6:have a go at flying from music part 3

音楽からとんでみる/蓮沼執太 by 蓮沼執太 2012/02/17

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2011年12月10日から2012年1月15日まで東京都現代美術館で開催されていた僕の展覧会《have a go at flying from music part3》も無事に終了した。
6000人を超える来場者に展示空間に入ってもらえたこと、1月7日に美術館の講堂で行った蓮沼執太フィル・公開リハーサルも盛況に終わり、色々な気持ちがいり混ざっているが、とりあえず安堵の心持ちでいる。
今回のコラムは展示空間で配布していたハンドアウト資料から学芸員さんからのキーワードに対して僕が答えた文章の抜粋である。
これは作品解説というよりも、この作品制作時の思考の方向がわかればいいな、と思う。

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ブルームバーグ・パヴィリオン・プロジェクト 第2弾
have a go at flying from music part 3
音楽からとんでみる3

2011/12/10 sat ~ 2012/1/15 sun

楽を素材として扱い、音楽のあり方についての問いを投げかけるとともに、それらを通したコミュニケーションの新しい可能性を示唆し、世界の層の豊かさを知れるような価値観を提案し続ける蓮沼執太。わたしたちが生きるこの世界で起こるあらゆる事象すべてを音楽的視点として捉え、本展では、「映像による作曲」を試み、パヴィリオン内に差し込む陽の光や、三角形というパヴィリオンが持つ空間の特性を有機的に取り込みながら3つの映像と音楽でパヴィリオン空間に現前させます。

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「キーワード」から探る「蓮沼執太」

ルーツ

–ご自身の音楽的なルーツはなんですか?

聞いたところによると、小さいころから歌うことが大好きだったそうです。幼児期の歌う行為というのは発声行為の延長でもあり、意識的に音を身体の外へ出し、それを自分の耳で聴く。つまり自分が最初のリスナーになるということです。この歌うこと(=聴くこと)への好奇心が強かったことは、音楽的ルーツのひとつかもしれませんね。

タイトル

–CDやライブイベントに付けるタイトルは、いつもユニークだと感じています。
「タイトル」についてどのような意識をお持ちですか?

「タイトル」というのは記号であったり、その作品の方向性を判断する大切なキーワードでもあるので、僕はいつでもオリジナルで在りえるような名前を考えています。人生で最初の「タイトル」というのは、両親から授かった名前だと思っています。僕は1983年9月11日に「蓮沼執太|はすぬま・しゅうた」というタイトルを頂いたわけですが、これがなかなか同姓同名に出会わないものです。そして、今展《have a go at flying from music|音楽からとんでみる》は、僕にとってライフワークにしたいプロジェクトのひとつですね。

CD・ライブ・イベント

–蓮沼さんの表現活動は基本「音楽」ですが、その見せ方はCD、ライブ、イベントから成ると思います。それぞれの自分の立ち位置や表現としての違いはありますか?

アウトプットされる表現(「CD・ライブ・イベント」)に対して意識的な扱いの違いは持っていません。器用に使い分けていきたいものですが、偶然あるチャンスが訪れて、自分に何が出来るのかな?を常に考えて、実践していくことの繰り返しです。

僕は演奏家という自覚がまったくありません。アルバム作品制作がキャリアの始まりだったこともあるのかもしれません。それ以来、光栄にも作曲する機会を多くいただき、アンサンブル、オーケストラを編成し、公演をするチャンスもありました。それでも、自分が演奏家という意識は未だにないのです。しかし、ここにネガティヴな意味合いは含んでいません。

こんにちにおける「音楽」の在り方は、CDをはじめとする複製可能なメディアであったり、ライヴ・パフォーマンスでの演奏公演、他表現への演出としての聴覚的な介入であったり、もっともっと多種多様です。さらにここ日本でも「音楽」を表現するためのインフラストラクチャーがとても丁寧に整っています。つまり誰でも「音楽」に携わることが出来る環境にあります。たくさんの機会に出会えることは、とても素晴らしいことだと思います。「音楽」の方法は、まだまだ在るといいですね。

「場/空間」

–表現活動のアウトプットの一端を担う「場」や「空間」に対する考えをお聞かせください。

たとえば、実際に生演奏で音楽をパフォーマンスする際、まずはその演奏している音や演奏している身体をどのようにオーディエンスに聴いてもらうか、観てもらうか、という点を深く考えます。音楽公演の場合、そのほとんどが会場を移動しながらの公演です。つまり毎回同じ環境(ステージ)で音を出力したり、身体を使って演奏出来るわけではありません。常に違う環境下での公演を強いられます。なので、僕はコンサートホールならばコンサートホールの、ライヴハウスならばライヴハウスの、クラブならばクラブの、その環境に自分が適しているであろう表現の可能性を探って、演奏のボリュームや編成を制作し、組織します。
それは作品展示でも同じ考えです。
今回の展示では、屋外に建設されたスペースということもあったので、この環境に対してもっと大きな解釈が可能な余地を見つけたいなぁ、と思いました。平田晃久さんの設計図を美術館からいただいて、それらの資料を参考にし、展示空間の環境をイメージし、整理していきました。僕が思ったパヴィリオンの特徴的要素は、たくさんの想像が膨らみそうな天井空間と作品展示のスペースになる形が《三角形》だったことです。つまりcube ではなくtriangular prism でした。当然、日中は自然光も入ってきます。雨が降れば雨音も響き渡ります。僕はこれらすべてを肯定的に捉える視野を持った展示方法を考えました。なので、「場/空間」について考える最初の一歩は、環境を受け入れることかもしれないですね。

