「最大数のテルミン合奏」が世界記録達成! 準備期間約1年の大プロジェクトの裏側をインタビュー

コラム by Fun-Z(RandoM編集部) 2013/09/05

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7月に当RandoMで紹介した「マトリョミン」と、そのマトリョミンによる世界記録”Largest Theremin Ensemble(最大数のテルミン合奏)”への挑戦が、去る7月20日、静岡県の「クリエート浜松ホール」で本番を迎えた。テレビ局など報道陣も多数詰めかける中、270名を超える大人数で編成された”Matryomin ensemble “Da”(マトリョミン・アンサンブル”ダー”)は、課題曲「アメイジング・グレイス」の演奏を5分以上にわたって実現、見事世界記録達成を達成! 今回の挑戦を率いたテルミン演奏家、竹内正実氏にインタビューし、その舞台裏を聞いてみた。

世界記録公式認定員1名と
監視員6名による厳しい審査

―まずは記録達成おめでとうございます。発表の瞬間、場内はすごい熱気でしたね。

竹内 道程が長くて厳しかった分、喜びも大きかったでしょうね。演奏に手応えと自信があった人も世界記録挑戦に挑むのは初めてだったでしょうから、どれほどの厳しさでジャッジされるのか、皆目見当もつきませんでしたし。また、繰り返し部分の少ない複雑なアレンジを暗譜で弾かねばならなかったのですが、皆それぞれに相当なプレッシャーと不安を抱えながら準備してきたのだと思います。

―最初にこの計画がスタートしてから、準備期間はどれくらいですか?

竹内 挑戦会場を押さえたのが2012年8月ですから11ヶ月くらでしょうか。ただ、もう少し長いスパンで見れば、2011年に実施した”100人のマトリョミン合奏”も世界記録挑戦を意識していたんですよ。ただ、その頃は世界記録に関して無知でしたし、認定員派遣を申し入れないとなかなか情報も開示してもらえず、条件も何もよく分からなかったんです。

―273名が参加するという大人数だったわけですが、全員でのリハーサルはあったのですか?

竹内 東京・名古屋・大阪等では合同練習会を実施しましたが、全員そろっての演奏は当日のリハーサルが初めてでした。ただ、各地の教室をとりまとめている私の弟子たちの指導力を信じていましたし、追い込み時期には各教室の練習ビデオを送ってもらって参加者全体が閲覧できるようにし、良い意味での競争意識も煽りました。

―審査が非常に厳密だったと伺いましたが、どんなふうにチェックされてたのでしょう?

竹内 審査は「世界記録挑戦公式認定員」のほか、50名につき1名の監視員が付きます。われわれの場合、273名で挑戦しましたから監視員は6名、認定員とあわせ7名の厳しい眼にさらされました。今回の演奏曲「アメイジング・グレース」は4声部に分かれていますが、事前にパート分けした座席表の提出も求めらたんですよ。監視員はそれぞれの受け持ちエリアの中で“演奏動作が止まっている人がいないか”“同じパートの中で違う動作をしている人がいないか”というようにチェックしていたようです。

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干渉によるノイズを避けるため
周波数を計測して着座位置を決定

―非常に多くの楽器が1箇所に集まったわけですが、大人数による電波の干渉などはありませんでしたか?

竹内 近接するマトリョミンの発振周波数が一致、もしくは近似していると干渉ノイズを発します。ノイズの性質によっては、まったく演奏できなくなるほど耳障りなものです。これを回避/できるだけ少なくするため、事前にほとんどすべてのマトリョミンの発振周波数を計測し、そのデータに基づいて干渉ノイズが生じにくい着座位置を組みました。それでも若干生じましたが、あの状況において最小、最善だったと自負しています。運を天に任せ着座位置を決めたなら、人数が人数だけに、まったく収拾のつかないことになっていたと思います。

―4声に編曲されていましたが、とても聴き応えのあるアレンジだったように思います。演奏はかなり難しかったのでは?

竹内 世界記録樹立のための条件は“250名以上で5分間以上演奏し続けること”。ですから、4声であることも、暗譜演奏であることも求められていません。複雑なアレンジの暗譜演奏は世界記録が樹立できないリスクを思いっきり高めました。無謀だと思った人も少なくなかったでしょう。でも、マトリョミンをこの世に放ってからこれまでの10年の道程は、私たちにとってまさに挑戦の連続でした。この10年間の取り組みが、生み、育み、成し得たものを、皆とともに確認し、祝いたかったのです。10年間がむしゃらにやってきて、気づけばこんなにも高い頂にわれわれは立ったのだと。そして、この世界的に権威ある機関が認定する記録樹立をもって、テルミンに対するネガティブな先入観を少しでも変えたいと強く望んでいました。そのためには普遍的な音楽的説得力が必須であると考え、複雑なアレンジを採択しました。

