「”その人が好き”というところに価値が見出せる」クリエイティブ・コモンズ ドミニク・チェン&Grow! カズワタベとのよもやま話(2)

コラム by 土屋綾子(RandoM編集部) 2012/12/06

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前回はフリーカルチャーのムーブメントやクリエイティブ・コモンズ(以下CC)が実現してきたことを2人に教えてもらった。今回は、Grow! Inc. CCOのカズワタベ氏に、同社サービスがつくる「新しい価値」について聞いてみることにしよう。「商品以外の部分に価値を見出せる」こと、それによって「ランニングコストを意識した創作活動」が可能になる、その仕組みとは?

ライブ常連のファン同士のように
コミュニケーションが軸になっている

ーGrow!は「サポーター・コミュニティ・サービス」とのことですが、どんなものなのですか?

ワタベ:Grow!は、インターネット上で個人や団体のコミュニティページをつくることができて、そこで毎月定額の会費を支払う「サポーター」を募ったり、情報発信を行うことができるサービスです。ブログサービスってありますよね。あれはその中で自分のブログを持てる仕組みですが、言わばそれのコミュニティ版です。音楽に結びつけるとファンクラブに近いものですね。
具体的にお話しすると、コミュニティ内にある「メッセージ」というページに、これまでの活動やこれからの目標、サポーターへの特典など、アピールの文章を書いてサポーターを募ります。ここにはYouTubeの動画や、SoundCloudの音楽の埋め込みにも対応しています。そして、「トークボード」と呼んでいるサポーター専用の掲示板で、コミュニケーションや情報発信を。「サポーター特典」のページではファイルをアップロードして、サポーター限定のコンテンツを配信することができます。各コミュニティのサポーターの会費は、500円刻みで設定することができます。

コミュニティをつくる作業はとても簡単で、それ自体は5分から10分もあれば終わると思います。特に、特典にできるようなコンテンツがすでにある方はすぐ開設できるのではないでしょうか。自分のコミュニティをなるべく簡単に開設・編集できるような機能を提供しています。

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Grow!のトップ画面

―CCもつい最近参加しましたね。

ワタベ:CCはミュージシャンではありませんが、素晴らしい活動をしているということに変わりはありません。早速20人以上のサポーターが集まってますね。今まではこういうファンクラブのような仕組みはある程度有名な人でないと、初期コストや運営コストの都合でなかなか立ちあげられなかったんですよね。インディーズのバンドが自前で立ち上げるのも現実的ではなかった。しかし、こうやってプラットフォーム化したウェブサービスとして提供することで、コストがかからず、とにかく気軽に始めやすい仕組みになります。

前回の話にからめて説明すると、ネット上で個々のクリエイターやミュージシャンが自由に「発信」はできるようになってきましたよね。たとえばYouTubeで個人が動画をアップして、何10万再生、何100万再生、ということは作者が有名か無名かは関係なく度々起こっている。そこで、彼らが獲得した自分のファンとどうコミュニケーションしていくか? がすごく難しいんです。さらに、どうやって活動を継続するためのお金を得るか? となると、「iTunesやAmazonで曲を売ってるので買ってください」と商品の販売に誘導するしかなかった。 創作を行っている人たちがネットを通じてその存在を知ってもらったときに、ここへ誘導すれば継続的な関係と収益を作ることができる、そんなページがあればいいと思ったんですね。そうすることで、ある程度先々の計算ができる形で創作活動が可能になるんじゃないか。そういう考えで立ち上げたのがGrow!です。

