第24回:田辺晋太郎インタビュー(後編)〜酔っ払った時に感情移入できる歌じゃないと、後世に残っていかない

WEB版 職業作曲家への道 by 聞き手:山口哲一 2014/12/17

インタビュー後編では、オリコン1位を獲った渡辺麻友「ヒカルものたち」の話から始まり、諸先輩からのありがたいお言葉、さらには作曲家としての身の処し方といったところまで話題が及びました。クリエイター志望の方は、必見の内容と言えるでしょう。

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田辺晋太郎(L)、山口哲一(R)のお2人

手がけられたヒット作は、渡辺麻友「ヒカルものたち」と書籍『焼肉の教科書』ということで、田辺さんはあまりにも独特な立ち位置にいる作曲家だと言えるでしょう。しかし音楽だけに興味の対象をしぼらないことは実は、多くの人にとってもロールモデルとなる生き方なのかもしれません。

またスタッフとの関係など、これから音楽の世界に漕ぎ出そうという方々にはとても参考になるはずです。

なおこのインタビューは、ミューズ音楽院で行なわれている無料セミナーシリーズ“作曲家リレートークvol.8”の模様を再構成したものです(イベント開催日:2014年5月18日)。

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活動の期限を決め、ずるずる続けない

山口 前半では、田辺さんにとってエポックになった曲を何曲か挙げていただき、そのエピソードを中心にお話を伺いました。後編は、オリコン1位を獲得した楽曲、渡辺麻友の「ヒカルものたち」のお話から始めましょうか?

田辺 「A Song For You」(パク・ヨンハ)が20代後半の作品で、オリコンのベスト10には入っていたんですよ。それで、30歳までは作家を続けようと思うことができました。ただその後は、30代の間にヒットを出せないようだったら、音楽自体を止めてしまおうと思っていたんです。飯を食えないんだったら、続けないでもいいやっていうことで……。でも、33歳か34歳でまゆゆのコンペに通ったので、これはすごくうれしかったですね。

山口 この曲も、結構小室さん感が入ってますよね。

田辺 コンセプトとしては打ち込み方向で、アレンジは八王子Pさんなんです。でも、僕の文化放送の番組に宇都宮隆さんがゲストで出演してくださったことがあって、オンエアではおっしゃってくださらなかったんですけど(笑)、帰りのクルマの中で「ヒカルものたち」のAメロとBメロはすごくTMっぽいね、なんてほめていただけたみたいで、すごくうれしかったですね。で、ももくろとかEXILEとかも同じタイミングでリリースされたんですけど、無事にこの曲がオリコンの1位を獲得した。これで僕は、40歳まで音楽を続けても良いかな、と思っているんです。

山口 そんなに細かく期限を切っているとは、驚きです。

田辺 リミットは、いつも自分で決めるようにしているんです。ずるずるやっていても、しょうがないですからね。

山口 でも、オリコン1位の曲を書いたわけですから、仕事は増えたでしょう?

田辺 それが驚きなのは、音楽以外の仕事が増えているんですよ(笑)。

山口 それは新しいビジネスモデルですね(笑)。

田辺 作曲をやってますっていうのは、まあ誰でも言えるわけじゃないですか? 僕も警察に職務質問を受けた時に、「仕事は何やってんだ?」「作曲家です」っていうやりとりがあって、本部と連絡を取る時に、「自称作曲家って言ってます」なんて言われたことがありますし(笑)。でも、オリコンで1位を獲りましたということがあると、いわゆる“文化人”になれるみたいですね。でもまあ、自分の中でもこれは1つのステップになったので、あんまり音楽に固執しないで、違うことにも集中していけたらなとは考えています。

1つの道に決めてはもったいない

山口 音楽以外という話で言うと、田辺さんが監修された『焼肉の教科書』はとても売れているそうですね(その後、『焼肉の教科書 THE MOVIE』(DVD)や、『焼肉の教科書 決定版!』(増補版書籍)が発売になっている)。

田辺 音楽であれなんであれ、エキスパートというか、バカになるのは大事なことだと思います。ただ僕は正直、音楽バカにはなりきれないんですよ。本当に音楽が好きで、音楽のことだけをずっとやっているような人には、僕は絶対になれない。だけど、そんな中でも音楽をやっているし、秘かに熱い思いもあります。だからこそ僕はいまだに、「メインの商売は音楽家です」って言っているんですね。とにかく、僕のメインには音楽がある。そう思えたからこそ、それ以外のことにバカまっしぐらで行ける。それで例えば、「肉が好きです」という情報を発信していたら、本を出すことになってしまった。

