第4回:櫻井哲夫インタビュー(後編)〜ベースの音質は、オーディオ的な周波数を計算するだけではダメです

ベース大好き! by 聞き手:西野正和 2013年10月10日

インタビュー後編では、ジャズベの使いこなし術やケーブル選びの基準など、“ベース大好き!”ならではの切り口でお話を伺っています。

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ハイレゾ版とCDが2013年9月21日に同時リリースされた『IT’S A JACO TIME!』(櫻井哲夫JACOトリビュート・バンド)。櫻井哲夫さんのジャコ・パストリアスへの愛がたくさん詰まった傑作ですが、フレットレスベースの素晴らしい低音が、そのジャコ愛をより説得力のあるものにしています。そこで“ベース大好き!”では櫻井さんのロングインタビューを敢行、実際にマスタリングが行なわれたキング関口台スタジオで貴重なお話を伺うことができました。聞き手は、オーディオメーカーREQSTを主宰し、低音好きを公言している西野正和さん。ベース用のケーブルを製作し、アンソニー・ジャクソンがそのケーブルを愛用しているということからも、西野さんのベース愛の本気度がうかがえます。

JACO

TALKINGBASS

自分の中にあるパワフルさ

西野 櫻井さんにお会いしたら、ぜひ質問したいと思っていたことがあるんです。櫻井さんの演奏を表現するときに、よく“パワフルなプレイ”というワードが出てきますが、パワフルな演奏って実際に楽器で弾くとなると意外に難しいと感じています。思い切り力を込めて弦をヒットしたところで、それがパワフルということではありません。パワフルって、なんでしょうね?

櫻井 このところのロック界は、パワフルなベーシストの時代じゃないですか? パワフルなエネルギーがマーケットに伝わって、きちんとそれが評価されているんだろうなって思うんです。そういったジャンルを聴いている人からすると、僕なんかは全然パワフルじゃない方のベーシストですよ、きっと。ただ、比べるわけではないですけど、もちろん自分の中でのパワフルさというのはあります。同じようなボルテージがね。

西野 ベース好きとして最近のベーシストの音を聞いていると、プロだけでなくアマチュアを含めて、アクティブベースのEQをジャキッと上げているサウンドが多いように感じます。そういう音色にはパワフルさを感じず、意外と耳に残らず流れてしまうんです。

櫻井 そうですね。例えばマーカス・ミラーは、凄くパワフルでありながら、洗練されたハイファイで抜けの良い音です。そのサウンドを追っている人たちは、マーカスのパワフルな部分を忘れている。エネルギー的にその部分が無くて、音色の綺麗なところだけをとらえている。ベースの音質は、オーディオ的な周波数を計算するだけではダメです。頭だけで考えていると、爆発力が無くなりエネルギーを感じないものになってしまいがちなので、気をつけないといけませんよね。

西野 そこは、私もモノ作りの姿勢として、とっても大切にしているポイントなんです。やはり音楽のエネルギーが損失されず伝達されることが、オーディオや楽器の製品開発として重要なポイントだと思います。

櫻井 あとは、ジャコ・パストリアスやマーカスといった、本当に人間のパワフルな爆発力を伴って、楽曲として音楽の世界をきちんとクリエイトしている人達が、いまは少なくなってきているような気がします。ジャズ・フュージョン界は、そろそろ次世代のスターが出現しても良いと思いますよ。

西野 スラップ奏法だけがパワフルかと言うと、そんなことはない。ジャコはパワフルですし、今回の櫻井さんのフレットレスのフレーズにも、もちろんしっとり聴かせる曲もありますけど、パワフルな曲もいっぱいあります。ぜひ多くのベーシストに、『IT’S A JACO TIME!』で、演奏エネルギーという意味でのパワフルさを体感してほしいです。先ほど、「自分の中のボルテージを上げる」という話がありましたけれど、そういうエナジーをぐっと上げるような感覚が楽器を弾いていてあるんですか?

