音楽愛+よく切れる刀を持つマルチ・プレイヤーの、洗練された視点―コルグ サウンドデータ開発課 金森与明

Builders~楽器をつくるプロフェッショナルたち by 土屋綾子(RandoM編集部)/撮影:後藤武浩 2013/10/07

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「Builders」株式会社コルグを取り上げるシリーズの2回目は、「ガジェット」のはしりとなった同社製品:ELECTRIBEの音を作り出した金森与明さんをお招きした。数多くの製品を手掛けてきた金森さんが持つ「いい刀」とは? ナビゲーターは前回に引き続き商品企画室 坂巻匡彦さんだ。

―金森さんの所属されているサウンドデータ開発課という部署は、どんなことをするのですか?

金森:サウンドデータ開発課はいわば楽器の「音」を任されていて、出音の調整と最終的なプリセット音、デモソングなどを作る部署です。大半の課員がPCMと呼ばれる波形データの編集や加工の作業に携わっていますが、僕は主にアナログ・モデリング・シンセなどの音源部分の仕様や調整を担当しています。

坂巻:金森さんはそもそも入社何年目でしたっけ?

金森:20年超えましたね。サウンドデータ開発課に来て16、7年ぐらいかな。もともと入社したときにはソフトウェア設計課って部署があって、コンピューターでプログラムを書くという業務をやってました。最初の頃はSoundLink(サウンドリンク)という、DAWのはしりのような製品に携わりました。

坂巻:ソフトウェア開発で5年だと、スパンとして長いですね。現在の部署へはどんなきっかけで移ったんですか?

金森:90年代当時、シンセサイザーの流れで音源がアナログからFM、そしてPCMときて、コルグも01/WなどPCM音源全盛期の頃でした。そこで次のシンセは「モデリング」と呼ばれるDSPというチップを使って計算で音を作り出そうとなりまして、ソフトも音も知識がある人間を探してたらしいんですよ。
当時僕はバンドをやっていて曲作りをしていたのもあって、突然声がかかって。数学科出身でソフトをやってたというのが大きな理由だったと思うけど。「家で作ってる曲を持って来い」ってことで(笑)、曲審査を経て現在の部署に移りました。
今の部署に異動した当初から「計算で音を作る」というモデリング音源(アルゴリズム)の研究をずっとやってたという感じです。

坂巻:製品はしばらく出ませんでしたもんね。

金森:製品は……幻のOASYS(オアシス)(コードネーム:X-013)っていうのがあったんですよ。本当の大昔のOASYS

坂巻OASYS PCIですか?

金森:いや、それの前。もう誰も知らないと思う。幻のシンセ。

坂巻:ああ! いくらでしたっけ。なんかすごい金額だった気が……(笑)。

金森:SoundLinkも500万円以上したからね。その幻のOASYSは200万近くなのかな? でも結局値段をつけるまで行かなくて、開発中止になっちゃった機種なんですよ。

―ということは、現存するのは試作機的なもののみってことですか?

金森:そうです。……いやーこれ、言っちゃっていいのかなぁ(笑)。けど、NAMMショーなどでも発表していたのでネットで探せば見つかるかもしれません。
その幻のOASYSは今のKRONOS(クロノス)の大元みたいなものだった。タッチパネルもやってたし、でかいリボンもついてた。ハードディスクも内蔵してたし、鬼のようなシンセでしたね。

坂巻:88年とかそれくらいに移って、01/Wの頃ですね。じゃあもう、2000年ごろにはKRONOSの基礎はすでにできていたんですね。

金森:そうそう。この企画と開発は基本的に日本ではなく、サンフランシスコにあるKORG R&Dのものでしたね。

ガジェットが生まれたターニング・ポイント

坂巻:金森さんがやったアルゴリズムとして、幻のOASYSが最初にあって、95年にProphecy(プロフェシー)、97年にZ1、で、ここまでは結構、いわゆる「キーボード」じゃないですか。
そこから97年以降、「キーボードじゃない」のが始まりましたよね。ELECTRIBE(エレクトライブ)から。シンセで鍵盤付いてないやつを始めたのって金森さんがやっぱり中心人物だと思うんですけど、これってどうやって生まれたんですか?