山口 肉のことだけで1冊の本を書くなんて、すごいことだと思います。

田辺 実はこれは、CHANGING MY LIFEの時に東芝EMIにいたスタッフが、宝島社に転職したから実現した企画なんです。宝島社に行ってしばらくしてから、「そういえば、べっち(田辺さんの愛称)は肉が好きだったよね。今度、ウチからそういう本を出さない?」という話をもらったんですよ。CHANGING MY LIFEでは大した功績は残していないけど、その時に仲良くなった人たちと、10年を経てヒット作を出せたと思うと、感無量ですね。

山口 音楽業界内で再会することはよくあるけど、業界を飛び越えても縁が続いていて、立ち上げたプロジェクトが成功した。人の縁は分からないものですね。

田辺 これから皆さんもいろいろな形で音楽にかかわることだと思いますし、遠回りもいっぱいすると思うんですよ。だけど、遠回りをした道に、実は意外とその先で役立つものが落ちていたりもする。だからムカつく人がいたら、そのムカつく気持ちを自分の反骨精神に入れれば良いし、話が合う人がいたら、ずっと仲良くしていけば良いんです。例えば契約が切れて、アーティストとレーベルスタッフという関係じゃなくなっても、ずっと話をしていれば良い。そうすれば、世の中は何が起こるか分からないですからね。

山口 音楽の世界に限らないのかもしれませんが、人と人とのつながり、信頼関係が一番大切ですからね。

田辺 こういうことを言える作曲家は、少ないと思いますよ。皆さん、真面目にちゃんと音楽だけをやってらっしゃいますから。でも僕は、いろんなことをやってきてしまったので、こういうトークになってしまう(笑)。自分の中で、音楽と音楽以外の両方が回っていないとダメなタイプなんですね。ともあれ、自分の可能性を探るということが大事なんだと思います。人生なんて一度きりなんだから、1つの道に決めてはもったいない。だからいろんな可能性を試してみて、ダメだったら諦めれば良いんですよ。それに音楽なんて、とりあえず作っておけば、何年か経って後から評価されるっていうこともあり得るわけですから。

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1つのオケには2種類のメロディを付ける

山口 では少し話を音楽に戻して(笑)、田辺さんの制作環境を教えていただけますか?

田辺 最近までパソコンが使えなくて、ずっとKORG Tritonだけでデモを作っていたんですよね。Tritonのシーケンサーに打ち込んで、それを4TR MTRに流し込んで、ボーカルとコーラスを入れる。2006〜2007年までは、そういう環境で作っていました。まだギリギリ、それでも大丈夫な時期でした。

山口 その後は、どんどん完成度の高いデモが高いものが求められるようになっていき、対応せざるを得なくなってきた。

田辺 そうですね。それでDAWなんかも導入してはいますけど、やっぱり機材を集めてどうこうっていうエネルギーって、大変だと思うんですよ。だからそこは、機材を持っているヤツと組んで作る方が良いかな、と。

山口 いわゆるコライティングですよね。これは、山口ゼミでも推奨している作曲方法です

田辺 何人かで1曲を作るという作業は、絶対にやった方が良いなと思っています。もちろん、決まった場合の取り分は事前に決めておかないと、ケンカになりますけど(笑)。餅は餅屋で、トラックを作らせたらかっこいいってヤツと、メロディを作らせたら人の心をつかむ忘れられない旋律を作れるヤツがいて、仮詞と仮歌もちゃんとあった方が採用率は上がる。そういう意味では、今は作曲家に求められることが多すぎるんですよ。

山口 それに対抗するためにも、コライティングは有効な手法だと思います。

田辺 それで言うと、良いオケが1つできたら、僕はメロディを2種類は書くようにしています。

山口 同じコード進行で全く違う曲を作る。これは、1人コライトみたいなやり方ですね。

田辺 同時に2曲を書くのはなかなか難しいと思いますけど、3ヶ月くらい置いてから、試してみてほしいですね。そういうふうにすれば、やりやすいと思います。

山口 曲を作ってトラックを頼んで、そのトラックに対して別の曲を作るというのは、すごく良い作戦ですね。

田辺 効率が良いんです。ましてや自分で曲を作ってあるわけだから、そのトラックに対してメロディを乗せ変えても、著作権的には全く問題が無い。ただ、アレンジフィーを事前にきちんと決めておいて、「それでも良いなら俺と組まないか」っていうことで、作っているんです。

