第9回:鈴木 Daichi 秀行インタビュー(前編)〜絢香は、何もない状態から一緒に作っていったケースですね

WEB版 職業作曲家への道 by 聞き手:山口哲一 2013/12/17

クリエイターに創作の秘密を伺っていくこの連載、今回はYUIや絢香からアニソン、AKB、韓国のバンドCNBLUEまでを幅広く手がける鈴木 Daichi 秀行さんが登場です!

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10年以上にわたり作曲や編曲、サウンドプロデュースなどさまざまな形でヒット曲を作り続けてきた鈴木 Daichi 秀行さん。バンドマン出身らしくギターをメイン楽器とする一方で、DAWやレコーディング機材にも造詣が深く、『サウンド&レコーディング・マガジン』等の専門誌へも積極的に寄稿されています。そんなDaichiさんがどのようにしてキャリアを積まれてきて、どんなことをお考えなのか、前後編に分けて伺っていきましょう。なおこのインタビューは、ミューズ音楽院で行なわれた無料講座“作曲家リレートーク”の模様を再構成したものです(イベント開催日:2013年10月12日)。

バンドでの活動がきっかけでアレンジャーに

山口 Daichiさんは作曲だけではなく、編曲やサウンドプロデュースなどもやられていますよね。お仕事の幅がとても広いという印象があります。

Daichi そうですね。僕の場合は、まずはアレンジの数が多いです。曲を書いた場合は、ほとんどアレンジまで込みですから。あと最近は、プロデュースということでアーティストと一緒に曲を書いたり、レコーディングやミックスまで担当したり。そこら辺までやらせていただくことも多くなっています。

山口 では、作曲家/編曲家/サウンドプロデューサーとして活躍するようになったきっかけは?

Daichi もともとバンドはやっていたんですよね。一応メジャーデビューしてアルバムを1枚出して、そこで終わっちゃったんですけど……。Coney Island Jellyfishというバンドで、レコード会社はAntinos Recordでした。そのときに、レコーディングを手伝ってもらっていたマニュピレーターの方がいたんですけど、バンドを辞めて、「次はどんなバンドをやろうかな?」なんて思いながらアルバイトをしていたら、その方から電話をいただいて。「何もしてないんだったら、仕事を手伝ってよ!」という感じで、レコーディングやライブの現場に呼んでもらうようになって。そういうお手伝いをしながら、ちょっとずつ仕事をしていったっていう感じですね。

山口 Coney Island Jellyfishでは、どんな役割だったのですか?

Daichi 今とやってることはあんまり変わらないんですけど、バンドのアレンジも僕がやっていたんですよ。普通のバンドは、みんなでスタジオに入って音を作るというスタイルが多いと思いますが、僕の場合は家でプリプロをして、アレンジのデモテープを作って、それをみんなに聴かせて、スタジオでそれぞれのアイデアを入れ込みながら、曲を仕上げていくというスタイルでした。

山口 では、そのやりとりをマニュピレーターさんが見ていて、「この人はプロのアレンジャーとして使えるんじゃないか」と思ったんでしょうね。

Daichi あとは、割と新しいものとか機材が好きなので、ギターも弾くんだけど、シーケンサーで打ち込みもやっていた。その辺を面白がってもらえたんじゃないですかね。

モーニング娘。「Do it! Now」のアレンジでブレイク

山口 バンドでのデビューが1995年ということですが、当時はどんな環境で制作をしていました?

Daichi スタジオでのレコーディングはSONY PCM-3348(通称ヨンパチ)でしたけど、家ではALESIS ADATで作業をしていました。ADATを3台シンクさせて24トラックまで録音して、それをスタジオのヨンパチに流し込む、みたいな感じでした。

山口 当時、宅録の好きなミュージシャンは、みんなADATか TASCAM DA-88を買っていましたね。自宅でデジタルレコーディングというのが画期的でした。技術の進歩は早くて、あっという間に、Pro Toolsに代わりましたけれど。それにしても、僕がよく言う “アーティストとしてデビューして、アーティストとしては成功しなかったけど、その時の人間関係で仕事が来るようになって、スター作曲家になる”というルート、Daichiさんも、まさにそのままですね。

Daichi 確かに、そういう人が多いですよね。いまはちょっと違いますけど、僕の世代だと、特に音楽業界に入る入口がすごく狭かったんです。人のツテがないと、なかなか仕事ができない状況ではあったと思います。

山口 では、そんなDaichiさんの作品の中で、エポックになった楽曲を何曲か教えていただきたいと思います。

Daichi 最初に名前を知ってもらったということでは、モーニング娘。の「Do it! Now」のアレンジが大きかったですね。僕はまだ27歳くらいでした。

山口 2002年7月発売の15枚目のシングルで、プラチナ認定となっています。どういう経緯で、アレンジを手がけることになったのですか?

