音楽におけるインフルエンサー起用モデルはどこへ向かうのか?

コラム by 松本拓也 2012/11/20

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10月25日に発売された書籍『ソーシャル時代に音楽を”売る”7つの戦略』の著者の1人である松本拓也氏は、PV(プロモーションビデオ)にタレントブロガーなどを起用することでヒットに結びつけるという手法の第一人者。楽曲のYouTube再生回数のアベレージが100万という、驚異の実績の持ち主です。そんな松本さんに、PVへのインフルエンサー起用という手法を編み出したきっかけから、今後への展望までを記していただきました。注目される、YouTubeで再生されるPVを作るノウハウは、規模の大小の違いはありつつも、すべてのミュージシャン、アーティストの参考になると思います。

インフルエンサー起用型PVの
基本フォーマット

私は、タレントブロガーなど影響力のある人物をPV(プロモーションビデオ)に起用することで、YouTubeでの再生回数を上げ、有料ダウンロード数の増加につなげるという、いわゆる”インフルエンサー起用型PV”のキャスティングや制作を得意としています。そして、この手法は規模やジャンルの差を超えていろいろ応用も可能だと考えていて、実際、『キーボード・マガジン2012 AUTUMN号』の特集”シンセ・ポップの方法論”内では、DIY的な方法論での楽曲の広め方を紹介させていただいた経験もあります。そういう意味で、ミュージシャンの率が高いであろうRandoM読者の参考にもなればと思い、”音楽におけるインフルエンサー起用”について考えていきたいと思います。

話題となった山口哲一氏(『ソーシャル時代に音楽を”売る”7つの法則』;以下『ソーシャル7』の共著者です)のコラムスピン第40回「iTunes Store は日本で失敗しているんだよ」でも指摘されたように、スマートホン普及の直前まで、日本ではiTunes Storeではなく、ガラケーでのレコチョクからの着うた(R)、着うたフル(R)という形で、10代、20代前半の女性中心に多くの楽曲がダウンロードされてきました。そこから、”配信系”と1つのジャンルとして呼ばれようになり、JUJU、青山テルマ、童子-Tなどがヒットを連発。ファッションも含めた社会的ブームになったのが、西野カナ。今は、Ms.OOJAが新しい方向性を示しています。

私は、2008年に『小さなニュースに火をつけて売る! ~パワーブロガーはお客をこうつかむ』(技術評論社;以下『パワーブロガー本』)という書籍を出版させていただいたのですが、この頃までは、音楽業界に限らず、化粧品会社など一般企業向けにブログプロモーションを展開しており、弊社はタレントブログを使った影響力のあるインフルエンサーとしてのタレントのブログで商品を紹介してもらうプロモーション手法を得意としていました。

2009年1月、『パワーブロガー本』の読者だったBMG JAPANの方(※1)からの依頼で、AZUの「いますぐに…」という曲にかかわりました。ポイントはドラマ仕立てのPVに俳優の佐藤祐基(※2)を起用したことです。ちょうど、フジテレビ月曜夜9時のドラマ「ヴォイス~命なき者の声~」で主演の一人であったので、ドラマの第一回放送1時間前にPVをYouTubeにアップ。佐藤祐基のブログからYouTubeのPVへリンク誘導しました。ドラマの主演の5人の俳優の中で、彼だけがブログを持っていたことも幸いして、佐藤祐基ファンのみならず、ドラマ視聴者をYouTubeに誘導することができ、PVが大量再生されました。その好影響でAZU「いますぐに…」はレコチョク着うたフル(R)ウィークリーチャートで1位を獲得し、2009年レコチョク着うたフル(R)年間チャートでも46位にランクインしました。

以降3年以上にわたり展開しているインフルエンサー起用型PVの基本フォーマットは、この時に出来上がりました。
2007年まではヒット曲といえばテレビCM、テレビドラマ主題歌、映画主題歌のいずれかのタイアップが付いているものが大半だったのですが、2008年には、JUJU、青山テルマ、童子-Tなどノンタイアップで、100万ダウンロードを突破するいわゆる”配信系”のアーティストが登場します。YouTubeでPVを検索していると、軒並みこれらの再生回数が100万回を超えていました。ここで私は仮説を立てました。

100万ダウンロードされている曲は、YouTubeでPVが100万再生されている。

YouTubeで100万再生されるPVを制作すれば、100万ダウンロードのヒットは生まれるのではないか?