金森:X-013の音源を作るときに、「ピュン」とかいうアナログ・ドラムのモデリング音源を作ってシーケンサーと組み合わせたら、それがすごいおもしろかったんですね。
あまりにもおもしろすぎて、「これをシンセのおまけとして入れるんじゃなくて、なんとか単体の商品に、しかも安く出そう」となって、「A4サイズぐらいでなんとかできないか?」と言われまして、それでELECTRIBEのER-1とEA-1という兄弟機種を考えました。

坂巻:これは完全に仕様先行というか技術先行ですか?

金森:そう。アルゴリズムありきです。なのでパソコン上であらかじめシミュレーションして、取説みたいな仕様書をバーッと書いて、パネル・レイアウトの絵を描いて、という感じで、作っちゃったんですよ。

坂巻:これまでは500万! 200万! 10数万! っていうのが、いきなり……

金森:サンキュッパ。EA-1、ER-1も。Z1で使っている音源は、1ボイスにつき1個、合計12個のDSPを使っていました。そのたった1個のDSPでEA-1とER-1の音源仕様をまとめました。とにかく安くしようっていうのが命題でしたね。当時は商品の価格帯としてこのラインはなかったから、ちょうど、今のガジェットのはしりっていう感じですね。

坂巻:ほんとそうですよね。僕も当時買いましたからね、ER-1とES-1。

金森:こんな感じで、DSPチップを使ったモデリング・シンセは自由度が高いので、僕は割と初物の担当が多かったですね。KAOSSILATOR(カオシレーター)もそうだしmicroKORG(マイクロコルグ)も、MS2000もだね。

坂巻:microKORGってどうやって生まれたんですか?

金森:当時の企画担当者であるKさん(現在は退職)のひらめきがでかいですね。多分最初はMS2000のシステム資産を生かして安いシンセを作れないかって考えてたと思うんですよ。で、ある日突然神が降りてきたんだと思う。こうやればいいんだ、っていうのが。ネーミングも含め、基本アイデアは彼が一気に作り上げました。

坂巻:microKORGってそもそも、マルチエフェクターの箱にミニ鍵盤をはめると、サイズ感がちょうどいいから、それぐらいのちっちゃいサイズのものを作ろうって。

金森:それでKさんが実際に夏休みの工作っぽく、紙で作ってみたんです。エフェクターの箱にミニ鍵盤をボンとおいて、レバーが付いてというものを。アイデア段階から最終的にもデザインや見た目に魅力を感じるシンセでしたね。

坂巻:Kさんの発想もそうですけど、金森さんがちゃんと製品にしてるという感じがしますよね。アルゴリズムのレベルからちゃんと作ってて、音楽的におかしくないぐらいのパラメータやインターフェースになっているし、出音まで全部含めて「シンセの価値」みたいなものを、金森さんはワン・パッケージ化できるというのがポイントなんじゃないかなーと思うんです。
それはやっぱり金森さんが今だにバンドもやられてますし、サウンドデザインチームだから音作りもするし、出がソフトウェアだからアルゴリズムも考えられるしっていう、この要素が多分ばっちり合ってるからなんでしょうね。

金森:僕だけじゃなくて、周りの人がいたからこそだけどね。音源としては、元にしたMS2000が真面目に作ってあったので移植は早かった。
その後はELECTRIBE MXやSX、KAOSS PAD(カオスパッド)KORG Legacy Collection(コルグ・レガシー・コレクション)、あとDSソフトやiOSアプリなどに関わりました。

