第5回:インタビュー 大平太一(後編)〜無理矢理でも詞先での曲作りにトライするのが有効

WEB版 職業作曲家への道 by 聞き手:山口哲一 2013/09/05

大平太一さんのインタビュー後編では、主に曲作りで気を付けるべきことをお聞きしていきます。なぜ詞先が重要なのか、なぜ共作が大事なのか、早速伺いましょう!

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前編に続いて、目から鱗が落ちるお話が続きます。“山口ゼミextended”(山口氏が主宰する作曲家志望者向けセミナー)の受講生対して SCANDALの架空コンペを出して、講評していただいた時のお話も伺っています。ヒット曲の条件として、「聴いている人の中に言葉が入ってきて、その人の人生と結びついた時に記憶に残る」との指摘が、とても示唆的ですね。

言葉とメロディのバランス

山口 先日の“山口ゼミextended”では、SCANDALのシングル曲という例題の架空コンペを開催して、受講生のデモを講評していただきました。その時の条件が“フルサイズの歌詞がマスト。歌詞のみ可”という“時代逆行”で、すごく面白かったです。

大平 僕自身はコンペ嫌いだから、“山口ゼミextended”の話が来た時はしゃべれることが無いからお断りしたんだけど……。でも、「逆説的な話でも良いから」ということで、ああいう形でやってみました。

山口 10曲くらいのデモを聴いていただきましたが、総評としてはどんな感想をお持ちですか?

大平 当たり前ですが“いかにもSCANDALにありそうな曲”が多かったですね。SCANDALについて過去の作品を研究して、今までの流れで行けばこういう曲になるだろう……そういう作り方なので、僕からすると新鮮さが感じられない。決して悪くはないんだけど、埋もれてしまうだろうなという感想です。ちなみに“歌詞も書いてください”というシートにしていたのは、参加してくれる1人1人のテーマを出してほしかったからです。曲自体は書いた人のもので、それをSCANDALがカバーするんだというイメージですね。

山口 講評では、詞先か曲先かにすごくこだわっていたのが印象的でした。

大平 作曲家を目指しているような人は、当たり前だけど音楽を作るのは得意なわけです。だから、メロディだけで曲を作るのに慣れているし、「これでもか!」ってメロディで屈服させようとしがちなんだと思います。でもそれに歌詞を載せると、言葉とメロディのバランスが難しかったりする。例えばメロディはそんなに動かないでも、言葉の抑揚とリズムで十分キャッチーな場合があるわけです。言葉には感情も映像もあるから、歌詞が載れば不必要にメロディが動く必要が無いことも分かる。それで逆に、メリハリも付けられるようになるわけです。そういう意味で、詞先で曲を作ってみるのはとても良い訓練になると思っています。そんなにメロディで語らないでも、言葉が良ければ、 どうその言葉がすっと入るように聴かせられるかを考えられるというか……。もしかしたら、使っている音の数は半分以下でも大丈夫かもしれない。これは、音楽の勉強にもなると思います。だから歌詞を書くのが苦手な人は、誰か他の人が書いた詞にメロディを付けるトライをしてみるのも良いでしょう。

曲の構成には必然性があるはず

山口 他に気づいたことはありました?

大平 これは求められていることだから仕方がないという部分もあ りますけど、どうしても似通った構成の曲が多くなってしまうんですね。Aメロ、Bメロ、サビ、2番、そして間奏があってBメロ、落ちサビ、サビを繰り返して終わる、みたいなね。昔はもっと自由な構成の曲が多かったけど、いつの間にか、本当に同じような構成の曲ばっかりになってしまった……。ひとつはコンペという個性をアピールしづらい制作方法、もうひとつはコンピューターで音楽を作る弊害だと僕は思っています。

山口 デモなんかは、ワンハーフがルールみたいになっています。

大平 “とりあえずワンハーフでOK”っていう音楽の作り方は、本当は良くないですね。退屈しないで聴ける1つの定石で、パターンになってしまっているんだけど……。でも詞に必然性があれば、2番のサビが要らないということもあり得るはずなんですよ。それで、サビが2番に出てこない曲をどうやって作るのかを考える。そういう歌は世の中にはいくらでもあるわけです。

山口 SCANDALのようなアーティストをゼロから育てている大平さんが、そういうこだわりをクリエイティブに持っていることが素晴らしいと思います。怒られるかもしれないけれど、17歳の頃のような青臭さを感じますよ(笑)。

