第12回:ベーシストにお薦めの映画紹介vol.7 『ブレードランナー』の巻

ベース大好き! by 板谷直樹 2014年2月3日

ベーシストにオススメの映画を、板谷直樹氏が厳選してお届けしているこのコラム。今回ご紹介するのは、ディック原作、リドリー・スコット監督、そしてヴァンゲリスが音楽というSF映画の金字塔です。酸性雨のイメージは、後の多くの作品でも参照されていますね!

こんにちは、ベーシストの板谷直樹です。このところ恋愛映画が続いたので、少し趣向を変えて、今回はSFモノを紹介したいと思います。ところがSF映画の話になると、特に女性は「ちょっと苦手かも」といった雰囲気になりがちなんですよね……。何故だろうと答えを求めてみたら、「言葉がよくわからない(専門用語が多い)」「地球外生物が苦手」「存在しない技術や設定が苦手」「登場人物の思考が理系」など、理由がたくさん。なるほどー……、設定が頭に入らないと、見ながらモヤモヤしてしまうのが原因のようです。

まぁSFと言っても、全部が全部難解で宇宙戦争みたいなものではないんですけれどもね。僕が好きなのは、未来の世界だけれども人間の内面を描いたような、ヒューマンドラマ的な要素が出ているもので、今回紹介する作品はきっと女性にもわかってもらえるのではないでしょうか。ということで、SF映画の金字塔と呼ばれる『ブレードランナー』(1982年)、行ってみましょう。

2019年のロサンゼルスで、人造人間が蜂起!

『ブレードランナー』は、反乱を起こした「レプリカント」と呼ばれる人造人間と、それを追う捜査官「ブレードランナー」の物語です。レプリカントは、遠い宇宙で過酷な作業をするために作られたいわば奴隷のような存在ですが、やがて彼らは自身に感情が芽生えるのを憶え、自分の寿命にも恐怖を感じるようになっていくのです。彼らの哀しさ、運命などが捜査官の目を通して描かれていくのですが、人間らしい世界とは何か? 心や命とは? といったテーマを観る者に投げかけます。

舞台は2019年のロサンゼルス。酸性雨が降り注ぐ暗く荒廃した街、様々な文化と人種が入り交じり、特にアジアンテイストを醸し出す漢字のネオンや日本語のセリフ、超高層ビルに映し出される「強力わかもと」の動画広告などは見物ですね。監督は『エイリアン』のリドリー・スコット。80年代に既に、現実の未来を予測するかのように東洋の世界を取り入れた映像が作られていたわけで、目を奪われます。街の雑踏から聴こえてくる音声にも日本語が使われていたりするので、よくよく聴いてみると面白いですよ。

主演はブレードランナー役にハリソン・フォード。『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』、そして『レイダース/失われたアーク』に次ぐ出演ということでノリにノっている時期。しかしこの作品では、ハードボイルド風の渋い捜査官役を演じて、それまでとは違った一面を見せています。敵対するレプリカントのリーダーにはルトガー・ハウアー。『ナイトホークス』の冷血なテロリスト、そして『ヒッチャー』の恐ろしい殺人鬼もそうでしたが、悪役をやらせたら右に出る者はいないであろう強烈な存在感を放っています。

この映画のテーマ性や世界観は後のSF作品に大きな影響を与えているわけですが、例えば『未来世紀ブラジル』や『フィフスエレメント』などがそうでしょうし、アニメ作品では『AKIRA』や『オネアミスの翼』にも影響がみられるのではないでしょうか。また押井守は公開当時に観て強い感銘を受けたといい、自身が監督したアニメ映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』につながったと言っています。

耳に焼き付くアナログシンセCS-80の音色

音楽のほうはギリシャ出身のシンセサイザー奏者ヴァンゲリスが担当し、映像との素晴らしいマッチングを見せています。70年代にはプログレッシブロックバンドのイエスにも加入を打診された人物で、映画作品で代表的なものには『炎のランナー』(1981年)や『南極物語』(1983年)、『1492コロンブス』(1992)などがあります。

彼の作品の特徴は、一度聴いたら口ずさめるようなシンプルで美しいメロディと、シンセサイザーによる厚く広がりのあるサウンドで、この作品でもその手法が遺憾なく発揮されています。特に、ヤマハのアナログシンセCS-80の音色が耳に焼き付きますね。

サントラのほうは映画公開から12年も経った1994年に発売となりましたが、ファンはずっと待ちわびていたに違いないでしょう。個人的には「愛のテーマ」と「ブレードランナー・ブルース」から「メモリーズ・オブ・グリーン」の流れが素晴らしく、その静かな世界に浸りながら深夜の高速を一人飛ばせば、気分はもうブレードランナーでしょうか。

BladeRunner

譜面で紹介しているのは、シーンに合わせて転調した部分の手法です。女性レプリカントのレイチェルがピアノを弾く場面で流れる「愛のテーマ」ですが、D♭メジャーのキーがドミナントのA♭7に行き、半音上のAmaj7に滑らかにずれたことによって、曲としてはマイナー3度上へ転調しています。転調が希望を持った明るい感じに曲を変え、物語の意味をより引き立たせている部分ですね。ちなみに劇中の「愛のテーマ」はサントラより半音低くなっているのでご注意を。サントラは曲がフル尺で収録されているので映画とはまた違った楽しみがありますね。

SF好きもそうでない人も、全ての映画ファンに見てほしい作品です。興味がある人は原作であるフィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』も読んでみてはいかがでしょう。

板谷直樹(いたや なおき)

板谷直樹

札幌市出身 バークリー音楽大学卒。R&B、AOR、ポップに親しみ15歳よりベースをはじめ、当時からセッション系ミュージシャンに憧れて様々なジャンルを吸収しようと試みた。札幌での活動を経て渡米し、本場のジャズやラテンミュージックに触れ多大な影響を受けている。「最先端のグルーヴとメロディックなソロ」を追求し、アーティストのライブやレコーディングも多数。著書『ベース・ラインで迷わない本』『一生使えるベース基礎トレ本』『一生使えるベース基礎トレ本 スラップ強化編』『一生使えるアドリブ基礎トレ本 ベース編』『ベーシスト 究極の選択60』(すべて小社刊)



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