チームでとことん話し合い、走りながら作る―コルグ 開発部 福田大徳

Builders~楽器をつくるプロフェッショナルたち by 土屋綾子(RandoM編集部)/撮影:後藤武浩 2014/06/25

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今回は、本シリーズでコルグ社員に切り込んでいく同社の坂巻さんの同期、福田大徳さんの登場だ。開発部でマネージャーを務める福田さんは、iPad発売と同時に公開され話題をさらった「iELECTRIBE」などを手がけた方。チームプレイを大切にしているという福田さんの、仕事に対する考え方を、坂巻さんをナビゲーターにじっくり聞いていこう。

※このインタビューは2013年8月に実施したものです。 現在の所属、役職は異なっている場合がございます。予めご了承ください。

坂巻:入社当時は何をしてたの?

福田:最初入ってからの研修期間は、KORG Legacy CollectionMono/Polyを作ろうってことになりまして。僕と同期の中島くんと。その後はM1を新人育成プロジェクトとして坂巻くんがデザインやって、っていう感じでやったね。

坂巻:その後はMono/Polyが本格始動したって感じ?

福田:いや、microX。これも坂巻くんデザインなんで。結構最初2製品連続くらいで坂巻くんとやってるよ。

坂巻:うわあ、なつかしい。やってたねー。

福田:いろいろやって、その後にMono/Poly、そしてJamVOXだね。で、部署が変わってiELECTRIBEやって、iMS-20。その後iELECTRIBEのGorillaz Editionやって、iKaossilatorも少し関わって、iPolysix。その間にも研究でいろいろこまごましたものをやっていたね。

坂巻:一番大変だったのはJamVOXだったんだ?

福田:ハードのことがわからなかったのと、あとはそれまで手取り足取り教えてくださった先輩が退職してしまったタイミングだったんです。それもあって、自分や一緒にやっている開発者の仲間と、どう動こうかっていうのを自問自答し始めるきっかけとなった初めての製品だったんです。

坂巻:大変だったよね。
ええと、M1ソフトウェアって1年目?

福田:そう。その次の年にはリリースしてた。

坂巻:入社した年にはもう始めてたんだよね。

福田:そうそう。あれ結構大変だったよね。UIとか一緒に作ったもんね。

坂巻:そうだね。フォントも全部作り直したの覚えてる。

福田:こだわり持ってできたよね。みんなで話し合ったり、金森さんのところに相談しに行ったりしたよね。それが印象に残ってる。僕、そもそもソフト・シンセが作りたかったし。

坂巻:そうだ、なんでコルグ入ったの?

福田:入社前のNAMMかメッセでKORG Legacy Collectionの動画が公開されてて、「すげー! こういうのが日本の会社でも作れるんだ」と思って、それで入ったんだ。あとは単純に地元から離れたくなかったから(笑)。

坂巻:言ってたね、家が近いからって(笑)。

—もともと音楽はお好きなんですよね?

福田:そうですね。楽器とか機材はずっと好きで。コルグの製品も高校2年のときにTRINITYが出て、それが僕の中ですごい革命だったんです。

坂巻:これまで開発して一番印象に残ってる製品ってどれ?

福田:いろんな意味でJamVOXは考えさせられたけど、その後に先輩のエンジニアが抜けて、僕と中島くんとあとほぼ同期の井上くんの3人ですごい話し合ったんです。その3人が今の基盤としてあった上で、ELECTRIBEのアプリ版を作ってみようかとなったときが一番大きいですね。

坂巻:iPadが出るって話になって一気に進んだよね。

福田:うん、機をうかがって、ここで出るべきだって話しあって。

坂巻:大正解だったよね。

—iPadと同時に発表されましたよね。

福田:そうですね。2010年ってTwitterとかUstreamとかも一番おもしろかった時期だから、すごい一気に盛り上がって。相乗効果でよかったですね。

坂巻:うまく回ったって感じだよね。そこから順当にいろいろやってきてるものね。

福田:iPadもすごい今は成熟してきてるので、今は違うもの、違う時代が来てるかなと思っている。

話し合うことで、モノ作りをしてる

坂巻:いつも何考えて作ってるの?

