チューナーも、それを使う人も好きだからこそ「超現場主義」の企画担当―コルグ 開発部 並木香織

Builders~楽器をつくるプロフェッショナルたち by 土屋綾子(RandoM編集部)/撮影:後藤武浩 2014/04/21

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みなさんはコルグといえば何の製品を思い浮かべるだろう? 「シンセ」ももちろんだが、「チューナー」と答える人も結構多いのではと思う。そんなわけで今回は、コルグで長年チューナーの企画を手がけてきた並木香織さんをお招きし、開発とは違った製品作りの視点や動き方についてお話をうかがった。

※このインタビューは2013年8月に実施したものです。現在の所属、役職は異なっている場合がございます。予めご了承ください。

「シンセのコルグ」のほうが未知だった

坂巻:チューナーってコルグの中でも看板商品ですよね。チューナーの始まりの部分を教えてもらってもいいですか?

並木:針式メーターの小型チューナー、WT-10が世界で初めて誕生したのは1975年です。それ以前のチューナーは、ストロボ・チューナーという、個人で使うにはだいぶ大掛かりなもので、小型のチューナーはなかったんですね。
当時の現場では、ビッグバンドのメンバーがそれぞれ「俺(の楽器)に合わせろ!」「いや、俺だ!」って言い合いながら、誰かの楽器に合わせて調整していたんです。それだと喧嘩が絶えなくなってしまう。そこでWT-10を考えたのが弊社創設者である加藤孟だったんです。

坂巻:会長は同じように、現場のためにドンカマ(ドンカマチック)も発案していますよね。ドラマーが入らなくてもリズム出しができるものがあるといいんじゃないかっていうことで作られたんです。
並木さんは入社前からコルグのチューナーを使っていたんですか?

並木:中学、高校の頃、部活でマンドリンクラブに所属したいたので、コルグのチューナーを使っていましたね。

―もともとコルグ=チューナーのイメージが並木さんの中にはあったんですね。確かに楽器店に行って、ギターとかベースを買って、一緒にチューナーも、となって初めてコルグ製品に触れるというパターンは多いですよね。

並木:そうですね。私は入社するまでは、シンセのコルグのほうが未知だったんです。なので先輩に「え? コルグのシンセのこと知らないの?モグリだねぇ」って言われたこともありました(笑)。
ただ私、入社した当初からチューナーをやっていたわけではなかったんです。最初に配属されたのは人事課で。その後数年で企画に移ったんですが、いきなりチューナー担当になったというわけではなくて。

坂巻:えっ! そうだったんですか?

並木:移ってしばらくは、商品についての知識を養う時間を与えられていて。実践的に製品ごとの担当を務めるまでにはいかなかったんです。で、また会長の話ですけど、ある日いきなり「お前はチューナーの担当に明日からなるんだ」と(笑)。

坂巻:(笑)いきなり!

並木:そう。入社して5年ぐらいしてからですね。

坂巻:えー、びっくりです。でも鶴の一声を出すとは、会長はなにか分かってたんでしょうね。そして、その後のコルグのチューナーの躍進があるってことですね。コルグのチューナーはその後ずっと手がけられていますよね。

並木:94年頃からの商品はほぼ私が企画担当しています。それから初めて作ったのがAT-1 ACですね。これはAT-1という針式の商品にコンタクトマイクをつけたんです。アコースティック楽器の人はなかなか安定した音が取れないので、ピエゾのピックアップ・マイクを付けてあげたらどうか? という企画提案をしました。周囲の音に邪魔されずに、自分の音だけを拾ってチューニングできるので、他の楽器の横でも自分の楽器のチューニングがスムーズにできるようになるんです。

坂巻:僕が初めて手に入れたコルグ製品ってAT-1なんですよ。僕自身はコルグ=チューナーっていう感覚はなかったんですけど、母がギターを弾いていたんですね。母から、もしギターを弾くことがあるならこれを使いなさいって渡されたのがAT-1だったんです。並木さんにとって一番印象深い製品ってなんですか?

並木:さっき言った、最初に手がけたもの(AT-1 AC)。それから初めて液晶画面をつけたCA-10。そして世界初・最小のクリップ・チューナーAW-1が2004年ですね。それぞれ新しいコンセプト、デザイン、改善点を反映して、使いやすさを考えて進化をとげてきたと思っています。

坂巻チューナーにおけるイノベーションはコルグが、というか並木さんが起こしていたわけですね。CA-10で液晶つけて以降ってこういう据え置き型のチューナーが主流になってきて、でもその後AW-1でクリップ型になるじゃないですか。
AW-1って、おそらくサイズにめちゃくちゃこだわりましたよね?

