Music Discovery=その時にマッチする曲を見つけることが音楽産業発展につながる―Spotify日本代表取締役 ハネス・グレー

ネットと音楽、いまとこれから by ドミニク・チェン 2013/12/10

今回はSpotify日本代表取締役のハネス・グレーさんにインタビューを行いました。ハネスさんとは、昨年末に恵比寿で行われた一般社団法人ミュージック・クリエイターズ・エージェント(MCA)の永田純さんが主催したイベント「YOAKE」でお会いし、Spotifyの日本での立ち上げを準備されていると聞いていたので、今回は日本での活動も含めて、音楽ストリーミング配信サービスとしての考えを伺ってみました。

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Spotifyは、スウェーデンで2008年に生まれたネット上の音楽ストリーミング/配信サービスです。ユーザーは月額制または広告が表示される無料のサービスを選択でき、クラウド経由で楽曲を聴いたり、専用アプリ内にキャッシュを保存することでオフラインでも聴いたりすることができます。現在は欧米を中心とした32か国に2,400万人のユーザーを擁しています。

Q. まずハネスさんの簡単な自己紹介と、日本のSpotifyでの役割について教えてください。

ハネス 私は日本のSpotifyチームの代表を務めています。もともと起業家だったのですが、2年半前にSpotifyに入社し、会社が創業してから半分ぐらいの時間をSpotifyで過ごしています。
スウェーデンの小さいスタートアップとして開始してから、世界中で2,400万人のMAU(月次の利用ユーザー数)をかかえるグローバル・サービスへと、かなり急速に成長してきましたね。

Q.Spotifyはどのように私たちの日常生活における音楽体験を変えるのでしょう? また、iTunes Radio、Google Play Music Accessなどの競合との違いは何でしょうか。

ハネス テクノロジーは、人々により多くの音楽を聴くことを可能にしています。これは、演奏者や楽器が集まる限られた場所でしか音楽を体験できなかった時からの変革を意味しています。録音された音楽、ウォークマン、カーステレオやスマートフォンなどのイノベーションによって、私たちは今、いつでもどこでも音楽を聴くことができます。常に周囲に音楽を再生するデバイスが存在するようになったので、現在の課題はそれぞれのシチュエーションにおいて適切な楽曲をどのように探し、再生するかということ、つまり「どの曲を再生するか」ということに変化しています。

Spotifyでは日々のすべてのシチュエーションにマッチする楽曲がそれぞれにあると信じています。マッチするというのはつまり、その時々をより良くするような曲です。私たちはテクノロジーを使って、その時にピッタリな曲を探して再生するために活動する「音楽の会社」です。人々と音楽の関係をもっと増やして、より深くしたいと考えています。

日本ではデジタル音楽時代の黎明期が訪れようとしていて、リスナーと音楽制作者のあいだにはまだたくさんの可能性が存在しています。だからこそ私たちのような音楽サービスは他社との競争に集中せずに、どのようにしたら人々がもっと音楽を聴くための手助けができるのか、そのことによって音楽産業全体を成長させられるのかということを目標としています。
この目的を実現するための最良の方法は、誰でも、どんな端末からでもアクセスできる広告ベースのフリーミアム型サービスだと考えています。

Q.ミュージシャンやプロデューサーはSpotifyに楽曲を提供することで、どのような利益を得ることができるのでしょう?

ハネス Spotifyは、音楽をラジオよりもソーシャルかつ効率よくプロモートできる機能です。と同時に、利用者は年間120ドルを支払っているので、通常の楽曲売上と同様にマネタイズできるプラットフォームです。Spotifyはプロモーションとマネタイゼーションの両方をひとつのプラットフォームで行えるわけです

物理的に人に所有されている音楽(レコード、CDなど)と音楽へのアクセス(Spotifyのようなストリーミング)ではケースが異なるでしょう。特に日本では、音楽を聴くためだけではない理由でCDが購入されています。ですので音楽ストリーミングは、他の収益化の方法に上乗せした、新しい収入源として確立されようとしています。

さらに、“音楽の発見”を支援することで、あらゆる収益方法をサポートしています。たとえば、Spotifyで楽曲を見つけ、CDを購入して、コンサートに行って、Tシャツを買う、などの経路があります。物理的なツールとデジタルなツールの両方を使って、アーティストはファンとの関係性を最大化できるでしょう

Q. 昨今の著作権の保護強化の動きについてはどのような考えを持っていますか?たとえば、Spotifyは登録アーティストに自分の楽曲をオープン・ライセンス(クリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスなどで)することを許容していますか?

