第20回:nishi-kenインタビュー(後編)〜何を武器にすれば、聴いてくれる人たちの耳をダイソンの掃除機ばりに吸引し続けられるのか

WEB版 職業作曲家への道 by 聞き手:山口哲一 2014/10/23

インタビュー後半では、nishi-kenさんの音楽的バックボーンを振り返りつつ、デモ作りで気を付けていることや、これからのクリエイターに求められることなども、伺っています。

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なぜnishi-kenさんのトラックは、アマチュア時代から突き抜けたクオリティを有していたのか。その秘密を、今回は明らかにしていただきました。やはり根底にあるのは音楽への愛、そして実際に演奏すること。音楽に抜け道が無いのは、キャリア形成のことだけではないようです。また己を知ることの重要性も、力説されていました。ぜひ、参考にしてください。

なおこのインタビューは、ミューズ音楽院で行なわれている無料セミナーシリーズ“作曲家リレートークvol.7”の模様を再構成したものです(イベント開催日:2014年3月23日)。

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最も影響を受けた曲はTMNの「Get Wild」

山口 前半ではnishi-kenさんがかかわられた曲をたくさんご紹介いただきましたが、事前のアンケートによると、最も影響を受けた曲はTM NETWORKの「Get Wild」だということですね。

nishi-ken まさにそうで、この曲がなかったら僕は音楽をやっていないでしょうね。

山口 そこまでですか?

nishi-ken 中1のときにギターを弾こうと思って、友だちの先輩から借りたギターで分からないなりに歌本と1週間くらい格闘してたんですけど(笑)、あるとき友だちの家に遊びに行ったら、友だちのお姉ちゃんがビデオでTM NETWORKを流してたんですよ。それで、釘付けになっちゃって。その衝動がすごすぎて、ギターは返して、バイトしてYAMAHAのEOSを買ったくらいですから。それから曲を作り始めたんですけど、不思議なことに後に宇都宮隆さんのサウンドプロデュースをやらせてもらったり、小室さんのリミックスアルバムに参加させてもらったりして、「あぁ、夢ってかなうんだな」と思ったんですね。

山口 それは良い話ですね。でも地元の金沢にいて、コンペに通るくらいトラックメイキングのセンスが磨かれたというのも、すごいことだと思います。何か意識していたことはありますか?

nishi-ken ひたすらいろんな曲をコピーして打ち込んでました。最初はジャネット・ジャクソンとかブリトニーのトラックが好きになって、一方でハードロックも好きになって、それが混ざっちゃったみたいな感じです。

山口 影響を受けたアーティストを挙げていただいたら、マドンナ、ブリトニー・スピアーズ、ジャネット・ジャクソン、ミシェル・ブランチ、シェリル・グロウ、garbage、NO DOUBT、ケミカル・ブラザーズ、ファット・ボーイ・スリム、レニー・クラヴィッツ、ニルヴァーナ……メジャーどころを並べている感じが、すごいですよね。

nishi-ken 単刀直入に言うと、僕は王道好きなんですよ。音楽的にどんどん入り込んでいくとストイックになっていって、その温度差が実はものすごく音に出てくるんですけど……。王道って、やっぱりポピュラリティを考えて作られているから、その単刀直入な具合が好きなんですかね。行きたいところに行く、みたいな。それにちなんで、こういうラインナップになったのかもしれないです。

女性アーティスト用の仮歌も自分で

山口 では、デモを作るときに心がけていることは何でしょう?

nishi-ken そのアーティストに合わせて、“なんちゃって英語+ここはこういう歌詞にしてほしい+歌のニュアンス”というのを考えて、仮歌も自分で歌うようにしています。歌う人の感じを似せると言いますか……。

山口 それは女性アーティストでも?

nishi-ken そうですね。Cubase内蔵のpitch correctで、フォルマントシフトを+33にすると、どストライクになるんです。

山口 歌詞ありの場合でもご自分で歌われる?

nishi-ken 歌います。まあ、自分が歌うの好き、みたいなところもあるので。

山口 では、ボーカリストとしてもぜひ活動をしてほしいですね。

nishi-ken やりたいとは思っているんですけど、ボーカリストのすごさを知っているので……。僕としてはやっぱり、こういう表現の仕方でボーカリストの方に伝えられたらなっていうところですね。自分が持っている武器として、使えたらいいなって。作った曲に関して言えば、人に聴かせるときに何が武器になるかがものすごく大事だと思うんです。

