LOVE29:愛が見せるすべての表情を持つのは彼女

I LOVE YOUから始める英詩のレトリック by 中山美樹 2014/04/19

欧米の新旧ヒット・ソングから隠れた名曲まで、特に印象的な英詞を紹介するLOVEいっぱいのコラム『LOVEレト』。29回目はエルヴィス・コステロの「She」。映画『Notting Hill』のエンディングロール(closing credits)で流れる有名なバラッドなんだけど、フランスのシャルル・アズナブール(Charles Aznavour)が作って歌った1974年リリースのシングル「Tous Les Visages de L’amour」の英語カバーなの。シャルル自身はフランス語以外にイタリア語、スペイン語、ドイツ語でも録音しているけど、英語では歌っていないようね。

 「She」 by Elvis Costello

 

「Tous les visages de l’amour (she) 」by Charles Aznavour

 

今回はフランス語の英語カバーという今までとは毛色の違う曲ね。最初にオリジナル仏語詞の英語訳を読んでみて欲しいな。

Tous Les Visages de L’amour/French & English

 

「She」というタイトルはドイツ語とイタリア語のタイトルの「Sie」(独)「Lei」(伊)に従ったもので、仏語詞では「toi」(あなた)、「moi」(私)で始まる箇所を「she」に変え、「彼女のストーリー」にしていることに気付くはず。またバラッドでは大事な踏韻の美しさという点でこの曲のそれはまさしく絶品ね。

ずっと「彼女のストーリー」が続いて、やっとオリジナルに近い「me」が出てくるのが最後のこの部分よ。

She may be the reason I survive
(僕が生き残る理由が彼女かもしれない)
The why and wherefore I’m alive
(僕が生き残る理由そのもの)
The One I’ll care for through the rough and ready years
(辛くて待ちの時期であっても慈しむ人そのもの)
Me I’ll take hear laughter and her tears
(僕は彼女の笑い声と涙を受け止めて)
And make them all my souvenirs
(その全部を自分の記念品にするんだ)
For where she goes I’ve got to be
(彼女が行く所はどこであっても僕も行くんだ)
The meaning of my life is she
(僕の生きる理由が彼女なのだから)

対訳と訳詞の違いがこの曲にはよく表れていると思うの。オリジナル曲の感情やイメージを尊重しつつ、訳す言語の文学に存在する「詩」のルール、音符と言葉両方の音の兼ね合いを考えながら作るのが訳詞と言えるわね。異なる語族に属する2言語間での訳詞作りは、ある意味で新たに歌詞を作るのと同じこと。そんなことを思いながら対訳や訳詞を読むと、英詞を作るときに新たなアイディアが浮かぶかもしれないわよ。

英語は確かに世界共通の便利な言語だけど、世界には英語以外の言語も多数存在するのも事実。先入観を捨てて、色んな言語の音と響きを聞いてみるのも楽しいと思うわよ。

 

 

中山美樹(Miki Nakayama)

ミュージシャンの取材に特化した通訳/翻訳というマニアックな仕事を1980年代終わりから続けている。これまで取材通訳、電話取材、インタビュー翻訳をしたアーティストは数知れず。歌詞対訳したアルバムも数多く、近年は日本人アーティストから歌詞英訳の依頼もしばしば舞い込み、レコーディング時の発音指導も行っている。その愛情あふれる通訳/翻訳でミュージシャン、ライター、編集者からの信頼も厚く、取材現場やライブ会場で仲良しミュージシャンとハグする姿がしばしば目撃される。書籍『ミック・カーン自伝』(リットーミュージック刊)の翻訳も行っている。

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