第14回:ベーシストにお薦めの映画紹介vol.9 『クレイジー・ハート』の巻

ベース大好き! by 板谷直樹 2014年3月3日

ベーシストにお薦めの映画を板谷直樹氏が紹介するこのコラム、今回はカントリーシンガーのお話です。ベース弾きならではの視点で、早速解説をお願いしましょう!

こんにちは、ベーシストの板谷直樹です。気温が上がったり下がったりの不安定な季節ですが、皆さん元気にベース弾いてますか? 僕はすっかり風邪っぴきで、この文章もラップトップ片手に横になりながら書いています。滅多に熱出たりしないんですがね、久々にやられてしまいました。

さて、今回紹介するのはカントリーシンガーが主人公のヒューマンドラマ『クレイジー・ハート』(2009年作品)です。

落ちぶれたカントリーシンガーの物語

冒頭映し出されるのはアメリカの荒野。一台の車が到着したのは田舎街のボーリング場。

「今夜はここで歌うのか……」。カウンターで酒を頼むもツケはダメらしい。「オレはバッド・ブレイクだぜ」と凄んでみても、店のオーナーは契約に無いことだからと突っぱねる。かつて一世を風靡した伝説のカントリーシンガーも、今ではその日の金に困るほど落ちぶれて酒に溺れる日々です。バッドとは対照的に、弟子だったトミーがトップスターになっていることも要因のひとつらしい。

そんなある日、地方紙の音楽ライターで4歳のひとり息子を抱えるシングルマザーと出逢う。2人とのふれあいの中で、少しずつ自分を取り戻そうとする男の物語のはじまりです。

バッド・ブレイク役のジェフ・ブリッジスは、アカデミー賞にて主演、助演としてのノミネートが数回あるも、今まで受賞には至りませんでした。「無冠の名優」「ハリウッドで最も過小評価されている俳優」と言われたこともありましたが、本作で見事にアカデミー主演男優賞を受賞。「歌唱力のある映画俳優No.1」とも言われているので、劇中の歌にも注目です。

そして特筆すべきは彼のギタープレイ。ライブのシーンがしばしばありますが、指の動きはちゃんと弾いているようにしか見えません。映画なので当然当てぶりでしょうが、実際に弾ける人でなければあのような自然な動きはできないはずです。

シングルマザーの音楽ライター、ジーン・クラドック役にはマギー・ジレンホール。この人は絶世の美女という感じではありませんが、知性があってオリジナルな魅力があるので好感が持てますね。『ダークナイト』のレイチェル役でもその個性を発揮していました。

そしてバッドの弟子で今やトップスターのトミー・スウィート役にコリン・ファレル。色男でサスペンスやアクションが似合うイメージと思っていたので、この配役は意外でしたが、歌は上手いしギターを持ってステージに立つ姿も悪くありません。

そしてバッドの旧友役のロバート・デュバルもいい味を出しています。彼は『テンダー・マーシー』(1982年作品)で同じく落ちぶれたカントリーシンガーを演じてアカデミー主演男優賞に輝いているんですね。物語的にも共通する部分があって『クレイジー・ハート』は『テンダー・マーシー』のオマージュ的作品と言えるかもしれません。

僕が好きなシーンはいくつかありますが、ホテルでアンプ(フェンダーのトレモラックス)の上に灰皿とウィスキーを置いてギターを手入れしているシーン。重そうなアンプを店まで運んでいるシーン。サウンドチェックでのPAエンジニアとのやりとり。そしてバッドの愛車、78年のシボレー「サバーバン」も気になりますね。

また、お酒をやめたバッドが地元のヒューストンのライブで言う「It’s so good to be home.」(地元はいいね。)というセリフも印象に残ります。ちなみに劇中に出てくるバッド・ブレイク愛飲の「マクルーア・ウィスキー」は架空のもので、スコット・クーパー監督のミドルネームからとった名前だそうです。どうやらお酒のスポンサーが付かなかったのが原因らしいですが、主人公がアルコール依存ですからその理由もうなずけますね。

カントリー風のベースラインとは?

全体的に落ち着いたトーンで物語は進んで行きます。コンサートのステージ場面はありますが、熱狂を煽るような演出はありません。それよりも初老のカントリーミュージシャンの疲れた哀愁漂う姿、失ってきたものへの後悔、そこから立ち直ろうとする姿を決して陰湿にならず、適度にユーモアを交えながら美しく描いている点がグッとくる作品ですね。

アカデミー賞で歌曲賞をとった「The Weary Kind」は、カントリー歌手のライアン・ビンガムによるもの。実は彼は、ボーリング場でバックバンドのギタリスト役で出ているんですね。バッドとの会話で「リハーサルに何時頃来てもらえますか?」「頑張って練習しろ、それが成功のコツだ」なんてやり取りがあって面白いです。

現実で彼の曲はアカデミー賞以外にもゴールデングローブ賞の主題歌賞をはじめ様々な音楽賞に輝き、成功を手にしたと言っていいでしょう。

CrazyHeartOK

譜面はサンタフェでのライブ演奏曲「Fallin’ & Flyin’」風のベースラインです。ルートと5度だけでもよさそうですが、よりカントリーっぽい音の動かし方はどんなものか? ルートの次にくる6度の(矢印で示した)音がより雰囲気を出すような気がします。皆さんも弾きながら是非試してみてください。

板谷直樹(いたや なおき)

板谷直樹

札幌市出身 バークリー音楽大学卒。R&B、AOR、ポップに親しみ15歳よりベースをはじめ、当時からセッション系ミュージシャンに憧れて様々なジャンルを吸収しようと試みた。札幌での活動を経て渡米し、本場のジャズやラテンミュージックに触れ多大な影響を受けている。「最先端のグルーヴとメロディックなソロ」を追求し、アーティストのライブやレコーディングも多数。著書『ベース・ラインで迷わない本』『一生使えるベース基礎トレ本』『一生使えるベース基礎トレ本 スラップ強化編』『一生使えるアドリブ基礎トレ本 ベース編』『ベーシスト 究極の選択60』(すべて小社刊)



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