「音楽や創作物を介して、人がいかに交流するかを考えている」 クリエイティブ・コモンズ ドミニク・チェン&Grow! カズワタベとのよもやま話(1)

コラム by 土屋綾子(RandoM編集部) 2012/11/29

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フリーカルチャーという言葉がある。ここで言うフリーとは、「自由」のこと。ネットでさまざまなサービスが展開されていくにつれて、音楽やその他の創作活動の仕組みもやり方も、大きく進化してきた。作品そのものだけではなく、作るプロセスや要素、そして作る人自身にまでも容易にアクセスでき、あわよくば自分が参加することだってできる。その中で創作行為というものの捉え方ももっと「自由に」、そして豊かにできるのではないか?
そんなことを日々考えている2人―クリエイティブ・コモンズ・ジャパンのドミニク・チェン氏とGrow! Inc.のChief Creative Officerであるカズワタベ氏と一緒に、今回から3回にわたり、それぞれの現場の話を中心に音楽とフリーカルチャーの関係を探ってみた。
まずは導入として、ドミニク氏にクリエイティブ・コモンズ(以下CC)での取り組みを教えてもらった。

「CCライセンス」とは、国際的非営利組織クリエイティブ・コモンズが提唱する、現行の著作権法をベースにした著作権ルールで、”様々な作品の作者が自ら「この条件を守れば私の作品を自由に使って良いですよ」という意思表示をする(クリエイティブ・コモンズ公式サイト内の説明より)”のに用いることができるものだ。すべての権利を保持する「All rights reserved」でもなく、権利者の死後50年が経過した「Public Domain」でもない、著作権に関わる一部の権利は保ち、そのほかの権利は譲渡するといったことがCCライセンスでは可能となる。
例えば「作者名を明記してくれれば、どこで使ってもいいよ」「商売に使ってはいけないけど、それ以外で使うなら改変してもOK!」ということを、CCライセンスを使って作者自身が知らせることができるのだ。

―クリエイティブ・コモンズのあゆみを、音楽的なトピックを中心に教えていただけますか?

ドミニク:CCは2002年にアメリカで生まれた運動で、ネットを使って音楽や映像ファイルなどの著作物を共有する「P2P」が出てきた時代と符合します。コンピュータの世界では80年代ごろからフリーソフトウェア、90年代にはオープンソースという考え方が生まれて、守るのではなくみんなで共有することでいいものをつくっていくというマインドがあります。しかし2000年代に入って、P2Pを利用してコンテンツを共有することは、基本的に非合法というレッテルを貼られていました。それに対して「コンテンツのオープン化」というポジティブな可能性を突き詰められるのではないか、コンテンツの世界をもっと自由にしよう、という考え方から始まったのです。

最初はマサチューセッツ工科大学(MIT)の教材にCCライセンスを付けたことから始まりました。CCが生まれる前からこういったプロジェクトは立ち上がっていたのですが、MITの事例から徐々に広がっていったのです。2003年になるとIT技術書の出版社オライリーが自社の書籍にCCライセンスをつけて配布するという実験を始めましたし、2004年には雑誌『WIRED』の付録に「CCCD」がつきました。この「CC」は「コピーコントロール」ではなく、収録されている曲がすべてCCライセンスであるということです。この取り組みが結構バズって、CCの仕組みに対しての理解が広がるきっかけになりました。写真共有サービスのFlickrがCCライセンスを採用したのも、このころです。

まだYouTubeやSoundCloudもなかった時代でしたが、クリエイターはブログで自分の作品をアップしたりPodCastなどの形で表現していました。徐々にものを作る技術、共有するという行動が促進され、それが表現者にとって「プロでなくても音楽を作る、映像を作る、いい写真を撮る」というように、もののレベルがどんどん底上げされてきた。それにあわせて、プロが作るものを享受するだけではなくて、お互いが作るものも結構面白いじゃん! という気づきがネット全体で醸成されてきたのです。こういった感覚が広がるにともなって、自分の権利を囲い込んで守るのではなくて、作品に触れて使って欲しい、使ってもらうことによって自分の作品が広く知られ関係性も生まれる。つまり直接音楽だけで資金を得る人ではなくても創造的な活動をできる機運が高まってきたというのが、CCが発展したことの時代背景としてありますね。

この10年で、Web全体にあるCCライセンスのコンテンツは4.5億を超える量になっています。

仕組みを可視化することで、
曲の世界も広がるのが楽しい

―特に音楽に関しても、その動きは同様ですよね?

