カズワタベ/水野祐 イラスト:とくながあきこ 2013/07/05

著作権法には「引用」という、一定の条件をクリアすることで、権利者の許諾なく著作物を利用できる制度があります。これによって、例えば小説の書評を行う際に文章の一節を抜き出して示すことなどが可能となるわけです。音楽著作権ベーシック講座、第4回は「音楽の引用は可能なのか」という疑問を解決していきます!

※2013.7.13追記:初出時にJASRACのFAQを紹介しましたが、直近のポリシー/方針の変更があったわけではないとのご指摘をいただき、該当箇所を削除いたしました。

カズワタベ
音楽著作権ベーシック講座の第4回、相談にいらっしゃったのは音楽系ブロガーのFさんです。今日はどんなご相談ですか?

Fさん
よろしくお願いします。私はブログでポップスの新譜のレビューを書いておりまして、主にこれから活躍しそうな新人アーティストのアルバムを紹介しています。現在は文章で紹介しているだけなんですが、実際は音楽を聴きながら読んでもらった方が理想的だなあとずっと思っていました。そこで、いちいち許諾を取らなくても音源をアップすることができる手段はないかと調べてみたら、「引用」という仕組みがあることを知り、これを利用できないかと思いご相談に伺いました。

カズワタベ
おっしゃっている「引用」については、この音楽著作権ベーシック講座の第2回でも少し触れました。あの時はそこまで深く掘らなかったんですが、この引用とは具体的にはどういった仕組みなんでしょうか?

水野
「引用」というのは、著作権法上、一定の条件をクリアした場合には、権利者の許諾なしで著作物の利用が認められている場合のことです。

引用の条文(著作権法 第三十二条)

「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」

水野
一定の条件とは、第2回でも説明した以下のものです(ただし、この条件についてはいろいろな考え方があります)。

「引用」の条件

既に公表されている著作物であること
「公正な慣行」に合致すること
報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること
引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
引用を行う「必然性」があること
「出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)

「引用」「転載」関係/著作権なるほど質問箱(文化庁)より引用

カズワタベ
逆に、この条件を明確にクリアした上で著作物の利用が認められない例外は基本的に存在しないと考えていいんでしょうか?

水野
はい、「引用」の条件をクリアしていれば、著作物の利用が可能になります

カズワタベ
なるほど。ではその上で、今回のFさんの「音楽レビューにおける音源の使用」が引用に該当するのかを考えていければと思います。具体的にはブログで音楽のレビューを書く際に、音源をアップして聴いてもらいながら読んでもらいたいということでよろしいですか?

Fさん
はい、聴いてない曲のレビューを文章だけで読んでも伝わりづらいと思いますし。

カズワタベ
水野さん、今回の相談については内容が明確になってきたかと思うんですが、他に前提として確認しておくべき点はありますか?

水野
整理しなければいけないのは、今回のFさんによるブログでの利用が著作物だけでなく、CD音源等の録音物でもあるという点です。この場合、音楽に発生している「著作権」録音物に発生しているレコード製作者の権利(いわゆる「原盤権」)や実演家の権利などの著作隣接権の両方のことを検討しなければなりません。
そのうえで、著作権法で認められている「引用」の規定は、この原盤権や実演家の権利などの著作隣接権にも適用(厳密には「準用」)されるとされているので、今回の音楽を録音物を使った「引用」も、条件さえクリアすれば適法に認められることになります。

カズワタベ
そっか、録音物を利用する場合は原盤権なども考慮しなくちゃいけないんですね。しかし、これも「引用」に該当すれば問題ないと。その上で今回のFさんの用途、どう考えられるでしょうか?

水野
音楽を引用することも条文上否定されていないので、批評という今回の目的上、必要最低限の利用で、批評部分があくまでメイン(主)で、引用した音楽がサブ(従)という関係にあり、批評部分と引用部分が明瞭に区別され、クレジットもちゃんと表記すれば、音楽の「引用」も認められます

カズワタベ
そうですか! それは非常にポジティブなことだと思います。ところで、ここでは「必要最低限」というところがちょっと分かりづらいですね。例えば曲をレビューするのであればどの程度の利用が必要最低限だと思っておけば良いのでしょうか?

水野
ここは明確な境界線がなく難しいところです。論理的に言えば、その批評にとって必要な範囲での引用しか認められないので、楽曲や歌詞の批評であれば、その批評の対象となっている部分のみということになりますが、現実的にはそこだけを綺麗に切り取ることも難しい場合もあると思いますので、それよりもやや広い範囲では認められると考えます。しかし、なにが「必要最低限」かは最終的には裁判所の判断になってしまう事項です

カズワタベ
この言い方が適切かはわかりませんが「節度を守って」引用することが求められそうですね。
ところで実際にブログに音源を載せようと思ったら、どこかしらにファイルをアップロードをする必要があると思うんですが、ここで注意すべきことなどはありますか?