福田:「チーム」かな。今のこの5人でなにができるかなっていう。それでやってるところは大きい。攻めすぎてもみんな不安に思ってきちゃうし、バランスよく全員が同じ方向見てできるものはなんだろうなっていうことを考えて、足下を見つつ、双眼鏡で遠くも、って交互に見ながらやってるっていうのが一番大事にしてることですかね。

坂巻:モノ自体を見るときはどう?

福田:モノ自体を見るときは、正直結構難しい。僕が開発の方にも入ってた時期があるので、苦戦することもあるんですよね。でも各担当者がそれぞれの分野のスペシャリストとして考えて作ったものだから、それを一番信用しようかなと思っていて。信頼して、そこに賭けるっていう。それしかできないですね。
エンジニアもおもしろいですよね。わくわくしている、話したくてしょうがないっていうか、ユニークな隠し球をもっていて、ゴソ……って出す感じ。「ちょっとこんな感じで動かしてみたんですけど」って持ってくる人がいたり。それを楽しみに待っているような気分があります。そういうところで、ひょんなきっかけで、製品というものが変わる。最初はもちろんネガティブな意見もあるんです。「やったことないし不安なんだけど」とか。そこらへんの話し合いをワンセットやっていくと、チームがアクセルがかかるタイミングがあって、それが一番楽しいんですよね。

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坂巻:すっかりマネージャーだよね。

福田:マネージャーなんだけど、結構みんな同じ年代なんで、近い目線かもしれません。別に僕も経験が豊富だったりとか、なりたくてなってるわけでもないから(笑)。

坂巻:(笑)一番楽しかった時期は?

福田:iELECTRIBEですね、圧倒的に。メディアの露出もあったし、始まったら仕事というよりTwitterのタイムラインをずっと追ってて(笑)。そのときも「誰かがこういうこと言ってた」と知るとパッと実現させたりとか、いい流れが渦巻いていて、ああいうのがまた経験したいなっていうのが、欲望としてあるね。

坂巻:作ってるときってどういうこと考えてる? モノ自体に対してどういう視線で臨んでいるのかなって。

福田:モノ自体に関しては、やっぱり最初はユーザー視点からかなってところはあります。自分が欲しいもの、入れたいものをシンプルに入れている感じ。ただ、それだけだといい形にはならないので、意見を収集してとにかく話し合ってますね、とことん。それが外からだと無駄っぽく見えてしまうかもしれないけど。やっぱ話し合うことでモノ作りをしてるっていうのは直結してますね。

坂巻:確かに会議長いよね。

福田:よくないよねえ(笑)。

—1回どれぐらいですか?

福田:下手したら5時間くらいですね。

坂巻:金曜は5時間以上やってるでしょ。

福田:飲み屋でやれって感じだよねえ。
でもそこでほぼモノ作りはしていて、それを形にするのは次の週の月から木で、っていうサイクルで動いているっていうのがありますね。

坂巻:チームの規模感もちょうどいいよね。

福田:そうだね。あとは最近だと自分たちの意見のほかにも、App Storeでのユーザーのフィードバックとかダイレクトに届くので、あれは全部目を通してます。

坂巻:全部見てるの!?

福田:うん、毎週見てる。App StoreのほかにもTwitterも見てるよ。僕だけじゃなくて開発者も見てる。なので結構やってる範囲が全員かぶってきてるので、僕いなくても全然大丈夫だと思うよ。チーム自体の向いてる方向が共有できてるから。

—iOSでの開発も全部社内でなさってるんですか?

福田:はい。全部社内です。そもそも外注を使うことは少ないですね。あと全部丸投げということはまずなくて、自分たちでできない一部分をお願いするという形にしているので。ちゃんと縦割りできるところはそうするっていうことですね。やっぱり世の中にあるものを1年かけて開発しても、自己満っちゃ自己満なので。

坂巻:わりと自前主義なのはいいことなのかなと思うよね。

福田:コルグはそういうとこあるよね。最後には本当に細かいところを気にしちゃうからね。

坂巻:でもそれがおもしろさだったりするよね。福田くんはiOSで作っていて、何を目指してるの?