ドミニク:やってみてよかったというところをまだ話してなかったと思うんで、ここでちょっと。
CCは今まで、寄付を集めるとか企業の協賛金でイベントをやらせてもらうとか、そういったスポット(単発)の形で活動することが多かったのですが、CCライセンスを使っていただいているクリエイターの顔が見えづらいという課題がありました。もちろんイベントでお会いする常連さんは数十人くらいいるんですが、それ以外の方への広がりというところで、皆さんがどう思っているのかが見えにくかったんです。
その点がGrow!に参加したら、すごく見えるようになりました。音楽家の方が質問の中で「どうしてCCライセンスを使っているのか」「どういうところに価値を見出しているか」を結構長文で書いてきていただいて。それが他のサポーターの方にも見られる形になっているので、コミュニティ感が非常に醸成されてきています。
今までだと個別にメールやTwitterのダイレクト・メッセージで対応していたのが、集まって話をして、作っているものを紹介しあって……というコミュニケーションがすごく自然に行われていて、気合いが入りますね。

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Grow!で展開中のCCのコミュニティ

ワタベ:コミュニティの適度なクローズ感がそこに影響していると思うんですよね。
例えばYouTube見て気に入ってくれた人と、ライブにいつも来てくれる人ってやっぱり違うじゃないですか。ライブハウスは一種クローズドな空間で、横のつながりだったりとかアーティストとの距離感などが密になっているところです。それをネット上に置き換えると、TwitterやYouTubeは情報をオープンにしてなるべく広く伝えるものだし、一方でGrow!は少し閉じた形で情報交換だったり交流ができる場所だと思うんですね。これらは両方あった方が活動の幅が広がります。

ドミニク:文章が上手い人はメルマガを書くっていうのが今もあると思うですが、文章が書けなくても口ベタでも音楽が素晴らしい人とか、絵とか映像もそうですけど、そういう人がコミュニティを簡単におこすことができるっていう感じですよね。

ワタベ:そうですね。

ドミニク:クローズドというと閉鎖的なイメージがあると思うんですが、そうではなくて親密感みたいなものがありますよね。

―『ソーシャル時代に音楽を”売る”7つの戦略』の著者である高野さんが、ソーシャル・メディアでは1回限りの関係で満足するのではなくて「ライフ・タイム・バリュー」という、一緒に生涯そいとげるくらいのファンを作っていくのが大事だと言っているのですが、Grow!はそれに最適なスキームですよね。

ワタベ:「コミュニティ」って形がすごく重要なんだと思っています。僕がライブの活動をしていたときに気づいたんですが、お客さんには2回、3回と来てくれる人もいれば、1回しか来ない人も絶対いるわけです。で、前者はなんで何回も来ててくれるのかなと思ったら、観に来てる人同士で友達がいる場合には何度も足を運んでくれている。 「あそこのライブいったらアイツらだいたい来てるし、他にはそんなに会う機会もないし」っていうので、実はバンドをハブ(中心)にしてファン同士が集まる機会になってたりする。こういうサイクルができはじめると、ライブの集客って安定するんです。それがGrow!はすごくやりやすいんですね。コミュニケーションが軸にあって、コンテンツのやりとりがあるとはいえ、基本的には「参加すること」に一番意味がある。

―もうすでに「好き」で集まっているから、ブレない。

ワタベ:そうですね。わざわざお金をはらって入ってきてネガティブなことを言いに来る人はなかなかいないんです(笑)。みんながコミュニティの運営者を応援したい人だと分かっているうえでのコミュニケーションって、やっぱり特別なものだと思うんですよね。
CCのコミュニティではサポーターの方も興味が強いので、「こんな質問来るんだ!?」っていうのもありますよね?

ドミニク:3人がかりで回答しています(笑)。うちはNPOですけど、コミュニケーションは求められているんだという発見がありますね。

ワタベ:サポートって言ってますが、実際はジョイン(参加)に近いんですよ。Grow!でコミュニティに入ったときの感覚は、可視化できないけどすごく重要ですよね。

ドミニク:カズくんのコミュニティができたときにサポーター第1号で入ったけど、普段しない話とかすごい面白くて。”Twitter上のカズワタベ”っているんですけど、それとは違う彼もいて、発見がある。ときどきトークボードでカズくんが普段Twitterに書かないことをポロッと書いたりして、「イイものを見させてもらったなぁ(笑)」と。そこがすごく自然で面白いんです。すごい有名なバンドやアイドルのファンクラブではない形のよりディープな付き合い方だと思います。アイドルはディープなファンにあまりいろんな話を暴露できないじゃないですか(笑)。オフィシャルな顔があるから。
その人の核心に肉薄すると、これを機に仕事やコラボができたら……という想像が容易にできますね。