水野
そうですね。さきほどの「必要最低限」かどうかの話にも関わってくるのですが、たとえば批評の対象となっている楽曲の一部を切り出してmp3としてダウンロードまでできる状態にしてしまうと「必要最低限」とは言いにくいと考えます。面倒ですが、聴かせたい部分だけ切り取ったmp3を自ら用意したmp3プレイヤーを埋め込んだりする方法が考えられます。

カズワタベ
うーん、それは面倒くさいですね…。たとえば、YouTubeやVimeoなどの動画共有サービスの埋め込みを利用する方法はどうでしょうか?

水野
そのような動画共有サービスの埋め込みを利用する方法は、サービス自体がhtmlを公開し、ブログなどに埋め込んでもらうことを推奨しているので、サービスとの関係では適法に問題なくできます。
また、音楽の著作権、録音物の原盤権や実演家の権利等の著作隣接権との関係でも侵害にならない可能性が高いです。その理由は、そのような動画サービスのリンクをembedで埋め込んだとしても、サービス利用者側は自分のサーバーに音楽をコピーしているわけではなく、ただ単にリンクを貼っているのと同じです。また、音楽のアップロードに関しても、アップロードしているのはサービス事業者側であってもサービス利用者側ではありません。ニコニコ動画の事案ですが、最近このような判断をしたと考えられる裁判例(※)も出ています。
法的に説明するとやや難しくなってしまいますが、YouTubeなどの動画共有サービスを利用することは可能であり、その場合には「引用」の条件も関係なく利用できるということです。

※大阪地裁平成25年6月20日判決
※編注:動画共有サービスの埋め込み機能については、埋め込み先のウェブサイトが営利/非営利かによって使用する際の手続きが変わります(参考:ニコニコ動画、YouTubeなどの動画投稿(共有)サイトで音楽を利用することについて(JASRAC))。

カズワタベ
YouTubeなどの既存サービスを使えるというのは、ブロガーのみなさんにとっても朗報ですね!
個人的な印象ですが、実際に音源を掲載したレビューサイトはほとんど見たことないです。これがなぜかと考えてみると、音源の掲載については、なんとなく「やっちゃダメなイメージ」があると思うんですね。しかし今回のメインテーマである「引用」のように、法的には認められている利用形態もあるわけです。また、Fさんがおっしゃるように、文章によるレビューは実際に音源を聴けた方が理解も深まりますし、文化的にも非常に有益なことだと思います。
Fさん、ご相談いただいた件についての疑問は晴れましたか?

Fさん
はい、ダメではないけど、慎重に進めていく必要があるとわかりました。ありがとうございます!

カズワタベ
良かったです! こちらこそ有益なテーマをありがとうございました。

水野
無事解決したようなので、ぼくは細野晴臣さんのコンサートを観に、日比谷公会堂へ行くので、お先にドローンします。

カズワタベ
なんか毎回終わったらライブ行ってるような……。うらやましい……!

楽曲の引用は可能
ただし「必要最小限の利用」になるよう努力を

今回は音楽を批評するために音楽を引用できるのか、音楽の利用が「引用」の条件に該当するのか、がポイントでした。「必要最低限の利用」にするなど何点か気をつけるところはありますが、そこさえクリアすれば問題なく引用として認められそうです。音楽のレビューをしているブログ、メディアのみなさんはぜひ参考にしてください!

カズワタベ

カズワタベ

大福が好きすぎる。1986年4月長野県松本市生まれ。洗足学園音楽大学在学中よりライブハウス店長、クラブジャズバンドのリーダー/ギタリスト、ウェブサービス運営会社の取締役を歴任し、現在はフリーランスとして「考える・つくる・広める」を事業領域に様々なプロジェクトで暗躍中。並行して、神戸ITフェスティバル、YOAKE、CCサロン等の著作権、コンテンツ・ビジネス関連のイベントで登壇するなど、クリエイターの権利保護、創作文化振興に関わる活動を積極的に行なっている。



水野祐(みずの たすく)

水野祐Photo by Kenshu Shintsubo

弁護士。シティライツ法律事務所代表。アーティスト・クリエイター等を支援する法律家によるNPO “Arts and Law”代表理事。"Creative Commons Japan"、"Fab Commons (FabLab Japan)"、"LiFTONES"などにも所属。NPO法人ドリフターズ・インターナショナル監事。一般社団法人マザー・アーキテクチャア監事。

主にクリエイティブ・IT ・建築不動産分野の法律・契約等のアドバイス・コンサルティング業務に従事しつつ、多様な課外活動を通して、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動を行っている。



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