福田:iOSは僕の中でまぎれもなく楽器になると思ってるので、楽器にするためにやってる感覚。製品かツールだったら、ミュージシャンはそのまま使ってくれると思っているので。まだまだアプリって、“遊ぶ”存在で、それはそれでおもしろいんだけど、iOSって多様性を持っているので、そこを目指して行きたいなと思っていますね。

坂巻:楽器に一番近づいたのってどれ?

福田:この中だと、iELECTRIBEが一番近かったなと思います。まずリズムなので、音程がない分だれでも使うことができたっていうことがすごく大きかった。誰でもいい感じで楽しめて。あと、それで別のものと差別化して場に溶けこんでいけたので、トータル・パッケージですませないことがよかったんじゃないかなと。
あれがELECTRIBEじゃなくて音程のある楽器のアプリだったり、直球なシンセだったりしたら、ここまでいかなかったんじゃないかな、難しいし。iELECTRIBEも十分難しいんだけど、ノブいじったりスイッチいじると必ずリズムに合ったかっこいいものが得られるので、リズムっていうのは大きいなって思いますね。

坂巻:メロディもリズムと関係してるからね。メロディって単音ビーって鳴らしてるだけじゃなくて、複数個いいタイミングで鳴らさないといけないじゃない。リズム感大事じゃない。でもリズムってさ、一応音程はあるんだけど、極端な話でたらめでもOKじゃん。そういう意味ではシンプルだよね。

福田:最初はリズムだけで大丈夫かな? って思ってたんだけど、そっちに舵を切って正解だったなと思うよ。

坂巻:フィルターもないんだよね。

福田:フィルターもない。エフェクターにあるんだけど、まあダイレクトに使う訳じゃないし。ピッチ・モジュレーションだけでやってくっていう割り切りのある仕様もすごくあるよね。

坂巻:だから冷静に考えるとめちゃくちゃマニアックだよね。ピッチ・モジュレーションだけで音作るシンセなんてないからね!
でも、成し遂げたいことに関して常識にとらわれないで「これができるからいいじゃん」ってやってるのってさ、すごいよね。

福田:そこらへんの取捨選択はすごいよね。フィルターを入れないでシンセ作るのって、できんのかな?って思うんですよ。

坂巻:普通は怖くなるよね。

福田:怖い。よくジャッジをしたなと(笑)。

坂巻:聞いたときびっくりしたよ。

福田:僕も(笑)。でもあのピッチ・モジュレーションはすごい強力なんで、あれでいいんだっていう風に押し切った。

坂巻目的のために常識を取り払うということだよね。

福田:やっぱり詰め込みすぎちゃうときに、引き算の方をどうするかっていうのが求められてくなと。

坂巻:逆に、iMS-20はぶちこみまくったでしょ?

福田:うん。あえてぶち込みまくった。あれは自分の中で盛り上がりすぎちゃって(笑)、ノブを全部出して、多機能にしちゃって、あとシーケンサーも搭載したし、ソングを組むところも、全部パッチングでやるような仕様にしたら却下されて(笑)。

坂巻:それは無謀だよね(笑)。

福田:でも行き着くところまで言った方が楽しいかなって思ったのと、自分の中で盛り上がってたので。それにちょっとストップがかかってあの仕様になったと。

坂巻:MS-20の説明もおもしろいですよね。

福田:ありがとう(笑)。でもアナログからiMS-20になって、また(MS-20miniに)戻ってくるなんてすごいですよね。

坂巻:やっぱ既存製品には申し訳ないけど、デジタルでやるならソフトでいいじゃんっていうのはあって。ソフトはコストも極小化できるから、作ってしまったものは1年ぐらいでも売れるわけじゃない。ハードって原価があるから、ソフト化できない価値っていうのを出さなきゃいけなくなるよね。

