第21回:THE BIG PARADE佐野元春KEY NOTEレポート

WEB版 職業作曲家への道 by テキスト:編集部 2014/10/24

2014年9月13〜15日の3日間、東京・代官山エリアで開催されたトークセッション、ショーケースライブ、クラブイベントなどによる複合イベントTHE BIG PARADE。その幕開けとなった佐野元春によるKEY NOTEの模様を、お伝えしよう。お相手は、『プロ直伝! 職業作曲家への道』監修の山口哲一氏だ。

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会場となったDigital Stageには、佐野のファンと思しき人々から、音楽業界関係者、ITビジネスマン風まで、多数の聴衆が参集。デジタル時代の新型ミュージックフェスティバルであるTHE BIG PARADEは、華々しくスタートすることになった。

KEY NOTEに先立ち、THE BIG PARADEのコファウンダーである鈴木貴歩氏(ユニバーサルミュージック合同会社デジタル事業開発部本部長)が、「日本でSXSWのようなイベントを立ち上げる際に、どんなアーティストに基調講演をお願いしたいかと考えた時に、最初に思い付いたのが佐野元春さんでした。コンシャスでイノベーティブな姿勢で活動を続けてこられたので、お迎えできたのを光栄に思います」と挨拶。聞き手を務める山口哲一氏(株式会社バグ・コーポレーション)を招き入れ、セッションはスタートした。

山口氏は佐野元春のラジオ番組「元春レイディオショー」にも出演経験があり、ITやSNSへの造詣も深いので、刺激的なKEY NOTEを期待できそうだ。

DIY型活動の先駆け

いよいよ佐野が登場し、セッションがスタート。最初に話題になったのは、ミュージシャンによるセルフマネージメントの話だ。佐野は1980年にデビューして、1986年には自身のレーベルや音楽出版社を創設していたというから、まさに現在のアーティストの先駆け的な存在と言えるだろう。

「デビューから3年目にニューヨークへ『VISITORS』というアルバムを作りに行ったんですけど、その間にレコード制作だけではなく、アーティストマネージメントやレーベルの成り立ちについても向こうで勉強しました。それで、長く自分が音楽活動をやっていくためには、自分で作った楽曲を自分で権利を保有して管理していくというのが、良いのかなという思いが出てきたんです。ニューヨークでは、それが当然のことでしたからね」(佐野)

これを受けて山口氏は、当時の佐野の所属事務所社長だった細川健氏との思い出を披露。ポリスター(レコード会社)やスリーディーシステム(ディストリビューター)を興すなど、アーティスト支援を旨として活動してきた細川氏が「アリスの時はプロデューサーだったけど、佐野元春と出会って、プロデューサーの役に立つ人になろうと思った」と語っていたことを明かしていた。

なお、今年は『VISITORS』のリリースから30年ということで、現在未発表曲を含むデラックスエディション版を準備中とのこと。佐野がDIY型の活動を始めるきっかけとなった作品のアニバーサリーイヤーにこのようなKEY NOTEが実現したことの意味は、とても大きいと言える。

日本の有料配信アーティストの第一号

続いて話題は音楽配信の話に。「今日はデジタル時代のフェスということで、音楽配信についての佐野さんのお考えを聞かせていただけますか?」と山口氏。

実は佐野は日本の有料音楽配信アーティストの第一号とも呼べる存在で、多くのミュージシャンが配信に積極的な姿勢を見せない中で、果敢に配信にトライしていたとのことだ。

「ソニーが1999年に国内初の有料ダウンローディングサービスを開始していて、その陣頭指揮を執っていたのが丸山(茂雄)さんでした。革新的でありながら、我々ミュージシャンのこともよく考えてくださっていた、尊敬できるリーダーの1人です。その丸山さんに、『所属アーティストに話しても、だれもやりたがらない。佐野、やってくれないか?』と言われて、僕も興味があったので『分かりました』と答えたんです。それで「イノセント」を配信しましたが、どれくらい売れたのかは分かりません(笑)」(佐野)

