第10回:鈴木 Daichi 秀行インタビュー(後編)〜アレンジって、経験と引き出しの数だと思います

WEB版 職業作曲家への道 by 聞き手:山口哲一 2013/12/24

鈴木 Daichi 秀行さんインタビューの後編では、アレンジャーやサウンドプロデューサーとして仕事を続けていく上での心構えや、作曲家志望者へのアドバイスなどを伺っています。ぜひ参考にしてください!

02

鈴木 Daichi 秀行氏(L)、山口哲一氏(R)

音楽を仕事にしていく上では、単に音楽理論を知っているだけではダメだし、もちろんセンスだけでも続きません。他の人とは違う“売り”がなければ頭角をあらわすことはかないませんし、戦略がなければ生き残れない。では、Daichiさんは何を“売り”とし、どのような戦略をお持ちなのでしょう。後編ではそういった話を伺うことで、これから作曲や編曲を仕事にしようと考えている方々へのヒントを提供できたらと思います。なおこのインタビューは、ミューズ音楽院で行なわれた無料講座“作曲家リレートーク”の模様を再構成したものです(イベント開催日:2013年10月12日)。

プロデュースという仕事には、育成も含まれる

山口 前編ではキャリアを概観するような形でお話を伺いましたが、後編ではもう少し踏み込んだお話を聞いていけたらと思います。最近は新人アーティストとの共同作業を意識的に行なっているとのことでしたが、具体的にはどういう感じで進めるんですか?

Daichi いろいろですね。本人が曲を持ってくる場合もありますし、一緒にピアノやギターを弾きながら作っていくこともあります。

山口 じゃあ、半日一緒にいるみたいな形で?

Daichi ええ。1日一緒にいて何曲か作るとか、そういう感じです。時間はかかりますけど、その方がクオリティは上がりますし、いろんな意味で良いんじゃないかなって。最近だとダイスケくんの「スケッチブック」がそういう作り方だったんですけど(注:編曲とプロデュースを担当)、この曲はタイアップがあったので、そのテーマに合うようなサウンド感やメロディを一緒に考えながら作りました。そこに目がけて作るのは、作曲家でもなかなか難しいし、アーティストに求められるハードルもすごく高くなっているのを感じますね。で、最終的にはアーティストが1人で作れるようになれば良くて、そういう意味ではプロデュースという仕事の中には、育成という要素も含まれるのかなって思っています。

山口 いまは特にそういう時代ですよね。でも、自分の個性やオリジナリティがどこかを分かって、さらにタイアップの特性や、CMだったら商品のこと、ターゲットになるお客さんのこと、間に入る人のことまで総合的に考えて曲を作れというのは、新人アーティストにはあまりにも酷な話だと思います。

Daichi 客観視するのは、すごく難しいですよね。あとは、すごく良いメロディなのに、「ちょっと違うかな?」と思って途中でボツにしちゃう場合もある。ずっと一緒にいれば、そういうのを拾ってあげることもできますからね。

山口 それはアーティストにとってもうれしいことですよね。

いろいろな選択肢を持っておくことの重要性

山口 作曲・編曲・プロデュースと、いろいろなかかわり方をされていて、それぞれのスタンスで違いみたいなものはありますか?

Daichi それぞれ好きなんですよね。例えば作曲だったら、曲が採用されてから出来上がるまで、「どんなふうになるんだろう?」っていう楽しみもありますし……。ただ、作曲だけをした例ってすごく少なくて、AKB48「約束よ」を含めて数曲くらいかもしれないですね。だいたい、曲を作るとアレンジも一緒にやっていますから。

山口 どんなご気分でした?

Daichi 普通にコンペに出して、曲だけ採用されたんですけど、自分の中ではすごい斬新でした(笑)。作曲、アレンジして、ミックスやマスタリングにまで立ち会うことが多いのに、この曲だけは気づいたらCDになっていましたから。

山口 この「約束よ」は、AKB48のコンサートの中でも、重要な位置づけにある曲みたいですね。

Daichi シングルにはなっていないんですけど、いまだに使ってもらっているみたいで、うれしい限りです。

山口 では、今後も作曲だけの仕事もあり得ます?