並木:そうです。小さくするために、コストを惜しまずに。当時一緒にこの製品を作ったエンジニアのこだわりですね。

坂巻:液晶わざわざ切ってるんですよね。

並木:そうです。液晶を特殊サイズにカットするしかなかったんですよね。社内では「目玉親父」って呼んでたんですよ。小さくするための技術努力というか構造検討から始めたんです。バックライトのような明るさを出すためにオレンジのシートをつけて見やすくしたり、他にもいろいろ工夫をしたので、やっぱり思い出深いのはAW-1ですね。
そういうことを、当時の技術者と一緒にやっていました。今は在籍していないのですが、彼が技術革新を考える中心人物でした。チューナーはエンジニアの力が一番詰め込まれているので、企画力より技術力のほうが高い製品だと思っています。

坂巻:チューナーって、要素が少ないじゃないですか。基本的には「測る」ってことがあって、測り方や表示の仕方で考えるから、技術革新なくして企画はしにくい。で も同時に、エンジニアが意味のない技術革新をやってもどうしようもないカテゴリというか、商品企画としてこうしたいんだ! っていうのがベースにないといいものが作りづらい商品だと思います。

並木:開発中は、理想を追い求める企画担当と実直なの技術者との葛藤は常にあって。実用に足らない製品は作ってほしくないですから、どうしてもダメ出し担当になってしまうんですよ。「もう少し! もう少し! 使えるものを作って!」みたいな。

坂巻:それは大変ですよね。派手に削るのはラクですけど地味に少しずつ削っていったり、微妙なコストダウンをしたりするのって。エンジニアがこうしたら? って出してくるんですけど、企画的にはそうじゃないとか、逆に企画がこういうのないのか? って言ってもエンジニアができないとか。そういうことを重ねていって時間が経つにつれてだんだんできてくるというか。
並木さん、チューナー作るときに大事にしていることってあるんですか?

並木:まずはコルグのチューナーとして、「表示」と「精度」にはずっとこだわっています。チューニングするときの安心感につながるのは、表示の安定性だと思うので。針の揺れが敏感=精度が高い、というだけじゃなく、ユーザーの方がいかに安心して使えるか、ということを日々検討してます。あとは常にユーザーの方の意見を取り入れるということですね。例えば管楽器向けに作るときはブラスバンドやオーケストラの方から意見をいただくようにして。

坂巻:チューナーって音程を取るものと思いきや、使っている人によってぜんぜん違うんですよね。ギターだけでなく、ヴァイオリン、トランペット、コーラスにも使われますし。

並木:そうですね。なのでユーザーさんによってすごく使い方が化けるんですよね。例えば管楽器なんかは、音が入ってくるとブレスに応じて分かりやすくしたい。メーターの針が左から右にあがってくるイメージがチューナーに付いてるんですけど、最新の技術では、プーと吹くとパッと表示されるようにして、音程感を養うトレーニングになったり。またギターは弦を巻く動作に合わせて安定した針の動きもディスプレイに表現したりしています。毎回違う表示方式をその都度考えてデザインと商品に集約してますね。

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基本的に会社にいない。常にユーザーのそばに

坂巻:それで言うと、僕の並木さんに対するイメージって「会社にいない」ということなんですよ。

並木:ははは(笑)、いないですねえ。

坂巻:いつも現場にいますよね。それってこだわりなんですか?フットワーク軽くしてじゃんじゃん行こうっていうのは。

並木:そうですね。いつもユーザーのそばで声を聞くことが第一なので。
パソコンは朝のメールのチェックだけしか見ない。後は営業と同じように企画も外に出るんだっていうのが、私は思っているのね。
知りたいことを知ったり、ネットワークを広げるためにはやっぱり人と話すのが大事だから。パソコンで情報を得たり、メールでやり取りもできるけど、活字って感情がないから温度差を感じるし。学校の吹奏楽部や社会人のオーケストラ団体、ミュージシャンにも直接お会いしてその現場を支える人々のお話を伺って、集めたフィードバックをチューナー作りに反映させてます。
会社にいてもいろんな人と会話をするとか、それでヒントが得られるじゃないですか。

坂巻:営業とか、別部署のフロアでばったり会ったりとかしますもんね。

並木:自分がマンドリンを現役で続けてないので、今を知るためにはやっぱり現役のユーザーさんや現場の声が必要なんです。チューナーって、すべての楽器に対応できるように仕様を工夫して作っているんですけど、楽器って種類が膨大じゃないですか。そのカテゴリに深く勉強していかないと知識が得られないんですよね。古楽器だと音律というのがあって、普通の平均律とは違う音律がいくつもあるんです。そういう話を音楽大学の教授から伺うといつの間にか数時間経っていたり(笑)。時間を忘れて話に没頭しちゃって。
ただ、いい話と悪い話は聞き分けなきゃいけないですけど。

坂巻:そういう部分が企画としての信念というか。いろんな人に会って話聞いて。

並木:企画というのはアイデアだけではなく、コーディネートしなければいけない仕事なので、一種のプロデューサーとしても活躍することが必要ですね。

坂巻:並木さんを見ててすごいと思うのは、チューナー自体とそれを使ってる人たちのことすごい好きですよね

並木:大好き。チューナーから学んでチューナーと共に生きてきていると思うので。学生時代から今も続くよりパートナーとして大事に思っています。これも運命なんですかね。

坂巻:特定の音楽が好きとかそういう感じじゃなくて、チューナーのこととそれを使ってる人のことがすごい好きで、それでいろんな場所に行って話聞くのもすごい好きで。

並木:その場その場に合わせられるようにしてます。ジャンルは問いません。

坂巻:チューナー作りの魅力ってなんなんですか?

