おつかい6:復刻CDショップで見つけた機関車ジャケット

いしいのおつかいミュージック by いしいこうた 2013/09/25

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バンコクのショッピングモール内で見かけた、古くさいジャケットのCDが並ぶ「แม่ไม้เพลงไทย(メーマイプレンタイ)」というお店。どうやら、タイ国内で昔にリリースされた歌謡曲の名盤を復刻し、販売しているお店のようです。

「แม่ไม้(メーマイ)古式の
เพลง(プレーン)歌
ไทย(タイ)タイの」

 

合わせて読んで「タイの古い歌」という店名の通り、タイの古くからある歌謡様式「ルークトゥン」の楽曲を収録したCDがぎっしりと並んでいます。
その多くは、50〜80年代にリリースされたレコードを復刻したもの。音だけでなくジャケットデザインもリリース当時そのままに再現していて、レコードを小さくしたような見た目です。味のあるイラストジャケットが多く、店頭を眺めているだけで楽しい気分になれます。

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ケータイショップが多く入っているショッピングモール「マーブンクロンセンター」、通称「MBK」の一階に位置する店舗でいくつかテキトーに購入したうち、最も突っ込みどころの多かったジャケットがこちら。値段は210バーツ(およそ670円 -2013年9月現在)でした。

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ヘタウマタッチで描かれた蒸気機関車。まるで卒業式の集合写真で、欠席した生徒が収められるような円の枠内で引きつった笑顔を浮かべながら手を振る男性。その左肩から覗かせる鹿の頭部のような物体。この鹿のせいで機関車に乗り遅れたから、目が笑っていないのでしょう。

トラックリストとそれをGoogle翻訳にかけたものは以下の通り。

  • アーティスト名:ชัยชนะ บุญนะโชติ(チャイチャナ・ブンナチョート)
  • アルバム名:ล่องใต้(南に行く)
  • 復刻元レコードリリース年:1978年
  1. บใจนางเหมือนทางรถ(私は車のように彼女を愛しています)
  2. ล่องใต้(南に行く)
  3. ดอกฟ้าแดนอุดร(女性問題)
  4. ดอกดินถวิลฟ้า(ノスタルジックブルークロッカス)
  5. พ่อแง่แม่งอน(私が知っている感じる)
  6. นาล่ม(クラッシュで)
  7. นาแล้ง(乾季で)
  8. นาดี(ナディーン)
  9. ลูกสาวชาวนา(農家の娘)
  10. รักแรกพบ(一目ぼれ)
  11. มิตรร่วมหมอน(パートナー枕)
  12. ฆ่าพี่เสียเถิด(兄弟殺し遅い)
  13. ใจน้อยจริงน้อง(私は本当に微妙)
  14. กระท่อมระทม(コテージ悲しむ)
  15. อยากมีแฟน(私はガールフレンドを持っている)
  16. ลูกเขยผู้กว้างขวาง(広範な法律)
  17. เกาะสมุย(サムイ島)
  18. หิวจะตายอยู่แล้ว(死に飢え)
  19. แหล่ทำบุญสร้างวัด(こんにちは私が建てた)
  20. แหล่อวยพร(挨拶、ありがとうございます)

アルバム名から察するに、この汽車は「南」へと向かっているようです。曲名に「乾季」や「コテージ」、リゾート地として有名な「サムイ島」なんて文字を見受けるあたり、このアルバムのアーティスト、チャイチャナはきっと夏のバケーションをビーチで優雅に過ごすつもりだったにちがいありません。それを鹿に邪魔されて、腹の底は煮えくり返っていることでしょう。心無しか鹿がぐったりしているように見えるのは、袋だたきにされた後なのかもしれませんね。

さらに曲名をひとつひとつ追っていくと、物語が見え隠れしてきます。
1曲目「私は車のように彼女を愛しています」、3曲目「女性問題」と何やらこじらせた男女関係を想起させます。その後、9曲目から3曲続けて「農家の娘」「一目惚れ」「パートナー枕」と、一目惚れした農家の娘とのロマンスを演じたと思いきや、12曲目「兄弟殺し遅い」、13曲目「私は本当に微妙」、一気に不穏な空気が流れてきました。そこから16曲目「広範な法律」、18曲目「死に飢え」なんて意味深な曲名を挟みつつ緩やかに展開していき、20曲目「挨拶、ありがとうございます」でこのアルバムはフィナーレを迎えます。
曲名を見ただけで昼ドラのようなドロドロとした物語を思い起こさせる、チャイチャナのストーリーテリングの手腕が光っています。例のごとくタイ語が分からないので、実際に歌っている内容はどうか知りませんが。

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テキトーなことを書くのはここまでにしておいて、実際に楽曲を聴いてみましょう。
どの曲もトラック自体はほとんど4拍子のパーカッションと笛の音色のみで派手さはないのですが、チャイチャナの中性的にも感じる独特の歌声が一度聞くと耳から離れません。
とくに聞いていて新鮮だったのが5曲目「私が知っている感じる」でした。管楽器のファンファーレのようなイントロを除き、ほぼ手拍子とパーカッションのみの単純なビートにのせて女性歌手と掛け合いで歌っている楽曲です。ゆるいテンポに合わせて韻を踏んで歌っていくスタイルと、女性歌手のコブシを効かせた母音の歌い方が、なんとなくレゲエと沖縄民謡を足して割ったような雰囲気に感じました。

タイ王国文化省文化振興局が1985年以後、毎年タイ国内の著名な芸術家を認定し、授与している「タイ王国国家芸術家」にチャイチャナは1998年に選ばれました。日本で言うところの「文化庁メディア芸術祭受賞」といったところでしょうか。
そんな、国からもお墨付きを受けているチャイチャナが歌っている映像がネット上で見つかりました。

http://www.dailymotion.com/video/x2p3ml_ย-มแป-น-ช-ยชนะ-บ-ญนะโชต_music

キャプションを読むと、1991年にタイ文化センターの劇場で歌ったときの様子のようです。演劇作品のなかで劇中歌を歌う役割だったのか、それともコンサートのバック・ダンサーならぬ、バックお芝居がついていたのか詳細は分かりませんが、歌っている後ろで小芝居が演じられているのはおもしろい光景です。

復刻CDショップ、メーマイプレンタイで販売されているCDはレコードから採録した音そのままのようで、全体的にノイズ混じり。音質はお世辞にもいいとは言えませんが、味があります。ジャケットについては冒頭に書いた通りレコードリリース時のデザインそのままなのですが、CD盤面も合わせてレコードのようなデザインになっていて、手が込んでいます。
音楽好きの人に、ちょっと変わったタイ土産として買っていくと喜ばれるかもしれませんね

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今回の参考資料

いしいこうた

いしいこうた

1988年生まれ。編集者。Webマガジンの編集などを経て2013年3月より意味もなくバンコクへ引っ越す。編著書に『GIF BOOK』(BNN新社)など。環ROY『ワンダフル』MVには5秒間タイっぽい映像を混ぜておきました。



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