電子楽器が楽器になるように。演奏というものを追求し続けるエンジニア―コルグ 開発部 本橋春彦

Builders~楽器をつくるプロフェッショナルたち by 土屋綾子/撮影:後藤武浩 2014/06/23

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「楽器」の定義とは、どういうものなのだろう? 単純に音が鳴れば楽器なのか、それとも? ……哲学のようになってしまったが、楽器を作ることを仕事にしている人がどう考えているか、気にならないだろうか。今回のゲストはコルグで研究開発をしている本橋春彦さん。さまざまな楽器を演奏し、そして作り出してきた彼の考えを、ナビゲーターの坂巻さんとともに聞いてみよう。

※このインタビューは2013年8月に実施したものです。 現在の所属、役職は異なっている場合がございます。予めご了承ください。

こだわらないで作るのが無理

坂巻:本橋さんって何年目ですか?

本橋:えーっと、こないだ20年たったね。

坂巻:同期はいますか?

本橋:中途で入ったので、同期はいないんだ。

坂巻:そうなんですか、知らなかったです。

本橋:以前は友達と2人で開発会社をやってました。1品モノみたいな、イベントで使うものとか。マルチディスプレイで全体で1個の画面に見せるやつとか作ってました。一番すごいのはこれで、一番変なのは、本当は音楽関係のもの作りたかったんだけど、そればっかりだと食べて行けないので、音楽のシーケンサーも作ってたんだけど同じ考え方で、ラブホテルのシーケンサー(笑)。ベッドが動いた後に照明が切り替わって……っていうもの。その後の動きとかもプログラムできる。

坂巻:そんなのあるんですか!? やばいですね! バブル期ってことですか?

本橋:バブル期……だったね。

坂巻:すごいですね。えっと、話を戻しますと(笑)、音楽シーケンサーってどんなものを作ってたんですか?

本橋:世には出なかったんですよね。委託してきた会社が発売直前につぶれてしまって。開発会社は3年間やって、その後は別の会社に入りました。

坂巻:何をしていたんですか?

本橋:音源のチップを使ったシンセ作ろうよと言ってやっていました。でも、出ませんでしたね。その会社には5年ぐらいいました。

坂巻:大学卒業してすぐ開発会社を立ち上げたんですか?

本橋:いや……音楽をやってたんですよ。音楽だけだとあまりにも収入が少ないので、システムハウスみたいなところでアルバイトしてて。

坂巻:システムハウスってなんですか?

本橋:ソフトハウスみたいなところで、ハードも多少できますみたいなところ。そこで大型コンピュータの仕事とかしてたんですけど。

坂巻:すごいですね。ミュージシャンやりながら、どエンジニアって。真反対な感じですよね。

本橋:そうですねぇ。

坂巻:ミュージシャンのときはどういう音楽をやってたんですか?

本橋:僕はベースを弾いてました。スタジオ・ミュージシャンでもあり、ツアー・ミュージシャンでもあるって感じでしたね。

坂巻:どうでした? ツアー・ミュージシャン時代って。

本橋:微妙ですねぇ。自分の好きな音楽やってるときはいいんですけど、すごい仕事チックになってくるとだんだん落ち込んで来ますよね。俺には向いているのかな? って。

坂巻:その頃で印象に残ってるミュージシャンの方とかいます?

本橋:今でも交流ある方は、パーカッショニストのホアチョさんとか。

坂巻:ミュージシャンは何年くらいやりました?

本橋:3年ぐらいですね。

坂巻:じゃあこれが本橋さんの原点というか、そして今ここにそのままつながってる感じですよね。ミュージシャンであり、エンジニア

本橋:ああ、言われてみるとそうですね(笑)。

坂巻:本橋さんってテクノロジーと演奏を引き合わせてるというか、そういう感じじゃないですか。WAVEDRUMとか新しい楽器を作ってるし。演奏感へのこだわりもすごく強いと思いますし。大学は、理系というかエンジニア系の学部ですか?

