LOVE10:愛は狂気を帯びて……

I LOVE YOUから始める英詩のレトリック by 中山美樹 2013/06/29

欧米の新旧ヒット・ソングから隠れた名曲まで、特に印象的な英詞を紹介するLOVEいっぱいのコラム『LOVE レト』。10回目はサーティー・セカンズ・トゥ・マーズの最新アルバム『ラヴ・ラスト・フェイス・アンド・ドリームス』収録の「アップ・イン・ジ・エアー」。

このバンドは1998年にボーカルのJared Letoが兄弟のShannon Letoと共に始めた“家族プロジェクト”なんだけど、人気ハリウッド俳優でもあるジャレッドはライブ告知で俳優業に触れた会場では演奏を拒否しているんだって。その心意気、素敵よね!

「Up In The Air」by Thirty Seconds To Mars

映画仕立てのMVで8分という長編。万人受けはしないだろうけど、私はこういうMVが大好き♡

 

 

こっちはリリック・ビデオ。これもMV同様に見応えのあるビデオね! 最高画質&フルスクリーンで見ると俯瞰からの映像がとても気持ちいいわよ。

 

「I’ve been up in the air, out of my head」(正気を失って、ずーっと宙に浮いている)から始まる曲。MVの印象でダークサイドに落ちる人間の歌かと思いきや、狂気を孕んだ愛を謳った曲なの。「a moment of emotion I’ve destroyed」(破壊した感情の瞬間)に取り憑かれたり、「all the laws I broke」(破ったすべての法律)や「(all the) loves that I sacrificed」(犠牲にしたすべての愛)を感じてしまうから、「Is this the end I feel?」(これがオレなりの“終わり”なのか?)と。

 

そして「I’ll wrap my hands around your neck so tight with love」。「愛を込めて君の首に手を回すよ」なんて、一瞬ほのぼのした光景を浮かべてしまうけど、ここで首に回すのは腕(arms)ではなく手(hands)。それも「so tight with love」(ありったけの愛を込めて)……つまり、ありったけの力を込めて首を絞めるってこと! そう、愛するがあまり殺めちゃおうってことなの!!

 

「a thousand times」(何千回も/数え切れないほど)「I tempted fate」(運命に逆らってきた)り、「I played this game」(この人生の駆け引きをやってきた)り、「I have said, today」(今日こそは…と言ってきた)りした挙げ句、ふわふわとした高揚感に包まれた主人公は「love of my life」の“君”の首を絞めるという「chasing a dream so real」(リアルな夢を追いかける)。

 

今回の注目フレーズは「I’ll take no more」(もう嫌だ/もうやめた)。これは日本語にはない表現方法で、肯定文なんだけど「NO」という一言ですべてを否定しているわけ。否定文で書き換えると「I will not take any more」となるけど、ここで注意して欲しいのは「will not〜」だと「〜しない」という単純な未来形、「won’t 〜」だと強い意思を持って「絶対に〜しない」という意味になる点。文脈によって「won’t」でも単純な未来形として機能することもあるけどね。

 

「NO」を使った用例には「I’m nothing/I’m no one」(私は何の価値もない人間)や「it’s going nowhere」(どこにも進まない=八方塞がり)などがあるわね。

 

ホント、運命の人(love of one’s life)ってのは厄介なもの。幸せを与えてくれる相手でもあり、内に秘めた狂気を引き出す相手でもあり...oh well…

 

 

中山美樹(Miki Nakayama)

ミュージシャンの取材に特化した通訳/翻訳というマニアックな仕事を1980年代終わりから続けている。これまで取材通訳、電話取材、インタビュー翻訳をしたアーティストは数知れず。歌詞対訳したアルバムも数多く、近年は日本人アーティストから歌詞英訳の依頼もしばしば舞い込み、レコーディング時の発音指導も行っている。その愛情あふれる通訳/翻訳でミュージシャン、ライター、編集者からの信頼も厚く、取材現場やライブ会場で仲良しミュージシャンとハグする姿がしばしば目撃される。書籍『ミック・カーン自伝』(リットーミュージック刊)の翻訳も行っている。

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