Daichi それも含めて、仕事をしていく上で、いろいろなやり方や選択肢は持っていたいと思います。今後、どうなるか分からないというのもあるし(笑)。

山口 いろいろなことをできないと、ということですね。

Daichi ええ、引き出しを増やすということですね。可能性としてやれることを増やしていくということが、すごく重要だなと思っています。もちろん、1個1個が中途半端ではダメなんですけど……。1個1個がしっかりできるようになりつつ、という感じで。そういう意味では、プロデュースは始めてからまだそんなに年数が経っていないので、自分なりのやり方をまだ勉強中なんですよね。

03

“売り”は派手好きなところ

山口 Daichiさんはバンドあり、アニソンあり、アイドルありで、手がけられているジャンルが幅広いのも特徴ですよね。

Daichi 僕の場合、何か1つのもの……例えばビートルズがものすごい好きで、これをやらせたら誰も勝てないというタイプではないんですね。それでも、何か“売り”を作らないといけない。そう考えると、基本的に派手なものが好きで、それが売りなんですよ。シングル曲をやらせてもらうのが多いのは、たぶんそういうことなのかなって思っています。例えばロックでも、普通にやると音的にも地味になりがちなので、「何かの要素を足してください」って頼まれることが多いんですね。だから王道のものをやりたい場合は、王道の人に頼んでいるんだと思います。そうじゃなくて、例えばロックなものをストリングスで壮大にしたいとか、リズムはダンサブルなものだけど、それにディストーションギターとかロックな要素を足したいとか、そういうリクエストがすごく多いですね。

daichi

山口 お仕事を拝見していると、バランスが良くて、クオリティが高くて、発注する側は安心感があるだろうなっていう気がしていたんです。でも、派手好きというのは面白いですね。

Daichi 単純に音だけの派手というだけではなくて、例えばバラードでも、聞こえ方の“抜け感”みたいなものってあるじゃないですか? そういうのが割と好きなんですよね。下世話なものっていうか(笑)。

山口 得意技は派手で下世話なもの(笑)。

Daichi 音楽家とかミュージシャンって、そこはちょっと嫌がる部分があったりするじゃないですか?

山口 ああ、照れがあるというか……。分かります。

Daichi そうそう。なるべくそこを避けながら、無理やりキャッチーさを引き出して作っている部分があると思うんです。でも僕は、そこを好きでやっている。だから逆に言うと、やり過ぎているところを「戻してください」って言われる方が多いかもしれません(笑)。

山口 そういう派手好きな感性は、どこで身に付けたのでしょう?

Daichi 昔から、歌謡曲やアイドルグループはすごい好きでしたね。最初に買ったCDはうしろ髪ひかれ隊だし、東京パフォーマンスドールなんかも好きで聴いていました。クレジットを見ると、作家陣がすごいメンバーだったりしますね。あとは、バンドでコピーしていたのはX Japan、ブルーハーツ、ジュンスカ、BOOWY……。

山口 でも、Coney Island Jellyfishはちょっとマニアックな、通好みの感じがするバンドでしたよね?

Daichi あれは、僕だけじゃなかったからですよ(笑)。メンバーの好きなものがバラバラで、集まってできたのが結局ああいう形になったということなんです。

Daichi流“やる気”の出し方

山口 では、アレンジのお仕事の場合の発注を受けてから納品までのワークフローを教えてください。
Daichi 諸事情あるのでしょうが、最近は制作期間がすごくタイトになっています。例えば、発注を受けて納品まで1ヶ月あれば長い方で、短いのは極端に言えば「来週歌入れします!」、みたいな感じですね。

山口 それは、その時点では何もないのですか?

Daichi その時点では、決まっていることは何もないんです。僕が速いから、そういうのを頼まれるのかもしれませんけど(笑)。

山口 「あいつなら大丈夫だ」って思われているわけですね。

Daichi そうそう。「困ったときに」、みたいなこともあるみたいで。「3日後に作業なんですけど」「それは無理でしょう」っていうこともあります(笑)。

山口 でもフリーランスのクリエイターとしては、そういうのは大事ですよね。

Daichi 特に僕は仕事を始めたのが24歳くらいで、そのときは周りの第一線で活躍している人たちが完全に一回り上だったんですね。20代でやっている人なんて、ほぼいなくて……。そうすると、周りの人には技術的にはかないませんから、速さとクオリティ、あとは自宅でいろいろなことができるとかを売りにするしかない。やっぱり、10年の差はなかなか埋められないので、そういうことをすごく考えていましたね。

yama

山口 作業の段取りに決まりはありますか?