櫻井 ありますよ、それはもう。世界が爆発するようなコンセプトの曲だったら、自分の中にあるパワフルさのボリュームをMAXまで上げます。スラップだけで弾く、世界でだれもやっていないだろうコンセプトで作る曲は、エネルギー全開でやったりしますし。でも、そういう曲調が全てではないですからね。今回の『IT’S A JACO TIME!』や前作『TALKING BASS』には、本当の意味でのパワフルというコンセプトの楽曲は無いですけど。

西野 とはいえ、『IT’S A JACO TIME!』の主役は、サックスでもギターでもなく、櫻井さんのベースだと感じました。曲を聴いていると、もちろんベースソロは大盛りでありますけど、それだけでなくベースが音楽の主導権を握っていると感じるんです。ジャコのアルバムも主役はベースでした。ジャコのアルバムって、彼のベースソロがあるからジャコ名義ということではなくて、ベースのフレーズを覚えているというか、心に突き刺さるように残っている。『IT’S A JACO TIME!』は、そのジャコとそっくり同じフレーズが再現されているということではなくて、櫻井さんがグルーブの先頭に立っているという意味で、ジャコと同じ匂いを感じられたのが嬉しかったです。逆にいまの時代は、『IT’S A JACO TIME!』でジャコの存在を知る人も出てくるんじゃないでしょうか。

櫻井 そうだと嬉しいですね! 本当に、そういうコンセプトで作ったんですよ。ジャコって素晴らしいのに、ベーシストでさえ、しかも専門学校の学生でさえ、「いまの人は、ジャコは聴かないですよ」なんて言うんですよ。

西野 それは残念ですね〜。

ジャコで最初に聴くべき1曲は?

櫻井 もちろんみんなジャコの名前は知っているし、ジャコの曲を聴かせたら、「すごいですね!」って言うんです。でも、僕が思っているほどには、全然すごいと思っていない。そこでジャコの素晴らしさを詳しく説明して、彼らを怒ってもしょうがないんです。「だって、ジャコはマニアックだから」っていう答えが返ってくるだけでしょう? だけど例えば「ドナ・リー」にルート音のベースを入れるだけで、とっても聞きやすくなる。だから自分のフィルターを通して、ここをこうしたらもっと楽しいなっていう感じで、勝手に自分の解釈でアレンジしたのが『IT’S A JACO TIME!』。1人のジャコファンとして、もっと普通の人でも「この人すごいなぁ」って感じてほしい。「やっぱりジャコってすごいんだ」って思う人が増えて、盛り上がってくれたら良いなっていう気持ちですね。

西野 『IT’S A JACO TIME!』を聴いてジャコの存在を知って入門してみようとなったら、何から聴き始めたらよいでしょう? 拙著『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』でマーカス・ミラー同じ質問をしたら、『HEAVY WEATHER』を挙げてくれました。てっきりマーカスは、『ジャコ・パストリアスの肖像』を推してくるかなと私は思っていたんですけど。

櫻井 『ジャコ・パストリアスの肖像』だと、マニアックなんですよ(笑)。

西野 マーカスが『ジャコ・パストリアスの肖像』のレコードをターンテーブルからしばらく降ろさなかったというエピソードを知っていたので、インタビュー時はその返しの質問とかを用意していたんですけどね(笑)。櫻井さんがオススメするジャコ作品は何でしょう? もちろん『IT’S A JACO TIME!』収録曲のオリジナルをそれぞれ探して聴くのも良いでしょうが、何か1枚聴いてみようかなっていう場合のオススメを教えてください。

