第18回:鎌田雅人インタビュー(後編)〜1人で作るよりも、みんなの意見を取り込んで作った方が面白い

WEB版 職業作曲家への道 by 聞き手:山口哲一 2014/10/15

前編に続き、鎌田さんのインタビューをお届けします。たんこぶちん、初田悦子、水戸ご当地アイドル(仮)と、さまざまなアーティストの楽曲について、伺うことができました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

鎌田雅人氏(L)、山口哲一氏(R)

インタビュー後半では、編曲の話から『歌スタ!!』、茨城県応援ソングまで、鎌田さんならではの幅広い話題が繰り広げられました。作曲家志望者には、アドバイスもいただいたので、ぜひチェックしてください。

なおこのインタビューは、ミューズ音楽院で行なわれている無料セミナーシリーズ“作曲家リレートークvol.6”の模様を再構成したものです(イベント開催日:2014年2月15日)。

山口ゼミ7期生募集中!

作曲と編曲

山口 「LOVE2000」がいきなり売れたので、鎌田さんは作曲家としては好調なスタートを切ったと言えますよね。高橋尚子さんが、オリンピックで金メダル獲る直前に聴いていた曲だという話題もありましたし。

鎌田 金メダルソングとか書かれちゃったし、この曲は目立ちましたから、そのおかげで結構、曲を書いてくれっていうオーダーが来るようになりました。とはいえ、「LOVE2000」みたいに売れる曲を! と言われても、いろいろな条件が同じなわけではないから、なかなかそううまくはいかないですよね。ただ、そんな感じで活動している内に、今度は編曲まで頼まれるようになるんです。

山口 その辺は尚美で学んでいたし、waterのアレンジもしていたしで、問題は無く。

鎌田 そうですね。実際の制作に携われるのは、うれしかったですよ。で、編曲をやり始めると今度は、人が作曲したものも編曲するようになる。そういう流れがあるんですよね。その一方で、編曲の仕事も始めてしまうと、自分の曲を誰かが編曲してくれる機会は減ってしまって……。それで今は、誰かに編曲してほしいなという気持ちもあったりします。

山口 アレンジと作曲の両方ができると、クリエイターとしてはバランスが良いですよね。

鎌田 収入的にも、作曲だと印税が入るまでは時間がかかるけど、編曲だと1曲いくらの世界だから、仕事としては安定する。それに“人の曲を編曲する”というのは、絶対通る道だと思うんですよ。

山口 では、鎌田さんが最近された編曲仕事を教えていただけますか?

鎌田 “たんこぶちん”っていうガールズバンドと2013年に出会って、プロデュースをするようになったのですが、彼女たちの「ヒカリ」はぜひ聴いてほしいですね。彼女たちが高校1年生の時に自分たちで録ったバージョンがあって、それも素直で良いんですけど、メジャーデビューに当たって僕がアレンジしたバージョンがあるんです。

山口 「ヒカリ」のアレンジは、どういうことを考えてされたのですか?

鎌田 夜空の星を見ながら、あの星みたいになりたいなっていう内容の歌なんです。それでテンポを少し落とした方がのんびりした気分になって、歌詞もよく聴こえるんじゃないかなというのが1つ。あとは、イントロ、A、B、サビが全部Cメジャーで始まっていたので、コードをところどころ変えて、風景が変わるようにしたいなというのがありました。

若いバンドへのアドバイスとしてのアレンジ

山口 オリジナルの歌詞や世界観を、より伝えやすくするためのアレンジということですね。

鎌田 夜空の中で希望を見出すみたいな雰囲気を、なるべく作りたいなと思ってアレンジしています。

山口 ご用意いただいた譜面を見ると、各セクションの始まりのコードは、サビがCadd9、イントロがF△7、AがC、BがAmとなっています。

鎌田 Bメロは日本人が大好きなAm-F-G-Cみたいなコード進行になっていて、一方でAはずっとCでステイしている。

山口 そうすることで、各パートの役割もはっきりするということですね。他に気を付けたことはありますか?

鎌田 例えばBメロだと、なるべくギターの1弦開放のE音と2弦1フレットのC音を引っ張りたいなということで、Am-F△7-F△7/G-Cというコード進行にしてみたり……。ドミナント分のサブドミナントだとすると、Dm7/GかF6/Gが正解だと思いますが、F△7/Gにした方が簡単だしかっこいい。ベースの音だけ変えてやることでルーズさと格好良さが出るので、そういうことも考えたりします。

山口 では、たんこぶちんではギターの指導もされている?

