第2回:特別インタビュー 植松隆之(前編)〜“職業作曲家”という言葉には色を付けられなかった

WEB版 職業作曲家への道 by 聞き手:山口哲一 2013/07/31

音楽関係のクリエイターにお話を伺っていくこの連載ですが、2回目にしていきなりの特別編として、書籍のデザイナーさんが登場です。デザイナーは『プロ直伝! 職業作曲家への道』をどう読み、いかに造本設計をしたのでしょうか?

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カバー用紙はアラベールホワイトで、インキはDIC582の1色のみ(インキ盛り気味で指定)。本文用紙はアスワン

今回お話を伺ったのは、書籍『プロ直伝! 職業作曲家への道』のデザインを担当した植松隆之さん。都内某所に事務所を構え、書籍やムックを中心にしながら、パッケージデザインなども手がけているデザイナーさんです。『プロ直伝! 職業作曲家への道』は、カバーが1色で、文字だけで構成された強いデザインが印象的ですが、“どうしてこうなったのか?”には監修者としてたいへん興味を持っていました。しかも、どうやら本の内容を面白がってくれているらしいという情報もあり、インタビューを打診した次第です。同じクリエイターということで、作曲家とデザイナーにもいろいろ共通点があるようなので、ぜひ音楽系の皆さんにも読んでいただきたいと思います。前後編の2回に分けてお送りします。

制約がある中でものを作る

山口 この連載では、基本的に作曲家やプロデューサーなどの音楽系のクリエイターにお話を伺っていこうと思っているのですが、書籍のデザインを担当された植松さんには、いろいろ聞いてみたいことがあったのでインタビューをお願いさせていただきました。実はお会いするのは初めてということもあって、今日は楽しみにしていました。で、まず植松さんに聞きたいなと思っていたのが、『プロ直伝! 職業作曲家への道』をどう読まれたのかということ。担当編集者によると、畑は違うけど結構面白がってくれていたということだったので。

植松 作曲家とデザイナーは、似ているところもあれば違うところもあって、確かに作業をしながら興味深く読ませていただきました。僕が一番似ているなと感じたのは、“制約がある中でものを作る”というところでしたね。『プロ直伝! 職業作曲家への道』を読むと、曲を作る作業に結構な制約があることが分かりましたから。依頼人がいて、締切があって、CMタイアップがあればサイズも決まっていて……そういう中で、曲作りをするわけじゃないですか? デザイナーも同じで、依頼を受けて、本の大きさとか使えるインキの数、紙……そういった予算も含めた制約の中でいかにベストを尽くすか、いかに面白いものを作るか、ですから。だから、流し込み作業をしながら、すごく共感を持って読んでいたんですよね。

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山口 逆に、違うのはどんなところでした?

植松 相違点は報酬の形態ですよね。作曲家はたぶん印税形式が多いと思うんですけど、デザイナーの場合は、キャラクターなんかをデザインしない限りは基本的にはギャランティですから。

山口 そこは、アレンジャーに近いのかもしれないですね。

植松 そうかもしれません。ただ、ギャラだからその本が売れたかどうか全く関係無いかと言えばそんなことは無くて……。やっぱり、当然ですが自分がかかわったものは売れてほしいと思っています。それは、売れたら次の仕事につながるかもっていう期待もありますけど(笑)、それだけではない。編集者の方が「この本はこれくらい売れるな」という見込みで企画して、それが持ち込まれるわけじゃないですか? そこでデザインが邪魔してはいけないなっていうのは、ありますよね。良いデザインとか悪いデザインって判断が難しいですけど、企画を本来あるべき形で実現するのが自分の仕事かなって。そういう意味では、僕は自分を職業デザイナーだと思っているんです。

本書で刺さった言葉たち

山口 職業デザイナー、まさに本書にピッタリの方にデザインしていただけたんですね(笑)。

植松 タイトルになっている“職業作曲家”という言葉は非常に新鮮で、「この言葉は絶対に立たせた方が良いし、タイトルだけで売れる本だな」と思ったので、カバーのカンプ(見本)もすぐできちゃったんですよね。

山口 このタイトルは出版社が付けてくれたんですけど、音楽業界的には“職業作曲家”って、ネガティブなニュアンスも含まれていて、かなり微妙な言葉なんです。

植松 あ、やっぱりそうなんですか?

山口 僕が自由に決めるなら、絶対に選べないです。今回は編集者とのやりとりの中で、“職業作曲家”という言葉が刺さってますよ、という話もあって、「それなら、乗ります」って感じで決めました。作品を出すって、スタッフとのやりとりが重要というのを骨身に染みているので、押し引きの加減は分かっているつもりなんですよ。出版社やデザイナーが推してるなら、それに従うのが、この本を出すにあたっての正義だと思いました。

植松 言い方は悪いですけど、アーティストからは一段下に見られているところがあるんでしょうね。でもそれはデザイナーの世界も同じで、「職業デザイナーなんかダメだよ」っていう価値観はあって……。それで言うと、本に出てきた玉井健二さんの“かっこいい裏方からただの裏方へ”という言葉は、僕の気持ちと全く一緒だなって思いました。

山口 おお、読んでくれていますね(笑)。ほかには、どんな言葉が刺さりました?