ハネス 著作権の動向についてはコメントを控えさせていただきます。

Spotifyは完全にライセンスされているサービスで、すべての楽曲はレーベル(またはアグリゲーター)、出版社、そして著作権管理団体とのライセンス同意のもとに提供されています。
私たちはアーティストと直接楽曲についてのライセンス同意を交わしていませんので、私たちのライセンスはレーベル(やアグリゲーター)がアーティストと交わす契約の範囲内で効力を持ちます。すべての楽曲配信を記録してロイヤリティを支払うために、Spotifyで提供される音楽はSpotifyの中でしか再生できないようになっています。
ただし、Spotifyの外部でCCライセンスなどで著作権の一部をオープンにしている楽曲も、権利者との同意が取れていれば、Spotifyで配信することができます。

Q.SpotifyがCGMではなく、配信サービスであることは理解しました。その前提で、マイナー/インディーのアーティストやレーベルがSpotifyに楽曲を登録することについてはどう考えていますか? つまり言い換えると、Spotifyはメジャーな音楽家にフォーカスしているのでしょうか? デジタル時代の期待のひ とつとして、すべての人が創作行為から対価を得られるというものがあると思いますが、どのようにすればより多くの無名なアーティストが認知されるようになる と思いますか?

ハネス Spotifyは数十万(誇張ではなく、数十万です)のレーベルとライセンスを結んでいて、メジャーなジャンルから極端にニッチなインディー・アーティストによる2,000万以上の楽曲のカタログを構成しており、これにより、どんな人にもマッチする楽曲を提供していると考えています。このように大量のインディペンデントな組織やアーティストと契約するために、私たちは配信サービスを提供するアグリゲーターと協業しています。
1人のアーティストがSpotifyに自身の楽曲を提供するためのさまざまな方法を用意していますし、もしどことも契約を結んでいないアーティストであれば私たちが協業している14以上のアグリゲーターから選べます。
CazzetteTom OdellといったアーティストはSpotifyでデビューし、音楽配信サービスのおかげでグローバルで成功を収めました。日本のアーティストであれば、Spotifyに楽曲を提供することで、現時点で32か国に配信することが可能です。

今日、音楽を通して対価を得る方法はひとつではありません。アーティストはさまざまなツールを活用して、自分だけのビジネスモデルを構築することができます。Spotifyは世界中のインディペンデントなアーティストにとっての、そうしたツールのひとつとなっています。

昔は、数少ないミュージシャンが、少ない機会で少数のリスナーとつながりをもつということしかできませんでした。現在は、非常に多くのミュージシャンがさらに多くのリスナーとつながる機会はたくさん存在します。どんな瞬間にもマッチする曲が探せるようになったのです。

Q.CGMやリミックス文化について、どのように考えていますか?
今、無償かつオープンなライセンスで楽曲を配信するネットレーベルが非常に多く活動しており、そこでネットワークされたアーティスト同士で互いの楽曲をリミックスしあっています。たとえばSoundCloudはそのようなプラットフォームとして日本でも多くのミュージシャンによって認知されてきています。日本では特に、ニコニコ動画の周辺でボカロコミュニティが活発です。このような二次創作の事例は日本の文化を象徴する重要な側面だと捉えられていますが、Spotifyはどのように関係するでしょうか?

ハネス Spotifyが擁する2,000万以上の楽曲の中には、たくさんのオリジナル楽曲とリミックス楽曲があります。私たちはパートナー企業からライセンスされた楽曲を提供しており、そのカタログの中にはリミックス楽曲も含まれています。原作者が意図した通りに楽曲が提供されており、リミックス・バージョンは原作者から許可を得て制作されてSpotifyにライセンスされたものが提供されています。

私は個人的にテクノとディープ・ハウスの大ファンですが、このジャンルは豊かなリミックス・コミュニティによって支えられていると思います。Spotifyを通して、有名な楽曲のたくさんのリミックス楽曲が見つけられますから。
もしかしたら、Spotifyでは5つのリミックスしか見つけられず、CGMプラットフォームでは20個見つけることができるかもしれません。ですが、私は同時にSpotifyの5つのリミックスが完全にライセンスされていて、ロイヤリティ配信によって関連した権利者にお金を還元できるということも知っています。

Q.Spotifyを使うと、どのようにすべてのタイミングに適切な楽曲を発見できるのかという点について、もう少し具体的に教えてもらえますか?Spotifyにアクセスできている読者はまだ非常に少ないと思うので。

ハネス Spotifyはすべての瞬間にマッチする音楽を探すためのさまざまなツールを用意しています。ソーシャル・ストリームに流れてくる楽曲を発見することもそうですし、ビッグデータ解析、編集パートナー、インフルエンサーや個別のユーザーのリスニング・パターンなども活用しています。こうしたデータはSpotifyの「ディスカバーフィード」にシームレスに反映されていて、クライアント・アプリケーションの中では多くのタッチポイントになっています。

音楽の発見(Music Discovery)は音楽産業を発展させるための核心的な機会だと捉えています。日本の多くのアーティストとファンの間には非常に深い関係性が存在していますが、それをさらに増やす余地がまだまだ残されていると思います。

Q. Spotifyではどのように音楽をダウンロードできますか?アーティストは自身の楽曲のダウンロードの可否を選択できるのでしょうか?

ハネス Spotifyの楽曲はSpotifyのクライアントアプリケーション(PC、Mac、iOS、Android、Windows Phoneなど)上でしかアクセスできません。また、ほとんどのクライアントで音楽を「ダウンロード」することが可能で、私たちは「オフラインモード」と呼んでいます。オフラインモードでは、ユーザーはインターネット接続がない状況、つまり地下鉄の中でも富士山に登ってる時でも楽曲を聴くことができます。Spotifyの中でしか音楽は再生されないため、海賊版の危険性もありません。このアクセシビリティはSpotifyのすべての楽曲に適用されています。

Q.日本の音楽シーンで一番興味深いと思うことは何ですか?メジャーに限らず、インディーやアンダーグラウンドも含めて。また、日本限定の施策などを考えていますか?