鎌田 高校生からやっていた宅録の延長で、楽器はひと通り弾けるので指導しています。本人たちもすごく練習していて、全部自分たちで演奏しているので、頑張ってますよね。だから、若いバンドにどんなふうにアドバイスしてあげたらいいかなっていうことも考えながらのアレンジ、ということですね。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

「きみのママより」制作秘話

山口 あとは、初田悦子さんのことも伺っておかないと。『歌スタ!!』というオーディション番組で知り合って、プロデュースされたんですよね?

鎌田 最初に彼女が出た時に僕は出演していなくて、リベンジ大会に出た時に初めて見たんです。歌唱力が素晴らしかったので「よろしく」を上げて、曲を書くまでに1年くらいはかかってしまったんですけど、メジャーデビューに向けたプレゼンをしました。めでたくSMEが「よろしく」を上げてくれたんですけど、すごく緊張しましたね(笑)。

山口 作曲家やプロデューサーがオーディションを審査して、気に入った人には「よろしく」を上げて、デビューへの準備をしていく。『歌スタ!!』は面白い番組でしたよね。

鎌田 いろんな作曲家が出ていましたし、局のプロデューサーさんもすごく面白い方でした。で、作曲家は「よろしく」か「ゴメンネ」っていう札を出せるんです。ただし「よろしく」ってやると、そこにものすごい責任が生まれる。

山口 すごいシステムですよね。当時、よく考えたなぁと思いました。

鎌田 しかも自分のリスクでその人を抱えて、曲を書いて送って、デモを録るわけですから(笑)。その上で、最後にレコード会社の人に歌い手さんと2人でプレゼンするわけだから、本当に緊張しますよ。

山口 そうして生まれたのが、「きみのママより」。

鎌田 あの曲はレコード会社からの提案で、バラードだとちょっと弱いから、ママラップにしようということで。「マジ?」って思ったんですけど、もともと1人で作るよりも、みんなの意見を取り込んで作った方が面白いと僕は思ってるから、作ってみました。

山口 でも、ママラップ作戦は成功していますよね。普通だったら、この人にAメロラップ歌わせないですから。

鎌田 成功したと思います。そういう意味では、あまり音楽的じゃない提案をされたとしても、そこには何かヒントがあったりするということでしょうね。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

茨城県の応援ソングも手がける

山口 あとは最近のお仕事として、水戸ご当地アイドル(仮)の楽曲を手がけられているということですが。

鎌田 「いばらき おいしいパラダイス」という曲なんですけど、僕自身が茨城出身で、“なめんなよ♡いばらき県”というのをいまピースの綾部さんや渡辺直美さんと展開していて……。実は茨城県って、人気度、魅力度ランキングが47位なんですよ。

山口 全都道府県でですか?

鎌田 46位が佐賀県で、47位が茨城県。それで、ちょっと茨城を盛り返そうじゃないかっていう県庁の動きがありまして、茨城県出身の作曲家で面白いものを作ってくれないかっていうオーダーがあったんです。で、茨城県って実は農産物がいろいろあって、メロンの生産量はナンバーワンだったりするので、有名なもの、こんなおいしいものもあるよっていうのを紹介する曲として、「いばらき おいしいパラダイス」を作ったんです。

山口 茨城の農産物ばかり?

鎌田 農産物ばかりを52品目入れて、水戸のご当地のアイドルに歌わせようということを企みまして。(仮)までが正式名称なんですけど、ホリプロのU.M.U AWARD 2013を獲っていたりして、今後が楽しみなグループです。

山口 これは、歌詞も鎌田さんですか?

鎌田 歌詞は同じ茨城県出身の大塚利恵さんですね。

山口 あ、そうなんですね。彼女も茨城のご出身だったとは。

鎌田 ええ。コンビを組んで、結構2人で曲を書いているんです。というわけで、音楽とは全く関係が無いところと仕事をすることもありますよ、という例でした。

必要なのは「スピードと打たれ強さ」

山口 今日はいろいろなお話を伺えて楽しかったです。最後に、作曲家を目指す人達にメッセージやアドバイスをいただけますか?