櫻井 僕も、1枚だとしたら、『HEAVY WEATHER』をお勧めします。いままで僕は、「パンク・ジャズ」「ティーン・タウン」「クル」「スラング」「トレイシーの肖像」の5曲を既にアレンジして出しているんですよね。やっぱり、何が一番ジャコの入門に適していて、インパクトがあるかと言うと「ティーン・タウン」だと思います。すごくポップだし、かといって全然普通じゃないし、ものすごく画期的なアイデアで、他の人が全く思いつかなかった作曲法。しかもベースがリードをとっていて、そのリードのメロディがとてもアバンギャルド。だけど聴いていると、めちゃめちゃポップなんです。聴きやすいし、ビートも軽快で、くどくない。ほとんどベースソロも無いのに、すごい曲だと思うんですよ。しかも「ティーン・タウン」=「10代の街」というタイトルだし、素晴らしい傑作だと思います。でも、「ティーン・タウン」はデビュー30周年記念アルバムの『MY DEAR MUSICLIFE』で既に演ってしまったので、今回の『IT’S A JACO TIME!』にはジャコの代表曲をあえて入れないで作りました。

西野 では、まず1曲ということであれば、「ティーン・タウン」ということですね。

櫻井 ええ。ジャコを知らないのであれば、まずは「ティーン・タウン」を聴いた方が良い。だけど「ティーン・タウン」はオリジナルのウェザーリポートを聞くと、「マニアックですね」で終わってしまう人が多いかもしれない。それをもっと聴きやすくしようと思って、僕は『MY DEAR MUSICLIFE』でアレンジして弾いていますから、そちらもぜひ聴いてみてほしいです。

西野 マーカスのオススメも「ティーン・タウン」収録の『HEAVY WEATHER』。私も、もう一度聴き直したいと思います。ちなみに、私がフレットレスベースという楽器の存在を初めて知ったのは、ジャコではなく櫻井さんだったんです。

櫻井 そうなんですか(笑)。

西野 櫻井さんがカシオペア時代に、静かな曲になったときに持ち換えるベース。「あの楽器は何だ?」っていう感じで、フレットレスベースに出会いました。

櫻井 そうですね。「セーリングアローン」とかでフレットレスベースを弾いてましたね〜。

西野 当時はインターネットなんて無いですから、とにかく情報不足。まあ、そこが楽しくもあった時代だったんですが。櫻井さんが弾くあの不思議な柔らかい音のするベースは何だ? ネックにフレットが無い構造? そんなので音が出るの? ああ、だから楽器を持ち替えなきゃいけないんだっていう感じで、フレットレスベースを知ったんです。それから、ジャコの弾いているウッドベースのように聴こえる楽器が、同じものなんだと関連づけました。そんな体験があったものですから、『IT’S A JACO TIME!』を聴いてジャコの楽曲に巡りあう若者がいたら素敵だなって思います。いまは逆に情報が溢れていて、ジャコにたどり着かない人がいても不思議ではないですから。

櫻井 そうですね〜、情報は確かに溢れすぎていますね。

西野 『IT’S A JACO TIME!』は、フレットレスベースの魅力がたっぷり詰まったアルバムですし、しかもフレットレスベースのサウンドを高音質で録れている数少ない作品です。音の芯がしっかりあって、櫻井さんの音程ピッチも美しい。

櫻井 フレットレスベースがメインの作品って、確かにあんまり無いかもしれないですね。

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ケーブルへのこだわり

西野 私は書籍の執筆もしていますが、楽器用のケーブルを作る仕事もしているんです。アンソニー・ジャクソンの使っているケーブルは日本製で、実は私の会社のケーブルです。今後の参考のために、ぜひ櫻井さんに楽器ケーブルの話題も伺いたいと思います。櫻井さんは、まだ日本で楽器に良質なケーブルを使うという概念が定着していないころから、ケーブルに注目されていたお一人ではないでしょうか?

