LOVE7:優しく守りたいなら……

I LOVE YOUから始める英詩のレトリック by 中山美樹 2013/05/17

欧米の新旧ヒット・ソングから隠れた名曲まで、特に印象的な英詞を紹介するLOVEいっぱいのコラム『LOVE レト』。7回目はThe Cars の1984年リリースのアルバム『Heartbeat City』からの3枚目のシングル「Drive」。1985年のLive Aidコンサートで、飢餓に苦しむアフリカの人たちのモンタージュ・クリップのBGMとしても使われた名曲よ。

The Cars「Drive」

俳優ティモシー・ハットンがディレクションした公式MV。出演している女優のポーリナ・ポリズコバは後にボーカル/サイドギターのリック・オケイセックと結婚。

 

1985年当時、アメリカの片田舎で暮らしていた私が早朝からLive Aidをテレビで見ていて、この曲を耳にした途端に鳥肌が立った記憶があるの。メランコリックでシンプルなメロディだからこそ歌詞が際立つ。その歌詞もとてもシンプルで、気持ちを伝えようとする主人公の想いが伝わってくるわよね。ボーカルを取っているのはベースのベンジャミン・オール。残念なことに彼は2000年にすい臓ガンで他界してしまったのよ。

さて、この曲、歌い始めが「Who’s gonna」(誰が)で始まり、その後に「tell you when it’s too late」(もう遅いんだと教える)や「tell you things aren’t so great」(上手く行ってないと教える)というふうに続き、「そんなことをするのは僕だけだろう?」と暗に訴えているわけ。

前にも言ったように、文章の最後の単語の音韻を踏むと音の収まりがよくなる。そして音の流れが自然だから、実はボーカルにとっても歌い易いものになるの。それを踏まえて歌詞を見てみると、最初が「late」と「great」(エイト音つながり)、次が「fall」と「call」(オール音つながり)、「dreams」と「scream」(イーム音つながり)、最後が「shake」と「break」(エイク音つながり)。

この歌詞の頭韻(文章の始まりの語句の韻)は既に述べているように「Who’s gonna」で統一されているので、頭も尻尾もしっかり韻を踏んでいるという、非常に心地良い音の流れ方なの。歌詞がメロディに乗ってすーっと入ってきてしまう理由はここにあるわけ。

また、「Who’s gonna」が繰り返された後での「You can’t go on, thinking nothing’s wrong」(このまま続けるのはムリだよ、上手く行くと思い込んだままで)は、繰り返しの後の音の変化が人の耳を引きつけるから、主人公が一番伝えたいことが効果的に伝わるの。更に「go on」と「wrong」もオンという音で韻を踏んでいるという周到さ。

シンプルな歌詞なので、今回の注目すべき点は「見事な韻の踏み方」に尽きるわね。こんなに素敵なバラッドの韻を分析するなんて無粋だって私も思うわ。でも、歌詞をしっかり伝えたい曲だからこそ、耳にすんなり入り込む音を綴ることが大事なの。これは日本語の歌詞にも言えることじゃないかしら?

中山美樹(Miki Nakayama)

ミュージシャンの取材に特化した通訳/翻訳というマニアックな仕事を1980年代終わりから続けている。これまで取材通訳、電話取材、インタビュー翻訳をしたアーティストは数知れず。歌詞対訳したアルバムも数多く、近年は日本人アーティストから歌詞英訳の依頼もしばしば舞い込み、レコーディング時の発音指導も行っている。その愛情あふれる通訳/翻訳でミュージシャン、ライター、編集者からの信頼も厚く、取材現場やライブ会場で仲良しミュージシャンとハグする姿がしばしば目撃される。書籍『ミック・カーン自伝』(リットーミュージック刊)の翻訳も行っている。

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