第29回:島崎貴光インタビュー(後編)〜人からの評価を1回入れる勇気は、大事だなって思います

WEB版 職業作曲家への道 by 聞き手:山口哲一 2015/10/14

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名言頻出の、島崎さんインタビューの後編になります。作家的な仕事は全体の3割くらいだという、驚きの仕事術にも要注目でしょう。明日はどっちだ!

クリエイターなら誰でもある、不遇時代・下積み時代。そんな苦しい時に、島崎さんはどのような勉強をしていたのでしょうか? また、事務所のマネージャーから言われた衝撃の言葉とは、どのようなものだったのでしょうか? ピンチの中にあるヒントを見つける感性は、皆さんもぜひ参考にしてください。そして、未来を見据える島崎さんの柔軟な姿勢も、とても示唆的でした。あなたは、2020年に自分が何をしていると思いますか?

なおこのインタビューは、ミューズ音楽院で行なわれている無料セミナーシリーズ“作曲家リレートークvol.11”の模様を再構成したものです(イベント開催日:2015年4月28日)。

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デモの仮歌詞は絶対にきちんと書く

山口 前編に続いて、エポックになった曲を伺っていきましょう。島崎さんには「夜風の仕業」を、挙げていただいています。

島崎 これはAKB48の曲でもあるんですけど、柏木由紀さんの初ソロ曲としてもリリースしていただいた形になります。劇場公演をやるということでコンペがあって、AKBらしい王道の劇場で映える曲が募集されたんですけど、「公演にはしっとりしたバラードも必要なんじゃないかな?」と勝手に考えまして。それで勝手に出したんですよね。もちろん事務所からは、「このコンペだよね?」って言われたんですけど。そうしたら、そういう曲を出している人が少なかったのか分からないですけど、この曲を採用していただきました。

山口 では、コンペに出すデモを作るときにはどんなことに気を付けていますか?

島崎 いつも気を付けているのは、仮歌詞を絶対にきちんと書くということです。そうすると通りやすいということがあって、実践してきて、詞と曲でかなり採用をいただいているんですね。この時は、もちろん秋元康さんが詞を書くことは分かっていましたが、少しでも秋元さんに刺激を与えたいな、と。それによって、ひとりよがりかもしれないけど、「あの島崎ってデモの段階から良いものを作ってくるよな」っていう認識につながっていくんじゃないか。だから詞の採用は無い現場であっても、詞で妥協するというようなことは、絶対に止めた方が良いと考えています。

山口 では、続いてもう1曲。玉置成実「EDEN」ですね。

島崎 玉置成実ちゃんは「Distance」から何曲か担当させていただいていて、ある程度の信頼関係はあったんです。とはいえ、コンペの時に“4分打ちの玉置成実・王道のダンスミュージック”という発注に対して、海外的なダンスミュージックのミディアムを提案したんです。完全に洋楽のテイストを出してみた形です。

山口 これもまた、注文通りではない提案型ですね。

島崎 そうしたら、本人もすごく気に入ってくれて。この曲は詞・曲・アレンジ・コーラスのディレクションまでやっているんですけど、自分の中ではイントロから行進しているイメージが浮かんでいたんです。ライブで行進しているイメージが見えたので、最初から最後までそれを貫いて、コーラスのディレクションまでを行ないました。しかもライブでは、僕のイメージを全く伝えていないにもかかわらず、勝手にそういう振りになっていた(笑)。そういう意味では、雰囲気を作り込んで提案するということができた曲なんじゃないかなと思っています。

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「これ、ホントに出すの?」

山口 この辺で事前アンケートの内容も、ちょっとご紹介しておきましょう。“音楽家を続けていく上で、最も影響を受けた言葉は?”という質問に対するお答えが、“マネージャーに言われた、「これ、ホントに出すの?」という言葉”となっています。

島崎 大さんの“継続はチカラなり”と、この“これ、ホントに出すの?”はいつも頭にチラつく言葉ですね。

山口 “これ、ホントに出すの?”というのは、どういうシチュエーションで言われたのでしょうか?