福田:そういう方がユーザーも単純でわかりやすいよね。逆にその両端にあるものが繋がってしまったっていうのがおもしろいし。

坂巻:みんな別に歴史を知らないしね。全然関係なく切り離しても、いいものはいい、やばいものはやばいってみんな思う訳だからさ。そういうのがいいよね。

福田:せっかくアナログもデジタルもやって、最先端のデバイスもあるんだから、コルグでやる以上は思いっきりやっていいんだなって思う。

坂巻:iPadとアナログ両方やってるところなんかね、おかしいですよ(笑)。

福田:絶対ないよね(笑)。

トレンドではなくフィードバックを受けて育っていくソフトが憧れ

—ものづくりの行程の中で、自分の気持ちが一番盛り上がるときってどんなときですか?

福田:プロトタイプを作るときですね。それまでいろんな妄想をしていて、できた瞬間に「あ、こう動くんだ」って。そこからまた妄想が一気に広がるんですよね。そこは大事にしてますね。

坂巻:答え合わせみたいな感じあるよね。

福田:楽しいよね! 試作があがってきたときとか。

坂巻:でも僕は一応、企画書を書いた時点で、ある問題に対する答えは一本通ってるから、そこで1個のピークで(笑)。それで、動くと「あ、だいたいできてる」って。あとはできなかったことを修正してく作業もあるけど俺はそんなに。ハードとソフトの違いもあるかもしれないけどね。
だから俺、iKaossilatorの開発のとき戸惑ったもん。エンジニアのみんなが作りながら考えてるから。

福田:そう。作りながら考えてるから、出だしは正直あんまり決まってないんですよ。ソフトって「よーいドン」でやってみようって感じなので。

坂巻:最初は結晶化の作業があいまいだったからさ、自分の中でいつ答えが出るんだろうって。それは困ったな。おもしろかったけどね。

福田:逆にうちの部署は企画者がちゃんといないというか、企画に専念している人がマンパワー的にもいなくて。だからこういう進め方でいいと思ってます。自分たち流にアレンジされた「アジャイル開発」と言いますか、こういう製品がいいかなっていう像はざっくり考えてはいて、それに合わせて「モノ」ベースで作り込んで行くっていう。でも坂巻くんとか企画の部署がやってるほど筋が見通せている感じではないかな。

坂巻:見る必要があるのかって話もあるしね。ハードはいくつか作業が並行するからさ、最初にしっかり設定しないとっていうのはあるよね。そのへんの難しさがある。だから俺は最初の時点で、みんなに伝える製品像ができて、満足せざるを得ないのかもしれない。あとは改善じゃない。できないことがあるんじゃなくて、粗を直して行くっていう感じだからね。やっぱこれ入りません。じゃあその機能全部やめてこっちにしよう。とか。
だから俺、出す直前くらいまで製品好きじゃないもん、あんまり。なんか、くやしく思うことのほうが多くて。
でも出たら「よしよし、出た。OK」って楽しくなるけど。でもそのくやしい思いとかをひきずらないようにどんどん次の製品を作っていくかな。

福田:それがモチベーションを保つコツなんだ。

坂巻:最初の波をずっと続けてく感じだからね。
これからは何作るの?

福田:僕がやりたいのは、これまでずっと過去のもののリイシューでやってきたので、そうじゃなくて5年とか長いスパンで育てるソフトを作っていきたいと思ってますね(※編注:その後2014年1月に、「KORG Gadget for iPad」がリリースされた)。そのときそのときのトレンドにそんなに左右されずに、質実剛健な、中身のしっかりしたものを作って、ちゃんとフィードバックを受けつつ、育って行くみたいなソフトが僕の中で憧れでもあるんです
ちょうど今iPadも成熟して、やる時期としても適切かなと思ってるよ。

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アプリのように、ハードウェアが決まった状態でいかに新しい体験を見せられるかを考えること、そして披露してからも細かに機能を調整していくこと、そういった努力をしていくには、福田さんの言う「チーム」が肝だ。長い会議は生産性が~、などと言われたりするが、そんな一般論で働き方をスパッと判断なんてできない。動きながら、話しながら、考えて作る、その結果がこの“強いチーム”なのだ。

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