大平 確かに17歳の頃から、やっていることは大して変わっていないです(笑)。曲の構成には必然性があるはずです。だからBメロや大サビが本当にその場所に必要なのかは、考えるべきことだと思います。そして、それを規定しているのは詞のウェイトが大きい。詞先で曲を作れば、自分が縛られている音楽の定石や癖から解放される可能性もある。音だけだったら4小節とか8小節とか音楽的に据わりの良い長さや回数の繰り返しになりがちです。でも歌詞が1行余ってしまったら、そこに何かしらメロディを付けざるを得ない。それでも自然に聴かせるための工夫が必要になる。そうやって生まれたメロディは、言葉に沿っているから説得力があるはずです。あるいは、はみ出ている字余りとか、その逆の字足らず、行足らず、行あまりみたいなものが、うまくいけば意外性のあるフックになったりもする。そういう意味でも、詞先は作曲の有効な手法だと思っています。

山口 どうしても詞に話が戻ってしまう(笑)。

大平 ただ、いくら先に詞を書いていても、頭の中に曲の構成ができている場合は詞先とは言えないでしょう。「きっとここには大サビが必要だろうな」と思って詞を書いているのであれば、メロディこそ無いけれど、形が既に決まっているわけですから。やはり他の人が書いた言葉にメロディを付ける方が、普段自分が作るものとは違うものが出来上がる可能性があると思います。そういう共作は洋邦を問わず、多くの独創的なヒットポップスを生み出してきたと認識しています。

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山口ゼミextendedでの講義の模様

共作しても残る歌詞やメロディの主張

山口 “他の人の言葉に曲を付ける”ということで言うと、今回聴いていただいたデモの中には、何人かで作った共作曲もありましたね。

大平 オケを1人が作り、メロを3人で分担、歌詞も2人で分担という曲がありましたが、あれは面白かった。曲を作るというのは孤独な作業で、どうしても頭の中で想像しながら1つの結論に向かって行こうとしがち。でもそこに他人の手が入るのは、それぞれの視野の外に連れていってくれるので刺激になります。そして感動できれば、それは第三者にも伝わると思う。1+1が3や4になれば良いのですが、逆に複数の感性が入り交じることによってメッセージや描写のピントがぼやける危険もあります。

山口 実際、共作で有名なチームは世界中にたくさんいますし、今後はコライト(Co-Write)が大事になってくるというのが“山口ゼミ”のテーマの1つでもあったりします。

大平 ああいうゼミの中でシャッフルして作っていくのは、良い勉強になるでしょうね。あと面白かったのが、同じタイトルで2曲作っていた受講生がいたこと。以前にある作家の方に作品を依頼した際のことを思い出しました。詞と曲をお願いしたんですけど、最初にサビの詞が数パターン出てきたんですね。で、「どれがイメージに近いですか?」って。それで1つを選ぶと、その言葉に対してメロがまた数パターン出てくる。マイナーだったり、メジャーだったり、アップだったり、スローだったりっていうね。それでメロを選ぶとフル尺で出来上がってきて、そこから微調整に入る。その方は経験豊富なプロ作家ですが、答えがひとつではない音楽をできるだけ発注者のイメージに近づけながら作っていくというプロセスはさすがだと思いました。そんな感じで、全然違うものを2パターン作って、それを最後に混ぜてしまうような作り方もアリですし、全部散らかして、俯瞰して見て、バラバラになったものをもう1回拾い集めるっていうやり方も、自分の想像の外に出て行くためには有効な方法でしょう。メロディだととっちらかってしまうかもしれませんが、特に歌詞だったら、同じことを真逆から見て書いたものを組み合わせるのは良い訓練になると思います。

歌詞を直さなかった「24時間プラスの夜明け前」

山口 では、大平さんの考えるヒット曲の条件ってどういうものか、教えていただけますか?

大平 私は大ヒット曲を作った経験が無いので語る資格がありませんが、歌は聴いている人の頭の中に言葉が入ってきて、その人の人生と結びついた時に初めて覚えられると思うんです。つまり、絵が浮かぶ。その瞬間、聴き手が歌の主人公になる。ヒットする曲って、そういうものだと思っています。ただ単に、不特定多数の人にとって共通の言葉で表現しようとすると抽象的なものになってしまい、絵が浮かばない。そういう主観描写の歌は聴き手のものにはなりにくいんです。