島崎 スマイルで初めてのコンペに自信満々で出したら、マネージャーさんが浮かない顔をしているんですよ。「どうしてかな?」と思っていたら、この言葉が出てきたんです。こっちは自信があったから、もうさっぱり意味が分かりませんでした。だけど、「この曲は、全然このグループ向けじゃないよ」と。それで事務所のある原宿から渋谷まで落ち込みながら歩いて、渋谷のTSUTAYAでそのグループの音源を借りまくって勉強しました。だから今でも、「これは出しても大丈夫かな?」っていつも思うんです。自分のチェックポイント的にも、大事な言葉になっていますね。

山口 最終的には、自分のことは自分では分からないですからね。

島崎 本当にそうなんです。「自分は分かっている」と確信している人は、過信してしまったり、マニアックな方向に行ってしまって、実は意外と成功していませんから。人からの評価を1回入れる勇気は、大事だなって思います。

山口 でも、そのマネージャーさんは素晴らしいですね。ちゃんとコミュニケーションを取って、意見を言ってくれるわけですから。

島崎 実はメールで送ることもできたんですけど、僕は意図的に毎回、締め切り直前に事務所に音を持って行くようにしていたんです。例えば2時が締め切りだったら、1時半に事務所に行って、マネージャーさんに曲を聴いてもらう。そうすれば、反応が分かるじゃないですか? でも最初の3ヶ月くらいは、全く反応が無いわけです(笑)。聴いていても全くノラないし、足も微動だにしない。興味無さそうにリモコンをいじっていたりして、そういうのを目の前にしていると悔しいし、ヘコみますよね。でも、「この人を絶対にノセてやろう!」と思って勉強もして、4ヶ月後くらいには、ちょっと足が動き出したんです(笑)。それでいつの間にか、僕が曲を出したときは前屈みで聴いてくれるまでになった。これは期待値が上がっているからハードルも上がっているわけですけど、僕は「勝った!」と思いました。そうなると、島崎が出すコンペは、戦えるんじゃないかと事務所にも思ってもらえるようになる。勝手な責任感みたいなものかもしれませんが、そういうこともあると思うんです。

作曲家の作るメロディ、コードワーク

山口 しかし、そのために4ヶ月も通い続けたのは偉いと思います。

島崎 意地でしたね。「ああ、今日も全然ノラなかった……」なんて感じで(笑)。でも、そういう曲は案の定決まらないんです。ただ続ける中で、ちょっとずつ相手の反応も良くなるし、奥にいた別のスタッフが「これ良いですね!」なんて言いに来てくれたりして、変わっていきました。

山口 曲を出すアーティストの研究以外には、どのようなことをされたのですか?

島崎 まずは自分の中にあったメロディ感、音感が作家的ではなかったことを認識しました。どこかで自分を主張したかったり、奇抜な転調を入れてしまったりしていたんです。コード進行や理論的な部分を凝る=アーティスティックと思っていたのかもしれないですね(苦笑)。でも、求められているものを作れなければ、作家にはなれない。そのことを、僕は分かっていなかったんです。そのアーティスト的なプライドを、“これ、ホントに出すの?”という言葉で壊されたので、とにかく作曲家の作るメロディ、コードワークを分析しまくりました。そうすると、明らかにアーティストのものとアプローチが違ったんですね。だから“作家は言われたものを作るのが仕事”“それにこたえていくのが仕事”ということを意識して、作家の人のものを分析して、作家らしいメロを研究していきました。それと同時に、もちろん流行も常にチェックしますし、80年代からのヒット曲、歌謡曲、先生と言われていたような方々の作品もとにかく聴きまくって、時代が生んだ名曲から最新のものまで、30年くらいの振り幅を常に聴いてきました。

山口 30年というのはすごいですね。

島崎 一番良くないのは、いまヒットしている曲を勉強し続けることなんです。そうすると引き出しが無いから、2〜3曲は決まっても、間違い無くその後が続かない。大事なのは、過去を勉強しているかどうかなんです。なんでかと言うと、4年周期で音楽や時代って変わっていくんですね。そしてヒット曲は、必ず過去にヒントがあるんです。いま流行っているのは、実は音楽業界的には2年くらい前から仕掛けをしてきているものなので、今のものを常に追っていてはもう遅いということもあります。でも未来は、まだ分からない。そういったときに、過去に必ずヒントがあるんです。

山口 今のお話はとても大事ですね。アーティストって、いまどきの言葉で言えばB to Cの職業なんですよ。極端なことを言えば、お客さんに受ければ何でも良い。多少非常識でも、大丈夫。でも職業作曲家でコンペに勝つ人は、B to Bのビジネスだから、業界のルールを守らないといけないし、遅刻はできないし、約束を守らないといけない。そういう人しか、必要とされていない。しかもそれは、歌手を輝かせるために、自分の持っているスキルを提供する仕事です。それくらい全然別の職業だから、プロの作曲家を目指す人は、アーティストとは全然違う職業を選んだと思うべきなんです。とはいえ作るのは音楽というものなので、最後の最後、山の頂は一緒かもしれない。でも、そこに行く道筋や登り方、やるべきことは全然違うということだと思います。そういうことに島崎さんが、スマイルに通って、良いマネージャーさんに恵まれることで気付いていったというのは、とても良い話ですね。

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作家的な仕事は全体の3割くらい

山口 では、日本の作曲家に求められるものは何だと思いますか?