植松 いっぱいあったんですけど、伊藤涼さんの章で出てきた“ムダに傷つかない”という言葉はドンピシャでした(笑)。

山口 これは、マネージメントを長年やってきた僕の考えでもあって。“ムダに傷つかない”というのはちょっとひどい表現ではあるんですけど、クリエイターに対しては、「傷つくのはムダだよ」と言ってあげた方が良いと思うんです。

植松 作曲もデザインも同じだと思いますが、繊細な人が就く仕事だから、どうしても傷つきやすい。だから「失敗して当たり前」くらいに思っていた方が、良いとは思います。でも僕も、若いころは突拍子も無いものを作って怒られたこととか、結構ありました(笑)。最近は打ち合わせのテクニックが身に付いて、“この人とはここを意思疎通しておけば大丈夫”というのが分かるようになってきたので、傷つくことも無くなりましたけど。

山口 本書に出てくるKen Araiさんのインタビューとも、かぶってくるお話ですね。

植松 でも、大きなプロジェクトだと営業や社長さんに向けたコンペ用にカンプを作ったりすることもあって、それで通らないとさすがにガクってきますね。若い時だったら、絶対に傷ついていたでしょうね。ただ、そこで気持ちを切り替えて、「じゃあどうしましょう?」って言えるようになりました(笑)。

山口 それができるのがプロですよね。相手を巻き込みながら、クオリティを上げていくというのが、プロの仕事だと僕は思っています。

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光が降り注ぎ居心地の良い、植松デザイン事務所の打ち合わせスペース。ペンキ等の内装は自身で手がけたという

迷わずに出てきたものの力強さ

山口 先ほど、カバーのカンプが早く上がったということでしたが、もう少し詳しく経緯を教えていただけますか?

植松 編集の方から企画書をいただいて読んでみたら、今までの本とは毛色が違うというのが、明らかに分かったんですね。しかもタイトルが面白かったし、“職業作曲家”という言葉も新鮮だった。あと、僕がちょうど文字だけでデザインしたいなっていう時期でもあった(笑)。そういうタイミングだったので、「これはタイトルだけで見せられるんじゃないかな?」って考えたら、そこからはすごく速かったんですね。

山口 確かに「迷いの無さ」を感じました。著者としては「赤とか金色とか使ってほしい」という気持も無くは無いのですが(笑)、僕は本業はプロデューサーで、何十年もこういう仕事をしてきましたから、自分のエゴ的な感覚よりも、デザイナーの方が迷わずに出してきたものの力強さを優先するべきというのは、理解できるつもりでいます。ビビっときました。

植松 それはうれしいですね。

山口 逆に言うと、僕が発注側になることも多いので、相手を迷わせてはいけないという思いも強いんですよ。直しって1回くらいは良いんですけど、何回も直しが入ると、だいたいワケが分からなくなって良い結果を生まないじゃないですか?

植松 そうなんですよ。

山口 今回は、パキッと迷いが無かったので、「この迷いの無さは乗るべき!」って感じました。「ヒットはこんな時に出る!」みたいな気分です。実際、カバーが最初に決まっているっていうのは気持ちが良かったし、宣伝的な視点でも、良い流れになりますよね。

植松 確かに、一番良い流れでしたね。なんとなくモヤモヤしながら、中身を作っているわけではなかったので(笑)。ちなみに、今回はカバーが特色の黒1色なんですけど、これは“職業作曲家”という言葉には色を付けられなかったところが大きかったんです。色は人によってイメージが違うので、僕が勝手に黄色とか赤を付けるわけにはいかないし、色を決める必要も無いかなっていうところで。しかも今回は、色が無い方が絶対に目立つなと思ったんです。

山口 本のカバーとかCDジャケットは、思い切りの良さとか潔さも大事だと思うんです。その方が、絶対に伝わるというか……。でも今回の本は情報量も結構あって、ちゃんと「買ってください!」と書いてある(笑)。その感じも好きでしたね。

植松 シンプルで目を引かせる、最近流行りの様式があるんですけど、そういう本にはしたくないなというのはありましたね。だから、ちゃんと情報も載せているんです。

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今回は黒い本にしたかった

山口 潔いと言えば、今回は帯も無いじゃないですか?