本橋:工学部です。大学ほとんど行きませんでしたけどね(笑)。

坂巻:僕もです。留年しましたしね。
エンジニアな面とミュージシャンな面っていつ一緒になってくるんですか?

本橋:ああ~、そうですね。最初は全然かみ合ってないですもんね。

坂巻:副業というか、趣味に近い、夢みたいなところと現実みたいな。これでもミュージシャン時代は合わさってないんですよね?

本橋:そうですね。

坂巻:で、友達とやった開発会社は合わさってきているわけですよね。そもそも、ミュージシャン辞めたのってなんでですか?

本橋:だめかなーって思ったから。やりたいこともやれるわけじゃないし。

坂巻:だったら普通に仕事した方がいいんじゃないかなと。

本橋:そう。

坂巻:なんか無理にドラマチックな感じにしちゃって申し訳ないんですけど(笑)、エンジニアもできるし音楽もわかるから、俺自分でそういうソフト開発やったらできるじゃん、そういうのがやりたい! と思って始めたんですか?

本橋:そうだね。友達はとある楽器メーカーにいた人で、そいつに誘われてやったんです。

坂巻:そのときにはもう音楽に関連するものを作ろうと思ってたんですね。それってどういう思いだったんですか?

本橋:そんな大きい思いではなく、音楽にちょっとでもひっかかってるものをやりたいなって。全然関係ないんじゃなくて、音楽にからんでいるものがいいなと。

坂巻:本橋さんてすごくひょうひょうとしてるじゃないですか。なんていうか、情熱的なんですか?

本橋:どうなんですかね? 音楽はめちゃくちゃ好きなので、こだわらないで作るのが無理みたいな感じですかね。

坂巻:こだわらないで作るのが無理、っていい言葉ですね。
楽器の演奏と開発ってどっちが好きですか?

本橋:うーん、楽器の演奏ですね。

坂巻:今でもミュージシャンで活動してるじゃないですか。それずーっとやられてるわけですよね。30年ぐらいの間なにかしらの楽器をやってて、今でもコンスタントにライブもしてますよね。

本橋:ここんとこやってないですけどね。数年前まで毎月やってました。間が空いちゃったりすごいやってたりの差はありますが、ずっとやってますね。

坂巻:やっぱり楽器演奏が主軸になってそのまわりにいろんなものがあるって感じなんですね。
コルグでの最初の仕事は何ですか?

本橋:最初は……WAVEDRUMを作ろうとしてたんですよ。練習パッドにピエゾ・ピックアップ付けてタンタンって叩くと音がする、パソコンにつないでなんとなく音が出てる感じに鳴っていて、これでドラムを作るんだって。最終的にはパーカッションになりましたね。

坂巻:コルグの仕事をばーっと追って行ってもいいですか?

本橋:その後はまた研究開発で世に出なかったものいくつか作ったあと、Kaoss Padをやりましたね。

坂巻:あ、Kaoss Padですか。オルガンもやっていませんでしたっけ?

本橋:オルガン(CX)もやりました。

坂巻:CXのほうがKaoss Padの後ですか?

本橋:ちょうど同じくらいなんですよ。Kaoss Padも、試作つくっていろんな人に見せて、超不評で、「誰が使うんだろう」とか言われて(笑)、で、海外ディストリビューターにも見せて、超不評で(笑)。「君の演奏は良かったけど、使う人が思いつかない」とか。

坂巻:本橋さんがよく言われる、「本橋さんしか弾けない」ってやつですか。

本橋:「おもしろいと思うんだけどな~」って思って、DJの人に試作持って行って、聞いてまわりました。ちなみに最初の試作って、機能がけっこう山盛りだったんですよ。

坂巻:両手で演奏するタイプでしたっけ?