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―確かにそれだけのことはある素晴らしい演奏でしたね。しかも、演奏後の竹内さんのコメント通り、後半へ進むに従ってどんどん熱い演奏になっていったように思えました。

竹内 まずこの演奏が可能になったのは、これまでのたゆまぬ練習や厳しい合奏イベント参加によって、演奏技量が相当引き上げられてきた点が素地としてあることを申し上げたいです。加えて、アレンジを担当した岡留美さんの指揮も大きかったと思います。ふだん指揮者に合わせて弾くことのない奏者は、曲の進行に合わせて情感豊かに、ダイナミックにタクトを振る岡さんに、自身の内なる情感の体現を見て、その共感に心打たれ、“ノって”弾けたのだと思います。

―記録達成時にマトリョミンで音を出して応えるというのは最初から決めていた?

竹内 ええ。しっかり仕込みました(笑)。溢れる喜びの感情を禁欲的に表すのも、テルミン的で良いかなと。

―振り返って、最も難しかった点は?

竹内 やはり難易度のハードル設定でしょうか。もちろん成功する見込みがあったからそうしたのですが、自信が揺らぐことも一度や二度ではありませんでした。しかし皆、目標達成の高い意識を持ち続け、困難から逃げず、よく練習してくれました。本当に今回のような良い結果が得られたのも、ひとえにマトリョミンオーナーの多くが励み、高みを求め続けてくれているからです。

良い指導者のもとで
演奏法の基礎を学んでほしい

―マトリョミンに挑戦してみたい!という人も多いと思うのですが、マトリョミンのレンタルサービス「ためしてミン」や、レッスン教室なども開かれていますね。

竹内 良いテルミンは”弾き易い”ことを知ってほしいですね。ただ、誰にでも簡単に、すぐ楽しめるものではありませんから、1クールでもよいので良い指導者のもと、演奏法の基礎を習ってほしいですね。

―たとえば、多くの人はテルミンというと、演奏する時手を全体的に動かすイメージを持っているのではないかと思いますが、実際に演奏を見ると指の開き方で音程を取るような感じですね。

竹内 これはいわゆる”テルミン式”演奏法ですが、音程跳躍を動作の”量”でなく”形”で捉えるので、大きな音程跳躍になってもイメージが掴みやすく、精度を出しやすいのです。

―やさしい曲なら、どれくらいの練習期間で弾けるようになるのでしょうか?

竹内 難しい質問ですね。テルミンは楽器の側に音の高さを定める基準が無いので、どれくらい動かせば、どれくらい音の高さが変わるかについて、まずはイメージングしなければなりません。楽器の側に無い基準を、演奏家の内に作らなければならないのです。この勘どころを掴めるかどうかは個人差がありますね。ある程度上達してきたら他の器楽と同じように、どうやって表現していくかがテーマになります。6~7年取り組むと良い音色になってくるようです。

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―前回の記事で紹介したさまざまな限定モデルにも大きな反響があったのですが、今後も限定バージョンの発売予定などはありますか?

竹内 ええ、マトリョミン量産10周年を記念した限定モデルを順次発表しています。8月には”森の娘マーシャ”という愛称の「キノコ」と、”クマのミーシャ”と名付けている「クマ」を発売しました。詳しくはマンダリンエレクトロンのfacebookページをチェックしてください。

―最後に、今後の活動予定などを教えてください。

竹内 今回の記録樹立は世界中に知らされることになり、マトリョミンの存在や、われわれ活動を知ってもらう良い機会になりました。でも、テルミンを長くやっている欧米の演奏者には、マトリョミン合奏を批判的に見ている人もいます。私は基本的に平和主義者で、そういう人とも仲良くやっていきたいと考えているのですが、今度はテルミンの重奏(カルテット等)ですごいのをやって、再び揺さぶってやりたいですね(笑)。それと、今年は私のテルミン生活20周年の節目の年にもあたるのですが、7年ぶりとなる新作アルバムと、テルミン教則ビデオを発表する予定です。

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▲2013年発売の限定モデル。“森の娘マーシャ”(写真上)と、“クマのミーシャ”(写真下)

竹内正実(Masami Takeuchi)

テルミン演奏、研究

1967年埼玉県生まれ。大阪芸術大学音楽学科音楽工学専攻卒業。1993年ロシアへ渡り、電子楽器テルミンの発明者レフ・テルミンの血縁で愛弟子のリディア・カヴィナにテルミンを師事。レフ・テルミン直系の演奏法を継承する、日本人初の本格的教育を受けたテルミン奏者となり、これまでに200回以上のコンサート出演、150回以上のテレビ、ラジオ番組出演経験がある。国内外での演奏活動のほか、テルミンに関する論文発表や演奏教室の指導などテルミンの普及に努めている。浜松市在住。

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