それを実践した第一号がAZUの「いますぐに…」だったのです。
AZUの際にご一緒した方が転職した先(※3)で、西野カナの仕事をすることになりました。彼女は当時、「遠くても feat.西野カナ」をリリースし、一気にブレイクしていました。この曲のPV(私の仕事ではない)は、雑誌『Popteen』のモデルくみっきーこと舟山久美子と、『men’s egg』モデルの佐藤歩という組合せでした。2人は当時、本当に付き合っていた”リアルカップル”でしたから、2人が主演したことで、ティーン女子の大きな話題となりました。YouTubeでPVが大量再生され、レコチョクのチャートも好調でした。

いわゆるタレント事務所に所属するモデルが公に彼氏がいることを公言することなど、これまではあり得なかったのですが、舟山久美子や佐藤歩に代表されるギャル雑誌の読者モデルは、自分達の私服が掲載され、恋愛を含む自分たちのプライベートを等身大に雑誌上で紹介することで、読者との距離感を縮め、人気となっていきました。

この事例から”ギャルモデルは効く”"リアルカップルの起用はさらに効く”ことを学びました。

この曲のアンサーソングであるWISE「会えなくても feat.西野カナ」のPVに、”ギャルモデルは効く”理論に基づき、小悪魔系雑誌『Ageha』モデルの武藤静香、『Popteen』モデルの小森純、『egg』モデルの幸田えりかをキャスティングしたところ、後の西野カナの大ブレイクもあり、このPVの再生回数は、現在1,500万回を超え、ユニバーサルミュージックの邦楽曲の中で過去最高のYouTube再生回数を記録しています。

“ギャルモデルは効く”理論に基づき展開されたのが、同じレコード会社(※4)のJulietで、私はデビュー曲の「ナツラブ」でモデルの小森純が作詞の一部を担当するというセッティングをしました。このプロジェクトでは、Julietを6人組みのギャルモデル”Romeo(ロミオ)”がプロデュースするという体裁をとり、PVにもその6人が主演するという、強力なギャルモデル・インフルエンサー・プロモーションが組まれていました。小森純の歌詞コラボレーションと相まって、この曲がデビューの新人だったにもかかわらず、レコチョク着うた(R)ウィークリーチャートで1位を獲得しています。

この事例からは、”ギャルモデルを束ねるとさらに効く”ことを学びました。

こうしてインフルエンサー起用型PVが成果をあげはじめた頃、MAY’S(※5)も「ONE LOVE ~100万回のKISSでアイシテル~」からPVキャスティングを担当したのですが、赤文字系雑誌『CanCam』トップモデル徳澤直子を起用し、一定の成果を得ています。

集大成ともいえるMs.OOJAの「Be…」

これまでは、私はこうしたPVにキャスティングという立場でかかわっていたのですが、2009年11月より始まったKGプロジェクト(※6)では、PVの企画制作プロデューサーという立場でかかわることになり、インフルエンサー起用型PVの集大成ともいえる下記の一連のPVをリリースし、

KG / 君に言えなかった想い duet with May J.

※元「あいのり」出演者でAmeba No.1ブロガーの桃とやまじ

KG / いとしすぎて duet with Tiara

※当時『セブンティーン』モデルで女子中高生のカリスマだった桐谷美玲

・KG / きっと、ずっと duet with MAY’S

※私がプロデュースした映画『音楽人』主演の桐谷美玲と佐野和真

・KG / 誰よりも duet with 菅原紗由理

※元「あいのり」出演者の桃とクロ

・KG / どんなに離れても duet with AZU

※ブレイク前のトリンドル玲奈

KG / また出逢えたなら・・・duet with HanaH

※現在『egg 』No.1人気モデルの根本弥生を当時のリアル彼氏と

すべての曲のPVが視聴合計100万再生を突破し、チャートはレコチョク5位以内に入り、KGは第25回日本ゴールドディスク大賞新人賞にあたる”ザ・ベスト5ニュー・アーテイスト”に選ばれました。