山口 抽象的なことを言われても、刺さらない。

大平 例えば「襟裳岬」という歌は、襟裳岬に一度も行ったことが無い人にも鮮やかにその季節のその場所の、景色や匂いまで感じさせることができる。そしてなぜか、聴いた人は自分の人生の何かを思い出して感慨に耽ってしまうのです。限定的な場所の個人的な事柄を描写しているのに、老若男女誰でも自分の人生のどこかの記憶と結びついてしまう。作曲を志す人には、こういう演歌やフォークの名作を今改めて研究してほしいです。「襟裳岬」が詞先で作られたかどうかは分かりませんが、歌詞とメロディのバランスに完全に過不足が無い。井上陽水と忌野清志郎の共作で「帰れないふたり」という名曲がありますが、これも現代の曲コンペみたいなプロセスでは作り得ない曲ではないでしょうか? 詞先で共作は絶対に、発見があると思いますよ。

山口 ちなみに、SCANDALで詞先の曲はありますか?

大平 最近だと、これはシングルのカップリング曲ですが「24時間プラスの夜明け前」という曲は元チャットモンチーの高橋久美子さんに先に詞を書いていただいて、彼女と同郷のバンド“つばき”の一色徳保さんに曲を付けてもらいました。この曲は完全に詞先で、ほとんど歌詞は直さなかったと思います。逆にメロディの方は何回かやり直していて、サビなんかは最初のデモとは全然違うメロディになりました。久しぶりに、言葉の力みたいなものを強く感じられる曲です。2013年前半のライブハウスツアーでは、セットリストの1曲目をこの曲でスタートしていました。知らない人はぜひ歌詞だけを先に読んで、それから曲を聴くと今日の話の内容が少し実感できるかもしれません。

POSTSCROPT by山口哲一

“コンペに勝つ方法”を掲げて、作曲家向けセミナーをやりながら、実は“コンペ嫌い”だったりする僕のプロデュースワークに対する価値観は、根っこの部分は大平さんの影響だと思っています。10代から本音をぶつけてきた関係なので、インタビューでの発言も膝を連打するくらい、納得のいくお話ばかりでした。
クリエイティブとは何か、ヒットする楽曲の持っている強さは何かということを掘り下げて、本気で考え続けている姿勢には、頭がさがりますし、僕も同様のスタンスで取り組んでいるつもりです。ポップスは消費される音楽ですが、人生に影響を与えるくらいのパワーを持つこともある。それが音楽プロデューサーの本当に醍醐味だということを、改めて大平さんから教わった気がしています。
高橋洋子さんのディレクター時代に、オリジナル楽曲がヒットせずに苦労している時に、専属契約の解放をキングに許諾した「残酷な天使のテーゼ」が大ヒットしたことについて、大平さんは“失敗”と語っていますが、過度な商業主義に与しないクリエイティブ重視のスタンスのディレクターだから産まれた副産物だと僕は思っています。
15年位前に、大平ディレクター、山口マネージャーのコンビで新人アーティストを手がけましたが、近年は、たまに電話やメールで連絡をとるだけになっていました。そろそろ、また何かのプロジェクトを一緒にやりたいなと、今回のインタビューを通じて思いを新たにしました。

大平太一(おおひら・たいち)

1963年東京生まれ。慶応大学工学部中退。1988年にバンドTHE REDSでデビュー。1991年に解散後は、キティレコードのディレクターとして、玉置浩二、高橋洋子、ハイロウズなどを担当。その後インディーズレーベ ルberry recordsを立ち上げ、自身プロデュースのCECILなどをリリースした。AKEBOSHI、Hermann H.&The Pacemakers、キャプテンシトライダム、SCANDALなどのサウンドプロデューサー、ディレクターを歴任。現在、株式会社キティパブリッシング 代表取締役。音楽、原作、映像などの権利管理業務、音楽制作、及び本社所在地でもあるキティ伊豆スタジオの運営をおこなっている。

制作ディレクターとして:安全地帯、玉置浩二、ブルーボーイ、高橋洋子、SWITCH、ハイロウズ、ファンタゼロコースター、CECIL、Hermann H.&The Pacemakers、AKEBOSHI、SCANDAL、他。

山口哲一(やまぐち・のりかず)

1964年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』 (経産省監修)編集委員。j-Pad Girlsプロデューサー。SION、村上“ポンタ”秀一など の実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバ ルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。2011年頃から著作活動も始める。2011年4月に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)刊行。2012年9月に『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』(共著/小社)刊行。

『プロ直伝! 職業作曲家への道』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『エンジニアが教えるボーカル・エフェクト・テクニック99』の詳細はこちら(リットーミュージック)

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