いま絶対に観ておくべき映画『ジェイソン・ベッカー Not Dead Yet 〜不死身の天才ギタリスト〜』

レポート by やまもとげんたろう 2014/11/15

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この夏、日本でも話題となったアイス・バケツ・チャレンジ。いまだ治療法さえ見つかっていない難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の認知・支援のためのチャリティ活動だが、そのパフォーマンス的な側面ばかりが注目されたこともあり、すでにあの活動が何のためのものだったかを忘れてしまっている人も多いだろう。そんな今だからこそ、ひとりでも多くの人に観てもらいたい映画『ジェイソン・ベッカー Not Dead Yet〜不死身の天才ギタリスト〜』が、ようやく日本公開となった。

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▲若き日のジェイソン・ベッカー(左)とマーティ・フリードマン(右)

 

まずジェイソン・ベッカーについて簡単に説明しておくと、速弾き/テクニカル・ギタリスト・ブームが吹き荒れる1987年、弱冠17歳にして、あのマーティ・フリードマンと結成したカコフォニーのギタリストとしてデビュー。『スピード・メタル・シンフォニー』(87年)、『ゴー・オフ!』(88年)をリリースすると共に、88年には自身の初ソロ・アルバム『パーペチュアル・バーン』を発表する。この初ソロ作、特に高度なクラシックの作曲法を取り入れた「エアー」では、卓越した演奏技術のみならず音楽性の高さも証明し、多くのギター・プレイヤー/リスナーに衝撃を与えた。当然音楽シーンでも注目を集め、89年には、スティーヴ・ヴァイの後任としてデイヴィッド・リー・ロス・バンドへの参加が決定。まさに次代のギター・ヒーローとして躍進しようというその時に、ALSを発症してしまう。『ジェイソン・ベッカー Not Dead Yet〜不死身の天才ギタリスト〜』は、そんなジェイソンの過去・現在・未来を描いたドキュメンタリー映画だ。

 

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日本での公開初日となった11月8日、東京新宿のシネマカリテでは、監督のジェシー・ヴィレ、盟友マーティ・フリードマンを招いてのトーク・ショーが上映前に開催された。ヴィレ監督は、12歳の時にギター教室でジェイソンの作品を知って以来の熱烈なファンで、まだ映像製作の術すら知らぬ頃からジェイソンにコンタクトを取り、ジェイソンの足跡を映像化する夢を語り合っていたという。本作も構想10年という執念の作品であり、まずそれが日本でも公開されることの喜びを語っていた。マーティいわく、実はジェイソンに関する映像作品の話はこれまで何度も来ていたそうだが、「お涙ちょうだい的な取り上げられ方をすることで、ジェイソンの挑戦が薄まって伝わることは避けたかった」ため断り続けていたと語る。本作にマーティのみならず、ジョー・サトリアーニやスティーヴ・ヴァイを始めとするギタリスト達が参加しているのは、ヴィレ監督の真摯な思いはもちろん、マーティが言う「ギタリストなら感じる、ポイントを見逃していない」からだろう。また、ヴィレ監督よりジェイソンからのメッセージも紹介されたが、過去2回の日本公演が彼にとっていかに素晴らしい思い出となっているかが伝わってくるものだった。

 

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日本との繋がりと言えば、マーティも「僕が都はるみさんの曲をギターで弾いていたら、ジェイソンも“そのメロディは面白いね”と言って、2人で一緒にコピーしたことがあるんだよ」と、意外なエピソードを紹介する。ジェイソンの音楽的包容力・探求心を表す逸話ではないだろうか。
さて本作について。映画は、ジェイソンの幼少期からギターとの出会い、めきめきと腕を上げ、デビュー、ALSの発症、闘病生活と、時系列に沿って進んでいく。中でも圧巻なのは、やはり演奏シーン。特に15歳の時に作曲したという「エレクトリック・ドリーム」や、ヨーヨーを操りながら片手で演奏するシーンなどは、ついつい目も耳も引き込まれる。校内ライヴでの副校長とのやりとりなど、爆笑シーンも注目だ。

 

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一方で、ALSを発症後の、あえて明るく振る舞う様や、彼の怒り、絶望、焦燥などは、前半とのコントラストもあり、観ている者の心に暗く重くのしかかってくる。だからこそ、それでも消せなかったジェイソンの音楽への情熱や、家族の献身には、こちらの心も救われたような思いだ。そう、本作は、ジェイソン・ベッカーという不屈の音楽家の物語であると共に、ベッカー家と支援者の戦いの物語でもあるのだ。特に、ジェイソンの音楽制作をサポートし、また唯一動かせる眼球の動きからコミュニケーションを取るボードを制作した父ゲイリーとの関係は、愛や絆といった言葉では表せないぐらい特別な何かを感じさせる(とあるシーンの父子のやりとりは、爆笑かつグッとくるものだ)。この関係性が、ジェイソンが難病を患ったから生まれたものではないことは、前半に語られるジェイソンの幼少期、彼を育んだ家族の絆を観れば納得してもらえるだろう。

 

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ALS発症後、父ゲイリーがアートワークを手がけ、マイケル・リー・ファーキンスなどの手を借りて制作されたジェイソンの2ndソロ・アルバム『パースペクティヴ』(95年)。身体の自由を奪われながらも、心に浮かんだ“情景”を映し出したこの作品でハイライトとなっているのは、「エンド・オブ・ザ・ビギニング」という大曲だ。そう、あくまでも幕を降ろしたのは“ギタリスト”という始まりに過ぎず、音楽家としてのジェイソンはこれからも第二第三の幕を開き続けるだろう。通常3〜5年で命を落とすというALSに罹患しながら、“Not Yet Dead!”なのは、まだ彼が生み出さなくてはいけない音楽があるからだ。

 

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最後に、本作を観ればわかる通り、ALS患者のサポートは経済的にも大きな負担を強いるものだ。誰もがジェイソンと同じ境遇を得られるわけではないだろう。本作を観れば、アイス・バケツ・チャレンジではまだ顔が見えなかったALSという病の実態が、ジェイソン・ベッカーという人物を通して具体的に感じられるかもしれない。その意味でも、ひとりでも多くの人に観てもらいたい映画だ。

 

 

『ジェイソン・ベッカー Not Dead Yet 〜不死身の天才ギタリスト〜』

http://notdeadyet.jp/

新宿シネマカリテ他全国公開中

 

 

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