バンドの”活動”で収益が得られる
これはとてつもなく価値のあること

ドミニク:ところで、CCで一時クラウド・ファンディングに関連した取り組みを検討したときがあったのですが、知り合いのクリエイターから「それは違和感がある、お金を意識しすぎているように見える」といわれてハッとして。「そういう風に見られたりするんだ」と思って。
その点、Grow!でやることに関しては彼らからもポジティブなフィードバックがあったので面白いなと思いました。みんなお金は入れているけれど、さほど対価を求めない。もちろん最低限は求めているところがありますが、それよりもジョインの関係というか、それをどう呼ぶかっていうのは明確には見えていないんですが……、もしかしたらリスペクトかもしれないし、無償の愛なのかもしれないし、上から見守るタニマチ的なものなのかもしれない。
みんな自然に持っている感情を、うまくすくえるプラットフォームだなと思いますね。

最近キックスターターが公式ブログで「キックスターターはお店ではありません」ということを書いていたんです。みんなそれくらい、キックスターターはお店だと思いはじめている。そもそもこれってなんだったんかというと、「チャレンジングなことをやります!」「じゃあそれにお金を払おう!」という形だったのが、いつしか「これ面白い!買おう!」という流れに、つまり”購入”メインになっちゃっているんですよね。
それはそれで、ないものを先に買うという形としてはいいんだけれども、サポートする、支援するっていう心も含めた部分は実は扱いきれてないと思うんです。

ウェブを介して継続的にサポートするという形は、僕たちはこれまであまり経験したことのない動線、サービスだと思います。僕はカズくんのサポーターだけど「サポートしてやってるのに~!」という恩着せがましい感情は発生しないんです(笑)。

クラウド・ファンディング(crowd funding):ソーシャル・ファンディングとも言う。群衆(crowd)と資金調達(funding)を合わせた言葉で、製品やイベントなどの企画についてインターネットを通じて資金提供を呼びかけ、一定の金額が集まった段階でプロジェクトが実行に移るというもの。

キックスターター(Kickstarter):クラウド・ファンディングのサービスを行う米国のサイト。

ワタベ:このサービスをやるときに考えていたことなんですけど、「その人を好きになる」理由って特定のコンテンツ、例えばミュージシャンであれば楽曲のみの魅力に留まらないですよね。声やプレイスタイルが好きなのかもしれないし、ルックスが好きなのかもしれない、もしくは普段の言動が好きなのかもしれない。
その人のいろんな要素があって、それぞれを好きな人の総体がファンというものですよね。そうなったときに、じゃあ私はミュージシャンなので楽曲を販売します、買ってください、というやり方しかないと、他の要素を好きな人が結構な割合で切り捨てられてしまうんじゃないかと。 ミュージシャンでも絵が上手かったり、喋りが面白かったり、いろんな面があってそれを総合してみんなが好きになるんだろうし。
「この人が好き」という一種曖昧な気持ちをベースに、その人から何かを得ることにお金を支払うって行為に関しては、適度に抽象的な「サポートする」という言い方のほうが成り立ちやすいですし、自分自身そういう感覚で参加しています。

―最終的なアウトプットにお金を払ってもらうだけではないということですね。

ワタベ:そうですね。もちろん楽曲の販売は並行してやった上でですが、今までフワッとしていた部分、ビジネス的にはカチッとさせづらかった部分で、かつお互い気持ちいい形で活動を継続するには?と考えたときに、コミュニティに参加してサポートする形がベストだと思いました。