Daichi 気を抜くとモンハンやってたりするので(笑)、どうやる気を出すかなんですよね。あとアレンジって、経験と引き出しの数だと思うんです。何かを聞いて真似することはできるけど、それではただ単にマネになってしまう。だから1回自分の中で噛み砕いて、自然に出てくるようにしないといけない。「あれは◯◯のパクリだよね」って言われるようなものを作っていては、絶対に長くは続かない。だから僕は、なるべく引き出しを増やすというところで、そんなに好きじゃないジャンルでも、意図的に音楽として聴くようにしています。自分は好きじゃなくても、それを好きだと思う人がいるから存在しているわけで、それを理解しているかどうかで仕事の幅も変わってくるわけです。別にやりたくないことはやらないでも良いですけど、ただでさえ少ないチャンスをものにするには、やっぱりいろんなことにチャレンジする必要もあると思います。それを考えると、いろいろな楽曲の振り幅で聴いて吸収しておくのは、すごく大事だなって。

山口 やる気の方はどうですか? 5日間でやらないといけないとしたら、2日目くらいにはやる気が出てないとまずいじゃないですか?

Daichi 結局、締め切りまで5日あっても4日間は遊んでいるんですよ(笑)。だから、4日間仕事を入れるんです。

山口 それは、他の仕事を入れるということですか?

Daichi はい。どうせ4日遊ぶなら、4日を仕事で埋めていれば……追い込まれる(笑)。結局追い込まれないと、なかなかやらないので……。僕の場合はそうやって追い込んで、やる気を出すというか、やらないといけない状況にする(笑)。実際、ちょっとやり始めればエンジンがかかって、回ってくるんですよ。だけど、最初の「やろう!」っていうエンジンのキーを回す作業が、意外と長くなってしまいがちなんです。

山口 「やればできる」っていう自信がなければ、できないやり方ですけどね(笑)

04

長く続けていくことが大事

山口 さて、アレンジャーやサウンドプロデューサーという仕事は、時代の流れに敏感でないと務まらないと思いますが、新しい音楽やサウンドを取り入れるために心がけていることはありますか?

Daichi 基本的には、いろんな曲を聴くということですね。ただ聴き方も、サウンド感やミックス、レコーディング方法、音源なんかも気にしつつっていう感じです。根底にある普遍的なものはやっぱり大事にしていかないといけないので、そこを大事にしつつ、新しい要素をどう入れられるのか。そこは意識しながらやっています。

山口 いろんなパターンがやり尽くされた中で、ちょっとした組合せの妙だったり、例えばバスドラムの音色だったり、そんなことで新しい音楽かどうかが、決まるような時代ですよね。

Daichi 本当にそうなんです。例えばバンドでも、生で録ったドラムをトリガーにして……みたいな作り方があるわけで、単純に音楽性とか音楽理論だけの作り方だけではなく、新しいソフトの使い方とか、新しいレコーディングの手法、それを知っているかどうかが、今の音楽だと重要になってきていますね。

山口 お気に入りのシンセは、いまだと何ですか?

Daichi 派手な音が出るシンセが好きで、いまだと普通にreFX Nexusとか。あれは、どんな音でも出るからよく使いますよ。

山口 Daichiさんの自宅スタジオStudio Cubicは、機材がたくさん置いてありますよね?

Daichi 機材、大好きなんです。で、作業をするときは作家志望の子に手伝ってもらったりしながらっていう感じですね。

山口 新人のデモはよく聴かれます?

Daichi 会社(ソリッドフォース)にも来ますし、僕個人にもTwitter経由で来たりするので、結構聴いていますよ。

山口 では最後にそういう作曲家志望者に対して、何かメッセージをいただけますか?