本橋:パッドが2個付いてて。

坂巻:あの、片手で四角、もう片手で三角を同時に書けないと、扱えないんです(笑)。

本橋:だから超難しい(笑)。

坂巻:本橋さんはそれができるんですよね(笑)。

本橋:DJの人にも「難しいのは無理だ」って言われたので、そこでシンプルなエフェクターにしようと思ったんです。操作系も、「選んで動かす、以上!」っていうものに。それで最初のKaoss Padの格好になりました。それで試作2だ!って思っているときに、オルガンの案件が来てやることになったんです。途中からそっちがメインになって、Kaoss Padは別の担当に預けて。

坂巻:じゃあKaoss Padの基礎の部分は本橋さんがほぼやったということなんでしょうか?

本橋:まあ、そうかなあ。

坂巻:Kaoss Padの頃の笑えるエピソードとかありますか?

本橋:そうだなあ。いろんな人のところを回ったときに、DJの人の家まで押し掛けて上がり込んで説明して、DJにお茶出してもらっちゃったりしてましたよ(笑)。

坂巻:誰のところ行きました?

本橋:MOOCHYさんとか、Q’HEYさん、大沢伸一さんのところにも行きました。

坂巻:すごいですね。「Kaoss Pad」っていう名前って誰が決めたんですか?

本橋:コルグUSAが付けた。「ぐちゃぐちゃ(Chaotic)だ」って(笑)。

坂巻:その頃はすでに研究開発チームにいたんですか?

本橋:そうですね。

—研究開発チームというのは、別の部署と違う点があるんですか?

本橋:研究なので、製品化される場合・されない場合どちらもあるっていうことですね。だから、あまり表に出せないんですよね(笑)。

坂巻:そうだ! 表に出ていない製品のことが公表できないから、ここでも書けないことがたくさんあるんだ! 本橋さん、ものすごくいろいろ作っているんだけど。

音を出した後になにかできるのが、楽器の「表現力」だと思う

本橋:WAVEDRUMのときにフィジカルモデリングというものに入って行ったんですけど、フィジカルモデリングで鍵盤楽器作ってもあまり意味がないんですよね。鍵盤でやってもPCMとかアナログモデリングのほうがいいじゃん、となる。
フィジカルモデリングというのは、楽器のような振る舞いをする音源なので、インターフェースも楽器みたいじゃないとあまり意味がない。そういう音源を活かせるインターフェースってなにか? と思って考えたんです。
要するに鍵盤ってスイッチですよね。押したら終了で、その後どうこうってないじゃないですか。それに対してヴァイオリンとかサックスって、音出した後が勝負で、どっちにいくか、こっちにいくかが決められる。擦弦(さつげん)楽器、管楽器、歌は3大・表現力が高い楽器だと思うんですけど、みんなそういう、音を出した後に何かできるものだと。ならばそうでないとだめだろうと思っています。

坂巻:となると、総じて演奏性の追求ってことなんでしょうか? 「演奏するとは?」ってことなんですかね。ミュージシャンがベースになっていて、で、その上でいろんなことをやってますけど、フィジカルモデリングっていうデジタルになかった演奏性を表現できるかもしれないものがあって、そしてWAVEDRUMが実際に出て。そう考えると革命ですよね。
そもそも本橋さん、演奏している楽器の遍歴ってどんな感じですか? ベースって今はあまり弾いてないですよね?

本橋:弾いてないですね。

坂巻:その後はWAVEDRUM叩きになりましたよね。

本橋:そうですね、あと自作の変な楽器とか(笑)。もともと、いろいろやってましたよ。小さいころピアノ習ってたんですけどあまり好きじゃなくて辞めて。で、中学の頃にフラメンコギター聴いてかっこいい! と思ってギター買ったんだけど、フラメンコの弾き方なんて教則本とかもなかったしちっともわからなくて、ギターは弾けたけどフラメンコは結局あまりできなかった。ギターはその後も友達と弾いたりしていて、そのうちにベース買って。で、バンドをやるってなるとドラムやる人があまりいないってことでドラムやって。で大学入って、バンドサークルのボーカルの女の子がかわいくて、そのバンドに入るためにパーカッション(笑)。

坂巻:そんな下世話なこと考えてたんですね(笑)で、その後はWAVEDRUMプレイヤーになったんですね。

本橋:そんな感じですね。

坂巻:手がけた製品の中で一番印象に残っているのってなんですか?