このように佐野は、新しく出てきたサービスにはいち早く反応している、まさにイノベーティブなアーティストなのだ。iTunes Music Store(現iTunes Store)にも日本ローンチと同時に、自身のレーベルDaisy Musicで参加している。

「どうなるかは分かりませんでしたけど、とにかく新しい時代の扉がすでに開いているわけですから。それでiTunes Music Storeと契約をして思ったことは、2つです。どのように音楽の流通の形が変化しても、まずは良い曲を書き続けることが大事なんだ。もう1つは、音楽が大好きな人達に、最終的にはベネフィットが落ちていくようなやり方が大事だということ」(佐野)

音楽愛に溢れ、リスナーファーストで考える。時代がどのように変化しようとも、このコアがブレないことが、いかにアーティストにとって重要なのかを、佐野はさり気なく強調していた。そしてその姿勢は、今後日本に上陸するであろうSpotifyを始めとするサブスクリプションサービスに対しても、ゆらぎは無い。

「時代は常に更新するものであり、音楽を作っている僕らも、それと並行してアップデートしていく。これは運命なわけですから、新しく生まれてきた技術に対しては100%胸を開いて、損するとか得するという話以前に、音楽を大好きなリスナーに対してどうベネフィットがあるのかにフォーカスして、新しい技術を見ていく。そうすると、自ずと正しい答えが引き出されるんだと思っています」(佐野)

高音質配信の持つ意味

1時間のセッション内では、さまざまな話題が語られたが、ハイレゾリューション(高音質配信)の話も興味深いものだった。ジャズやクラシックと違って、コンプレッサーやEQでわざと音を汚す“ロックンロール音楽”をハイレゾで聴く意味は保留しつつも、「やっぱりできるだけ良い音で聴いてほしいという願いはあります」と佐野は語る。

「奏でた音を、ミックスエンジニアがうまくミックスして出来上がった音、その音自体にもメッセージが込められているんですね。だから音楽のメロディや歌詞以上に、音が持っているメッセージ性は強いのではないか。そう思うと、MP3で音楽を聴きながら街を歩いている子供を集めて、僕のレコーディングスタジオに招待したい。そして、『これが本物の音楽の音だよ』っていうことを、知らせてあげたい。その思いの延長線上に、高品質の音を皆さんのリビングルームに直接届けたいという気持ちにつながっているんです」(佐野)

また、大滝詠一氏とはかつて「70年代中盤のアナログの音が、音楽として聴いた時は一番良い」と話し合ったという思い出も語られ、アサイラムやCTIの音源を高品質なデジタルで聴けるのも、現代ならではの音楽の楽しみかただという意見も披露されていた。

このほか、音楽とラジオの親和性、1995年当時の日本のインターネット事情、インターネット以前のCompuServeのこと、アナログレコード、ニール・ヤングとPonoなど、さまざまなテーマが俎上に載せられていたが、とにかく全編を通して、佐野の音楽愛と自由なアティテュードが印象的なKEY NOTEであった。最後に、印象的だった佐野の発言を紹介して、この記事を終わりにしたい。

「音楽との向かい合い方は人それぞれですけど、僕は個人的には、音楽には何か意味があるんだって考えているリスナーに向けて音楽を作り続けていきたいし、彼らとちゃんと握手をしていきたい。そういった面では、インターネットはとても有効な道具だと思いますね」

(この項終了)

山口哲一(やまぐち・のりかず)

1964 年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』(経産省監修)編集委員。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。 SION、村上“ポンタ”秀一など の実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバ ルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。音楽ビジネスの再構築を目指す「ニューミドルマン養成講座」や、エンタメ系スタートアップ向けアワード「Start Me Up Awards」をオーガナイズするなど、音楽とITの連携について積極的に活動している。

著書に、『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)、『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)などがある。最新刊は、『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていること』(小社刊)。

『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『プロ直伝! 職業作曲家への道』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『エンジニアが教えるボーカル・エフェクト・テクニック99』の詳細はこちら(リットーミュージック)

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