櫻井 ケーブルは、早くから結構こだわってきましたね。

西野 アルバムのクレジットにも、最近では使用ベースに加えてケーブル名が書かれていますよね。

櫻井 ケーブルはいろいろなメーカーさんに協力していただいて、いまはORBっていう大阪の手作りのものと、あとはアナリシス・プラス、AETの3つを中心に、他にEX-PROも使っています。

西野 ケーブルについてのエピソードなどありましたら、ぜひ。

櫻井 JIMSAKUをやっていたときに、知り合いのオーディオ屋さんが3mのケーブルを持ってきて「とりあえずちょっと聴いてみてください」っていうんです。試してみたら、ものすごく音が良かったんですね(笑)。「何よ、これ?」「良いでしょ」なんて会話をして、価格を聞いたら「150万円です」って。音にも驚きましたが、値段もビックリ(笑)。でもそのケーブルは実用性に問題があって、演奏するときに足でリズムをとっていたら、その音まで入っちゃったんですよ。ノイズを全部拾っちゃう。だから、ライブは絶対ダメだなっていうケーブルでした。そのケーブルを作ったのがオーディオ系の人だから、仕方ないのかもしれません。振動ノイズを拾うのを防ぐとか、そういう次元のガードをする必要がオーディオには全く無いですから。そういうノイズの問題はあれども、あのケーブルの音質は素晴らしかったですね。何がすごかったかって、スピードと密度と解像度。JIMSAKUの『ネイブル』『ウィンド・ラブズ・アス』は、その“150万円ケーブル”を使っています。普通の人は全く気が付かないとは思いますが、それまでのものとは違って、自分で聴くと「これ、あの音だ」って思い出が蘇ってくる(笑)。その後ご縁がなくなって、いまはその150万円ケーブルは使っていないんですけど。

西野 JIMSAKU、ケーブルに着目してぜひ聴き直してみます! では、櫻井さんのケーブル選びのポイントを教えてください。

櫻井 自分がこだわっているポイントは、スーパーナチュラルですね。詳しく説明すると、当然ながらベースは弦楽器なんです。例えば、ベースアンプで鳴らさないで、楽器だけをピチカートで弾いてみる。そのピチカートしたとき、細い弦から太い弦まで反応が違うんです。弦が引っ張られたとき、弦が離されて戻るときといった、ベースを鳴らした時の弦振動というのは、アンプを通さず楽器だけ弾いているときによく見えます。で、一般的なケーブルだと、波形でピークが出るときのピッチが安定していない部分が、だいたい団子状の音になってしまって分からないんですよね。あとは、ハイやローといったどこかの周波数を増幅しているようなケーブルだと、ピチカートしたアタックの音が全く見えなくなってしまう。そのケーブルでアレンジされた音が好きなら良いんだけど、僕のスーパーナチュラルっていうコンセプトでいくと、それはちょっと違う。僕もそういう個性の強いサウンドのケーブルを使っていたから分かるんですけど、どうも弾いた通りの音と出てくる音が違うんですよ。それでいまは何を基準にケーブルを選ぶようになったかと言えば、弦楽器としてのベースの弦の振れ幅とか、だんだん遅くなっていくようなサステインの感じ、減衰のところのサウンドをものすごく大事にしています。良くないケーブルって、だいたい音がうまく減衰せず持続音のようにブーって出てしまう。実際は減衰しているのに、フレットレスだとなおさらそう感じます。減衰する音が見えるようなケーブルが、一番値打ちがありますね。

西野 楽器ケーブルを開発している側として、とってもよく分かるポイントです。

愛用のジャズベースたち

西野 『IT’S A JACO TIME!』でメインで使用されたベースのことを、もう少し伺いたいと思います。個人的には、櫻井さんにはアクティブ多弦ベースのイメージがあるんですが、フェンダー・ジャズベースで、パッシブのフレットレスですよね。

櫻井 いつの時代の、どんな音楽を演っているときに聴いたかで、僕のイメージが付いているみたいですね。中学高校の仲間からは、完全にハードロックのベーシストだと思われているし(笑)。JIMSAKUのときはラテンの人で6弦ベース奏者だと思われて、カシオペアの初期はヤマハのミルクベースしか使わないだろうって。

西野 アクティブ回路搭載のベースじゃないダメといったこだわりは、全然無いのですか?