中でも一番のヒットとなったPVは、桐谷美玲が主演した「いとしすぎて duet with Tiara」です。この曲の有料配信数の推移が下記の表の通りですが、配信から2年半近く経過した現在もダウンロードされ続けています。配信後3か月で全く動きが無くなるといわれる配信系の曲の中では、異例の推移を続けているのです。

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▲「いとしすぎて duet with Tiara」有料配信数の推移(『ソーシャル7』より)

なお、私のブログでご報告させていただいているように、その後も多くのインフルエンサー起用型PVを手がけましたが、100発100中でヒットにつながったわけではなく、他プロモーションとの組み合わせが重要であるということを痛感させられました。そのあたりは、10月25日発売の共著で執筆させていただいた『ソーシャル7』の、「PART4 ソーシャルメディアありきでレガシーメディアを考える」というパートで触れているので、ぜひご一読いただき、ご意見をいただければと思います。

最近では、PVに本田翼を起用したMs.OOJAの「Be…」(※7)

がレコチョク2012年上半期総合チャートで1位となり、この施策の集大成となったと感じています。

Ms.OOJAの「Be…」のヒットの秘訣については、インフルエンサー起用型PV施策だけでなく、さまざまな施策があいまった結果なのですが、『ソーシャル7』に東小薗光宏氏と太田直樹氏のインタビュー記事を掲載しておりますので、こちらもご一読いただければと思います。

では、インフルエンサー起用ブームの今後はどうなっていくのか?
スマホの普及により着うた(R)が激減しています。iTunesやmoraはそれを補うほど売り上げは伸びず、音楽配信市場が縮小しています。今後は、サブスクリプション型(聴き放題型)のサービスが台頭してくるかもしれません。とはいえ、YouTube等からの導線さえきちんと確保できれば、サービスの形態自体はそれほど大きな影響を及ばさないのでは、と考えています。

むしろこれからは、アーティスト自身がインフルエンサーであることが、重要になってくるかもしれません。インフルエンサーがアーティストに”なる”という方向性もあるでしょうし、アーティストがインフルエンサーに”なる”という方向性もあるかもしれません。

いずれにしても、アーティスト自身が”音楽人”(『ソーシャル7』で提唱した、業界人に代わる新たな概念)として、自らの楽曲の伝搬に積極的な影響力を及ぼしていくのは、ソーシャル時代においては必須のことだと思われます。そして私自身も”音楽人”として、さまざまな形で音楽を伝えていくことができたらと考えているので、これからの仕事に関しては、『ソーシャル7』のFacebookグループなどをチェックしていただけたら幸いです。

※1:現在ユニバーサルシグマで、当時BMG JAPAN(現在のアリオラジャパン)の東小薗光宏氏。

※2:佐藤祐基(当時、佐藤智仁という名前で現在は改名)。

※3:前述の東小薗氏がユニバーサルミュージックのユニバーサルシグマに転職され、東小薗氏の紹介で出会ったのが、矢部順也氏です。A&Rが矢部氏、宣伝が東小薗氏で最初に取り組んだのがWISEのプロジェクトでした。そこで、WISEを通じて出会ったのが西野カナでした。

※4:Julietプロジェクトはユニバーサルシグマの垣原伸彦氏が担当。

※5:当時チャームサイドに在籍され、現在はfly musicを経営されている脇田敬氏がマネジメント、キングレコードA&Rは酒井理氏。

※6:KGプロジェクトは、ユニバーサルシグマ矢部順也氏。

※7:ユニバーサルシグマの宣伝の東小薗光宏氏とA&Rの太田直樹氏。このように、人間関係のつながりでお仕事をさせていただいています。

著者からのお知らせ

121114-matsumoto-1松本拓也(株式会社EA)

1969年生まれ。1993年(株)電通入社。1995年中国興業(株)メディア事業部を設立。1996年(株)マルチメディアグランプリ部門賞を受賞。 1999年アクションクリック創業。2004年米国特許取得。2006年よりEA代表取締役。2008年7月に『小さなニュースに火をつけて売る! ~パワーブロガーはお客をこうつかむ』(技術評論社)を刊行。一般企業をクライアントにソーシャルメディアプロモーションを企画・制作・運用していたが、 ここ数年は音楽業界に傾倒。インフルエンサーを起用したミュージックビデオの企画制作・キャスティングが得意技。日本人アーティストをソーシャルメディア を使って世界でブレイクさせるのが夢。

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