Daichi バンドをやっているときに、つんくさんの後輩バンドと一緒にライブをやったりしていた関係で、ご飯に連れていっていただいたりはしていたんです。で、しばらく連絡はとっていなかったんですけど、たまたまスタジオでばったりお会いすることがあって。隣のスタジオにご挨拶に行ったら、「お前、いま何やってんの?」「アレンジとかしてまーす」って話になったんですね(笑)。そこからいろいろな偶然が重なって、本当に仕事をさせていただくことになったという。

山口 かつてはスタジオのロビーがサロンのような機能を果たしていて、偶然の出会いが何かを生むということがありました。そういう出会いが減っているのは残念ですよね。

Daichi 確かに、だれかを紹介してもらうとか、何年も会っていなかった人に再会して、そこから何かが始まるみたいなことが結構ありました。まあいまは、スタジオにいる時間自体も減っちゃっていますから……。

山口 「Do it! Now」に話を戻すと、アレンジはどういうプロセスで決められたんですか?

Daichi それまでのモーニング娘。はディスコ調で元気がある感じだったんですけど、ちょっと雰囲気を変えてR&B調にしたいということで。やっぱりディスコ調の印象が強かったし、モー娘。の絶頂期だったので、かなりプレッシャーも感じつつアレンジしたのを覚えています。

山口 曲を渡されて、一から考えてっていう形ですか?

Daichi 曲だけあって、それをどうしたいかっていう打ち合わせをして、そこからアレンジしていった形で、歌詞は同時進行でした。

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鈴木 Daichi 秀行氏(L)と、聞き手の山口哲一氏(R)

“鈴木Daichiサウンド”を体現する「shell」

山口 アニメ「Witch Hunter Robin」の主題歌で「shell」についてはいかがですか?

Daichi この曲は作曲・編曲で、確かコンペだったと思うんですけど、大好きなバンドサウンドを表現できた、世に出せたっていうことで選びました。アイドル系の仕事が多かったので、世の中的には僕はアイドル寄りの印象があったと思うんですけど、もともとは原宿のホコ天でギターを弾いていたバンドマンですからね。

山口 では、当時のバンドに近いサウンドなんですか?

Daichi 当時のバンドはもうちょっとポップでしたね。ただ、実は僕が18〜19歳のころにやっていたバンドと、この曲は関係がありまして。神奈川の高津区っていうところの区民会館でバンドコンテストがあって、そこになぜか応募したんですよ。それまではコンテストに出たことが無かったので、「出てみようか?」という話になって。

山口 あれ、神奈川のバンドだったんでしたっけ?

Daichi 全然違うんですけどね(笑)。でも、コンテストの情報をたまたま見かけて、軽い気持ちで応募したんです。そうしたらそこに、たまたま近所に住んでいるという理由で、当時スピードスターでバンドなんかを担当していた野崎(圭一)さんが審査員として呼ばれていて。僕らは優勝できなかったんですけど、野崎さんが審査員特別賞をくれたんです。そこから、ビクタースタジオの通称“サザン部屋”でデモを録らせてもらったりして……。そういうことがありつつ、僕らはひどいことにソニーからデビューして(笑)、野崎さんはフライングドッグっていうビクターのアニメーションレーベルのプロデューサーになって……。そういう流れでできた曲だし、自分的にも好きな曲です。

山口 では、これがバンドものでの“鈴木Daichiサウンド”。

Daichi そうですね。あと、アニメがバンパイア系のものなので、割とヨーロッパの方で人気があるらしくて。フランスの人から反響があったり……。そういう意味でもすごく面白いですね。

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人の縁が仕事を呼ぶ

山口 続いて選んでいただいたのが、絢香の「三日月」です。

Daichi これはサウンドプロデュースですね。絢香の前に、僕はYUIをずっとやっていたんですね。で、YUIの制作をしているときに、音楽塾ヴォイスの西尾(芳彦)さんが「こういう子がいるんですけど」って絢香のデモを聴かせてくれて。まだ事務所もメーカーも全然決まっていない段階だったんですけど、聴いたら歌がすごく上手だったので、「作りましょうよ!」って。そんな感じで、何も決まらない状態の最初の段階から一緒に作っていたんです。

山口 そのときに「三日月」はあったんですか?