島崎 自発的に動くことができる、プレゼンすることができるというのが、作曲家にはめちゃめちゃ大事だと思います。“与えられたものを書かないといけない”という話と矛盾すると思われるかもしれませんが、受けている仕事をこなしているだけでは、その作家は伸びないでしょう。特にこれからの時代は、もう無理です。じゃあ何をするのか? 自発的に動くんです。例えば「劇伴をやりたい」と、自分の希望をマネージャーや周りの人間に言うだけでも大きな違いがあります。何も言わなければ、誰も動いてくれませんからね。自分がやりたいことを、言葉にして伝える。これは、行動の1つなんです。もちろん言ったことでハードルは上がりますが、そうしないと、いつまでも人は“現状維持”や“安定”を選んでしまいますから。

山口 島崎さんご自身が、いろいろやりたいことを周りに伝えることで実現していったわけですよね。

島崎 ここ数年は作家に徹していないので、事務所の中でも異端児ではありますけどね(笑)。作家的な仕事は正直に言って全体の3割くらいで、あとは制作や企画など、幅広い形で仕事をさせていただいています。でもこれは、自分で動いて仕事を取ってきた証拠なんです。やりたいことがめちゃくちゃあったので、12年かけて少しずつ実績を積み上げて、自分のできることを増やしてきました。それで、いろいろできるようになってきたんです。事務所に入っていきなり「あれもやりたい、これもやりたい」と言ったとしたら、それは単にウザい存在でしょう。「実績も無いのに、何を言っているんだ!」で終わりです。だから1つ1つで良いので、実績を増やしていくしか無い。口だけで終わらず、自分で動いていくことがスタート地点なんだと思います。あと常に、僕が新人作家の発掘と育成をして、良いレベルになったら事務所に紹介していく、というのも、僕なりの“事務所への恩返し”でもあります。

山口 今のお話に加えると、僕が主宰している作曲家育成セミナーの“山口ゼミ”では、上級コースの1回目には必ず受講生に1年後と3年後と10年後の目標を書いてもらうんですよ。これは短期、中期、長期ということなんですけど、自分に対する自分の約束なんです。それを書いてみて、一直線上にないとしたら、何か問題がある。もちろん、自分に対する自分の目標なので、気持ちが変わったら自分で変えれば良いんですけど。ただ、短期、中期、長期が矛盾していないかを見るのは、オススメしています。一直線上にないということはムダがあるわけで、音楽で大金持ちになろうというそれなりにハードルが高いことを目指しているのに、ムダがあるのは絶対に良くないですからね。

5年後にはもう作家ではない

山口 今から5年後には東京でオリンピックが開催されますが、そのころ島崎さんはどんな活動をされていると思いますか?

島崎 僕はもう作家という肩書がメインではないと思います。もしオリンピック関連の音楽制作……例えばテレビ局のテーマソング制作なんかをしているとしても、今までのように詞や曲を担当するというよりは、制作でかかわっているアーティストが絡むようなイメージです。そういう裏方というか、1つ引いた立場になりたいかなって思います。

山口 5年後はそんなイメージなんですね。では、5年後の日本の音楽業界はどうなっていると思いますか?

島崎 歌姫と呼ばれるような、きちんと歌える人が栄えている時代になってほしいなと思っています。実はいま、某レコード会社でシンガーソングライターの育成をしていまして、3〜5年後のデビューを目指して5〜6組のアーティストがいるんです。僕も何組か担当していますが、みんな歌は上手いし、詞も書くし、アーティスティックです。今の時代にはそぐわないかもしれないけど、そういう人たちが羽ばたく時代になっていれば良いな、と思っています。

山口 では最後にもう1曲、「WINGS TO FLY」を挙げていただきました。

島崎 これは、アニメ『金色のコルダBlue Sky』の主題歌です。10周年を超えて15周年も近いという長寿アニメ&ゲームなんですけど、僕はこの8年ほど担当させていただいています。クラシックの音楽学校を舞台にした作品なので、今まではポップでクラシカルなものが主題歌になっていたのに、このときは“スポ根風”という発注だったので、とても情熱的な楽曲になっています。最初は賛否両論あったのですが、アニメ自体がスポ根的な世界観になっていたので、ハマりましたという声も多くいただいています。

山口 ありがとうございました。島崎さんはご自身のプレゼンテーションもとても上手なので、皆さんにはその辺もぜひ学んでいただけたらと思います。

島崎 皆さん、パソコンの前で1人で制作をしていることが多いと思います。そんな孤独な作業の合間に、「ああ、島崎があんなことを言ってたな」なんて思いだしていただき、少しでも役に立てたらうれしいですね。