植松 最初は帯があるデザインで考えていたんですけど、「じゃあ、この帯を取った下には何があるべきなのか?」を考えたら、「ああ、もう帯は無くても良いかな?」ってなったんです(笑)。それでよりシンプルになってきて、本体表紙も見返しも黒という、“黒い本”になっていった。歴史的に言えばもともとは本体表紙が本来の表紙で、そこに帯がかかっているのが一般的だったんですよね。でも、いまはカバーに帯がかかるのが普通で、そうなると帯の必要性も怪しく思えてくる。今回は帯が無いので、カバーが帯みたいな感覚で、それを外すと本来の表紙が出てくるという形です。

山口 本体表紙の感じは、すごい良いですよね。とても好きです。

植松 ありがとうございます。カバーの情報量がすごく多いので、逆に本体表紙には情報を入れないようにしたんですよね。あと今回は黒い本にしたいという思いがあったので、本体表紙には黒い紙を使って、白インキで最低限のクレジットだけを背に刷っています。白い紙に黒で印刷するのもアリだったんですけど、黒い本にしたいんだったら、黒い紙を使えば良いかなって感じで。

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カバーを取ると出てくる本体表紙は色上質(黒・超厚口)に、背だけオペーク白(DIC FINE INK PO100白)で印刷。見返しはタントN-1 100kg(黒)という、まさに“黒い本”

山口 黒い本にしたかったというのは?

植松 やっぱり色を付けるのが難しかったので、そうすると黒か白しか選択肢が無いじゃないですか? でも、白い紙だと汚れやすいので、ニスなどの加工が何かしら必要になる。あとは作曲って、僕の中では音符のイメージがあるから、やっぱり白と黒なんですよね。あとはタキシードとか、そういう厳格な感じが出したかったんです。軽い感じではなく……。それで黒ということになったのかな? でも本文組みにはちょっと軽さもあり、良い感じに落ち着いたかなと思っています。

山口 本文組みは、大見出しが大きくて印象的でしたね。

植松 それはMdN時代に、上司の木村(由紀)さんが教えてくれたことなんですよね。書籍って、やっぱり店頭でパラパラめくるものだったりするので、引っ掛かりが欲しいじゃないですか? だから、言葉が入ってくるように見出しはちょっと大きめにする。そこは、いつも気を付けていますね。

山口 それが書籍全体の個性やトーンにもつながっていて、とても面白いと思います。

植松 あと、本文用紙は真っ白でも良かったんですけど、文字が多い読み物系だったので、目に優しい色を選びました。中身は柔らかい感じのデザインにしたかったのもありますね。真っ白だと、手書きの感じとかは少しミスマッチかな〜と。

山口 本文では随所に手書きっぽい装飾があって、あれも良い味を出していましたね。アー写がポラ風に処理されていたり、細かい遊びもうれしかったです。

(次回は後編をお送りする予定です)

POSTSCRIPT by 山口哲一

音楽プロデューサーや事務所社長として、CDジャケットのデザイナーとは、数え切れないほど打合せしてきていますが、書籍(エディトリアル)のデザイナーや装幀家と、自分の書籍で話をしたのは初めての、そして貴重な経験でした。

今回の『プロ直伝! 職業作曲家への道』では、初期の段階から、デザイナーの熱意や、僕の意図を理解しくれている、“腑に落ちている”感じが伝わってきて、嬉しく思っていたのですが、実際にお会いしてみて、すごくハッピーな気分になりました。同じ方向を見て、一緒に作品をつくったんだなと、感じました。

お互い仕事ですから、プロとして、やるべきことをやり、質の高い結果を提供するのは、わざわざ言うまでもない、当たり前のことなのですが、コンテンツとかエンターテインメントかいう分野は、心意気や思い入れが、実際のところ、重要なファクターでもあるのです。こんなに深い理解と、盛り上がった気分で、僕の本をデザインしてくれていたというのは、本当に幸せなことで、感謝。

そして、植松さんが語っている、デザイナーも音楽家も、プロとして長く仕事をしていく上で、大切なことは共通だというのは、至極、もっともな、合点のいく話です。プロのクリエイターが持つべき矜持や気をつけるべきことは、概ね同じなんですね。

僕自身、旧い友人に頼られて、2年前から、第一線で活躍している舞台演出家のエージェントをしているのですが、その中で実感しています。演劇の世界は、専門ではありませんけれど、押さえるべきポイントは共通しています。クリエイティブな仕事をしてお金をいただくというのは、難しいけれど、とても貴い仕事だと思います。ユーザーの厳しい目にもさらされます。長く続けていくのは、並大抵のことではありません。

それでも、一流の仕事をやり続ける人は、作品への深い愛情と、かかわる人たちへの心遣いと、自分の仕事へのプライドをしっかり共存させているのだというのを、植松さんと話して、あらためて確認しました。

そんな気分が読者と共有できたら幸せです。

植松隆之(うえまつ・たかゆき)

1974年群馬県生まれ。千葉県柏市で育つ。高校卒業後2年間は月島の倉庫で肉体労働。20歳の時にアルバイトでDTPオペレーター兼デザイナーとして編集プロダクション勤務。その後は出版社、デザイン事務所を転々としながら2011年に独立。植松デザイン事務所として現在はフリーのグラフィックデザイナーとして活動中。

山口哲一(やまぐち・のりかず)

1964年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』 (経産省監修)編集委員。j-Pad Girlsプロデューサー。SION、村上“ポンタ”秀一など の実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバ ルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。2011年頃から著作活動も始める。2011年4月に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわか る本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)刊行。2012年9月に『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』(共著/小社)刊行。

 

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