Daichi ありました。アレンジとかも、その当時作ったものがほぼそのままですね。だいたい普通の仕事だと、何らかのオーダーがあったり、最初にアーティスト的に形ができていて、それに沿った内容で作ることが多いんです。だけど絢香は、何もない状態から一緒に作っていったケースですね。

山口 新人アーティストに、そういう段階からかかわることも多いのですか?

Daichi このころから、意識的にやるようになりました。YUIもそうなんですけど、デビュー前のデモの段階からかかわって、サウンドメイキングで土台を作るところからできて、それが浸透していけば、その後もやりやすいというか。それで、最初からかかわるということにすごく興味が出てきたんです。

山口 YUIは特にそれが大きかったタイプですよね。

Daichi 実はYUIのプロデューサーの近藤ひさしが、一緒にバンドをやっていたときのボーカルなんですよ。彼がちょうどソニーのSDにいて、新人開発の仕事をしていた。それで「一から新人をやりたいな」っていう話をしたら、何組かアーティストを紹介してくれて、その中にYUIがいた。

山口 やっぱりバンドでの経験が大きいようですね。

Daichi そういう意味では、作曲・編曲をした「ガンダム SEED DESTINY」の挿入歌「EMOTION」も挙げておきたいですね。僕は個人的にガンダムがものすごく好きで、ガンダムが好きだということを、あらゆるところで言いまくっていて(笑)。で、たまたま先ほどの野崎さんがガンダムのプロデューサーで、「ガンダム SEED DESTINY」の挿入歌で“アイドル好きなヒロインが歌う曲”が必要だとなったときに、僕を指名してくれて。監督からのオーダーが、“松浦亜弥みたいな子が歌って踊る風にしたい”だったらしくて、「松浦亜弥をやってて、ガンダムを好きだったら、Daichiくんだろう」ということで、頼んでくれたんです。そういう、いろいろなものがつながった曲なんです。ただただ、うれしかったですね(笑)。

山口 ただただ、うれしかった曲。そういう曲は、作曲家ならきっとだれしもあるものなんでしょうね。

(後編に続きます)

POSTSCRIPT by 山口哲一

懐が深くて、引き出しが多い、人間的にも温厚で、すべてを受け止めてくれる、それが、鈴木Daichi秀行さんの印象です。

サウンドプロデューサーの役割には、アーティストという素材を活かしながら、楽曲全体のクオリティを上げつつ、レコード会社やタイアップなどのオーダーにも合致させるという仕事もあります。

そんな時には、視野の広さと選択肢の多さが重要になりますが、その点で、Daichiさんには卓越した力量があると思います。「困った時の鈴木Daichi頼み」となる業界人が多くなるのも分かります。そんな状況を楽しんでいる様子が、素敵だなと思いました。

告知:超実践型作曲家養成セミナー「山口ゼミ」は、第4期の募集を行なっています。2014年1月8日(水)に無料説明がありますので、興味のある方は、いらしてください。

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鈴木 Daichi 秀行(すずき・だいち・ひでゆき)

アマチュアとしてBAND活動の後、1995年にConeyIslandJellyfishのメンバーとしてAntinosRecordよりデビューする。
BAND解散後、アレンジ、オペレート、マルチプレーヤーとしての活動をスタートさせ現在に至る。
2002年 オリコン 編曲家チャート第五位
2007年 日本レコード大賞 絢香「Jewelry day」金賞受賞
2008年 日本レコード大賞 mihimaruGT「ギリギリHERO」最優秀作品賞受賞

山口哲一(やまぐち・のりかず)

1964年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』(経産省監修)編集委員。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。j-Pad Girlsプロデューサー。SION、村上“ポンタ”秀一など の実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバ ルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。2011年頃から著作活動も始める。2011年4月に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)刊行。2012年9月に『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』(共著/小社)刊行。最新著作は2013年9月刊行の『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)

『プロ直伝! 職業作曲家への道』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『エンジニアが教えるボーカル・エフェクト・テクニック99』の詳細はこちら(リットーミュージック)

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