山口 とてもよく分かります。

nishi-ken それがレコーディングされた声なのか、声じゃないなら音質なのか、音色なのか、コード進行なのか。自分が好きに作ったときに、どこが特化しているかに気づくことが、まずはすごく大事というか。何かしらフックになっているものがあれば、コンペにしろ何にしろ、ついついワンコーラス聴いちゃうっていうことにつながると思うんですよ。そういう意味で、自分にとって何を武器にしておけば、聴いてくれる人たちの耳をダイソンの掃除機ばりに吸引し続けられるのか、みたいな。そういうところは、作曲家を目指す方々には心がけていただきたいなと思いますね。僕自身もすごく心がけていますし、もっともっと「自分の武器ってなんだろうな?」って勉強していますから。

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参加者の質問にこたえるnishi-kenさん

やってて楽しいのが一番の武器

山口 素晴らしいですね。では、この辺でもう1曲ご紹介いただきましょう。SOUL’d OUTの「1,000,000 Monsters Attack -S.Y.nsk Remix-」です。

nishi-ken これは僕がS.OのShinnosukeさんとのライブセッション用にリミックスをした曲なんですけど、既にある曲を自らリアレンジするっていうことも、とても勉強になるのでオススメです。元が存在しているメロディに対して、自分がどういう色づけをできるのかっていうことは、実はものすごい身近にできることだと思うんですよ。ボーカル素材はだれかに歌ってもらっても良いし、自分で歌っても良い。そのボーカルトラックをまっさらなプロジェクトの上に置いたときに、自分はどのような色付けをするのか。そうすると、「あ、俺毎回これやってるな」「毎回この音色使っちゃうな」っていうことに気づいて、それがたぶんその人の個性なんだと思うんです。そういうデモをいっぱい持っておくと、ものすごい武器になると思いますね。

山口 そういう自主リミックス、自主リアレンジは、実際にされてきたのですか?

nishi-ken ええ。かなりやってきましたね。

山口 それはでも、楽しみでもあったんでしょうね。

nishi-ken 「好きこそ物の上手なれ」じゃないですけど、やってて楽しいっていうのが一番の武器なんですよ。曲を作っていても、「ここをどうすればもっと劇的な広がり方をするかな」とか。メロディありきで、コードにおいて自分の持っていきたい方向にコードを変えてみたり、メジャーなんだけどマイナーに変えたりとか、そういう“自分だったらこうなっちゃう”みたいな癖を、まずは付けてほしいですね。

「オールインワンであること。演奏すること」

山口 また事前アンケートの話に戻りますが、「これからの時代の作曲家に求められることはなんだと思いますか?」という質問に対して、「オールインワンであること。演奏すること」と答えられています。これはどういう意味ですか?

nishi-ken オールインワンであることというのは、曲を作る環境がそうさせているんです。これから先は、PCではなくタブレットで作れるような時代になって、ソフト自体がアプリになっていって、曲がもっともっとクラウドに上がっていく。それに対して、誰かの力を借りるというスピード感が、もうもどかしい時代におそらくなってくる。そういう意味で、作るということ、そしてそれをいかに綺麗に表現するかという意味で、オールインワンであってほしいなと思います。

山口 作曲家は1人で完結して、スピーディに曲を作るというイメージですね。

nishi-ken で、もう1つの演奏に関しては、DAWで曲を作る際に、皆さんいろんな音色を持っているとは思うんですよ。でも、「バグパイプのフレーズをバグパイプっぽく弾いて」と言われたときに、それをできるのか。バイオリンでもブラスでも同じですけど、その楽器が一番良く鳴る音域ってあるわけじゃないですか? オーケストレーションにしても、1stと2ndバイオリンがいて、ビオラがいてチェロがいて、その下にコントラがいる。だけど、バンドに入ったときにはコントラが要らなくなったりとか、そういう楽器に対する知識だったり理屈ですよね。そういうことが必要なので、僕も実際にバイオリンを買ったりしているんです。

山口 バイオリンを練習している?

nishi-ken しています。で、自分が好きなラインの持って行き方が、果たして正しいのかを考えたり……。

山口 つまり、生の楽器で弾けないバイオリンのラインは良くないということですか?

nishi-ken 最後までシンセでいくなら問題無いですけど、オーケストレーションになったときに、その譜面で素直に弾いてもらえるかどうかですかね。でもこれはピアノやギターでも同じで、なぜピアノの左手は必要なのか、なぜギターで響かせるテンションが必要なのか、演奏することでそういう点に気づくと、不思議なことにアレンジする際に音数が減っていくんです。その知識が付けば付くほど、出している音に自信を持つということなんでしょうけど。ベテランの人になってくると、ものすごくシンプルな音になっていくのは、やっぱり1つ1つの音に自信があるんですよね。その現れを、本当にプロフェッショナルな音だなって感じたりすると思うんです。

