第8回:ベーシストにお薦めの映画紹介vol.3 『太陽を盗んだ男』の巻

ベース大好き! by 板谷直樹 2013年12月17日

ナビゲーターに板谷直樹氏をお迎えしてお送りしている“ベース大好き!”的映画案内。3回目はいよいよ邦画が登場です! 現在は作家として活躍する森達也も出演しているカルト作品の、音楽的な見所は?

こんにちは、ベーシストの板谷直樹です。

わりと洋画を多く観る自分なんですが、今回は少し古い70年代の邦画を紹介しましょう。沢田研二主演の『太陽を盗んだ男』(1979年作品)です。公開から30年以上経った今なお日本のカルトムービーのトップ3に入る人気で、同時に一般的な評価もじわじわと高まって日本映画史上歴代ベストテンにも選ばれる人気作品です。

知らないよ~、という人はこの機会にぜひ観てみてください。

70年代の雰囲気がたっぷりと味わえる作品

沢田研二と言えば40代以上の人には馴染みがあるかもしれませんが、30代から下の世代では知っている人は少ないかもしれません。ジュリーの愛称で親しまれ、60年代後半はグループ・サウンズを牽引したザ・タイガースで活躍し、70年代はソロとして10年以上ランキングのトップに入る活躍を見せたまさにアイドル的な存在でした。

その彼が主演した映画『太陽を盗んだ男』。あらすじは孤独で平凡な中学教師がプルトニウムを盗み、原子爆弾を製造。政府を脅迫していくわけですが、その要求は「ナイター中継を試合終了までオンエアしろ」や「ローリング・ストーンズの日本公演を実現しろ」というもの……。刑事役の菅原文太や人気ラジオパーソナリティ役、池上季実子の若かりし頃の演技も見物です。相棒シリーズの水谷豊も、交番のお巡りさん役で出ていて面白いです。

映画の見所はたくさんあるのですが、生徒を乗せたバスがバスジャックされ、皇居に突っ込むシーンは許可が降りずにゲリラ撮影された話、首都高のカーチェイスも無許可で、劇用のパトカーをたくさん走らせて空撮もしているのですが、一般車両を巻き込まずによく撮ったな~と感心します。ここでジュリーが乗るマツダのサバンナRX-7や、菅原文太が駆るコスモもいい味を出していますね。

また、デパート屋上から現金がバラまかれるシーンは、映画の撮影とはいえニセモノのお札をバラまくなんて、これも警察からは許可が下りなかったらしく強行撮影でスタッフが連行されてしまった、というエピソードもあるそうです。

なお、この場面のあらすじ的なロケーションは渋谷なのに、撮影に貸してくれたは日本橋の東急だそうで、映像が途中から突然日本橋になるところにも注意して観てみると面白いですよ。当時の何気ない街の風景や人々もよく撮れていて、70年代の雰囲気がたっぷりと味わえる作品です。

カーチェイス・シーンの音楽をチェック!

さて、気になる音楽の方は井上堯之が担当しています。元はザ・スパイダースのメンバーで、主演のジュリーとはロックバンドPYGでの活動や、当時のソロ活動を井上堯之バンドとして担当していたことで有名です。またTVの刑事ドラマ「太陽にほえろ」のメインテーマも井上堯之バンドによる演奏なので、皆さんも1度は耳にしたことがあるでしょう。

僕が「この映画の中で一番好きな音楽の場面は?」と聞かれたら、即答で首都高のカーチェイス・シーンと言うでしょう。その理由は普通なら躍動感や緊張感のある音楽が付けられる場所だと思うのに、ここでは全く逆でメロディのギターが静かに泣き、美しいストリングスが流れてくるからなんですね。 理由のない怒りや不満、どこへも向けられない苛立ち、行くあてもなく暴走する主人公の心情をうまく表現しているなぁ、という感じでとても印象的です。監督の指示もあったかもしれませんが、こうゆう曲を持ってくるセンスは素晴らしいと思います。

監督の長谷川和彦は『青春の殺人者』(76年)で監督デビュー。この作品は1976年度キネマ旬報ベスト・テン1位を獲得。そして今回紹介の『太陽を盗んだ男』(79年)を監督後は、ぱったりと息をひそめてしまいます。評価の高い2作品を撮った後は、30年以上も完成させた作品が無いんですよ。次回作を待望する声は多く、マニアの間ではもはや伝説的映画監督となっているんですね。本人は全く撮る気が無い訳でなく、度々映画のトークショーや雑誌インタビューにも登場し「毒 × 痛快(1回だけ涙)」の作品を作りたい、と意欲を見せているのでぜひとも実現してほしいですね。

板谷直樹(いたや なおき)

板谷直樹

札幌市出身 バークリー音楽大学卒。R&B、AOR、ポップに親しみ15歳よりベースをはじめ、当時からセッション系ミュージシャンに憧れて様々なジャンルを吸収しようと試みた。札幌での活動を経て渡米し、本場のジャズやラテンミュージックに触れ多大な影響を受けている。「最先端のグルーヴとメロディックなソロ」を追求し、アーティストのライブやレコーディングも多数。著書『ベース・ラインで迷わない本』『一生使えるベース基礎トレ本』『一生使えるベース基礎トレ本 スラップ強化編』『一生使えるアドリブ基礎トレ本 ベース編』『ベーシスト 究極の選択60』(すべて小社刊)



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