自作シンセを面接に持ち込んだ「ヤベーやつ」が込める、計画できないおもしろさ―コルグ 開発部 高橋達也

Builders~楽器をつくるプロフェッショナルたち by 土屋綾子(RandoM編集部)/撮影:後藤武浩 2013/09/20

130703-takahashi-main

国内外のミュージシャンのクリエイションを盛り上げてきた楽器・機材の数々には、複雑な技術が詰め込まれたもの、長くの人に愛されるもの、誰もが驚くようなまったく新しいものなどさまざまあり、それぞれに強い魅力を持っている。その多様な製品たちの向こうに居るのが、「生みの親」たち、メーカーの開発者、製品企画者だ。「Builders」では、日本の楽器・機材を作る企業にフォーカスし、そこに居るプロフェッショナルたちがどんなきっかけで楽器づくりを始め、多くのミュージシャンに愛されるモノづくりをするに至ったのかを掘り下げていく。

「Builders」初回シリーズは、今年創立50周年となった株式会社コルグの商品企画室 坂巻匡彦さんをナビゲーターに、さまざまな開発者達を迎えてお送りしよう。第1回のゲストはmonotron(モノトロン)、volca(ヴォルカ)などのアナログ・シンセサイザーを手掛ける開発部の高橋達也さんだ。

―よろしくお願いします。コルグでは主にどんな製品を作っているのですか?

高橋:開発部のシンセ・グループに所属していて、アナログ・シンセをメインに製品開発をやっています。

坂巻:うちのアナログ系製品は彼がほとんどやってるというか、彼が居るからやっているという部分もあるんです。高橋くんは2歳からイギリスに行って、大学もイギリスだったんだよね。ヨーロッパやアメリカの会社に行くという可能性もあったわけだけど、なんでそもそもうちに入ったの?

高橋:もともと音楽も好きでしたし、工学系の大学にいた頃から楽器を作りたいなとずっと思っていて、卒業してから1年間くらいバイトしながら楽器を作っていました。その後コルグに就職したのですが、その理由は、製品に個性とスタンダードの両方が成り立っているところに惹かれたからですね。ヨーロッパの会社もおもしろいけど、ニッチさに特化しているところが多かったように感じます。コルグは、これだけ変わっていてもメインストリームになる。
それで入ってみて「なるほど、こういう会社か」って腑に落ちました。上下関係がなくて、おもしろいことを思いついた人や主張した人が進んでできるという環境があったんです。だからああいう製品が作れるんだなって。

面接に自作シンセを持っていったことが、monotron開発につながった

坂巻:その自作したシンセを、会社の面接に持ってきたよね。そんな人今までいないから、社内でもかなり話題になったよ。

―自作シンセは、どんなものを作って持って行ったんですか?

高橋:8ステップ・シーケンサー付きのシンセサイザーです。音階ではなく、波形で音楽を作るというコンセプトでした。
シンセサイザーと言っても矩形波しか出ないんですけど、各ステップにオシレーターがついていて、矩形波を重ねて潰すとかなり太くて良い音がします。
入社面接に持ち込んだときは盛り上がりました。ほとんどシンセの話で、志望動機とか口で言わなくて済んだので楽でした(笑)。モノを見せればわかるじゃないですか。

▲高橋さんが面接に持ち込んだ自作シンセがこちら。シンプルながら興味をそそる外見だ

▲高橋さんが面接に持ち込んだ自作シンセがこちら。シンプルながら興味をそそる外見だ

坂巻:それで、会社入ってしばらくは、自らのプロジェクトじゃなくて開発の一部分を時期によってお手伝いみたいな感じだったよね。

高橋:そうですね。5年10年上の先輩が仕切っている製品で、「ここの基板書いてみるか?」って言われてお手伝いが始まりました。僕の場合はmicroKORG XLの1個目の試作を作るぐらいのときで、最初にその電源回路を作れって言われて、できたら次は液晶基板の回路作って、今度はメイン基板を書いてみようか……って形で自分の範囲が広がって行って、それが1年半くらい続きましたね。

坂巻:その頃はちょうど僕がアナログ・シンセをやりたいと思っていたときで、高橋くんがいろんな開発を手伝っている様子を見ていたのと、何より「意味わかんないシンセ持って面接に来て、こいつヤベーな」って感じていたから、声をかけたんだよ。喫煙所で「アナログ・シンセ作らない?」って。それがmonotronのはじまりだね。

高橋:自分でシンセ作って持って行ったことが、2年後に社内でこういった話に繋がると思っていなかったので、覚えててくれたんだ、って嬉しかったですね。

坂巻:自作シンセでも話題だったけど、それよりも「日本語できないやつ」って言われてたけどね(笑)。
そういうのもあって(笑)、monotronをお願いして、その後大活躍だよね。