本橋:うーん、最初のWAVEDRUMですかね。下地がなんにもなくて、ものすごい手探りだったんです。何やるにも「これってどうやるの?」って。それがおもしろかったですね。

坂巻:そうですよね。たいていゼロから作ることってないですからね。

本橋:うん。「あれのあそこをこうして」が出発点な話がだいたいですからね。ただそのぶん、何度もだめかなって思いましたけど。もうできねえよなって。

坂巻:楽器作ってるときにいつも考えていることってなんですか?

本橋:うーん、演奏している人が楽しいかどうかですね。今まで作ったものを演奏すると、楽しいですね。WAVEDRUMも楽しいし、Kaoss Padも、CXも。

—もの作りの工程で一番楽しいときっていつですか?

本橋:最初仕様を考えてるときありますよね。海のものとも、山のものともわからないものをまとめていくときって、すごい夢が広がって、頭の中もすごいことになってるんです。あれもやりたい、これもやりたいって思ってて。その時は楽しいですね。
でも、実際開発に入ってくると、おおむね夢破れて行くんですけどね(笑)。できること、工業製品なので値段が合わないといけない。じゃあできる範囲で何するか? ってなっていくんですけど、そこに行く前。もちろん最初からお金のことも考えてはいるんですけど、夢が広がっているとき、それが一番楽しいですね。
その次に楽しいのは、試作が形になってきたとき。頭の中にあったものが目の前で形になったら、「じゃあこれがんばって動かそう!」って思えるわけですよね。
で、製品が立ち上がって世に出るときもわくわくして楽しいですね。ものができると嬉しいですよね。子供みたいな気持ちで。

坂巻:そうですねー、わかります。ではこれからは、どういうものを作ろうとか、どういう風に作って行こうとか考えてます?

本橋:ずっと同じ風に考えてきたので、これからも同じだと思うんだけど、電子楽器って便利ものみたいな部分があるじゃないですか。便利ものって楽器とは違うというか、楽器になりきれてないと思っていて。電子楽器が楽器になるようにしたいなと思いますね。

坂巻:道具か楽器かの違いはありますよね。デジタルものって道具になりがちですからね。

本橋:うん。それはそれでいいんだけどね。世の中便利になるし、音楽の敷居も低くなるし。けど、楽器ってそれ自体があまり語らないと思うんですよ。誰がやっても同じ結果になるものって、そこに主張がありすぎて、演奏する人の立場がない。楽器は押すとプーとかピーとか言うだけなのに、弾き方でさまざまに変わっていってくれれば、そっちのほうが楽器らしいと思うんです。だから勝手に楽器がいろんなことをするんじゃなくて、弾いてる人がそう思ったからそうなる、みたいなものが良い楽器なんじゃないかと。

坂巻:シンセってあいまいなんですよね。楽器と道具の違いって目的の違いかなって思うんです。目的をするためには道具なんですけど、楽器って使うこと自体が目的なので。
僕らって音を出すことを結果として道具を作ることを考えがちなんですけど、楽器を使うことが目的だって言うことをどう商品にするか、落とし込むかっていうところかなって思いますよね。シンセって、すでにある楽器の音を出すためにとか、そういう作り方をしがちですけど、そうじゃないだろうというのはありますよね。
本橋さんの製品は、言えないのばかりですが見事にそういう製品だらけですね。

本橋:そうかもしれませんね。

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本橋さん、坂巻さんの2人が語り合った「楽器とは?」という命題は、いままでもこれからも、それを扱う人の存在が浮かび上がること、がひとつのポイントになってきそうだ。そして道具との違いだったり、目的と手段だったり、確定要素と不確定要素だったり、さまざまな見方からも少しずつ浮き彫りになっていく。もちろん、これは楽器だ/楽器じゃない、に分けるという話ではない。楽器を作る人だからこそ、自分たちが何を作っているのか、それを追求し続けているということなのだ。とても興味深く刺激的なお話だった。

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