ドミニク:そうですね。音楽に立ち戻っても、技術と共にユーザーの志向も表現の方法も変化しています。P2Pで膨大なコンテンツにアクセスできたときは「ダウンロード」、つまりPCに落とせることが目的でした。今はスポティファイ、アップルラジオなどサービスがクラウド化していて、所有ではなくアクセスしたい、アクセスする権利や方法がほしいというようにユーザーの志向が変化しています。音楽を作ることも、それに伴って変化していると思うので、その動きを日々追っていかなければいけないなぁと思っています。

CCのプロジェクトの中でCCCDは大きい取り組みの1つでした。2008年にナイン・インチ・ネイルズがCCライセンスつきの楽曲を公開しました。これはプロモーションとしても大きな効果があり、その年の楽曲配信売上ランキングの1位にもなりました。

音楽の世界でCCライセンスを使っているレーベルも国内外で増えています。分解系レコーズというネットレーベルがコンピレーション・アルバムを作り、リリースしました。CCライセンスのついてるネットレーベル曲で2レーベル以上3曲以上セレクトするというお題に対してさまざまなアーティストに応えてもらうというものです。

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Creative 
Commands
 Compilation Data “SPECIAL SITE”より

左がこのアルバムで作られた曲で、右がそれを作るために使われたCCライセンスの楽曲です。
ページを見ていただけると分かるように、見せ方も工夫されています。いままでは、まず完成した楽曲があって、2次的な話として「(実は)こういう仕組みでやっているんだよ」と説明していたことを、はじめから可視化してどんどん盛り上げていくという。この部分ってこういう曲なんだ、というのを見ることができると、すごく面白いですよね。
音楽のスペシャリストなら誰でもやってきたし知っていることかもしれませんが、それがもっと開かれていて、見る/聴く側にも開示されてる。そうすることによって楽曲1つの世界も広がっている。これは特殊な考え方ではなく、ネットが実現していることを、もっと促進していこうよということなんですね。こういったネットレーベルの事例はヨーロッパやアメリカでも無数にあります。

もう1つ音楽の分野でCCライセンスを活用している事例としては、SoundCloudもありますね。楽曲のYouTubeというとわかりやすいでしょうか。アップした自分の楽曲にCCライセンスをつけられるようになっていて、自由なリミックスの場になっています。

もはや目的は、
コミュニケーションになっている

―プロセスも込みで楽しんでもらうという見せ方がCCライセンスでは可能だというのは面白いですね。より活用してもらうことにも繋がりますし。

ドミニク:CCジャパンはライセンスの管理普及だけでは足りないと思っていて、「Into Infinity」というiPhoneアプリを作っています。これはもともとWebサイトで展開しているもので、著名な音楽家に8秒間のループ音源を作ってもらいCCライセンスをつけて公開していたのですが、ただWebに公開して「使っていいよ」としていると、どこで誰がどのように使ってくださっているのかわからない。だったらアプリで誰でも使える、遊んでもらえるようにしようと思ったわけです。

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Web版のInto Infinity

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アプリ版のInto Infinity

仕組みとしては、サーバにアクセスしてランダムに音源を再生しています。1つの音源が鳴っているところにたまたまもう1つの音源が飛び込んできて、複数の音が重なり合って鳴っています。この偶然できた音楽をフリーズして、Twitterに投稿したりメールで友人に送ったりできる。さらに誰かがその音をもとに別のリミックスを作ったりもできる。これが結構マニアックなファンがいて、レビューコメントも熱狂的なものがついてるんですよ。

このInto Infinityを一緒にやっている原雅明さんの別の企画だと、SoundCloudをつかった音楽のコンペなどもあります。Web上で課題曲を出してリミックス曲を集めるのですが、リアルとも連動して、募集を締め切る日にお店でDJイベントをやって、コンペで集まった曲をひたすら流すという内容になっています。目的は、もはやコミュニケーションになっていて、「音楽を介してミュージシャンがいかに交流するか」。それにCCライセンスが使われているようになっていますね。

―なるほど。ワタベさんともそういった取り組みの中で出会ったのですか?