高橋:monotronやって、monotribe(モノトライブ)やって、その後monotronの2機種(monotron DUOmonotron DELAY)やって、そしてvolcaです。坂巻さん、最初の頃はすごくいろいろ言ってきてくれたのに、だんだん放置するようになって(笑)。

坂巻:言わなくて大丈夫になっちゃった。

高橋:ありがたい話なんですけどね。

坂巻:最初のmonotronをお願いしたときは、かなり不安だったよ。回路がこなれてないってことなのかな? 音がか細くて。でも当初からあんまりいろいろ言わず、週に1回は様子を見に行くようにだけしてた。
そしたら最初は「怖ぇえな……」って感じだったのが、だんだん音が良くなっていったよね。あれってやっぱり三枝さんのアドバイスがあったの? 「こういう回路があるよ」とか。

―三枝さんは、コルグの監査役の方ですね。今も現場にアドバイスを下さるんですね。

高橋:はい。けど三枝さんは具体的なことを言わないんです。それよりももっとコンセプチュアルなことです。
高橋くんの回路は測定器みたいだね。性能とか数値で言うと、ちゃんと動作してるかは計って分かるけど、楽器であるというのはそういうことじゃないんだよ」って言われたことがあります。哲学的というか「楽器とは?」という部分で勉強になりましたね。

完成して売れたら、苦労したことって結構忘れちゃう

坂巻:三枝さんがいたからコルグのシンセが始まったというような存在の人だから、おもしろいことをいっぱい言うよね。
こう言ったらおこがましいかもしれないけど、monotronで高橋くんはスキルアップしたなって、僕は思ってる。

高橋:そうですね。あれがなかったらその後の製品もなかったです。
monotronは初めて自分で仕切って作ったのもありますが、ばらつきのある“ナマモノ的な”アナログ製品をどう安定生産するかを考えたり、一方でコストも抑えなければいけなかったり、全部をバランスよくするのが大変でしたね。

坂巻:アナログ・シンセをあの値段で、海外で生産した、さらにそれを2年目の高橋くんが開発リーダーとしてやったというのも、すごいことだよね(笑)。

高橋:でも、ここ何年か入ってきた後輩を見てても、1年目2年目からリーダーやるべきなんだなって思いますよ。大変だったけど、勉強になったから。

坂巻:仕事もひととおり全部見られるしね。

高橋:製品を作る一連の流れがわかると、どこか1点じゃなく全体的なもののよさに集中できて、何が必要かも見えるから、もっといいものができると思う。だからこそ、volcaも作る前に大体のところが想像できていたんです。ただ3機種は物量的に結構大変でした(笑)。

坂巻:どれが今までで一番苦労した?

高橋:それぞれあったと思うんですが、僕、結構忘れちゃうんですよ(笑)。すごい苦労しても、ちゃんと生産できて売れると「良かったじゃん」という気持ちになっちゃうので(笑)。

130919-sakamaki-1

楽器はおもしろくなきゃいけない。けど、おもしろさって計画できない

―製品の開発にはまず企画ありきですよね。高橋さんとの案件では、坂巻さんはどれぐらい製品の仕様や要件を決め込んでから渡してるのですか?

坂巻:高橋くんとの場合はラフですね。monotronのときは「大きさこれくらい、ツマミ何個、値段がいくら。あと全部考えて」って。音色とかもぜんぜん触れずに。
ひとつあったのは「シンセのおもしろさが、どんな側面でもいいから見えてくるようなものにして欲しい」っていうこと。
monotribeのときはもう少し具体的だったけど、最終的に変えちゃった。monotron DUO/DELAYなんかは、裏コンセプトで「monotronを改造しよう」っていうのがあって、高橋くんならどう改造するんだろう? って作った。volcaにいたっては値段だけ。サイズも明確には言ってなくて、ちっちゃいほうがいいとか、そんな感じ。「シーケンサー入ってて、3機種、値段これくらい」って。
それで見に行くと毎回違ってて、機能変わった! とか音が変わった! とか。

―進化というよりいろんなパターンができてくるわけですね。

坂巻:そうですね。あ、あれやめちゃったんだとか。これ増やしたんだとか(笑)。高橋くんは結構、開発の最後ギリギリまでやるよね

高橋:結構やりますね。企画から全部決まっていて、商品の仕様としてはバランスが良くても、作りにくい部分があったり無理があったりは出てきます。それは設計してる方が分かっているので、ラフに商品のコンセプトだけ投げてもらったほうが、最終的にはバランスのとれた製品になるんじゃないかと思うんです。

坂巻:高橋くんの良さは、おもしろさで話ができること。高橋くんはテクノ好きだしDJやるじゃない? そうやって音楽に結びついてるから、どういう音を鳴らすべきか、どういう風に操作できたら楽しいかがわかる。だから、こちらとしても任せておいていいか、となる。

―そういう製品開発の進め方は珍しいですか?