並木:魅力……。なんでしょうね。未だに私も模索してる途中ですね。普段からネタを拾い集めて探し求めることで、まだまだできることが隠されている商品だと思います。エンドレスにアイデアをかき立て考えられるものだと思ってるので、終わりはないだろうと思っていますね。

坂巻:なるほどー。基本的にあるカテゴリの製品、たとえばギターとすると、ターゲットによって細分化されますけど、製品像は想像しやすいじゃないですか。さらに僕がやってるような電子音楽系とかはもっと限られるじゃないですか。でもチューナーって、音があれば全部その対象ですよね。

並木:そうですね。だからジャンルは本当に問わない。自分でも好きなジャンルや好きな楽器をやろうと思っても、あまりのめりこまないようにしてます。ギターとかやり始めるとそれにこだわっちゃうじゃない? 私は自分でその傾向が強いと思っているので、趣味の領域と仕事とは分けています。

坂巻:なるほど。軸足が特定のジャンルではなくて、「人とチューナー」に置いてあるからバランスがとれるんでしょうね。全然軸足がなくてバランス取るの難しいじゃないですか。

並木:そうそう。ふらふらしてしまう。やっぱり船のようにバランスを取りながら舵をきって進んでいかないといけないのかなって思います。

坂巻:企画の鑑ですね。

並木:滅相もないです。

―現場に行くときって、事前に「お話聞かせてください」ってお願いして行くんですか?

並木:どちらもありかな。アポとってお邪魔することもあれば、突撃もあります

坂巻:突撃もあるんですか(笑)!

並木:ちょっとフレンドリーになればなるほど突撃もやりやすくなってきて。構えてない現場も見たいですし。アポを取って行くと、お互い仰々しくなって本当に話したいことも出てこなくなったりしちゃうことがある。でも急にふと会いに行くと、普段の練習風景、創作現場が見えたりするので。

坂巻:……僕も現場にもっと行くようにします。

機会を大切に。ファジーに臨機応変に

―並木さんから見て、チューナーに限らず商品企画のコツはありますか?

並木:私たちがモノづくりした商品に手を伸ばしてもらうための「共感力」を持ち続けることが大事だと思っています。あとは、社内の数ある意見の間をとって、違うものを作るってことですね(笑)。

一同:(爆笑)

並木:双方意見は理解しましたと。だけど違うものを作っちゃう。だってまとまらないからね。

坂巻:これは大事ですよ。言われたもの作るとあんまりいいことないんですよね。ちゃんとそれを噛み砕いて作るっていうことが大事で。

並木:企画担当だからね。スパイスは自分がちゃんとかけないとね。

坂巻言われたことをひねって、なんとかできるようにするっていう、その奥にあるやりたいことをうまく考えるのはすごい大事ですよね。

並木:それに、エンジニアの中でもやりたいことはみんな持ってるから、そこをうまく汲み取ってまとめるっていうのも私の仕事です。あとは使いやすさの追求から、もっと小さく、もっと薄くをモットーに。小さいけど存在感のある商品にしたいですね。

坂巻:うちの商品のコンセプトで、ありますよね。

並木:できるだけ小さく。そしてシンプルな機能なのでそれを生かしてなるべく目立たせないように。チューナーは陰の立役者だから。でもチューニングが合っていればこそ楽器の音が活きてくるので、そういう意味ではバンドを一つにまとめてくれる「バンドマスター」ですね。

坂巻:本当に単純な製品だからこそ話が広がりますね。

並木:そうですね。チューナーの歴史ってたくさんストーリーがあって、語りがいがあるんですよね。会長も当時よく話してくださいました。
そういう楽しい話を聞かされつつ、その意思を受け継いで、社長と一緒になってより進化を遂げるチューナーを、と考えています。
経営方針は「ファジー」なので(笑)、それを意識してやっております。

―「ファジー」!?すごいすてきですね!

坂巻:(笑)。

並木:「ファジー」という言葉をどう捉えるかですが、自ら自律の精神を養う、ということを会長が当時教えて下さいましたね。

坂巻:その場その場でちゃんと適応することが大事で、現場力というか、今の問題に対応する力が大事だっていうことだったらしいですね。適当ってことじゃなく、臨機応変ってことですよね。

並木:だから、自分に与えられたことはチャンスと思い、努力を惜しまないこと、誠実に受け止め、目標に到達するまで信念を曲げずに実現への道を進むことが大事だと思っています。

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並木さんと坂巻さんのいる社内ではいろんな音が鳴っているそうだ。それは、それぞれの担当であるチューナーの性能チェックやシンセの音チェックなどの音。膨大な企業秘密があるためその場には入れないが、まさにこれから世に出てくる製品が形になろうとしている場所ってこんな感じだろうか……と思い浮かべてみると、ものすごくワクワクする。

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