ワタベ:僕はもともとミュージシャンとしてコンテンツを作る側としての活動を大学時代からやっていました。その活動の中で、インターネットを通じての情報発信や創作を行う際に、著作権によるコンテンツの保護が時にやりづらさを生み出しているのではないかと感じていたんです。CCは最初何で知ったかはもう覚えていないんですけど、その悩みを解決する1つの方法としてすごく強く興味を持っていました。
そして、これは本当にたまたまなんですが、僕がGrow!というサービスを運営している会社をやっていて、その株主になっていただいた弁護士の方がCCの理事だったんです。その方にドミニクさんをご紹介していただいたのが転機になって、こういった分野により興味を持つようになりました。

―フリーカルチャーという言葉ももともとご存知だったのですか?

ワタベ:それが「フリーカルチャー」という概念だというのは、ドミニクさんの本を手に取るまでは知らなかったですね。ただ、僕がもともと興味を持っていた事柄だったので、それがそういう名前なんだと後から知ったという感じです。

ドミニク:とは言えフリーカルチャーという言葉ですべての現象を収斂(しゅうれん)していこうとは思っていなくて、あくまで「自由にしないとつまんないよね」と思っている人をゆるくつなげたいんです。「自由」ということを一方的に定義したくなくて、「自由」ってなんだろう、ということを皆で考えるきっかけになればと思います。
CCのミッションは、自然なクリエイションをサポートするシステムが制定されることが最終目標。ただ法律を変えるのは難しいので、インターネット上で作家達が自ら意思表示をすることで自由な文化を自分達でつくってしまおう!ということなんですよね。

ワタベ:本来は、自分達の子供の時代になったらCCという存在がなくなっていることが一番望ましいんですよね。存在意義がなくなることが目標というのは不思議な活動です(笑)。もちろんそれをただ待っていることはできないので、現行の著作権の上にちょっとフィルターをかけることで、選択肢を与えてあげようというのがクリエイティブコモンズの活動なんですよね。

ドミニク:Grow!っていうのも多分共通のところがあると思っています。CCはあるべき著作権の形が出てこないので作ってしまおう、という流れです。Grow!っていうのも個人的な見方なんですが、アーティストとファンのあるべき関係性のひとつを提示していて、それがまだ産業として定着していないものを作ってしまおうというものだと思うんです。

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次回はカズワタベ氏の作った”サポーター・コミュニティ・サービス”「Grow!」について話を聞く。「商品以外の部分に価値を見出せる」こと、それによって「ランニングコストを意識した創作活動」が可能になる、その仕組みとは?

ドミニク・チェン&カズワタベとのよもやま話

(1)「音楽や創作物を介して、人がいかに交流するかを考えている」(この記事)

(2)「”その人が好き”というところに価値が見出せる」

(3)「ネットにいても、一緒にいる人の顔が見える」

ドミニク・チェン(DOMINIQUE CHEN)

1981年東京生まれ。2004年よりメディアアートセンターNTT InterCommunication Center研究員として映像アーカイブの構築や美術展示企画に携わりながら、日本におけるクリエイティブ・コモンズの立ち上げに参加し、2007年よりNPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン設立理事。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを採用した多数のプロジェクトの立案・企画・支援に従事してきた。2012年5月に初の単著となる『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック- クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』をリリース。また、2008年には自身のウェブサービス開発会社ディヴィデュアルを共同創業し、様々なサービスやコミュニティの開発運営に携わっている。

カズワタベ

1986年4月松本生まれ。洗足学園音楽大学総合音楽科在籍時に始めたクラブジャズバンド「Tough&Cool」にてリーダー/ギタリストとして活動。2009年にリリースしたアルバム『encounter』はタワーレコード渋谷店、新宿店、難波店、福岡店にて展開されるなど大きな反響を得る。その後、2010年にクリエイターの活動を健全化することを目的としたウェブサービス『Grow!』をローンチし、それと同時に設立したGrow! Inc.にてChief Creative Officerに就任。現在までその運営を続けている。また、2012年9月にはテレビ朝日による自身の楽曲の著作権侵害を告発、10月にはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのフレンドに就任するなど、コンテンツ・ビジネス、創作文化振興に関する活動を行っている。

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