櫻井 「この音楽にはこの楽器」っていうイメージがあるので、演る音楽次第ですよね。だから、いろいろな楽器を持っているんです。

西野 しかし、カスタマイズ無しの楽器店で売っているベースそのままでレコーディングされるというのも、意外でした。

櫻井 僕は基本的に改造はしないんですよ。ヤマハでも、プロトタイプの段階で「ここはこうして」というリクエストは言いましたけど、最終的にレコーディングしているのは、市販のものと一緒ですから。

西野 櫻井モデルとして世に出ているのと、櫻井さんのベースは同じなんですね。てっきり、櫻井さんのだけ秘密の回路が搭載されているのかと思っていました(笑)。

櫻井 そんなことは無いんです(笑)。

西野 『IT’S A JACO TIME!』のスラップは60年のレプリカのジャズベをお使いということでしたが、他にもジャズベはお持ちですか?

櫻井 64年タイプの白いフェンダーを入手して、結構気に入っています。そのフェンダーは、AGUILARのプリアンプを内蔵してアクティブに改造していて、ちょっと特別な音がしますね。それ以外は、ブリッジ交換などの改造は全くしていません。たまにしか使わないジャズベースなので、そんなに詳しく言うようなことでもないんですけど(笑)。

西野 でも、そういう情報がファンは気になってしまうんですよ。

櫻井 そうなんですか?(笑)。楽器といえば、「ドミノライン」っていう曲があって、これはカシオペアのときに、ミルクベースと呼んでいたヤマハの白いベースで演っていたんです。30周年アルバム『MY DEAR MUSICLIFE』で、その「ドミノライン」をリアレンジして作り直したんですけど、そのときはフェンダーの改造タイプで演奏しました。だから、ライブでもフェンダーで演ってます。でもファンの間では、「ドミノラインはミルクベースじゃないと!」という声も多くありました。そこでリクエストに応えるかたちで、ヤマハのミルクベースでも「ドミノライン」を配信用に別テイクを録音し直したんですよ。だから、配信限定(iTunesStore、レコチョク)で「ドミノライン」のミルクベース・バージョンがあるんです。

西野 なんと、ミルクベース・バージョンがあるとは! その存在は知りませんでした。櫻井さんファンとして勉強不足ですね。でも、配信限定とはもったいない。そのバージョンは、ぜひハイレゾ音源の良い音でも聴きたいです! ハイレゾ化実現の暁には、ミルクベースとフェンダーを従えた櫻井さんの写真を撮って、大いに宣伝しましょう。

櫻井 それは良いですね(笑)。でも、このフレットレスベース良いでしょう。ベリーオールドのフェンダーに見えますけど、新品楽器をビンテージ風に加工したものなんですよ。ジャコのベースを塗装の剥げ具合まで忠実に再現してあるらしいです。まあ傷は良いんですけど、サビまで丁寧に錆びさせて再現しなくても……。本物のサビなので、既に錆びている(笑)。もともとのこのベースの音は入手時に確認しましたけど、さらにこの3年間でずいぶん鳴るようになってきましたね。ライブで演奏していると、さっきのパワフルではないですけど、強く弾きますから。その良い影響で、繊維状のところがキュキュキュってタイトになってきている感じがします。

西野 楽器は生き物ですからね。

櫻井 何せ、ネックもボディも植物なので。

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ジャズベースの使いこなし術

西野 『IT’S A JACO TIME!』に1曲だけあるスラップ奏法の曲は、ジャズベースにしてはちょっと変わった音のように感じました。ぜひそのサウンドの秘密を教えてください。

櫻井 さっきも言いましたが、楽器は60年フェンダーの復刻タイプです。あのベースも、すごく良い音がしますよ。ちなみに、フレットレスではリアピックアップのボリュームを上げて、フロントのボリュームをちょっと下げているんです。そうするとジャズベースの電気的な仕様上、ノイズが出るんですね。それで、ちょっとトーンをしぼって使っています。トーンを上げた状態だと「ヒ〜ン」と鳴って出ているノイズが、トーンをしぼることによって気にならない程度になる。つまり、リアピックアップだけがフルテンで、フロントピックアップとトーンを少し絞って弾いているんです。