山口 非常にリアルなご意見ですね。

nishi-ken 実際、自分の経験上でもすごい壁にぶつかっているんですよ(笑)。ずっと打ち込み、4つ打ちで育ってきて、ロックバンドに入ったら、「これだけギターで埋められているのに、キーボード要るのかな?」って。でも演奏することでいろいろ気づいていくので、アレンジをする上では演奏することが大事だなと思っています。もう、理屈ではなくて。

山口 興味深いお話ですね。デジタルを極めていったら、最後、楽器そのものの音色を知るために、自分で生演奏するというところに行き着くんですね。

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山口ゼミ副塾長の伊藤涼さんも乱入!

いずれは“完全体セル”になる

山口 では、そろそろ最後の質問です。日本の作曲家やアーティストが世界で認められるのにはどうすればよいと思いますか?

nishi-ken まず、自分のファッションがどこに向いているのかを知ることでしょうね。

山口 ファッションというのは?

nishi-ken 自分がどういう人かを、分かった方が良いと思うんですよね。どういう服が似合うかとか、どういう髪型が似合うかとか、どういうところに行くとテンションが上がるかとか……。それを分かりやすく言えば、ファッションかなって。いろんな発言でも、“誰”が言っているかが結構大事じゃないですか? それと同じで、“この人”が作っている曲みたいなことがあって、そのブランディングって、まずはファッションだと思うし。作る人において、どういう眼鏡、どういう髪型、どういうパンツを履くか。あとは、靴を脱いだら靴下がめっちゃかっこいいとか。そういうところに感覚が向くっていうことは、絶対音楽につながると思うんですよね。

山口 なるほど。確かに、音楽のプロデュースというのは、嗜好の取捨選択の集積ですからね。自分のファッションにも好みを貫いた方が良いと?

nishi-ken 「自分がかっこいいと思うものはこれです」っていうのを貫けば、「いつも奇抜な恰好してるよね」みたいに思われていても、「あのファッションと言えばあいつしか思い浮かばない」ってなって、自分自身のブランディングもできていく。曲を作る人やクリエイターはこれからもっと注目されていくと思うので、そういうブランディングも大事になっていくでしょうね。

山口 セルフブランディングは、確かにとても大事ですよね。ちなみにこれからクリエイターが注目を集めると思われるのは、なぜですか?

nishi-ken これからは、オールインワンだからです。一人ひとりがプロデューサーになるし、今だと作曲家や編曲家っていうくくりがありますけど、いずれは全部を吸収して“完全体セル”(注:ドラゴンボールより)みたいになる(笑)。やっぱり、完全体でありたいですし。そして自分が完全体になるためには、いかに自分のことを知っているかが大事だと思うんですよ。そういう意味で、細かいところに気が付ける人になれば、それがサウンドにも反映されてくるのかなと思います。

山口 オールインワン型のクリエイターが時代を先導するんですね。nishi-kenさんに、先頭を走ってほしいです。

(この項終了)

POSTSCRIPT by 山口哲一

とても刺激的な対談でした。

TM NETWORKをルーツにしている話や、楽器の音色や自分で演奏することにこだわっていることにも説得力ありました。

一人ですべてを作ることができるオールワン時代のクリエイターは、セルフブランディングを大切にしながら、新たな時代を作っていく先導役を担う、ワクワクするお話が聞けて、嬉しかったです。

nishi-ken(にし・けん)

石川県金沢市出身。

GReeeeN、 ケツメイシ、TEMPURA KIDZ、中川翔子、武藤彩未など数多くのアーティストの楽曲提供・サウンドプロデュースを手掛ける他、小室哲哉のリミックスアルバムへの参加や、中田ヤ スタカと共同プロデュースでSCANDALのシングルを手掛けるなど、幅広く活躍している。

2014年全世界公開の映画『アップルシード・アルファ』では国内外アーティストが参加するオリジナルサウンドトラックにアーティストとして参加。活動の幅を世界へと広げている。

山口哲一(やまぐち・のりかず)

1964 年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』(経産省監修)編集委員。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。SION、村上“ポンタ”秀一など の実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバ ルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。音楽ビジネスの再構築を目指す「ニューミドルマン養成講座」や、エンタメ系スタートアップ向けアワード「Start Me Up Awards」をオーガナイズするなど、音楽とITの連携について積極的に活動している。

著書に、『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)、『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)などがある。最新刊は、『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていること』(小社刊)。

『プロ直伝! 職業作曲家への道』の詳細はこちら(リットーミュージック)

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