尊敬すべき人々との出会い

山口 事前アンケートでの“音楽家として仕事をしていく上で、最も影響を受けた言葉は?”という質問に、寺尾聡さんからの一言を挙げられていたのが印象的でした。

田辺 寺尾聡さんは父の友人で、昔一緒にレコードも出していたんですね。

山口 田辺さんのご両親は田辺靖雄と九重佑三子と、思わず呼び捨てにしてしまうほど有名な歌手と俳優さんです。

田辺 それでご縁があってライブなんかも見せていただいていたんですけど、寺尾さんの歌って、聴いててすごく楽なんですよ。それである時お話を伺ったら、「自分の肩がこるような歌は、良い曲じゃないんだ」と。「聴いている人が肩こらずに聴けるようなものじゃなかったら、人の心に入って行かないよ」とおっしゃられたんです。それを聞いた当時、僕は歌い手を目指して一生懸命力んでいる最中だったので、「確かに自分で自分の歌を聴いてダメだな」って。寺尾さんの一言で自分の限界が分かって、シンガーソングライターではなく、作曲をメインにしていこうという気持ちになれたんです。

山口 歌い手でいきたいという気持ちも、結構強かったんですね。

田辺 そうですね。それで言うと、徳永英明さんの一言も大きかったですね。ちょうどCHANGING MY LIFEが終わるころに事務所の社長とロイヤルホストにいたら、後ろからすごい綺麗なしゃべり声が聞こえてきたんです。それでパって振り返ったら、徳永さんがいらした。こんな機会は無いから、思わず話しかけたんです。「僕は徳永さんが大好きで歌を作ってきました。でもユニットが解散するので、自分が歌を歌おうかどうしようか悩んでいるんです」って。そうしたら徳永さんは一言、「歌なんて勇気だからさ」って。あの声で、あの顔でそんなかっこいいことを言われてしまって、自分としても感動して、歌は1曲だけ配信で出しましたけど、勇気が足りなかったんですね(笑)。

山口 しかし、それは劇的な出会いですね。

田辺 不思議なことに、憧れている人や大事に思っている人には、ちゃんとお会いすることができているんですよね。ウツさんのことはお話しましたけど、同じ番組には木根尚登さんにも出ていただくことができました。しかも、TMを聴くきっかけを作ってくれたラジオ番組をやられていた岸谷五朗さん、寺脇康文さんとも、役者時代にお会いすることができていて。で、最後の最後が小室さんで、2013年に初めてお会いすることができました。それで「あなたを目指して作曲家になって、ようやく1位を獲ることができました。ありがとうございます」ってお伝えしましたら、「うん、何事も1位を獲るって大事だよね」とおっしゃっていただいて。あれはうれしかったですね。

山口 音楽以外もいろいろやられながらも、やはり田辺さんの根っこには音楽があることが、よく分かりました。では最後に、音楽家としての今後の目標を教えてください。

田辺 僕の最終目標としては、酔っ払った時に自分がスナックで歌える歌を作りたいですね。酔っ払った時に感情移入できる歌じゃないと、後世に残っていかないと思うんです。じゃあ後世に残っていかないとはどういうことかと言うと、レコードが売れた時の印税しか入らないということですからね。

山口 確かに作曲家にとっては、ライブやカラオケ、放送等での二次使用が大事になってきます。

田辺 だからサウンドがかっこいいのは当たり前で、その上で、歌詞とメロディが残って、思わず口ずさむイントロのある曲を作っていきたいですね。

(この項終了)

POSTSCRIPT by 山口哲一

田辺晋太郎さんは、田辺靖と九重恵美子の長男で、従兄弟はCorneliusという芸能一家の出自ですけれど、いわゆる“二世”という印象を抱かせない、素敵な人です。

「音楽バカになれない」という言葉を真に受けてないでくださいね。音楽でプロになることの厳しさを分かった上での、彼なりの表現だと思います。音楽を根っこに持った人が多彩に、いろんな分野で活躍することは、音楽シーンを豊かにしてくれることだと僕は思っています。