山口 締めのお言葉も模範解答で、お見事です(笑)。

島崎 作家じゃないところでIDを広げていく場合には、こういった感じで自分のIDを広げているんですよね(笑)。でも、もちろん今は仮面をかぶっていますから、皆さんとはこの後の懇親会で直接お話をできたらと思います。

(この項終了)

POSTSCRIPT by 山口哲一

気持ちの良い対談イベントでした。ご本人の予告通り、この後の打上げでは、パブリックには聞けないような業界裏話も炸裂していて、楽しかったのですが、
その中で「最近のディレクターは、作詞作曲家やミュージシャンのクレジットをジャケットに載せるのを面倒がる」という話を聞いて、驚愕しました。

問題もたくさんあるけれど、音楽家をリスペクトするという気持ちを持っているのが、日本の音楽業界の良いところだと思っています。若いディレクターにその美風が伝わっていないとしたら、あらためてもらわないといけません。

間違った風潮がこれ以上広がらないようにブログを書きましたので、読んでみてください。

ミュージシャン・クレジットは、クリエイター・リスペクトへの第一歩だ!

島崎さんは、若手作曲家の育成にも取り組んで入れるので、今後は、さまざまな形で連携していきたいと思っています。

島崎貴光(しまざき・たかみつ)

音楽プロデューサー/作曲家/作詞家/編曲家/ディレクター。

株式会社スマイルカンパニーと専属作家契約を結び、J-POP シーンを中心に、アーティスト、グループ、アイドル、アニメ音楽やゲーム音楽など、幅広い分野で数多くの音楽制作を手掛ける。

2006 年「第48 回日本レコード大賞」において、w-inds.「ブギウギ66」、中ノ森BAND「Fly High」の2作品で「レコード大賞金賞」を2作品同時受賞という快挙を成し遂げる。また2011 年には第47 回日本クラウンヒット賞においてSKE48「青空片想い」(作曲)が「シングルヒット賞」を受賞。同年の8月に発売されたSMAP の20 周年ベスト・アルバム『SMAP AID』にて、「はじまりのうた」(作詞/作曲/編曲/サウンド・プロデュース)が、SMAP 全楽曲を対象としたファン投票にて2位を獲得。ランティスよりメジャー・デビューした女性ソロ・アーティスト「凛」のプロデュース&全楽曲提供も行う。

2004 年に自身が立ち上げた作家育成講座「MJ-Studio」では作詞/作編曲講座を行い、10 年以上にわたって大勢の預かり作家、事務所所属作家、プロ作家を輩出。2014 年より講座名を「MUSiC GARDEN」に変更し、現在も後進の育成にあたっている。そのほか月刊誌「DTM マガジン」にて8年以上にわたり連載記事を執筆し、現在も継続中。またリリック(作詞)アドバイザー、新人アーティスト/アイドルの育成&プロデュース、 原盤制作ディレクターも務め、最近ではゲーム企画やプロデュースまで、多岐に渡る活動を続けている。

山口哲一(やまぐち・のりかず)

(株)バグ・コーポレーション代表取締役

『デジタルコンテンツ白書』(経済産業省監修)編集委員

音楽プロデューサー、コンテンツビジネス・エバンジェリスト。

国際基督教大(ICU)高校卒。早稲田大学在学中から音楽のプロデュースに関わり、中退。1989年、株式会社バグ・コーポレーションを設立。「SION」「村上”ポンタ”秀一」「こだまさおり」のマネージメントや、「東京エスムジカ」「ピストルバルブ」「Sweet Vacation」などの個性的なアーティストを企画しデビューさせる。プロデュースのテーマに、新テクノロジー活用、グローバルな視点、異業種コラボレーションを掲げ、音楽ビジネスを実践している。2010年頃から著作活動を始め、国内外の音楽ビジネス状況の知見を活かし、音楽(コンテンツ)とITに関する提言を続けている。エンタメ系スタートアップを対象としたアワード「START ME UP AWARDS」、ミュージシャンが参加するハッカソンとコーライティングセッションを同時開催する「クリエイターズキャンプ真鶴」をオーガナイズ。超実践型 作曲家育成セミナー「山口ゼミ」で音楽家の育成を、「ニューミドルマン養成講座」では、デジタル時代に対応した音楽ビジネスを担う人材の育成を行っている。2005年から2013年まで一般社団法人日本音楽制作者連盟の理事を、2011年から2012年に公益社団法人日本芸能実演団体協議会(芸団協)の理事を務める。

著書多数、最新刊は、全分野のコンテンツビジネスをIT視点でビジネスパーソンに説く『10人に小さな発見を与えれば1000万人が動き出す。』(ローソンHMVエンタテイメント刊)、『新時代ミュージックビジネス最終講義』(弊社刊)。

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