ドミニク:ランニングコストを意識した活動ができることが重要なんだ、ってカズくん言ってましたけど、Grow!のシステムはまさにそこを意識していますよね。

ワタベ:バンドをやっていたときに、チケットのチャージバック、音源の売上など、ほとんどはその都度入ってくる収益なんですよね。でも活動していたら「月に何回はライブやって、何回はスタジオ入って」とか、もしくは機材車の経費だったりとか、コストに関しては定期的に決まっているのに収益についてはワンショット(単発)で入るもので、予算を立てていかないといけない。これだと活動がしづらいし、計算もつかない。こういった課題が、完全には解決しないにしても、Grow!を使うことで一定の解決が得られるんじゃないかと考えています。
例えば100人のサポーターがいたら毎月4万円くらいの収益が得られて、それだけあればリハーサルに使うスタジオ代には困らないくらいになる。これはちゃんとした音楽の”活動”によって得られた収益で、メンバーがバイトをして活動費に充てていく、というものとはまったく違った、とてつもなく価値のあるものです。
それに、インディーズのバンドでもサポーター100人集めるって、数字としてはイメージできないものではないですよね。

ドミニク:売上というものも変えられるかもしれないですね。Grow!のサポーターに無償で音源を発表する、などのやり方も増えるわけだから。

ワタベ:サポーターへの特典の設定も自由度が高いですしね。たとえば音源を無償公開するという手段もあれば、サポーターへの限定公開という手段もある。もしくは一般に公開する前に、先行公開するっていう手もありますね。これだってファンにとっては価値がある。コミュニティを運営して、すこし閉じた場をつくることで、活動を続ける中で生まれる様々なものの出し方を工夫することができるんです。
まだミュージシャンの方や、バンドで使っていただいてる例は少ないのですが、今後コミュニティを運営する人たちが増えて、ノウハウが溜まっていけば、業界全体でおもしろい動きができるのではないかと思っています。

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次回に続く

次回はインターネットで広がる創作活動の可能性と、今、音楽人が知っておくべきことについて2人の考えを聞いていく。

ドミニク・チェン&カズワタベとのよもやま話

(1)「音楽や創作物を介して、人がいかに交流するかを考えている」

(2)「”その人が好き”というところに価値が見出せる」(この記事)

(3)「ネットにいても、一緒にいる人の顔が見える」

information:クリエイティブ・コモンズ10周年を記念するライブイベントが12月22日に六本木superdeluxeで開催!
http://creativecommons.jp/cc10/

ドミニク・チェン(DOMINIQUE CHEN)

1981年東京生まれ。2004年よりメディアアートセンターNTT InterCommunication Center研究員として映像アーカイブの構築や美術展示企画に携わりながら、日本におけるクリエイティブ・コモンズの立ち上げに参加し、2007年よりNPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン設立理事。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを採用した多数のプロジェクトの立案・企画・支援に従事してきた。2012年5月に初の単著となる『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック- クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』をリリース。また、2008年には自身のウェブサービス開発会社ディヴィデュアルを共同創業し、様々なサービスやコミュニティの開発運営に携わっている。

カズワタベ

1986年4月松本生まれ。洗足学園音楽大学総合音楽科在籍時に始めたクラブジャズバンド「Tough&Cool」にてリーダー/ギタリストとして活動。2009年にリリースしたアルバム『encounter』はタワーレコード渋谷店、新宿店、難波店、福岡店にて展開されるなど大きな反響を得る。その後、2010年にクリエイターの活動を健全化することを目的としたウェブサービス『Grow!』をローンチし、それと同時に設立したGrow! Inc.にてChief Creative Officerに就任。現在までその運営を続けている。また、2012年9月にはテレビ朝日による自身の楽曲の著作権侵害を告発、10月にはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのフレンドに就任するなど、コンテンツ・ビジネス、創作文化振興に関する活動を行っている。

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