LOVE13:勢いでHold meと言われても……

I LOVE YOUから始める英詩のレトリック by 中山美樹 2013/08/09

欧米の新旧ヒット・ソングから隠れた名曲まで、特に印象的な英詞を紹介するLOVEいっぱいのコラム『LOVE レト』。13回目は新人トム・オデールのデビュー作『ロング・ウェイ・ダウン』収録の「ホールド・ミー」。

「Hold Me」by TOM ODELL

バーで演奏し歌うというシンプルなMV。リヴァプールで1年間続けたオープンマイクの経験がモチーフになっているのかも(推測よ)。ちなみにロンドンで地道にライブ活動を続けていた彼を見つけたのは、あのリリー・アレン! 彼女にデヴィッド・ボウイを彷彿とさせたんだって。

 

トム君の場合、歌詞の素となるのが、自身の「恋愛関係が6ヶ月以上続かないというダメっぷり」とのこと。また、こんなふうにも言っているの。

「I find that I write much better songs when I’m being honest, and writing about things that happen to me.」

(正直な気持ちで、自分に起きた出来事について書く方が断然良い曲になると気付いた)

そんな正直トム君ゆえ、この曲の歌詞も非常にシンプルで、「When you hold me」というフレーズの繰り返し(repetition)が心に響いてくる。タイトルは「Hold Me」以外にないって感じね。

 

曲の情景としては、一緒にお酒を飲んだ帰り道にお相手に対する特別な想いが募ってきて「I shouldn’t say it but I’m starting to think I care」(言うべきじゃないのは分かっているけど、気になり始めているんだよ)と、堪え切れずに言ってしまう「僕」。

お酒を飲んだから「You probably think my judgment is impaired」(たぶん君は僕が正気じゃないと思っているだろうけど)と言い訳も忘れずに。

でも「It’s getting late now, we’re a long way from our homes」(もう夜も遅いし、二人とも家が遠いから)、「Before you leave, before you grieve, there’s one thing you should know」(君が行く前に、君が嘆き悲しむ前に、ひとつだけ言いたいことがあるんだ)と。

ここの「grieve」は直前のフレーズの「leave」と押韻させるために選んだ単語だと推測されるけど、「君が嘆き悲しむ前に」って……文字通りの意味で解釈すると、この「僕」は相当の自信家か、空気を読めない「思い込み君」かって感じ(苦笑)。

興奮で気持ちが舞い上がったのも束の間、「I’m dumbfounded by the breadth of your self control」(君の自制心の強さに唖然としちゃった)。う〜ん、これは自制心の強さというよりも「お酒飲んで遅くなって、家が遠いからって、ナンパするかぁ?」と相手が呆れた可能性大だと思うな。

 

この「僕」は情熱家で、自分の気持ちに正直とも言えるけど、恋を始めるにしても「もしかして……」という予感なしで告白されたら女の子は一気に引くはず。そんなところが恋愛が長続きしない原因の一つかもしれないけど、それを正直に歌にするあたりがトム君の正直さなのね。トム君、今後の健闘を祈る!

中山美樹(Miki Nakayama)

ミュージシャンの取材に特化した通訳/翻訳というマニアックな仕事を1980年代終わりから続けている。これまで取材通訳、電話取材、インタビュー翻訳をしたアーティストは数知れず。歌詞対訳したアルバムも数多く、近年は日本人アーティストから歌詞英訳の依頼もしばしば舞い込み、レコーディング時の発音指導も行っている。その愛情あふれる通訳/翻訳でミュージシャン、ライター、編集者からの信頼も厚く、取材現場やライブ会場で仲良しミュージシャンとハグする姿がしばしば目撃される。書籍『ミック・カーン自伝』(リットーミュージック刊)の翻訳も行っている。

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