LOVE19:同じ歌詞でも曲が違えば……(テクニック編)

I LOVE YOUから始める英詩のレトリック by 中山美樹 2013/11/09

欧米の新旧ヒット・ソングから隠れた名曲まで、特に印象的な英詞を紹介するLOVEいっぱいのコラム『LOVEレト』。19回目はちょっと趣向を変えて、私が英訳をお手伝いした曲を紹介するわね。これは同じ英詞を異なる楽曲で使ってみたという興味深いものなの。

「GLORIA」by 摩天楼オペラ

 

「喝采と激情のグロリア」 by 摩天楼オペラ

摩天楼オペラが約1年前にリリースした「グロリア3部作」と呼ばれる3曲の中の1曲目「Gloria」と3曲目「喝采と激情のグロリア」。どちらも男女の愛というよりも人間愛、人の生き方に対する愛情を歌ったもの。大きな意味でラブソングと呼べるものだと思うの。

作詞者であるボーカルの苑さんと相談しながら完成した英詞はこんな感じ。

Spirits in our song embrace Gloria
(僕たちの曲のスピリットが栄光を抱く)
All the pain and hurt’s put behind
(すべての痛みと苦しみは忘れて)
We will see the world full of Gloria
(僕たちは栄光に溢れる世界を見ることだろう)
Even stains will color our days
(汚れさえも僕らの日々を彩るだろう)

1 曲目の「Gloria」では英詞2行の後に日本語の歌詞が入るでしょ? ここでトリッキーな点は、英詞の最後の単語の最後の音が次にくる日本語詞の冒頭の音を邪魔しない音にするということ。上手く音が流れるようにしないと歌詞が伝わらない。ブレスが短ければ短いほど、これが大事になってくるわけ。そこに特別なルールはないし、とにかくメロディに乗せて歌詞を歌ってみて、音の流れを見つつ、ボーカリストの感覚に頼るしかないわね。英詞と日本語詞が別々のブロックの場合はあまり気にしなくていいけど、英語と日本語が混在する歌詞を書く場合には、この点をしっかり覚えていて欲しいな。
 
作詞をするミュージシャンから「この意味を表したいけど、英語では何と言うの?」というふうに助けを求められることがよくあるの。ところが、これはけっこう曲者で、日本語を英単語に置き換えるだけではダメ。メロディの譜割に合う音節(シラブル)を考えつつ、歌詞の雰囲気に合う単語を見つけ出さないといけないわけなのよ。

英単語のシラブルを確認するには辞書を見るのが一番。例えば「embrace」なら、辞書には「em-brace」と書いてあるはず。これは「em」が1音、「brace」が1音で、節が2つに分かれているということ。つまり、この単語を気持ち良く歌うには音符が2つ以上必要ってことになるわけ。

最近はオンライン辞書を使う人が多いと思うけど、必ず「分節」というのが書かれているので、それを参照して符割に合わせるようにしてね。それだけで英詞のクオリティがぐ〜んと向上するはず。

表現したいこと、適した英単語、シラブル、符割……これらがすべて一致したときに自分らしい英詞が生まれるはずだから、何度もtry & errorを繰り返しつつ頑張って欲しいな。

 

今回は欧米の優れたラヴソングではなく、日本のバンドの優れた楽曲の中の英詞をピックアップして、実用的なテクニックを紹介してみたわ。参考になるといいんだけど……。

ちなみに「グロリア3部作」の2曲目はこれよ。こちらもチェックしてね。

 

 「Innovational Symphonia」 by 摩天楼オペラ

中山美樹(Miki Nakayama)

ミュージシャンの取材に特化した通訳/翻訳というマニアックな仕事を1980年代終わりから続けている。これまで取材通訳、電話取材、インタビュー翻訳をしたアーティストは数知れず。歌詞対訳したアルバムも数多く、近年は日本人アーティストから歌詞英訳の依頼もしばしば舞い込み、レコーディング時の発音指導も行っている。その愛情あふれる通訳/翻訳でミュージシャン、ライター、編集者からの信頼も厚く、取材現場やライブ会場で仲良しミュージシャンとハグする姿がしばしば目撃される。書籍『ミック・カーン自伝』(リットーミュージック刊)の翻訳も行っている。

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