坂巻関わった数がすごい多いですよね

金森:うん、自分でも多いと思う。まだまだあるもの(笑)。最近ではKingKORG(キングコルグ)やKRONOSのEP-1音源を担当しました。

なんでも入れると見えにくい。いい刀でバサーッと切る

坂巻:企画者としては、仕様の話が一緒にできるのが大きいですね。

金森:坂巻とはいつも一緒にやってるもんね。

坂巻:KingKORGなんて、半ばケンカなんじゃないかってぐらい話し合った(笑)。半年はやりましたよね。

金森:シンセって、機能とデザインとのバランスがすごい重要なんですよ。それで「これだけは削れない!」とか言うのをいつも綱引きしてるような感じ(笑)。
半年やって、それで最後バサーッと切ったよね。いい刀持ってるかとか、そういうとこだよね

坂巻:そうなんですよね。切り口が上手く出ればってことですよね。

金森:ポイントが見えれば切っちゃう。そのほうが分かりやすい物になっていくっていうか、僕らがおもしろいと思っているところがより前面に出てくる。なんでもできるようにしちゃうと、多いとおもしろい部分が隠れてしまって、見えづらくなっていくんですよね

坂巻:ちゃんとおもしろさが見えるようにそぎ落とす、っていうアプローチが、おそらくELECTRIBE以降ですよね。

金森:そう。ELECTRIBEで、それをすっごい実感した。そぎ落としたことで、厳選した機能をみんなが「おもしろい、おもしろい」って触ってくれて。シンプルにしたおかげですごい見えてくる。
お客さんがおもしろい! とか楽しい! とか言ってくれたのは嬉しかったですね。「伝わった!」って思いましたよ。安くしたことも大きかったでしょうね、多分。今までZ-1とか、高い製品なだけに数は多く売れなくて、少数のプロのお客さんから反応をいただくことが主でしたしね。プロではない人からの反応が得られたのはELECTRIBEあたりからです。

坂巻:企画担当としてすごいラクなのは、僕がめちゃくちゃなことを考えても、バランスを取ってくれるというか。多少僕が極端に「こんなものなくていいんですよ! 音的にもなくていいんです!」って言うと「さすがにマズイ」って言ってくれるから(笑)、そこのところで自分は多少大胆にアプローチしてもいいと思わせてくれるんです。僕はちょっと強引でも説き伏せられるんで、他の人だと「まいっか、めんどくせーから」って思うところを、金森さんはちゃんと「そうじゃないんだ」って言ってくれるので。音と音楽とアルゴリズムが分かってるっていうところに助けられてるなと思います。

―最終的にできる製品がどういうものになるかっていうのを常に想像するということですね。

坂巻:そうそう。価格がいくらで、どれぐらいのお客さんに買ってもらいたいと思ったときに、そうすると発音数はこれくらい、とか全体像があるから。

金森:それがパネルのデザインにも影響しますね。特に初代のELECTRIBEのような安い製品では、音源パワーの制約とにらめっこしながら仕様を決めて行くので、まさにパズルでした。パート数(同時発音数)がどれだけ出せるかとか、どこをどうしたら部品(アルゴリズムの演算パワー)がもっとちっちゃくできるかとかをずっとやってたんです。それが本体のデザインにまで影響しちゃうから。
今考えると、プロトタイピングがうまくできていたなと思います。ハードウェアでああいうのを作るのは、見積もり段階でそういうのを全部読めないと難しい。

坂巻:そうなんですよね。これが難しいところですよね。

自分のやった好き勝手を、後輩にもやらせたい

―今まで作ったもので一番印象に残っている製品はなんですか?

金森:自分が一番好きなのっていうとELECTRIBEですね。ここが明らかにターニング・ポイントだよね。最初に数百万とかの、階層が深くてパラメータが何百個とあるようなとんでもない製品をやっていたというのがトラウマになったのかもしれない(笑)。シンプルなのが美しいっていう気持ちになった。だからそういう意味じゃ「いいと思うポイント」が坂巻と近いかもしれない。

坂巻:そうですね。……しかし今までちゃんと追ったことがなかったから、こう時間軸で見るとすごいですね。でも、最近だともういっぺん、MS2000からKingKORGに戻ったって感じですね。

金森:そうそう。何回かリセットしてるところはある。循環してる感じ。

坂巻:めぐりめぐって行って、これからは何をしていくんですか?