Daichi 作曲家って日本の中だけでもライバルがたくさんいるし、最近は海外の作家もどんどん日本に入ってきています。韓国はもちろん、アメリカもヨーロッパも含めて。しかも彼らは日本のマーケットに合うように研究して、作ってきているんです。僕はそれをアレンジしたりもするので、デモを聴く機会が多いんですけど、すごくしっかり作られているんですね。あとは、アーティストの曲提供みたいなものも、昔よりすごく多くなっています。それは当然アーティストパワーもあると思いますが、求められているのはその人にしかない個性だと思うんですね。そう考えると、コンペの発注書通りに音楽を作るというのはだれでもできることだから、逆に「こんなのやったらどうでしょう?」「こんなのやったら新しいと思いませんか?」ってプレゼンする気持ちで応募するのが大事じゃないかなと。例えば1個のコンペの中で2曲入れて、1曲はオーダー通り、1曲は全然違う自分からのプレゼンという形で出していれば、だれかが聴いてくれて、「この人は面白い!」ってなるかもしれない。コンペとか仕事だと、カドが取れているもの、綺麗に仕上がっているものをみんな作ろうとするから、なかなか個性が出にくくて伝わらないじゃないですか? そういう中で、自分の個性を伝えるものも同時に作っていった方がよいかなと思います。

山口 高いクオリティを保ち、オーダーにも応えながら、自分の個性をどう打ち出していくか、新人作曲家であればなおさら、自分の色を伝えて、興味を持ってもらえることが重要ですよね。

Daichi あと個人的には、長く続けていくことが大事だと思っています。作曲に関してはひらめきも大事ですが、技術的な部分も職業作家には必要ですので日々勉強しつつ、制作を続けていける環境作りというのはとても大事です。チャンスはどこにあるか分かりませんが、それを上手く拾えるかは日々の努力でしかないと思います。

POSTSCRIPT by 山口哲一

クリエイターという人種が欲しい賛辞は、基本的には「カッコイイ」「センスが良い」といった言葉です。サウンドプロデューサーもクリエイターですから、同様の気持ちがあるはずですが、“派手で下世話なもの”が得意って、言い切れるのは、ユーザーに支持されるという自負があるからでしょう。素敵だなと思いました。

鈴木Daichiの音楽には、王道感が漂うのは、“派手で下世話”が、みんな好きでしょ?と自信を持ってやりきっているからなのでしょう。

世界視点でも個性的なポップス“J-POP”らしさを築き上げているのは、第一線の作曲家・サウンドプロデューサー達の努力なんだなと改めて感じました。

長く続けること、オーダーにも応えながら、個性を打ち出すことなど、若手作曲家への貴重なアドバイスです。

僕にとっても貴重な対談でした。次は、音楽の仕事でご一緒したいなと思っています。

告知:超実践型作曲家養成セミナー「山口ゼミ」は、第4期の募集を行なっています。2014年1月8日(水)に無料説明がありますので、興味のある方は、いらしてください。

詳細は、こちらまで

鈴木 Daichi 秀行(すずき・だいち・ひでゆき)

アマチュアとしてBAND活動の後、1995年にConeyIslandJellyfishのメンバーとしてAntinosRecordよりデビューする。
BAND解散後、アレンジ、オペレート、マルチプレーヤーとしての活動をスタートさせ現在に至る。
2002年 オリコン 編曲家チャート第五位
2007年 日本レコード大賞 絢香「Jewelry day」金賞受賞
2008年 日本レコード大賞 mihimaruGT「ギリギリHERO」最優秀作品賞受賞

山口哲一(やまぐち・のりかず)

1964 年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』(経産省監修)編集委員。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。j-Pad Girlsプロデューサー。SION、村上“ポンタ”秀一など の実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバ ルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。2011年頃から著作活動も始める。2011年4月に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)刊行。2012年9月に『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』(共著/小社)刊行。最新著作は2013年9月刊行の『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)

『プロ直伝! 職業作曲家への道』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『パッチワーク式ソングライティング入門』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『エンジニアが教えるボーカル・エフェクト・テクニック99』の詳細はこちら(リットーミュージック)

TUNECORE JAPAN