坂巻:珍しいですね。僕は通常はガッチリ決めて、ある程度完璧だなって思った段階で開発に渡して、そこから多少変えてもらうっていう感じでやることが多いんです。高橋くんは大変だったりしないの?

高橋:いえ、言われたとおりにやったらつまんないので。「違うな」と思いながらやりたくないじゃないですか。

坂巻:その分、高橋くんの製品は楽しさが詰まってる感じがあるよね。
楽器って、おもしろくなきゃだめだけど、おもしろさって計画できないじゃない。計画の段階では想像し切れないし、たかだか文字とか言語で定義できるぐらいのおもしろさなんかどうでもいいっていうかさ。
高橋くんの場合はどんどん作って、「説明できないおもしろさ」を製品に落とし込んでくれるから、それがいいなって思うよね。

楽器に「ホレて」もらうために、これからも自分で回路図を引く

ー高橋さんが楽器作っていく中で大事にしてるものってなんですか?

高橋:うーん、なんですかね……。やっぱり「ホレてもらうこと」ですかね。
さっき言ってた「説明できないおもしろさ」と同じだと思うんですけど。うちの製品に限らず「これ欲しいな」って思うときって「この機能がいい」とか具体的な実用性じゃなくて「なんかよくわかんないけど、スッゲー欲しい!」ってなりますよね。その気持ちになってもらうために、自分が好きなものを製品にこめて、ひたすら試行錯誤する。
そのうちにわかるんです。この機能が必要なのか、いらないのか、別のがいいのか。そうしていくうちにどんどん、ほれぼれしてくれそうな感じになっていく。

坂巻:アナログ・シリーズ自体が「シンセを楽器にする」がテーマだしね。
アナログ・シンセって、実は楽器っぽいじゃない。ギターを一発「ジャーン」って弾いて説得力がある感じみたいなものが、アナログ・シンセだと宿しやすいところがあって。
で、もう1回シンセを始め直すっていうのがmonotronから続いてるシリーズのテーマなんだよ。恥ずかしいからあんまり言わないけど(笑)。普段の言葉で言うと「楽器っぽいか否か」っていうことなんだけど。そういうこと考えるのが楽しいね。楽しい? 仕事。

高橋:めっちゃ楽しいですよ。今次の製品の回路図(電子回路の設計図)を引いてるんですけど、僕、回路図引くのが1人でやる作業の中で一番好きなんです。音を想像しながらやっていると、そこにすごくいろんな発見があるんですよ。ここにこういう可能性があるかも、あ、ここにも、って。それをどんどん発見して、製品に展開していきたいなと思ってます。
アナログ製品だと、音をどうして行くのかっていうのは回路図上で考えるんですよね。だから「もしかしたらこれ、カッコいいかも」っていうアイデアは、自分で回路図を引かないと浮かばないんです。

坂巻:回路図って、電気が通って音が生成される、その1個ずつのプロセスを見ながら書いていくわけだよね。僕は企画担当として製品をマクロ的に、俯瞰しているけど、回路図を引く作業ってものすごく微分的じゃない。今→今→今→今、って。
それを続けることによって、ホレる感じ、いまヤバいっていう感じが作られていくんじゃないかと思ったな。それをこれからも続けるって感じだね。

高橋:そうですね。今後人数を増やして、いろんなことをやっていこうと思ってるんですけど、自分の中で失っちゃいけないことがある。そこを大事にしないとみんな、楽器にホレてくれないので。そのためにも回路図は引き続けます。

130724-korg-takahashi

「楽器作りの技術を持った音楽好き。そんな人が作る楽器が、おもしろくならないわけがない!」その考えのもと、高橋さんの自信が坂巻さんの信頼とかみ合って、monotronをはじめとした世のガジェット好きをホレさせる製品が作られていく。そのすべての始まりに高橋さんの前にあるのは、製品の設計図である「回路図」。ここから楽器の完成に向けて予測不能な世界が広がっていくと思うと、彼の抱く楽しさ、ワクワクする気持ちが少しだけ理解できた気がする。

最後に番外編として、高橋さんが好きな音楽について聞いてみた。

高橋:もともといろいろ聞いてたんですが、大学に入ってからクラブに行くようになって、だんだんテクノを中心に聞くようになりましたね。
日本に引っ越す少し前にRicardo VillalobosがリミックスしたDepeche Modeの”the sinner in me”って曲が出て、これがとにかく凄すぎて、今でも聞くと初めてこの曲を聞いたパーティーがよみがえります。
それ以降Villalobsは大好きです。最近はちょっと違う感じですが、Shedをよく聞いてます。たぶん音数が少ない音楽が好きなんだと思います。

TUNECORE JAPAN