LOVE18:愛したいんだよぉ!

I LOVE YOUから始める英詩のレトリック by 中山美樹 2013/10/26

欧米の新旧ヒット・ソングから隠れた名曲まで、特に印象的な英詞を紹介するLOVEいっぱいのコラム『LOVE レト』。18回目は2度目の登場のマルーン5の「ラヴ・サムバディ」。これは2012年リリースの4枚目のアルバム『オーヴァーエクスポーズド』収録で、今年5月にリリースされたアルバムからの最後のシングル曲よ。

「Love Somebody」by Maroon5

 

MV(Music Video)というアートフォームが確立されている欧米では楽曲のイメージを視覚的に表すビデオが作られることが多いの。ひとつの作品として成立するように工夫されているわね。一方、日本ではPV(Promotional Video)と呼ばれることからも分かるように、ビデオの主目的は楽曲の販売促進。面白いビデオ作品を作るアーティストもいるけど、アートフォームとしてはまだまだ確立されていないという印象が否めないわね。

 

この「Love Somebody」というタイトル、直訳すると「誰かを愛したい」。この「somebody」を歌詞内の「you」とは別人だと捉えると、心にはまだ「you」がいるけど、そんなことは忘れて「somebody」(=他の誰か)を愛したい……と思っている、なんとも往生際の悪い、逃げモードの男の心情になってしまう。そんなとらえ方をしている人をオンラインで発見したけど……はたして、そうなのかしら?

ある日、誰かと出会った(←ここは私の推測よ)。その人は心に大きな喪失感を抱えていて苦しそう。でも、もし僕が君(=その人)に恋をしたら、もう平常心は取り戻せないだろう。以前の自分と同じではいられないはず……という意味だとしたら? そう解釈すると、次の歌詞が生きてくると思うの。

I think about you every single day(毎日君のことを想っている)
I know we’re only half way there(まだ行き着く所までは到達してないと分かっているよ)
But you can take me all the way(でも君ならそこに僕を連れて行けるんだ)

何らかの理由で「誰かを愛したい」「夜通し踊っていたい」(これは「一晩中恋人と楽しく過ごしたい」という比喩とも取れるわ)と願っている主人公が「この人なら」と見定めたのが「you」。そして、まだ知り合ったばかりだからこそ……

I don’t know what to do(どうしていいやら分からないんだ)
I’m right in front of you(僕は君の目の前にいるよ)
Asking you to stay(君に「行かないで」と頼んでいるのさ)
You should stay(君はここにいないとダメだよ)
Stay with me tonight(今夜 僕と一緒に)

ほらね、恋の始まりの歌になってしまう!

歌詞というのは受け止める側の感情や先入観で意味合いが違うものよ。これまで取材したアーティストの多くが「自分の手を離れた時点で曲はみんなのもの」と言っていたけど、曲を聞いた人が自由に受け止められる余白を残すことが作詞では大事じゃないかしら? 特にラブソングにおいてはね。

「all the way」(遠路はるばる、わざわざの意) にまつわる蛇足だけど……
「Did you come all the way?」は普通だと「(驚きつつ)えっ、そんな遠い所からわざわざ来たの?」という意味になるんだけど、愛し合った後にパートナーに言われたら「ちゃんとイッた?」という意味よ♪

中山美樹(Miki Nakayama)

ミュージシャンの取材に特化した通訳/翻訳というマニアックな仕事を1980年代終わりから続けている。これまで取材通訳、電話取材、インタビュー翻訳をしたアーティストは数知れず。歌詞対訳したアルバムも数多く、近年は日本人アーティストから歌詞英訳の依頼もしばしば舞い込み、レコーディング時の発音指導も行っている。その愛情あふれる通訳/翻訳でミュージシャン、ライター、編集者からの信頼も厚く、取材現場やライブ会場で仲良しミュージシャンとハグする姿がしばしば目撃される。書籍『ミック・カーン自伝』(リットーミュージック刊)の翻訳も行っている。

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