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コラボレーション

–舞台やCM、映画など他分野との「コラボレーション」も盛んですが、こうした他分野とのコラボレーションするにあたって意識していることや、自分に課している事など教えてください。

「コラボレーション」において自分の意識を定めたり、自分に課していることは全くありません。幸運なことに他分野との関わりは多くあります。ただし共同制作においては、他分野の「他」というフレームを自分ではあまり考えていないと思います。どこで「他」という壁を起てたらいいのかが、先ずわかっていません。「僕の仕事はこれをキチンとして、君はこれだけしてくれればいい。」というような分業の考えは無く、せっかく同じ時間と環境の中で共同制作が出来るのだから、もっと有機的に、一緒になって、普段の自分たちから食み出して、作業をしていきたい、と単純に思っています。そこに快きアマチュアリズムも生まれたりします。もちろん表現には必ずジャンルは存在しています。「コラボレーション」という意味合いをジャンル横断の方法として捉えられることが多いのですが、これは近しいようで全く違うものです。僕には「ジャンルを横断する」という意識や行為はありません。この考えはとても大切にしています。
「コラボレーション」という意味では、もっと身近に大きな発見があります。たとえば、自分の公演やアルバム作品の発表という事柄だけでも、それは大なり小なり人間同士の恊働だと思っています。公演の舞台監督、音響、照明、広報など、多くの人が関わります。またアルバム作品を発表するのにも、音盤を作り上げる音楽家、職人、デザイナー、リリースさせていただくレーベル、その流通や実際に販売してくれるお店のスタッフなど。これだけでも多くのコラボレーションが存在しています。何となくですが「あらゆる行為が人間を繋いで関係していく」という意識が大前提にある気がしています。

フィールド・レコーディング

–最後に、学生の頃からやっているという「フィールド・レコーディング」について、始めたきっかけを教えてください。
また、自分の音楽つくりの素材としてこうした環境音を使用することについての考えをお聞かせください。

そもそも僕は観察するのが好きです。
有名な話で、フランスの現代音楽の作曲家・Pierre Henri Marie Schaeffer がミュージック・コンクレートという音楽の発想を生みました。1959年に作曲家・武満徹が自身のエッセイでシェフェールと同時期の1948年に「地下鉄の狭い車内で、調律された楽音のなかに騒音をもちこむことを着想した」(※) という一節があります。ここでの騒音は、現代に生きる僕の解釈では、ノイズ、電子音、環境音、そして沈黙、など多くのマテリアルがそれらです。
僕にとっての、ここで武満さんが仰っていた騒音という「音」は、もしかすると僕が生まれた時から騒音としては認識されないようになっているのかもしれません。つまり器楽音も環境音もノイズも電子音も沈黙もすべて「音楽」として捉えることが出来るような、大きい解釈を最初からしていたような気がします。これは観察好きなことが理由なのかもしれません。
「フィールド・レコーディング」というキーワードへの返答でいうならば、いま生きている世界の中で起こりえる出来事には、たくさんのリズムやレイヤーや法則や物理現象があります。それらをマイクとキャメラで録音・撮影して収め、自分の感覚で作曲・編集をしていきます。その世界の動きを直感的に反応して、自分がキャメラとなりマイクとなる動物的運動神経がとても僕らしいと思っています。

※ 武満徹「ぼくの方法」《三田文學》49巻9号 (1959)

ブルームバーグ・パヴィリオン・プロジェクト第2弾
have a go at flying from music part 3 蓮沼執太 展覧会場ハンドアウトより転載
インタビュー・構成 郷泰典(同展企画担当、東京都現代美術館学芸員)

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蓮沼執太

蓮沼執太 1983年東京都生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科研究生修了。音楽作品のリリース、蓮沼執太フィル/チームを組織して国内外でのコンサート公演、コミッションワーク、他ジャンルとのコラボレーションを多数制作する。音楽祭『ミュージック・トゥデイ』を企画・構成をする。主な個展に『音楽からとんでみる3|have a go at flying from music part 3』(2011年 ブルームバーグ・パヴィリオン|東京都現代美術館)、『音的|soundlike』(2013年 アサヒ・アートスクエア)。舞台作品に『TIME』(2012年 神奈川芸術劇場、国立新美術館)、音楽アルバムに4枚組CD『CC OO|シーシーウー』(2012年 HEADZ / UNKNOWNMIX)。 http://www.shutahasunuma.com/

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