バックシンガーとして生きる歌姫たちの光と影に迫った音楽ドキュメント『バックコーラスの歌姫たち』

コラム by 坪内アユミ/© 2013 Project B.S. LLC 2013/12/11

131211-movie-1-main

 「散歩するようにはいかない。バックコーラスからメインの位置に来るためにはね」。ブルース・スプリングスティーンの、こんな言葉から始まる本作は、ぜひ音楽ファンに観てほしい、ちょっと画期的な映画だ。

マイケル・ジャクソン、ミック・ジャガー、デヴィッド・ボウイ、ブルース・スプリングスティーン、レイ・チャールズ、スティーヴィー・ワンダー……『バックコーラスの歌姫たち』は、そんなスターたちのバック・シンガーとして生きる女性たちを取り上げた、初めてのドキュメンタリーである。

映画は“歌姫”たちのそれぞれの人生を、インタビューと実際のセッション映像などを織り交ぜながら描いていく。例えば、キャロル・キングやローリング・ストーンズのコーラスをしていたメリー・クライトン。彼女はストーンズの「ギミー・シェルター」録音時の秘話を茶目っ気たっぷりに語る。そして60年代にアイケッツとしてアイク&ターナーのバックを務めていたクラウディア・リニアはミック・ジャガーやデヴィッド・ボウイとの懐かしい日々や60年代と70年代の自身の異なる扱われ方について回想する。

さらにルーサー・ヴァンドロスのバック・シンガーを経験したのちにソロ・アーティストとしてグラミー賞を受賞したリサ・フィッシャー、マイケル・ジャクソンの追悼式で「ヒール・ザ・ワールド」を歌い一躍有名になったジュディス・ヒルらも自身について語り、歌い手としての胸の内を明かしていく。

131211-movie-1-1

メインシンガーを目指して成功した者、夢破れた者、すでに別の世界に身を置く者……いろんな“歌姫”が登場するが、この映画の最大の主役は、やはりソロ歌手として「ロックの殿堂」入りを果たしたダーレン・ラブだろう。60年代に黒人コーラス・グループ“ブロッサムズ”のメンバーとしてデビューし、プロデューサーであるフィル・スペクター作品のバックコーラスを務めるも、スペクターとの確執が原因で音楽業界から離れることを余儀なくされた彼女。復帰するまでの間には、家政婦で生計を立てていた時期もあったというドラマさながらの苦難の人生を歩んできたダーレンの語りはとりわけ衝撃的で、だからこそ奇跡と勝利を掴んだ瞬間を象徴するような「ロックの殿堂」授賞式のシーンに涙せずにはいられない。さらに彼女がリサ・フィッシャーやジュディス・ヒルらと「リーン・オン・ミー」を、そして「ア・ファイン、ファイン・ボーイ」をスプリングスティーンと共に歌うラストに感動を覚え、拍手喝采を送りたくなってしまうのだ。「“運”や“宿命”を手に入れた人が一流」、映画前半に挿入されたスティングのそんな言葉が強烈に蘇る瞬間でもあった。

131211-movie-1-2

▲ミュージシャンにとってバックコーラスがいかに重要な存在かを熱弁するブルース・スプリングスティーン(左)と、穏やかな表情で彼女たちの功績を讃えるベット・ミドラー(右)。

▲ミュージシャンにとってバックコーラスがいかに重要な存在かを熱弁するブルース・スプリングスティーン(上)と、穏やかな表情で彼女たちの功績を讃えるベット・ミドラー(中央)。当時の想い出を語り合うスティング&リサ・フィッシャー(下)の表情からは、お互いの信頼関係の強さがうかがえる。

▲当時の想い出を語り合うスティング&リサ・フィッシャーの表情からは、お互いの信頼関係の強さがうかがえる。

これまで知られることのなかった“歌姫”たちの光と影にリアルに迫ることで、結局のところショウビズ界の厳しさを改めて見せつける本作だが、でも同時に、歴史に残るポップミュージックに貢献してきた彼女たちの功績を讃えた映画でもある。単なる道具やお飾りのように扱われ、中にはクレジットすらしてもらえなかったバックシンガーたちの存在に光を当てることの重要さは、この映画を観れば分かる。「今までとは違った音楽の聴き方をするようになったよ。どの音楽を聴いてもバックシンガーの声が聴こえるようになった」という監督自身のコメントにも頷けるというもの。本作を観たあとで、もう一度持っているレコードを聴き直してほしい。きっと昨日とは違う声や響きが聴こえてくるに違いない。

バックコーラスの歌姫たち

  • 配給:コムストック・グループ
  • 監督:モーガン・ネヴィル
  • 出演:ダーレン・ラヴ、メリー・クレイトン、ジュディス・ヒル、リサ・フィッシャー、クラウディア・リニア、タタ・ヴェガ、ミック・ジャガー、ブルース・スプリングスティーン、スティング、スティーヴィー・ワンダー、ベット・ミドラー、他
  • 12月14日よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

TUNECORE JAPAN