ハネス 特定の特徴だけを挙げるのは難しいですが、日本のアイドル・グループに顕著に見られる、物理フォーマットを使った商流のイノベーションとクリエイティビティはとても興味深いです。CDというものが、アーティストを巡る大きく多様なエンターテイメントの世界を支えるセールスのメカニズムになっていますね。このような創造性とイノベーションがデジタル音楽配信の世界でも起これば、もっと刺激的な状況が生まれるでしょう

可能性は無限ですし、今後数年で日本からクールなエンターテイメントの形がたくさん生まれることを期待しています。

Q. 最後に、今後10年の音楽の未来をどのように描いていますか?技術、文化、経済、どんな観点でもかまいません。例えば、音楽で生活していけるアーティストはどれぐらい増えるでしょうか?

ハネス 音楽はますますユビキタス(いつでも、どこでも、だれでも)になります。テクノロジーはより多くの楽曲がより多くの人に発見される手助けをします。このことによって、より多くの幸せな消費者と、幸せなアーティストが生まれるでしょう。私は近く、音楽シーンにおいてアクセシビリティについてだけではなく、同時にマネタイゼーションの機会に関する新しい流行が巻き起こると思います。今、地下鉄の中でスマホのゲームで遊んだりニュースを読んでいる人たちは、10年もかからないうちに音楽を聴きながら同じことをするようになるでしょう。

―ちなみに、Spotifyの日本でのローンチ時期はいつごろになりますか?

東京オリンピック前にはローンチします ;-)

フリーカルチャーとビジネスの相互活性に期待

SpotifyはCGMというよりは配信のプラットフォームであり、権利を遵守することで制作者に利益をきちんと配分することに注力している姿勢が理解できたと思います。「著作権の強化の動向についてどう思いますか?」という追加質問に対してコメントを得られなかったのは残念でしたが、CGMとの棲み分けについても回答を頂いている通り、正規のストリーミング配信経路を確立することに重きを置く姿勢は、フリーカルチャーの動きとは相反することなく共存できるモデルだと改めて感じました。
その意味では、過去にNapsterに代表されるP2Pネットワークが乱立した後にiPodとiTunesが登場してデジタルの流通経路が確立されたように、草の根のリミックス・コミュニティとSpotifyのようなストリーミング・サービスもゆるやかに相互活性できるのかと思いました。

僕自身、まだSpotifyは利用していませんが、あくまで現在起こっている技術的イノベーションの渦から数多く生まれているミュージシャンにとっての収益化の一つにすぎないという表明には共感しました。まだ若いスタートアップとして、AppleやGoogleといった巨人たちとどのように闘っていけるのか、日本も含めて今後の展開に注目したいと思います。

Spotifyの収益配分を巡っては最近、トム・ヨークやデヴィッド・バーンといったアーティストから不十分だとする反対意見が出ていたり、逆にモビーのように擁護する立場の声も上がっています。今回、そのことについては質問しなかったのは、現段階では誰にも未来予測は不可能だと考えるからです。ストリーミング配信のような新しいビジネスを立ち上げるにあたって、起業家としてはランニングコストを抑えながら収益を最大化することは当然ですし、暴利を貪っていると制作者と利用者が判断すれば廃るだけです。まずはプラットフォームとして成立することが先決ですし、市場が成熟して競争が生まれてくれば、より柔軟で正当な対価が制作者に還元されるようになるでしょう。書籍の出版界において、電子化に伴って著者印税が印刷媒体と比較して増大しているのは同様の現象です。

日本のミュージシャンの方々は、今回のインタビューを読んでどのような感想を持ちましたでしょうか? 筆者のTwitterアカウントなどにフィードバックを頂ければ幸いです。

ハネス・グレー

ハネス・グレー

Spotify日本代表取締役。2011年初頭からSpotifyに参画。日本に拠点を移す前には、ストックホルムとニューヨーク間の事業本部の運営を行ってきた。音楽テクノロジー業界に入る前にはP&Gのグローバル戦略のマネージメントに従事し、またシンガポールで起業家として活動していた。



ドミニク・チェン

ドミニク・チェン

1981年、東京生まれ、フランス国籍。博士(学際情報学)。NPO法人コモンスフィア(旧クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)理事。株式会社ディヴィデュアル共同創業取締役。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)非常勤講師。インターネットにおける自由文化(フリーカルチャー)の構築を目指すクリエイティブ・コモンズの活動を継続しながら、ウェブサービスやスマートフォン用アプリの開発を行っている。著書に『オープン化する創造の時代ー著作権を拡張するクリエイティブ・コモンズの方法論』、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』がある。
Photo: Kenshu Shintsubo, 2013



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