金森:これからは、あまり自分がやらないようにしようと思う(笑)。やりすぎると部下が育たないので、後輩とかにガンガン考えさせて、新しい発想にも期待しています。仕事を振るって言うよりも自力で考えることが重要だと思いますから。だから、自分ができることは何かって言うと、担当を後輩に任せてそれに近づかないこと(笑)。口出さないことなんですよね。

坂巻:僕も入ったときから好き勝手やらせてもらっているので……。

金森:僕もそう。ありがたいことに全部好き勝手やらせてもらってきたと思う(笑)。

坂巻:だから、自分がやってきた好き勝手を、人にもやって欲しいって思うんですよね。

金森:そうそう。そうしないと、学ばないっていうか、責任も生まれない。誰かの考えたやつだから俺は知らねえやってなっちゃうと、その製品への愛情も全然ないと思うんですよ。やっぱり責任持って作ってるかどうかがすごく重要。

―好き勝手やりつつも、意識していることってありますか?

金森:案を考えたり、何かを作ったりした後、引いて見るんですよ。自分はこれだけ好きだけど、作品じゃなくて製品なので、客観的に見てどう思うか。あまりマニアックにならないようにいつも心がけているというか。

坂巻:入り込んでる感じと引いてる感じのバランスがありますよね。

金森:そうそう。ズームイン/ズームアウトを常にやってる。

―好きなことを仕事にしている方が多いほど、そこが重要になってくるんですね。

坂巻:金森さんももともと音楽、楽器は好きでした?

金森:好きだった。授業には行かなかったけど、楽器屋とレコード屋にはほぼ毎日行ってた。親に言えないけど(笑)。レコード・コレクターだった。
あと学生時代は、ソウル・ファンク系バンドのキーボードをずっとやっていました。
ただELECTRIBE開発のときに、製品的にはテクノじゃないですか。勉強しなきゃ! ってタワーレコード行って試聴する……んだけど結局買うのは自分の好きなファンクの(笑)。それをいっつも繰り返すの。ファンクとかソウルとかがたまっていっちゃう。

坂巻:CDやレコードは何枚ぐらい持ってるんですか?

金森:うーん、そんなたいしたわけではないけど、CDは2,000枚ぐらいあるかな。レコードは1,000枚ぐらい。昔からのものも聴かないけど捨てられない。スペース取ってるね。

坂巻:本当にずっと音楽漬けですね。
楽器作ってるときに一番大切にしているものってなんですか?

金森:さっき言ったことと重なるけど、使いやすさとかわかりやすさを意識するとか、引いて見るとか、そういうことですかね。あんまりマニアックなところに行き過ぎないように、自分でブレーキを踏んで。本当はマニアックになんでもできるのは好きなんだけど、わかりやすいところで着地するようにっていうのはいつも思ってますね

坂巻:突っ走りすぎずってことですね。

金森でもある程度トゲはあったほうがおもしろいと思うんだ

坂巻:そうですね。ものすごい情熱とか勢いとかがあった上で、それが人からどう見られてるかって言うのを考えて、伝わるような形にするっていうのが大事ですよね。それはもちろん使いやすさの部分でもそうでしょうし、機能的に多すぎてないか、使えるものなのか、バランスを考えるようにしていると。

金森:そうそう。

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ソフトウェア、ハードウェア両方の立場から製品の全体像を形作る金森さんの視点は、音楽が大好きであるからこそ、そこに溺れない意思を持つことでより強く、説得力を増している。多種多様な人全員の求めにすべて応じていたって、結局多くの人がいいと思う、洗練されたモノにはならない。そんなクールな立場を取りつつ、「でもトゲはあったほうがおもしろい」という一言は、なんともロックというか、音楽好きの片鱗が垣間見えてニヤリとしてしまった。

最後に、ソウル/ファンク好きの金森さんに、ハズせない名盤を5つ選んでもらった。スタンダードを押さえながらこだわりの見えるラインナップ、ぜひご覧あれ。

金森さんがお勧めする、ソウル/ファンクの“ハズせない!”名盤

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