西野 フロントを少し落として、ノイズの高域を切るためにトーンを使うのですね。

櫻井 そうですね。スラップの曲は、逆にフロントがフルで、リアを結構下げています。ゼロにはしていないと思いますけど、フロントのピックアップがメインの音です。トーンは、さきほど説明したように、ノイズが出るからちょっと絞っています。絞り加減はフレットレスのときとは、また違うんですけど……。それでスラップをすると、ちょっとプレベみたいな音になるんですね。

西野 確かに、ジャズベースというよりはちょっとプレシジョンベースっぽい音色ですね。

櫻井 マーカスみたいなスラップじゃなくて、もうちょっとビンテージなスラップと言うか(笑)。

西野 3つのツマミには使い道があったんですね。私は「ジャズベースのツマミは、スラップのときは3つともフルテンで使うものだ」と教えられてきた世代ですから、少々カルチャーショックを受けた感じです。

櫻井 僕もそうですよ。3つともフルテンが電気的にはノイズ対策を含め一番能力が出るんでしょうけど、実際の使い方は自由なんです。ピックアップ音量をバラバラのバランスにしちゃうとノイズが出てしまうんで、やっぱりボリュームは両方フルにするべきなのかもしれません。でも、そこに縛られると音色が作れないですから。実際に音を聴きながら、音色とノイズの関係でトーンの絞り具合を決めるのがコツです。

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実際に使用された機材とスタジオで、ハイレゾのマスターを再生! なんとも贅沢な試聴体験です

マスタリングルームで『IT’S A JACO TIME!』を試聴!

西野 実際に作業をされたマスタリングルームにいるので、ハイレゾ版の『IT’S A JACO TIME!』から1曲、櫻井さんと一緒に聴けたらと思います。聴きどころを含め、お願いします。

櫻井 そういうことでしたら、6曲目「ラス・オラス」を聴いていただきたいですね。この曲は、もともとジャコがフローラ・プリムのアルバムに入れた歌ものなんです。フローラはブラジル人で、原曲を聴くと自由に歌っているので、良い意味でメロディがうまく掴みにくいんですよ。曲自体はものすごく良くて大好きな曲だったんですけど、歌ものなので今まで僕のライブでは取り上げる機会がありませんでした。今回は1曲だけ、ゲストのケイティー・ハンプトンに歌ってもらっています。ケイティー・ハンプトンは、セルジオ・メンデス・バンドのシンガー。セルジオさんとは10年くらいの付き合いで、彼のライブを見に行って、新しいボーカルの子を発見して(笑)。「すごい良いじゃないですか!」っていう話をセルジオさんとして、ケイティーに「機会があったら歌ってくれない?」とお願いしたら「喜んで」って言ってくれたので、今回歌ってもらったんです。

西野 私もアルバムを聴いて、ちょうど一番好きな曲でした。ベースがとっても美しいんです。

櫻井 原曲ではハービー・ハンコックがエレピのソロで活躍していますが、僕はバンド構成ではないベースだけでこの曲をやりたいというコンセプトを考えました。ボーカルとベースの二人でデュオにしたらどうなるかな……ってアレンジをし始めて。メロディも少し整理して、ベースだけで完全に1本のアレンジを作って、そのカラオケを彼女に送って作った曲なんです。

西野 ハイレゾの魅力のひとつに音楽を収録する器が大きいところがあると思うんですけど、大編成はもちろん、意外とこの曲のような楽器数が少ない、主役が歌とベースというような作品にマッチしますね。ハイレゾの大きな器の全部が、歌とベースだけで満タンにできるのですから、その深みのあるサウンドといったら! 実は『IT’S A JACO TIME!』の曲をハイレゾ音源イベントで鳴らすなら、6曲目「ラス・オラス」だと心に決めていたんです。ハイレゾ版では、CD規格以上にフレーズの細かい深みまで感じられるし、低域の土台の大きさも感じられる。しかも、素敵な女性ボーカル。こういう歌って、簡単そうで誰でも歌えるってものではないですから。