田辺晋太郎(たなべ・しんたろう)

1978年11月5日生まれ。

音楽家

大学時代にTVドラマ等の俳優業の傍ら音楽活 動を始め、 2001年5月東芝EMIより「Changin’ My Life」のメンバーとしてデビュー。主に作曲、ギター&コーラス、キーボードを担当。計シングル6枚アルバム3枚を発表。3rdシングル 「Myself」 (テレビ東京系アニメ「満月をさがして」エンディングテーマ)は累計5万枚のス マッシュヒットを記録。 その後フリーランスの音楽プロデューサーとしてとして楽曲提供、プロデュース活動を開始。主な楽曲提供者は俳優の城田優、瀬戸康史、声優の神谷浩史、小野 大輔、杉田智和、海外アーティストではパク・ヨンハ、飛輪海(フェイルンハイ)、ヴァネス・ウーなど。

2012年11月21日、国民的人気アイドルグループAKB48の「まゆゆ」こと渡辺麻友3rdソロシングル「ヒカルものたち」の作曲を担当。同楽曲で自身初のオリコン週間ランキング1位を記録する。

MC/ラジオパーソナリティ

2001 年10月から東京MXTV「電リク!!ビートボックス」 の月曜MCを担当。2004年4月より衛星放送WOWOWにて「週刊!音魂ウィークリー チャート」 のメインMCを担当。2006年10月からおよそ2ヶ月間、テレビ埼玉「ごごたま」のメインMCを担当、その後翌年4月から同番組内にてリポートコーナー 「音楽探偵 田辺晋太郎」をおよそ一年に渡り担当。
2012年4月からTOKYO MXにてプロ野球パ・リーグ専門情報番組「パ・リーグ主義!」メインMCを担当。

2012年10月、文化放送にて自身初のAMラジオ生ワイド番組レギュラーパーソナリティとして「田辺晋太郎 あなたへバトンタッチ」がスタート。

その他にもJ-WAVE「HELLO WORLD」、FMヨコハマ「MORNING STEPS」などでパーソナリティを代演

肉マイスター

2013年5月、宝島社より著書「焼肉の教科書」を発売、シリーズ累計14万部のヒットとなる。
その後「肉マイスター」としてテレビ・ラジオの出演、および雑誌の監修や連載などを手がける。

2014年10月、一般社団法人「食のコンシェルジュ協会」を立ち上げ初代代表理事に就任。「焼肉マイスター検定」を行う。

主な監修
・マガジンハウス「TARZAN」肉特集
・マガジンハウス「Hanako FOR MEN」VOL.12肉食紳士・ぴあ「おいしい肉の店」
・大和書房「やっぱり肉料理」
主な連載
・マガジンハウス「TARZAN」Let’s A・M・M CLUB!
・WEBマガジンNeoL「本当にあった旨い店」

肉マイスターとしての主なテレビ、ラジオ出演
・テレビ東京「なないろ日和」
・テレビ朝日「モーニングバード」
・テレビ朝日「坂上忍の成長マン」
・テレビ朝日「おためしかっ!」
・日本テレビ「今夜くらべてみました」
・J-WAVE「渡部建のゴールドラッシュ」
・TOKYO FM「クロノス」「ブルーオーシャン」「シンクロのシティ」「スカイロケットカンパニー」
・JFN「FACE」
・TBSラジオ「OLERA」
・文化放送「くにまるジャパン」「大竹まことゴールデンラジオ!」
・ニッポン放送「垣花正のあなたとハッピー!」

山口哲一(やまぐち・のりかず)

1964 年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』(経産省監修)編集委員。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。 SION、村上“ポンタ”秀一など の実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバ ルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。音楽ビジネスの再構築を目指す「ニューミドルマン養成講座」や、エンタメ系スタートアップ向けアワード「Start Me Up Awards」をオーガナイズするなど、音楽とITの連携について積極的に活動している。

著書に、『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)、『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)などがある。最新刊は、『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていること』(小社刊)。

『プロ直伝! 職業作曲家への道』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『エンジニアが教えるボーカル・エフェクト・テクニック99』の詳細はこちら(リットーミュージック)

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