鎌田 20年前のことを思い出すと、僕は音楽学校に通って作曲の勉強をして、うだつの上がらない、将来が不安で不安でしょうがないっていう感じで、ネガティブなことばかりを考えていました。まあ、プロになったからといって不安が消えるわけではないんですけど(笑)。ただ、僕が非常に助かったなと思っているのは、音楽学校の授業で、好きでもない音楽をたくさん聴かされたことですね。例えばフリージャズ。ひところはずっとギル・エヴァンスを聴いていたし、現代音楽も聴かされた。これはシャンソンとかもそうですし、昭和歌謡もそう。そういう古い音楽とか、外国の曲とかから、J-POPを作る場合でもいろいろなヒントをもらえるんです。だから、そういうものをなるだけ取り込んでおく方がよいでしょうね。これは、作曲に限らずアレンジでも同じことですが。

山口 いろいろな音楽を聴くということは、今なら簡単にできるので、ぜひ実践してほしいですね。

鎌田 YouTubeでなんでも聴けるわけですから、ちょっと話題になっているようなものとか、人がいい、好きだって言っているものを積極的に聴いておくことが大事だと思いますね。それで、いま書いている曲がすべて世の中に出ていくというわけではないと思うので、いろいろ実験的なこととか、試してください。あとは友達と一緒に曲を作ることをしていくと、いいと思います。

山口 僕も山口ゼミではコライティングを推奨しているので、その意見には大賛成ですね。ちなみに、事前にアンケートでお聞きした「作曲家でやっていくために必要なことはなんですか?」という質問に対して、「スピードと打たれ強さ」とありましたが。

鎌田 打たれ強い方がいいでしょうね。例えば仕事でアレンジをして、「イメージと違うなー」みたいなことを言われたときに、「俺の音楽性を否定された!」ってなってしまう人は、あんまり向いてないと思うんですよね。「ほうほう、なんでそういうふうに思うんだろう」というところから始めて、「じゃあ、こういうやり方はどうだろう?」って楽しみながらその直しをやることで、自分が明らかに成長するのをかみ締める方がいいですね。その上で、スピードも大事だと思います。

山口 スピードを速くするための秘訣はありますか?

鎌田 例えば、締切が一週間後だったら、僕はだらしない性格なんで、7日目にやるんです(笑)。しかも最近はひどくて、7日目の夜に始めて、朝までにできている、みたいなことをやりがちなんです。

山口 29時までにできればいい、みたいな感覚ですね(笑)。

鎌田 そうそう(笑)。限りなく翌日ですよね。でも最近は、受けた仕事をなるべく速く片付けてしまった方がいいんじゃないかと思い始めています。前は、「一週間後の方が僕は音楽的に成長しているから、そっちの方が結果がいいだろう」なんて言い訳してたんですけど……。いまは、メールがきたからなるべく速く返す。レスポンスの良さを心がけています。

(この項終了)

POSTSCRIPT by 山口哲一

日本テレビ「歌スタ!!」から生まれた楽曲「きみのママより」の制作裏話が、興味深いですね。アーティストやスタッフの多様な意見を受け入れて、作品に落とし込むというのが、経験豊富なサウンドプロデューサーらしいなと思いました。

水戸のご当地アイドルの存在は知りませんでしたが、地元愛が感じられて、素敵でした。

プロの作曲家に必要なのは「打たれ強さ」だというのは同感です。楽曲にポジティブな反応がもらえなかったことは、自分の音楽性の否定と受け捉えずに、別の視点での提案をしていくタフさを持つように「山口ゼミ」でもいつも伝えています。

鎌田雅人(かまた・まさと)

1971年茨城県生まれ。尚美学園作曲科卒業。在学中より日本財団より「笹川作曲賞」などを受賞。卒業後は、ツアーミュージシャンとして、近藤真彦、諸星和己などをサポート。1998年waterのキーボーディストとして東芝EMIよりメジャーデビュー。2000年、hitomiに提供した「LOVE2000」で日本レコード大賞優秀作品作曲賞を受賞。

2006年より日本テレビ系オーディション番組「歌スタ!!」にウタイビトハンターとして4年間出演。
最近はアレンジャーとして、高見沢俊彦、藍井エイル、芦田愛菜、THE ALFEE、初田悦子、たんこぶちん、水戸ご当地アイドル(仮)を手がけた。

山口哲一(やまぐち・のりかず)

1964 年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』(経産省監修)編集委員。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。SION、村上“ポンタ”秀一など の実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバ ルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。音楽ビジネスの再構築を目指す「ニューミドルマン養成講座」や、エンタメ系スタートアップ向けアワード「Start Me Up Awards」をオーガナイズするなど、音楽とITの連携について積極的に活動している。

著書に、『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)、『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)などがある。最新刊は、『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていること』(小社刊)。

『プロ直伝! 職業作曲家への道』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『エンジニアが教えるボーカル・エフェクト・テクニック99』の詳細はこちら(リットーミュージック)

TUNECORE JAPAN