櫻井 この人はセルジオ・メンデス・バンドで抜擢された、シンデレラみたいな無名の子だったんですよ。海外のヒットドラマのテーマソングを歌って話題になっているんですが、まだ自分名義のアルバムは出していなくて。ケイティーの歌声は知っていたので、ジャコがフローラのために作った曲を、今度は僕が彼女の声に合ったアレンジをしたんです。だから原曲をご存じの方は、これは結構楽しめるかもしれない。比べると随分違いますから。

西野 マスタリングスタジオのシステムで、しかも櫻井さんとエンジニアの辻さんと一緒に聴けて、この曲の音質についての良い基準が自分にできました。今後のイベントや機材開発に大いに活かしたいと思います。今日はどうもありがとうございました。夢にまで見た取材でしたから、もう舞い上がっちゃって……。

櫻井 大丈夫ですか? もう聞き忘れたことはないですか?(笑)。

西野 はい、大満足です!

(次回は『IT’S A JACO TIME!』徹底研究をお届けする予定です)

【Live Information】

【公演名】櫻井哲夫 Birthday “NEW LIVE”
【出演】櫻井哲夫(b)、菰口雄矢(g)、AYAKI(key)、山本真央樹(Drums)

櫻 井哲夫 Birthday “NEW LIVE”は、久しぶりに櫻井哲夫の『オリジナルバンドサウンド』を”ニュースタイル”でお届けします。メンバーは、若手ナンバーワンの実力派ミュージ シャン。この素晴らしいミュージシャンとのスーパーセッションをお楽しみください。

【日程】2013/11/6(水)
【会場】 名古屋Blue Note(名古屋市中区錦3-22-20 ダイテックサカエ B2F )
【問合せ】 052-961-6311 (http://www.nagoya-bluenote.com/)
【時間】 1st show 開場/17:30 開演/18:30 ,  2nd show 開場/20:30 開演/21:15
【料金】 ¥6,300(税込)/ メンバーズ会員特別価格:¥5,000 ※1会員につき同伴者1名まで有効
【発売】メンバーズクラブ会員先行販売:10/8(火) 11:00〜 一般ユーザ販売:10/15(火) 11:00〜

【日程】2013/11/7(木)
【会場】大阪 ミスターケリーズ
(大阪市北区曽根崎新地2−4−1ホテルビスタプレミオ堂島1F)
【問合せ】TEL:06-6342-5821(http://www.misterkellys.co.jp/index.html
【時間】18:00開場 / 1st 19:30開演, 2nd 21:00開演
【料金】¥5,800(税込)2ステージ入替えなし

【日程】2013/11/13(水)
【会場】六本木 STB139スイートベイジル (http://stb139.co.jp/)
【問合せ】TEL;03-5474-0139(受付時間 月曜〜土曜日 11:00a.m.〜8:00p.m.)
【時間】18:00開場 /19:30開演
【料金】全席自由¥5,500(税込・飲食費別)
【発売】9/22(日)プレイガイド(ローソンチケット)・・・Lコード:75540 9/24(火)STB139

詳細は公式サイトのLive Informationをご覧ください。
http://www.tetsuosakurai.com/liveinfo.html

西野 正和(にしの まさかず)

株式会社レクスト代表取締役。オーディオアクセサリー“レゾナンス・チップ”で1998年に起業。スピーカー、DAコンバーター、ケーブルと拡充していった製品ラインナップは、オーディオ愛好家だけでなくミュージシャンやエンジニアからも高い評価を得ている。また、CDソフト制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。楽器ケーブル唯一のエンドーサーは、アンソニー・ジャクソン氏。著書『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』『すぐできる! 新・最高音質セッティング術』(すべて小社刊)
◎レクストWEBサイト⇒http://www.reqst.com

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